リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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 以前の話で出走条件(収得賞金)が設定されている重賞ではそれを満たす必要がある、という形にしていましたが、調べ直してみるとここ数話で取り上げているステップレースの存在もあり、以下の優先順位で出走するウマ娘が決まるという形にしたいと思います。

優先順位1:ステップレースで優先出走権を得たウマ娘(例:皐月賞の場合、GⅡ弥生賞で1~3着、GⅡスプリングステークスで1~3着、OP若葉ステークスで1~2着のいずれかなら優先出走権を獲得)

優先順位2:総収得賞金の順番によって選出(出走条件として決められている賞金額に満たなくてもOK)

優先順位3:優先出走権がない、総収得賞金も低いが、フルゲートに満たない場合に限り出走申請をしたウマ娘の中から抽選(ただし1勝以上していること。未勝利のウマ娘はNG)。

オープン戦などに出る場合でも前走が1~5着の場合優先出走権が得られるため、抽選から除外。

 当初はアプリ基準で考えていましたが(賞金=ファン数が1人でも足りない場合は出走できない)、この場合本作のクラシック路線だとネームドウマ娘同士で殴り合って1着を取り合っている状態のため、ネームドウマ娘以外が収得賞金を稼げず出走条件がある重賞に出走できない、という事態が発生するためこのような形にしたいと思います(現実の競馬に寄せたともいう)。

Q.つまり、どういうことだってばよ?
A.ハルウララがGⅠに出やすくなりました。なお、出走条件が緩和されたので野生のオグリキャップみたいな存在とレースでぶつかる可能性も増えました。


第37話:新人トレーナー、話す

 さて、俺もトレーナー2年目として今日も今日とてウララとライスの育成に励んでいるわけだが。

 

「はぁ……はぁ……お兄さま、ライス、もう一本走ってくるね……」

 

 先日利用した階段の上り下り。これが思ったよりもウララとライスの足腰を鍛えてくれたため再度利用しているのだが、ウララがダウンした後もライスは繰り返し何度も階段を行き来している。

 

 この辺りはウララとライスの体力の差だろう。しかし、階段を登ろうとするライスの足が僅かに震えているのを見て、俺はライスの肩を掴んだ。

 

「今日はここまでだ。整理運動をしたら帰るぞ」

「っ……でもっ!」

「これ以上は怪我をするだけだ。それに、前回よりも4本多く登れたし、タイムも最高で2秒縮まってる。良い調子だ……次回はもっと本数が増えて、タイムも縮まりそうだな」

 

 俺が記録していた用紙を見せると、ライスは僅かに不満そうな顔をしたものの引き下がる。()()()()()()()()()()()()()()と伝えれば、ライスも引き下がらざるを得ないのだ。同時に、これ以上は怪我をするというのも本当である。

 

「ライスが焦る気持ちもわかるし、焦ってくれるのも嬉しい。でも、あとは寮に帰って、たくさんご飯を食べて、ゆっくり風呂に入って、しっかり眠る……これもトレーニングの一環だと思うんだ。体を酷使したらご飯を食べて休まないと成長してくれないからな」

「……うん」

 

 俺が説明すると、ライスは小さく頷く。それを見た俺はライスの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

 

「ライスはスタミナに関してはまったく問題ない。というか、現役世代じゃぶっちぎりだと思ってる。だから今伸ばすべきはスピードだ。最後の直線でメジロマックイーンだろうとトウカイテイオーだろうと抜き去るスピード……それが必要だろう?」

「うん……ライスもそう思う」

「俺がここまで走らせてるのも、その筋肉をつけるためだ。で、その筋肉をつけるためにはしっかりと筋肉をいじめて、栄養を摂って、しっかりと休まないといけない……わかるな?」

「……うん」

 

 ウマ娘は人間と比べて身体能力が大きく異なるため、筋肉の付き方も異なる。というか、俺だったら最初の2~30分でグロッキーになりそうな運動を、何倍もの負荷をかけて体を鍛え上げていくのがウマ娘なのだ。

 

 そんなウマ娘の中でも、ライスは極めてストイックかつレースで勝つことに貪欲な子である。そのためトレーニング量もとんでもないことになるのだが、上手くブレーキを掛けないと故障につながりかねない。

 

 ウララはトレーニングを楽しみながら行える子だが、ライスは必要だと思えば体が壊れる寸前までひたすらトレーニングを行える。いや、下手すれば体が壊れようと一度の勝利のために全てを燃焼させかねない危うさがあった。

 

 もちろん、そんなことは俺が許さないが。

 

「よし、それじゃあトレセン学園に帰るぞー。ウララ、立てるか?」

「なんかねー、手足がプルプルして動けないー」

「よし、大丈夫じゃないな」

 

 俺は草地の上で仰向けになっているウララの傍に歩み寄ると、ウララの背中と膝裏に両手を差し込む。そして気合いを入れて持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 

「わー、らくちんだー! トレーナーすごーい!」

「頑張ったからな。でも暴れるなよ? 落とすかもしれん」

「お兄さま、ライス、もう一本走ってくるね? そうしたら動けなくなると思うから、ライスもウララちゃんみたいにだっこしてほしいな」

「待て待て待て。お姫様抱っこで良ければいつでもしてやるから待ちなさい。それじゃあ……あー……よし、こい!」

 

 俺はウララを抱きかかえたまま、膝を折る。そしてライスに背中に乗るよう促した。

 

 両腕でウララを抱きかかえ、ライスを背負えば完璧である。いやうん、何が完璧かわからないし、いざライスを背負って動こうと思ったら膝をついた状態から立ち上がれなかったけども。

 

「お兄さま、ライス、いいこと思いついたよ。お兄さまがウララちゃんを背負って、ライスがお兄さまを背負うの」

「何も良くないし危ないんだよなぁ……」

 

 オーバーワークに突き進もうとするライスを止める俺と、俺が抱きかかえたらすやすやと眠り始めたウララと、そんな俺とウララを見て、それまでの険しい雰囲気を消して微笑むライス。

 

 チームキタルファの最近のトレーニングは、毎日大体こんな感じだった。

 

 

 

 

 

 そしてその日の夜のことである。ウララとライスを寮に送り届け、借りていた車をトレセン学園に返した俺は、部室で一人パソコンとにらめっこをしていた。

 

(皐月賞の出走メンバー、すごいことになってるな……)

 

 ちょいと芝のレースに関して情報を漁っていると、速報で皐月賞に出走するウマ娘に関して取り上げられていたのだ。

 

 スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングちゃん、ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケット、オグリキャップ、タイキシャトル、ハッピーミークと、俺が知っているウマ娘の名前が多い。

 

(エルコンドルパサーは……いないな。ダートに来るってわけでもなく、東条さんが言ってた通り海外路線かな? グラスワンダーはまだ療養中、と……お、アンチェンジングとユイイツムニも選ばれてるじゃん。賞金足りないって言ってたけど、抽選で通ったか)

 

 同期のウマ娘の名前が載っていることに気付き、俺は口元に笑みを浮かべる。以前ウララやライスと一緒に模擬レースを行った子達だが、皐月賞に出られるらしい。

 

 有力ウマ娘がステップレースやオープン戦、GⅡやGⅢで大暴れした結果、収得賞金が足りないウマ娘が大量発生しているのが現状である。それでもフルゲートにならない限り1勝以上しているウマ娘ならば抽選で出走できるが、同期は担当しているウマ娘を出走登録させ、抽選で通ったようだ。

 

(収得賞金が足りなくても出走するウマ娘が少なければ重賞に出られるんだよな……ウララも今年中にGⅠに挑めるかも……でもダートだとシニア級のウマ娘も出られるレースばっかりなんだよな。7月にあるジャパンダートダービーならクラシック級限定だからいけるかもだけど、2000メートルだし……)

 

 ダートは勝っても賞金が少ないレースが多いため、ダートのGⅠに出走しようとする際に足切りされる収得賞金まで稼げていないウマ娘も多い。そのため出走するウマ娘が少なければ出走できる可能性が高いし、抽選で通れば出ることも可能だろう。

 

 あるいは、ステップレースで上位に入って優先出走権を取得するというのも手だ。ただし、ステップレースが存在するGⅠの場合、シニア級にならないと出走できないものもあるが――。

 

 と、そこまで考えたところでスマホが着信音を鳴らす。手に取って画面を確認してみると、そこには『キングちゃん』の文字が表示されていた。

 

「はいもしもし、キングちゃん? ウララがどうかした?」

 

 ウララの同室ということで、ウララとライスを除くと割合交流が深いウマ娘であるキングちゃんからの電話である。そのため俺は気軽に応答したのだが、電話口のキングちゃんは初っ端からテンションがすさまじかった。

 

『どうかした、じゃないわ! あの子今日も晩御飯を食べたらそのまま眠ろうとしたのよ!? あなたからも注意してって何度も言ってるじゃないの! ここ最近、お風呂に入る時ウララさんと常に一緒なのよ!?』

 

 どうやらウララの行動に関しておかんむりな様子である。思わずスマホから距離を離してしまった俺だったが、キングちゃんの言葉には物申したい部分があった。

 

「うん、注意はしてるんだ……でもキングちゃんと一緒にお風呂入るの楽しいってウララが言うから……」

 

 最近キングちゃんが一緒にお風呂に入ってくれるんだよー、なんて笑顔で言われたら、俺としては止め難い……まあ、あまりにも迷惑な場合、さすがに止めないとまずいだろうが。

 

『意志薄弱じゃありませんこと!? しかもあの子、寝ぼけると私のベッドに入ってきて一緒に眠ろうとするのよ!?』

「うん、注意はしてるんだ……でもキングちゃんと一緒に眠ると安心するってウララが言うから……」

『娘にだだ甘な父親じゃないんだから、きちんと叱りなさいな!』

 

 電話越しに飛んでくるツッコミに、俺は思わず苦笑を浮かべる。

 

「キングちゃんが本当に嫌だって言うなら、俺もきつく叱っとくけど……」

『べ、別に本当に嫌だ、とまでは言わないわよ……ただ、もう少し頻度を減らしてもらいたいだけで……』

 

 電話越しのため顔は見えないが、おそらくは照れているのだろう。ごにょごにょと言葉を濁すキングちゃんに、俺は日中の仕事やウララとライスのトレーニングで疲れた精神が癒されるのを感じた。

 

『ごほんっ! ところで、最近ウララさんの様子を見る限り、少し厳しすぎるのではなくて? 以前より疲れてるわよ?』

「今のウララは伸び盛りだからねぇ。翌朝はどんな感じ? 疲れが残らないよう調整してるつもりなんだけど。あ、筋肉痛は成長の証ってことで見逃してね」

『むぅ……たしかに、朝から元気いっぱいではあるのだけど……』

 

 俺が尋ねるときちんと答えてくれるあたり、この子も良い子なのだろう。ウララは同室の子にも恵まれているようで、なによりだ。

 

「そういうキングちゃんは大丈夫かい? 今度の皐月賞、出るんだろう?」

『……キングは一流よ。大丈夫に決まっているわ』

 

 俺が尋ねると、キングちゃんの声色が僅かに暗くなった。それに気付いた俺は、パソコンを操作してキングちゃんの情報をまとめたファイルを開く。

 

 キングちゃんは芝の短距離が一番得意で、距離が延びると適性が落ちていくタイプのウマ娘だ。適性が落ちるといっても全距離問題なく走れるハッピーミークがおかしいだけで、キングちゃんみたいに長距離までそれなりに走れるウマ娘というのは珍しい部類である。

 

 得意な戦法は差しだが、先行もこなせる。今年のクラシック級のウマ娘の中ではトップクラスの逸材だろう。ただし、他にもトップクラスのウマ娘が何人もいるというのが問題なのだが。

 

「オグリキャップも出るみたいだし、注意した方が良い。あの子は最後の差しで二回伸びるから、一度抜けたとしても油断してると抜き返されるから」

『……ちょっと待ちなさい。それ、本当?』

「ん? 本当って……うちのウララがそれで負けたからね。なんなら……あー、ちょっと待って。今、パソコンからキングちゃんの方に動画送っといたから……ついでにこっちの資料も送っとくか」

 

 そーれぽちっとな。他所のウマ娘だから過度な助言をするのはマナー違反だが、ウララが日頃世話になっているし、ある程度情報を渡すぐらいならセーフだろう。

 

 俺が送ったのは、ヒヤシンスステークスの最終直線で見せたオグリキャップの2段階での加速を捉えた映像である。それとオグリキャップをはじめとした今年のクラシック世代の有力ウマ娘に関して簡単にまとめた資料だ。

 

 キングちゃんのトレーナーも色々と情報を揃えているだろうが、こういう情報は他の者から見ると違った側面が見えてきたりする。そのため俺の資料も……うん、邪魔にはならない程度には役に立ってくれると嬉しいと思う今日この頃だ。

 

『いくつもファイルが送られてきたのだけど、なに? この一流であるキングに対して、施しでもしたいのかしら?』

「いつもウララがお世話になってるから、そのお礼……にはならないかなぁ……クラシック級のウマ娘は何百人っているけど、オグリキャップに勝てそうなウマ娘は十人もいないと思ってるんだ。でもキングちゃんはその()()()()()()()()だし、応援したいなって」

 

 そうすればオグリキャップの情報が更に集まる、なんて狙いもある。しかし、それ以上にウララと特に親しいキングちゃんを応援したいという気持ちが強かった。

 

 俺の見立てでは、クラシック級でオグリキャップに勝てる可能性があるウマ娘は本当に少ない。それこそ可能性があるウマ娘のほとんどが皐月賞に出るのだ。皐月賞の結果次第では、オグリキャップの独走でクラシック三冠が決まる可能性もある。

 

 だが、俺の見立てではキングちゃんはオグリキャップに勝てる可能性がある数少ないウマ娘の一人だ。ウマ娘が繰り広げるレースの一ファンとしても、素晴らしいレースは是非見たい。

 

『ふんっ……まったく、そんな風におだてても何も出ないわよ。せいぜい、私が皐月賞で1着を獲るところを見ているといいわ』

「よっ、さすがキングちゃん!」

『おーっほっほっほ! そう、私こそがキング……って、ウララさんが起きるじゃないの! まったくもう……』

 

 電話越しに高笑いをするキングちゃんだったが、同室のウララに気を遣ったのだろう。すぐに囁くような声になる。

 

『ところで、すぐにファイルが送られてくるってことはまだ仕事してるわね? ほどほどにしないと体を壊すわよ?』

「……家のパソコンから送ったんですよ、うん。仕事シテナイヨ」

『うそおっしゃい……あまりひどいようだと駿川さんに言いつけるわよ』

「そればっかりは勘弁を……って、ん?」

 

 不意に、部室の外で物音がした。部室の壁に設置した時計を見ると、既に午後八時を過ぎている。それに気付いた俺はあちゃー、と声を上げる。

 

「キングちゃんがそんなことを言うから、たづなさんが来たじゃないか……」

『ふふ……おばか。今日はそれぐらいにしておきなさいってことよ』

「仕方ない……それじゃあ連絡ありがとう。おやすみ、キングちゃん」

『ええ、おやすみなさい』

 

 俺はキングちゃんとの会話を切り上げると、スマホをポケットに入れて椅子から立ち上がる。そして笑顔を浮かべて部室の扉を開けた。

 

「さーてそろそろ帰らないとなー。もう電気も消して帰るんだよなー。だからたづなさん、セーフってことで……」

 

 そう言いながら周囲を見回す俺だが、そこにたづなさんの姿はない。それどころか誰の姿もなく、俺は首を傾げた。

 

「えぇ……たしかに物音がしたんだけど……疲れてるのかな……」

 

 怪奇、夜中に響く謎の足音……いやうん、俺も転生なんてしちゃった身だし、幽霊とかいてもおかしくはないか。でも今の俺にとっては幽霊よりもウララとライスの育成の方が重要なのだ。

 

「たづなさんじゃないのなら、あと一時間ぐらい残ってても……バレへんか……」

 

 そう呟く俺だったが、数秒だけ考えてからパソコンの電源を落とす。キングちゃんから言われたのもあるが、ウララとライスのトレーニングに付き合うだけでかなり疲れるのだ。

 

 家に帰って晩飯食べて、風呂にゆっくり入って早めに寝よう。あ、でもその前に今年の皐月賞に関して情報を漁ろう。キングちゃんにああ言ったのもあるけど、どうなるか気になるのだ。

 

 ――なんて、思ったのがつい先日のことである。

 

 皐月賞が行われる日曜日。俺はトレセン学園でウララやライスのトレーニングを行っていたのだが、皐月賞の出走時間が近付くとトレーニングを切り上げ、部室のテレビでレースを見ることにした。

 

 休憩時間兼、ウララとライスのモチベーションを高めるための時間である。特にウララにとっては同期のウマ娘達がオーダーメイドの勝負服を身に纏い、GⅠの舞台でぶつかり合うのだ。

 

 それを見るだけでも良い刺激になるだろう。ライスは相変わらずオーバーワークになりそうなため、純粋に休憩である。

 

 そして、部室の大画面のテレビで皐月賞を見ていたのだが――。

 

『オグリキャップがセイウンスカイをかわした! オグリキャップが先頭! 残り200メートルもない! 後続は――突っ込んできたぞスペシャルウィーク! キングヘイローとビワハヤヒデも続いている!』

 

 序盤から逃げに逃げていたセイウンスカイが残り200メートルでオグリキャップに捕まった、と思ったら続々とウマ娘が突っ込んできた。

 

「うわー! すごいねー!」

「すごいというか、やばいな」

 

 無邪気にはしゃぐウララと異なり、俺は引きつったような声で呟く。

 

『オグリキャップとスペシャルウィークが並んだ! スペシャルウィーク、このままかわせ――ぬぁい! オグリキャップが更に伸びた! 1バ身! 2バ身と開いていく! 懸命に追うがオグリキャップが今、1着でゴール!』

「……相変わらずすごい足だな。更に伸びるようになってるし……」

 

 テレビ画面越しではあるが、オグリキャップの()()()が高まっているように見える。そんなオグリキャップとギリギリのところで競り合ったスペシャルウィークも大したものだと思うが、今回はオグリキャップに軍配が上がったようだ。

 

『着順が確定いたしました。1着、オグリキャップ。2着、2バ身離れてスペシャルウィーク。3着、1バ身離れてキングヘイロー。4着、1バ身離れてビワハヤヒデ。5着、2バ身離れてセイウンスカイです』

 

 クラシック三冠の初戦を制したのはオグリキャップである。しかし、日本ダービーや菊花賞でも1着を獲れるとは限らない。他のウマ娘も負けはしたが、もっともっと伸びる子が多いように見えるからだ。

 

(しかし……ハッピーミークは14着か。テレビじゃしっかりとはわからないけど、調整ミスったのか?)

 

 フルゲート18人で走り、ハッピーミークは14着という結果で終わったのが気になった。他の同期のウマ娘ではアンチェンジングが7着、ユイイツムニが11着である。アンチェンジングは最後の追い込みがもう少し伸びれば入着しそうな感じだったのだが。

 

(本当に今年の芝のクラシック路線は魔境だな……)

 

 俺はそう思いながら、休憩を終わりにしてウララとライスのトレーニングを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 そして、ウララとライスのトレーニングを続けること半月あまり。

 

 4月もあと数日で終わろうかという時に、俺は部室に届いた書類を確認して困惑することとなった。

 

 書類はウララの端午ステークスとライスの春の天皇賞に関するものだ。ウララもライスも仕上がりは上々で、怪我もなく調子も万全である。

 

 それは良いのだが、書類に記された内容――特にウララの端午ステークスの出走表に俺は困惑していた。

 

「……なんで?」

 

 ウララにとって越えるべき壁であるスマートファルコンの名前は、そこにはない。

 

 スマートファルコンは4月前半の伏龍ステークスに出走し、再びレコードタイムで1着を獲ったからか、端午ステークスは回避したようだ。

 

 早速借りを返せる、などと考えていたものの、どのレースに出るかはその陣営の自由である。そのため何も文句は言えない……のだが。

 

「……なんで?」

 

 俺はもう一度出走表を確認して呟く。

 

 京都レース場第10レース、端午ステークス。

 

 そこに、ハッピーミークの名前が記されていたのだった。

 

 

 




キングちゃんと話をさせてたら1話の半分近くを使っていました。おかしいなぁ……

それと大阪杯でのトウカイテイオーとライスのやり取りを見て、『これはライスに鬼が宿りますわ』みたいな感想をいただいた際に思ったこと。

シンボリルドルフ「鬼ではなく()()いさまが宿るのではないかな……ふふっ」

毎日このSSを書いてるからか、最近、何かある度に頭の中でシンボリルドルフが洒落にもならない洒落を呟いていきます。

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