リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐ 作:烏賊メンコ
さて、4月である。4月といえば新年度だ。
世間では会社に新入社員が入ったり、ピカピカの一年生として学校に通うようになったり、あるいは学年が一つ上になったりと、節目のタイミングである。
先日行われた大阪杯ではライスが3着という結果に終わったが、凹んでいる暇はない。
ウララは次のレースが伏龍ステークスならば4月前半、端午ステークスなら4月後半とスケジュールが詰まっているのだ。
ライスも春の天皇賞が4月後半にあるため、これからのレース間隔をどうするか決めていく必要がある。
現在、ウララもライスもかつてないほど燃えている。ウララは悔しさを知り、ライスはトウカイテイオーとメジロマックイーンに負けたことで、これまで以上の熱意を込めてトレーニングに励んでいるのだ。
特に、ライスの熱意が凄まじい。大阪杯で負けたことに責任でも感じているのか、オーバーワークになりかねないほどの練習量を俺に求めてくる。
その熱意は俺としても大歓迎だが、故障しかねないほどの練習量に関しては却下した。せっかく体の筋力バランスも整ったというのに、再び体を壊しかねないほど練習をするというのは断じて許可できないのだ。その点だけは、俺も譲れない一線だった。
いやもう、本当に熱意は買うのだ。しかしトレーニングでくたくたになっているというのに、寮に帰ったと思えば抜け出して自主トレーニングを行おうとするのは勘弁してほしい。
美浦寮の寮長であるヒシアマゾンちゃんに頼み込んで連絡先を交換して、ライスが自主トレーニングに向かおうとすれば一報を入れるようお願いする必要があるぐらいには大変なのだ。
体が良くなったためライスの自主トレーニングに関しては解禁していたのだが、放課後のトレーニングでは体力を根こそぎ奪うレベルで走らせているため、自主トレーニングまで行えば怪我をする可能性がある。そのため再度自主トレーニングを禁止したほどだ。
春の天皇賞まで一ヶ月もない。だからライスが焦る気持ちもわかるが、練習量を増やして故障しました、などというようなことがあったら洒落にならないのだ。
ウララもウララで、以前と比べれば練習量を増やしてある。ウララの場合はライスほど体が出来上がっていないため、トレーニングで限界まで追い込めば自主トレーニングを行う余裕などない。
しかし、寮に送り届けると風呂にも入らず寝てしまうことがあるらしく、その点に関してはキングちゃんから猛抗議の電話を受けてしまった。晩御飯はたくさん食べるのだが、満腹感によって眠気に襲われ眠ってしまうそうだ。
そのためウララを叩き起こし、寝ぼけ眼のウララと一緒に風呂に入るのが最近のキングちゃんの日課になっているらしい。今度菓子折りでも持って伺わなければなるまい。
少しでもウララを鍛えられるよう、怪我しないギリギリの範囲で可能な限り負荷を与えているのだが、まだ体が慣れてないのか生活に回す体力が残らないようだ。
筋肉痛はあっても翌日にはほとんど疲労が残っていないため、トレーニング量は間違ってないはずなのだが……もっと量を減らすべきか? いや、今が一番大変な時期で、なおかつ伸びる時期でもある。これを乗り越えれば体力的にも余裕が出るはずだ。余裕が出たら更に負荷を増やすけど。
まあ、そんなわけで新年度が始まったにも拘わらず、俺はこれまで通り――いや、これまで以上にウララとライスの育成に励んでいるのである。
空いた時間はウララとライスがレースでぶつかるであろうライバルの研究や、新しいトレーニングの考案、二人に食べさせる新作料理の開発と、本当に時間的余裕がない。
「だからですね、本当に余裕がないんで……新しいチームメンバー増やすとか勘弁してください。徹夜を解禁してくれるなら話は別ですけど」
そんな俺は今、理事長室に呼び出されて理事長とたづなさん相手に面談を行っていた。
面談の内容としては、昨年度一年間の人事評価に関してである。本当は昨年度の内に行うはずだったが、ライスの大阪杯があるということで時期をずらしてもらったのだ。
「残念ッ! 二つの意味で残念ッ! さすがに徹夜での仕事は認められないし、今の君に新しいチームメンバーを育てるのが困難だというのはこちらも理解しているっ!」
人事面談自体は、まあ、割と普通に終わった。俺の場合チームキタルファを設立したこともあり、同期連中よりちょっと目をかけられている節がある。
それに普段からたづなさんが報告しているのか、俺の行動やウララとライスの練習関係、レース関係、俺との信頼関係の情報はしっかりと把握されているのだ。
それもあってか春の人事評価は冬よりも若干伸びて96点といったところだ。ただし、育成面が満点になった代わりに、通常の業務に関して減点を食らった。より速く、より正確に、より高度に業務を行うようにと、今年度で2年目になる新人トレーナーに行うツッコミとは思えないことを言われてしまった。この点、たづなさんは本当に厳しい人である。
そう言われるのは期待されているからだと前向きに捉えよう、うん……それに高い給料もらってるんだし、経営陣の要求も給料みたいに高くなるのは仕方ないよ、うん。
もっとも、トレーナーとしては割と高評価をいただいた俺だが、チームの運営に関しては70点と高いのか低いのか現状では判断できない点数をもらった。
経費の処理などはきちんとしていたし、部費の用途も適正だと認められている。チームで見ると戦績が4戦1勝とぱっとしないが、入着率が100%のためその辺りも評価しているらしい。
ならば何が理由で減点されたかというと、チームメンバーが不足している部分でどうしても減点せざるを得ないようだ。
チームメンバーが多いとそれだけ大変になるが、人数が少ないチームの方が高い評価を受けるとなると、チームを率いるトレーナーとしても『それならチームメンバーを減らすか』と判断することにつながりかねない。
そうなった場合、ただでさえトレーナーは人手不足で担当できるウマ娘の数が限られているというのに、余計に担当できるウマ娘の数が減りかねないのだ。
これで俺が文句なしにウララとライスにレースで結果を出させていれば話は別だったが、ウララがオープン戦で3着と5着、ライスがGⅡで1勝と大阪杯で3着。新人トレーナーとして見れば十分に優秀らしいが、チームメンバーが足りない分を引いて70点らしい。
一応、足りないチームメンバー1人あたり10点の減点にしているらしく、最高の点数が70点になることを思えば評価されているのだろう。
もっとも、今の俺にとっては人事評価の点数よりも、労働時間の長時間化を許可される方が嬉しいのだが。
「結論ッ! 君の昨年度一年間の評価は――花丸っ!」
そう言って笑顔で両手を上げ、頭の上で輪っかを作る理事長。可愛らしいが、この歳になって花丸という評価をもらうとは思わなかった。
たづなさんから新しく書類を渡され、内容を確認して見ると昨年度一年間の評価が記されている。理事長が言う通り花丸……と言って良いかはわからないが、トレーナー個人として、そしてチームのトレーナーとしての評価を合わせ、90点ほどの評価になるようだ。
多分、高い評価なんだと思う。しかし高い評価をもらってもウマ娘の育成には役に立たないため、俺としては社交辞令の範疇だと思って話を聞くしかない……いや、チームでそれなりに良い成績だし、夏に合宿を行えるかな? あと、部費も増えるかな? なんだ、役に立つじゃん! と手の平を返す。俺の手の平はくるっくるである。
そうやって忙しなく表情を変化させる俺をどう思ったのか、たづなさんがくすりと笑みを浮かべる。
「チーム設立から一年間は新規メンバーを増やさなくても良いという話でまとまりましたが、私としてはトレーナーさんに新しいウマ娘を担当してほしいところですね……過度な残業は禁止ですが」
「最後の一言がなければこちらとしても検討できたんですが……いえ、どのみち今の状態だと無理ですよ。ウララとライスは今が一番大事な時だと思っていますから」
ライスは打倒トウカイテイオー、打倒メジロマックイーンに燃えており、ウララに至っては今が最も
来年、再来年のことを思えば一人ぐらいは新しいメンバーをスカウトするべきだろうが、今はウララとライス以外のことに目を向ける余裕はない。
「残念ッ! しかし約束は約束っ! こちらとしても強制することはない! これからも君の活躍を期待するっ!」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
俺は理事長とたづなさんに向かって一礼すると、理事長室を後にする。そして、なんとはなしにトレーナー用の共用スペースへと足を向けた。
人事評価を受けた後に行っている、桐生院さんとのいつものやり取りをやろうと思ったのだ。
(うん、先輩方の視線が痛いね。チクチクしますわ)
共用スペースに足を踏み入れた俺だったが、先輩方から刺すような視線が飛んでくる。それと同時に同期の男連中が手を振ってきたため、手を振ってからそちらへと向かった。
(あれ……桐生院さんはいないのか……まあ、別に待ち合わせしてたわけじゃないしなぁ)
これまで通りなら、俺が人事面談を受けた後は共用スペースでワクワクとした表情で待っていてくれたのだが。
「おっす。こっちに来るのは久しぶりだなぁ」
「おいっす。たまには来ないとねぇ。景気はどうでっか?」
「ぼちぼちでんな……って言えれば良かったけど、クラシック路線がマジできつい……」
俺が軽口を振ると、同期もそれに乗っかってくれる。しかし疲れたような表情で首を横に振っているあたり、クラシック戦線は本当に魔境のようだ。
「桐生院さんのところのハッピーミークでさえ勝ってないんだぜ? うちの子達もなんとか入賞できるかどうかって感じで、重賞獲って奢り返すのはしばらく待っててほしいわ」
「安心してくれ。うちのウララもまだ重賞は獲れてない……ってか去年から勝ってないから」
「ライスシャワーは京都記念勝ったじゃん」
「うん、まあね……あの子元々強いからね……」
俺が一から育てたわけではないため、ライスシャワーを評価されると反応に困る部分もある。まあ、隙あらば自慢するが。ライスは可愛いし強いと自慢するが。
「トウカイテイオーとメジロマックイーンに負けたくせに……」
俺が同期と話をしていると、そんな声が聞こえてきた。小声ではあるが、俺にギリギリ聞こえる大きさの声である。先輩トレーナーの誰かだろう。
「いやごもっともで。レースレコードを出しても負けたんで、トウカイテイオーとメジロマックイーンを称賛するしかないですよ」
俺は声が聞こえてきた方向に笑顔を向けて答える。
負けは負けだが、レースレコードを出した上で負けたのだ。俺としてはライスを褒め、トウカイテイオーとメジロマックイーンを称賛するしかない。
それはそれとして、レース結果ならともかく直接ライスを馬鹿にするようなら構わん。レースに出てこい。GⅠに出てこいこの野郎と煽り返す所存だ。慇懃無礼と咎められるかもしれないし、もっと上手くやり過ごせるのだが、俺のウマ娘を馬鹿にされたらもう戦争である。
しかし先輩のトレーナーもライスがレースレコードを出して負けたことは知っていたのか、それ以上は何も言わなかった。そのため俺も引き下がり、頭を下げてから同期へと向き直る。
「クラシックの芝はどんな感じよ? ダートは……うん、なんかヤバい子がいるんだけど」
「こっちはヤバい子が複数いるし、なんならバーゲンセール状態だよ……というかウララちゃんも十分ヤバい子になってるじゃねえか……」
「ウララも強くなったけど、本当にヤバい子が……ね? ウララが勝てるように鍛えてるけど、直近のレースだと……どうかなぁ」
悔しさを知ってトレーニングへのやる気が更に高まったウララだが、オグリキャップやスマートファルコンが相手だとさすがにまだ厳しい。
オグリキャップは芝路線に殴り込みをかけそうだが、スマートファルコンは適性的に芝に向いてなさそうなため、これから先何度もぶつかることになるはずだ。
同期と駄弁るように話をしていると、クラシック戦線が如何に混沌とした魔境なのかが見えてくる。
有力なウマ娘が多くいるため、オープン戦もだが重賞になると上位陣が壮絶な殴り合いをして勝ち星を奪い合っているらしい。クラシック三冠に挑むべく収得賞金を積み上げようと、オープン戦でも悲惨なことになっているようだ。
俺が調べた限りだと、ハッピーミークでさえ今年に入ってから4戦0勝である。
1月前半にGⅢのシンザン記念に出走させたところ、ナリタタイシンとぶつかり敗北して4着に。
2月前半に出走させたGⅢのきさらぎ賞でスペシャルウィークとぶつかり敗北し、5着に。
3月前半の弥生賞ではオグリキャップを始めとした強豪に飲み込まれ着外に。
3月後半にオープン戦の若葉ステークスでビワハヤヒデとぶつかってしまい4着と、かなり苦戦しているようだ。
入着こそ3回しているが、3着以上に入っていないためウイニングライブにも出られていない。桐生院さんのことだからハッピーミークの体調はケアしているだろうが、さすがにぶつかる相手が悪い……というか、オープン戦ですら強いウマ娘が出過ぎである。
ハッピーミークの場合阪神ジュベナイルフィリーズで勝っているため、クラシック三冠ではなくトリプルティアラ路線を目指すのも手だろう。4月前半の桜花賞、5月後半のオークス、秋華賞の3つのGⅠで1着を狙うルートだが――。
(阪神ジュベナイルフィリーズ獲った割に、ティアラ路線じゃなくてクラシック路線に進みたがってるんだよな……実家の影響とかかな?)
桐生院さんは実家がトレーナーの名家というのもあり、そのあたり実家から何か言われているのかもしれない。
クラシック三冠の出発点、皐月賞にはステップレースが3つあり、それがGⅡのスプリングステークスとGⅡの弥生賞、オープン戦の若葉ステークスだ。スプリングステークスか弥生賞で3着以内、若葉ステークスで2着以内に入れば皐月賞の優先出走権が与えられる。
桐生院さんも優先出走権を狙ってハッピーミークを出したのだろうが、結果は残念なもので終わった。しかしハッピーミークは阪神ジュベナイルフィリーズで勝ったため、収得賞金が他のウマ娘と比べて多い。出走を申請すればおそらく通るだろう。
(ま、他所様のことだし、俺がとやかく言えるわけもない、か……)
そう結論付けた俺は、同期としばらく話をしてから共用スペースを後にするのだった。
さて、4月である。繰り返しになるが新年度である。つまり、新しいウマ娘がトレセン学園へと入ってくる時期である。俺にとってはスカウトが全て空振りした苦い思い出のある季節である。
放課後に練習コースを覗いてみると、各チームが開催する模擬レースや選抜レースに参加を希望するウマ娘がわんさかといる。
中央に、トレセン学園に入れたということで希望に満ち溢れ、少しでも強いチームに入ろうと目を輝かせるウマ娘達の姿がそこにはあった。
(来年、あの子達の何割がこの学園に残ってるんだろうな……)
俺はチームリギルの選抜レースに参加するべく整列しているウマ娘達を見て、そんなことを思う。
心が折れたり、故障したり、レースで負けたりと、トレセン学園を去る理由はいくらでも転がっている。俺は昨年度の一年間で、それをよく知ったつもりだ。
幸いウララもライスも心が折れることはなく、むしろ燃え上がっている状態だが、希望に満ち溢れた新入生のウマ娘達は今後どうなるのか。まあ、それを考えても仕方はないのだが。
俺は新入生達が騒ぐ声を聞きつつ、部室に向かってウララやライスと合流する。模擬レースや選抜レースが行われているが、それに構わず今日もトレーニングの時間だ。
「よし、着替えも終わってるな。それじゃあ今日はトレセン学園の外でトレーニングだ。以前ウララと一緒に見つけた急勾配の長い階段を使って足腰を鍛えるぞ」
膝に負担がかかり過ぎないよう注意する必要があるが、今日もしっかりと鍛えよう。ちなみに昨日は巨大なタイヤを曳かせた。トレセン学園の練習用具に、俺では到底動かせないような巨大なタイヤがあったため、体に縄をつけて少しずつ、ゆっくりと曳かせたのだ。あれも良い足腰の鍛錬である。
なお、余談ではあるが、担当トレーナーを探していたのか複数の新入生に声をかけられたものの、ウララとライスが巨大なタイヤを曳く姿を見ると引きつった顔をして去っていった。
『拷問?』やら『アレ、ヤバくない?』と口々に呟いていたが、ヤバくないし拷問でもない。『君達も曳いてみるかい?』と声をかけたら引かれて逃げられたけども。
ついでに、たまたま通りかかったシンボリルドルフにそれを見られて、『曳くかと聞かれて引く……ふふっ』と会長ジョークをかまされ、エアグルーヴさんに冷たい目を向けられたが俺は無実です。
そんなことを思い出しながら、俺はトレセン学園所有の車を借りてウララとライスを乗せて今日の練習場所へと向かう。本当はウララとライスは走らせたいが、帰り道では走る余裕がないほどにしごくため車を借りたのだ。
俺がウララとライスを連れて行ったのは、トレセン学園から離れた場所にある神社である。その神社は山の斜面に建てられており、急勾配の長い石段が敬遠されているのか、参拝客がほとんど来ない穴場である。俺たちだけでなく他のチームも時折利用する場所だが、今日のところは俺達以外に姿はなかった。
「階段を登る時は足を踏み外さないよう注意すること。あと靴は滑りにくいやつに履き替えること。蹄鉄付きの靴は石段も蹄鉄も削れるからな」
俺はウララとライスにそんな注意を促しつつ、石段を見上げる。以前利用した時も思ったが、はたして何段あるのだろうか。
(願掛け……願掛け、か……)
ずいぶんと遠くに見える鳥居を見詰めて、俺は心中で呟く。
宗教に馴染みが薄い身としては、神社だろうが寺だろうが願い事をする時や初詣、あとは冠婚葬祭ぐらいでしか来ることがない。というか俺自身転生なんてしてるわけだが、徳の高いお坊さんとかに祓われたりしないだろうか?
そんなことを頭の片隅で考えつつ、俺は準備運動をしているウララとライスを見た。願掛けとは違うが、これからの展望に関して確認しようと思ったのだ。
「ウララ、次に出るレースは端午ステークスにしたいと思うんだがどうだ?」
「4月後半の? ふくりゅーステークスじゃなくて?」
俺からの質問に対し、ウララは不思議そうな顔をする。
3月前半に行われた昇竜ステークスから一ヶ月以上間を空けることになるが、今のウララは本当にトレーニングでの成長が著しい。レースに出しても良い結果を残すだろうが、俺としては可能な限り力を伸ばしてからレースに挑ませたかった。
そして、伏龍ステークスを飛ばして端午ステークスに出る場合、ウララを奮い立たせるであろう要素が存在する。
「ああ。4月前半には桜花賞や皐月賞があるから、オグリキャップ達はそっちに出るだろう。だから強いウマ娘を避けるなら伏龍ステークスに出しても良いんだが……多分、同じ事を考えてダート路線のウマ娘が大量に出走申請すると思う」
それなら最初からレースを一つ飛ばそう、と俺は思った。出走申請したものの抽選になって漏れました、ではせっかくの調子に水が差されかねない。
また、ダート路線にも出てこれるオグリキャップ達だが、日本ダービーも狙うとなるとわざわざダートのオープン戦には出てこないだろう。そのため皐月賞が行われる4月前半の次の機会――4月後半も比較的安全のはずだ。
ウララを鍛えてオグリキャップなどが出てくるレースにぶつけてみたい気持ちもあるが、せっかく勝ちたいという意思をウララが持ってくれたのだ。まずはオープン戦で1勝させ、勝ちたいという願いを叶えてやりたい。
そのためにも俺は端午ステークスを推す。そしてそれは、ライスのためでもあった。
「ライスが出る春の天皇賞は京都レース場の第11レースでな。端午ステークスはその1つ前、第10レースになるんだ」
俺がそう言うと、ウララの表情が変わる。抽選漏れしそうな可能性が高いという点にさえ目をつむるなら伏龍ステークスでも良いが、伏龍ステークスは1800メートル、つまりマイル走になる。しかし端午ステークスは1400メートルとウララが得意な短距離なのだ。仮にスマートファルコンが出てきたとしても、今のウララなら勝ち目がある。
そして、端午ステークスは京都レース場の第10レースとして行われるわけで。
「つまり、だ……ウララは端午ステークスで1着を獲ってライスへバトンを渡すんだ。ライスはウララに続いて春の天皇賞で1着を獲る……どうだ? 燃えてこないか?」
俺がにやりと笑って問いかけると、ウララはぶるりと体を震わせた。そして尻尾をピンと立たせたかと思うと、激しく左右に振り始める。
もしもウララが1着を逃す――それも着外になるほどボロ負けするとライスのやる気も下がりそうだが、今のウララならば勝ってくれるし、その頃のウララならばもっと勝率も上がっているだろうと信じている。
「うん……うんっ! わたし、ライスちゃんにバトンを渡すよー! そうしたらライスちゃんも1着になるよね!」
「ライス、今度こそ勝つから……ウララちゃんと一緒に、1着になってみせるよお兄さま」
俺の話を聞いたウララとライスは、更にやる気が高まったように瞳を輝かせる。それを確認した俺は笑顔を浮かべて頷くと、拳を握って空へと突き上げた。
「よし、それなら決まりだ! チームキタルファ、いくぞー!」
「わーい!」
「お、おー!」
ウララは飛び跳ねるようにして両手を空へと突き上げ、ライスも控えめながら拳を突き上げる。
こうして、俺のトレーナー生活の二年目がスタートするのだった。