リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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前回の更新分のタイトルが第21話と丸被りだったので修正しました。
あと、第22話でダイタクヘリオスが高松宮杯(GⅡ、芝2000メートル)に出ていましたが、アプリだと高松宮記念(GⅠ、芝1200メートル)なので修正しました。
アプリの情報とリアルの情報を行ったり来たりしてたら混同したり、当時はあったけど今は別の名前や距離になってたりするレースがあるので間違えました。うっかりです。


第41話:新人トレーナー、やらかす

 さて、桐生院さんを飲みに誘った日の夕方のことである。

 

 いつも通りウララとライスのトレーニングが終わり、部室でスーツに着替えを済ませた俺は、そこでふと外套掛けに目をやってポンと手を叩いた。

 

「あ、思い出した」

「お兄さま? どうかしたの?」

 

 そんな俺の言葉に反応したのはライスである。俺はライスに視線を向けると、その格好を確認した。トレセン学園の制服に身を包んだライスだが、外套の類は特に身に着けていない。

 

「そういえばこの前のレースでライスに上着を貸したままだったなって。いやぁ、着てた服を忘れるとかやばいわ。俺も歳かねぇ……」

 

 ウララとライスのレースがあまりにも感動的だったから記憶から吹っ飛ばしていたが、そういえばライスに上着を着せてたわ。

 

 何か忘れてるとは思ったけど、春の陽気が暖かくて上着を着てたことを忘れてたようだ。家に帰っても気付かなかったあたり、本当に抜けているというか何というか……やっちまったぜ。最近暖かかったし、必要ないからものの見事に忘れてたわ。

 

 俺がそんな言葉を吐き出していると、ライスは笑顔で動きを止めていた。ウララがそんなライスを不思議そうに見ているが、ライスは数秒もしない内に再起動する。

 

「……うん、そうだったね。でもごめんなさい、お兄さま。借りてたお洋服、クリーニングに出してるの」

「クリーニング? なんでまた……」

「え? だ、だって……ライス、汗、かいてたし……ライスの汗で汚れてるお洋服、お兄さまに返せないよ……」

 

 そう言って恥ずかしそうに自分の髪をいじるライス。俺としては別にライスの汗ぐらい気にしない。というか、トレーニングをやってたら嫌でも汗を掻くし、そんなことを気にしていたらウマ娘の担当なんてできやしないのである。

 俺もトレーニング中は汗だくになるし、なんならウララなんて汗だくになっているにもかかわらず抱き着いてくるし。

 

(ああ、でもライスも年頃の女の子だもんな……俺は良くてもライスの方が嫌がるか)

 

 その時、俺の脳裏に『お兄さまとライスの服、一緒に洗わないで』とおふくろに訴えるライスの姿が蘇り――いやいや、そんな記憶は存在しない。やっぱり疲れているのやもしれぬ。

 

「別に汚れてるなんて思ったりしないって。俺こそ気が付かなくて悪かったな、ライス。いくら寒そうっていっても、俺が着てた服を着せるってのもデリカシーがなかったよ。今度からは気を付けて」

「それは大丈夫」

「二度とやらない……って、え? 大丈夫? 別に気を遣わなくてもいいんだぞ?」

 

 まだ肉体年齢的には加齢臭が出る歳でもないはずだが、年頃の女の子にとって精神的にもきついものがありそうなんだが。ライスのことだから俺に気を遣って……なさそうな顔ですね、これは。

 

「お兄さまの匂い、ライスは好きだよ。すごく落ち着くから」

「あ、わたしもー! トレーナーの匂いって、パパみたいだよー!」

「んん……喜んで良いのかわからんな、そりゃ……」

 

 なんだろう、すごく反応に困る。最近の若い子の感性がおじさんには理解できないよ。いやうん、中身はともかく外見は若いんだけど。

 

 あとウララ? パパみたいな匂いってどんな匂い? 田舎のじいちゃんちの畳の匂い的な? 多分、褒めてるんだろうとは思うけど、素直に喜んでいいのか?

 

「とりあえず、忘れてたことを思い出せてすっきりした……それじゃあ戸締りするから、先に帰ってなさい」

「はーい! それじゃね、トレーナー!」

「うん、わかったよお兄さま……戸締りするってことは、今日はもう帰るの?」

「おう。帰るってか、同僚と飲み会だな。花金……なんて言っても通じないか」

 

 やばい、口から思わず死語が出てしまった。俺が思わずへこんでいると、ウララとライスは『はなきん?』と呟きながら首を傾げている。

 

「忘れてくれ……ほら、たまに同僚に奢ってるだろ? あれの一環だよ」

 

 俺がそう言うと、ウララもライスも納得したように頷いた。そして笑顔で手を振って部室から出て行く。

 

 俺は窓の戸締りをチェックし、電化製品の電源も全て切ってあることを確認すると、部室から出て扉に鍵をかけた。仕事は何一つ残してないし、心置きなく飲みに行ける。

 

 俺はトレーナー用の共用スペースに顔を出すと、桐生院さんを探す。桐生院さんのことだから、仕事は全部片づけてるだろう。ハッピーミークに関してはここ数日軽いメニューにして疲労を抜くことを優先しているらしく、まだトレーニングをしているということもないはずだ。

 

「あっ、ど、どうも……」

 

 共用スペースで探していると、すぐに桐生院さんが駆け寄ってきた。普段通りの服装で白ワイシャツにフォーマルな袖なしの黒いベスト、黒いスラックスに黒いブーツと、きっちりした印象がある。

 

「お待たせしてすみません。それじゃあ行きましょうか」

「は、はい……」

 

 桐生院さんはどこかぎこちない様子だ。うーん……こんなことならやっぱり他の同期も誘うべきだったか? でも、数が多いと桐生院さんも話しにくいだろうし……。

 

 俺は桐生院さんと言葉を交わしつつ、のんびり歩いて商店街に向かう。ウララやライスとよく訪れる場所だが、飲み屋もあるため重宝しているのだ。安いし美味いし、なにより徒歩で行ける距離というのは高評価である。

 

「ハッピーミークの調子はどうですか?」

 

 俺は軽いジャブとしてハッピーミークに関して尋ねる。すると、桐生院さんは目に見えて落ち込んだ様子を見せた。

 

「無茶をさせていました……怪我はしていませんけど、練習メニューを軽いものにしてみたらここ最近の疲れが出てきてるみたいで……」

「あー……そりゃあいけませんね。過労は故障のもとですよ。でも、ギリギリのところでも踏み止まれたんです。これからは二度とないように注意すれば大丈夫ですよ」

 

 人間、失敗することは当然のようにある。ウマ娘の人生を預かる以上、してはいけない失敗も当然存在するが、しても取り返しがつく失敗なら……うん、ないほうが良いけど、どうしてもミスが出る部分はあるよな。

 

 俺はそんな話をしつつ、よく行く飲み屋へと桐生院さんを案内する。高級感はないが、俺としては非常に落ち着く庶民的な居酒屋である。飲みに行くと聞いてドレスコードが必要な場所を想像する桐生院さんには悪いが、これも人生経験だと思ってもらおう。

 

 店の扉を開けると、がやがやとした喧騒と香ばしい匂い、それとアルコールの匂いが混ざったような雑多な匂いがする。

 

「こんばんわー」

「お、キタルファの兄ちゃんか。予約通り奥の個室を空けてるぜ」

「あざーっす。注文は電話した通りおすすめを適当に。飲み物は生中2つ……っと、桐生院さんも生中で良かった? チューハイとか? ノンアルもあるけど」

 

 飲みに誘ったのは俺だが、飲めない人に酒を飲ませるとロクなことにならない。だからそう尋ねたものの、桐生院さんは妙に真剣な顔で俺を見た。

 

「……わたし、お酒飲んだこと、ありません」

「あー……じゃあウーロン茶とか……」

「い、いえ! これも勉強です! なまちゅう? でお願いします!」

「……無理はしないでくださいね? オヤジさん、そんなわけで生中2つで。あとウーロン茶を1つ」

 

 一口飲ませてみて、無理なようならジュースに切り替えさせよう。そんなことを考える俺に、店のオヤジさんが笑いながら声をかけてくる。

 

「あいよ。にしても兄ちゃん、今日はずいぶんな別嬪さんと来たじゃねえか。デートか?」

「たしかに別嬪さんですけど、デートじゃないですよ。というか、デートに誘うなら別の場所にしますって」

「がはははっ! そりゃそうだ! いつも飲みに来てくれる人達と一緒で同僚だろ? サービスしとくぜ」

「あざーっす。というわけで桐生院さん、こっちこっち」

 

 俺は桐生院さんを促し、奥の個室に向かう。座敷タイプの小部屋で、少人数での宴会に向いた部屋だ。靴を脱いで上がると、桐生院さんは俺の動きを真似したようにブーツを脱いで畳に上がる。

 

 そして数分も経たない内に小鉢や刺身、枝豆といったすぐにつつけるものと、ビールとウーロン茶が運ばれてきた。ただし、桐生院さんは未知の出来事に遭遇したように固まっている。

 

「それじゃあ乾杯しましょうか。あ、でも一口飲んで無理そうなら飲まないでくださいね? というかまず、ビールの匂いを嗅いでください。飲めそうですか?」

「は、はい……不思議な香りですね。これがアルコール……わ、悪いことをしている気分です」

 

 何故か感激したような顔になる桐生院さん。しかし、それを聞いた俺は思わず顔を引きつらせる。

 

「桐生院さん、成人してましたよね?」

「? はい。だからお酒を飲んでも大丈夫ですよ」

 

 そういう意味で聞いたんじゃないけど、ツッコむのも野暮だろう。俺は桐生院さんとビールジョッキを軽く打ち合わせて乾杯すると、早速ビールを飲み始めた。すると、桐生院さんは俺が飲む姿を真似るようにしてビールを口に運ぶ。

 

「……飲めます? 大丈夫ですか?」

 

 酒に弱い人は、酒飲みが見るとビックリするぐらい本当に酒に弱い。中にはビールを一口どころか、アルコールの匂いでさえ駄目という人もいるのだ。

 

 ちなみに俺は割とイケる口である。ザルとかワクとか言えるほどではないが、飲むペースを守れば酔わない程度には飲める。

 

 桐生院さんはといえば、初めて飲んだというビールの味に困惑している。

 

「ちょっと苦いですね……美味しいとまでは思いませんけど、麦の風味が……独特な味です」

「初めてビール飲んで麦の風味がわかるんですね……」

 

 やっぱり良いところのお嬢さんなんだろう。多分、味覚が鋭い。でもここで酒飲みの才能ありますよ、とか言ったら褒めてるのか貶してるのかもわからんし、桐生院さんがお酒にハマったりしたら怖い。

 

「酒を飲むのが初めてなら、少しずつ飲むようにしてくださいね。あと、ウーロン茶も飲んで水分も取ってください。慣れてない人が酒ばっかり飲むと危ないですからね。それと最初にビール飲んじゃいましたけど、本当は空きっ腹で酒飲むと酔いが回っちゃうんで、酔いたくないなら何か食べてから飲むといいですよ」

「は、はい……」

 

 桐生院さんはビールジョッキをテーブルに置くと、ウーロン茶を一口飲む。素直な人だなぁ、と思いつつ、俺は苦笑した。

 

「あと、少しずつでいいんで、愚痴を聞かせてくださいよ。酒を飲むみたいにゆっくり、少しずつでいいんで。ご飯もゆっくり食べましょう。時間はたくさんありますからね」

 

 こういうのって上司とかの役割だと思うんだけど、トレセン学園に所属しているトレーナーの人数的に、上の人が一人ひとり飲みに誘って、なんてのは難しい。だから同僚誘って愚痴を吐き出しあったり、文句を吐き出すのも社会人には必要なことなのだ。

 

 こうして同僚の面倒を見ている余裕があるのかと聞かれると、ぶっちゃけ微妙である。たづなさんのおかげで業務も滞りなく回るようになったし、ウララとライスの育成も軌道に乗っているが、やるべきことはたくさんあるのだ。

 

 ただ、潰れそうな人を見ると放っておけなく感じる。それは多分、ウララを育成する中で、()()()()()()()()()()()を見たからだ。トレーナーとウマ娘という違いはあるが、そんな人を放っておけないのは性分なのかもしれない。

 

 こうして、俺と桐生院さんの飲み会は始まったのだった。

 

 

 

 

 

 料理をつまみつつ、酒をちびちび飲みつつ、桐生院さんの話を聞きつつ。

 

 そんな感じでじっくり時間をかけて話を聞いたわけだが、桐生院さんも中々に大変な立場にあるらしい。

 

 桐生院家がトレーナーの名門というのは何度も聞いた話だが、名門は名門なりにプレッシャーがあるようだ。

 

 そういやトレセン学園に配属された直後だと、同期の連中も桐生院さんは遠巻きにしてたっけか。俺はトレーナーの家系出身じゃないから、名門の桐生院さんがどんだけ近寄りがたいのかいまいちわからん。

 

 話を聞くと、年末年始に帰省した際、実家から色々と文句を言われたらしい。

 

 担当をハッピーミーク一人に絞っていること。

 

 ハッピーミークをクラシック路線につながる朝日杯フューチュリティステークスではなく、阪神ジュベナイルフィリーズに出したこと。

 

 同期の中には担当しているウマ娘を有記念で勝たせたトレーナーがいるのに、ハッピーミークだけに育成を絞ってクラシック級のウマ娘をスカウトしてこなかったこと、などなど。

 

 というか、最後のは俺の話だった。マジかよ、名門の桐生院家に目をつけられてるの? あと、有記念はライスのそれまでの頑張りがなければ勝てなかったんだが。

 

 俺は焼き塩を舐めながら日本酒を飲んで話を聞いてたが、桐生院さんは俺が酒を飲むところを見て力なく笑う。

 

「あなたは落ち着いてて、すごいですよね……ハルウララさんもライスシャワーさんもあんなに強くなって……トレーナーとしてもすごいですし……」

「これ落ち着いてるんじゃなくて、好みの酒の飲み方ってだけなんですけど……あとウララとライスを褒めてくれてありがとうございます」

「今日もそうです……わたし、こうやって他の人を誘ってご飯を食べに行ったり、お酒を飲んだりなんてできなくて……」

 

 そう言いつつ、桐生院さんは追加で頼んだカシスオレンジを飲む。

 

「というか、ティアラ路線じゃなくてクラシック三冠狙いになったのって実家の影響だったんですね。おかしいな、とは思ってたんですが」

「はい……わたしとしては、クラシック三冠よりティアラ路線の方がミークに合ってると思っていたんです。ですが、実家はそれはただの逃げだと……強敵が集まるクラシック三冠を獲ってこそ、トレーナーとしても大成できると……」

 

 桐生院さんは暗い顔をしながら俯いてしまう。ふむ……愚痴を吐かせるだけでいいかと思ったけど、こりゃだいぶアカンわ。

 

「いきなり予定を変更してクラシック三冠を狙うって話になって、ハッピーミークは何も言わなかったんですか?」

「ミークは……わたしを信じているから、とだけ……」

「それなら、一番ハッピーミークのためになるって思える方法を取るべきだったのでは?」

 

 担当のウマ娘が信じてくれているのなら、それに応えるのがトレーナーだろう。ただし、『信じている』という言葉だけで相手に託すのは、それはそれで信頼という名の無責任な押し付けにも思えるが。

 

 俺も偉そうなことは言えないが、ウララとライスに必要と思えるトレーニングを施して、なおかつ何度も意見を交わした上で二人を信じている。やるべきことをやった上で信じるのなら、まあ、悪いことではないと思う。

 

「父も母もトレーナーでしたから……わたしなんかより経験豊富で、色んなウマ娘を育ててきました……だからきっと、正しいのは両親で……」

「いや、たしかにトレーナーとしての知識や経験は上でしょうけど、ウマ娘一人ひとりに合った育成法が必要になるからアテにはならんでしょう? 統一したやり方でどうにかなるのなら、俺はウララとライスの育成で悩みませんって」

 

 というか、統一した育成法でウマ娘がきちんと育つのなら、トレーナーって仕事はいらねってこれ前も何か同じこと考えた気がする。

 

 ただ愚痴を聞くだけだとあまり効果がないように思えた俺は、適宜反論を挟みながら桐生院さんの気持ちを吐き出させていく。しかし、思ったよりも根深い……いや、根深いというより膨大な愚痴が桐生院さんの口から次々と零れていく。

 

「ミークは、あの子は本当にすごい子なんです……短距離から長距離まで走れるし、才能は同世代の中でもトップクラスだと思っています……でもわたしが……わたしが駄目なトレーナーだから、あの子の才能を伸ばしてあげられなくて……」

 

 そう言いながら唇を引き結び、ぽろぽろと涙をこぼす桐生院さん。

 

 ――担当ウマ娘の才能を伸ばしてやれない。

 

 それは、トレーナーにとって最も歯痒いことだろう。俺もウララやライスの育成に関して、本当にこれで正しいのか、もっと良い方法があるのではないか、と思うことがある。

 

 今でこそそこまで気にしなくなったが、去年の夏頃はどうやってウララを勝たせれば良いのか、どうすれば勝ちたいと思ってくれるのか、毎日のように頭を悩ませていた。

 

 だから桐生院さんの気持ちが全てわかる――とまでは言わないが、ある程度想像することはできる。慰めようと思えば慰めることもできる、のだが。

 

「俺もまだ二年目の新米なんで偉そうなことは言えないですけど……俺たちみたいな新米トレーナーでも、担当するウマ娘の人生背負ってるわけですよね? 実家の両親がこう言ったから、なんて理由で担当してる子の人生ねじ曲げるのってどうなんですかね?」

「っ……そ、それは……」

 

 俺の言葉を聞いた桐生院さんが、愕然とした面持ちになる。トレーナーの名門出身だし、その辺は俺よりもしっかりと心構えがあると思ったのだが。

 

 これまでの桐生院さんとハッピーミークの様子を見た限り、二人の間にはそれなりに信頼関係があるのだと思う。

 桐生院さんはハッピーミークのことを熱心に考え、何かあればハッピーミークの育成に役立てないかと検討する性格だ。ハッピーミークは少し読めないところがあるが、そんな桐生院さんのことを信じて慕っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をしてしまうぐらい、桐生院さんにとって実家は重いのか。

 

 そこまで考えた俺は、思わず苦笑してしまう。するとそんな俺の表情をどう思ったのか、桐生院さんは訝しげな顔をした。

 

「酒の席ってことで、この場限りで忘れてほしいんですが……ぶっちゃけね、俺も桐生院さんにこんなことを言える立場じゃないんですよ。俺がトレセン学園に入った頃は、今、自分で言ったことも理解してないクソガキで……まあ、酷いもんでした」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。ウマ娘の人生背負ってるって頭じゃわかっていても、それを本当の意味で理解しちゃいなかったんです。ウララを育成するうちに気付けた……いや、あの子が()()()()()()()()けど、俺は桐生院さんが言うようなすごい人間じゃないんですよね」

 

 そう言ってお猪口に注いだ日本酒を一息に飲み干す。

 

「まだトレーナーになって一年ちょっとですけど、何度も失敗して、何度も遠回りして、その度にウララやライスに気付かされて……桐生院さんみたいな立場に生まれた人間じゃないんで偉そうなことは言えないんですが……いや、違うな」

 

 そこまで喋った俺は、ふと、考えを改める。どうせここまで話したんだ。桐生院さんに愚痴を吐かせるのもそうだが、俺も言いたいことを言おう。

 

「やっぱり偉そうなことを言わせてもらいましょうか……桐生院さん、あなたにとって実家や両親の教えって、ハッピーミークより大切にしなきゃいけないものなんですか?」

 

 少なくとも、俺にとってウララやライス以上に大切なものはない。育成方針に関しても、東条さんにへこまされたけど()()()()()()()()()()はそのままポイだ。俺なりに噛み砕いて、ウララとライスのためになるよう改良している真っ最中である。

 

 そんな俺の言葉をどう思ったのか、桐生院さんは目を見開いて硬直した。

 

「そ、んな……でも、それじゃあ……わたしがミークにしてきたことって……」

 

 ブツブツと呟く桐生院さん。そんな桐生院さんの様子に、俺は再び苦笑してしまう。

 

「で、俺みたいな他人が言ったことをそのまま真に受けるのも駄目ですからね。俺もチームリギルの東条さんからありがたいお説教をもらって迷走しちゃいましたし、他人の言うことは話半分に聞くか、使えそうな部分だけ使う方がいいですよ」

 

 そう言って、俺は笑う。

 

「まずはハッピーミークとしっかり話し合うことですね。あの子の希望とあなたの希望、その両方を洗い出して、今後の目標をしっかり決めましょう。そうすればこれからどうすればいいのか、きっと見えてきますよ」

「はい……」

「なあに、酒の席でのことです。桐生院さんがどれだけ愚痴を吐いても酒が忘れさせてくれます。好きなだけ吐き出して良いんですからね。そして、好きなだけ吐き出して少しでもすっきりしたら、明日からまた頑張りましょう」

 

 俺なんかの言葉で、少しでも良い方向に進んでくれれば幸いだ。そう思った俺は、涙を流す桐生院さんをただ静かに眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 そして俺は、やらかした。

 

 飲んで食べて盛大に愚痴を吐く桐生院さんを慰めていたのだが、ちょっと飲みすぎじゃないかな? と思った時は遅かった。

 

「うぅ……みーくぅ……ごめん、ごめんねぇ……」

 

 泣き上戸、というわけではない。桐生院さんは追加で頼んだチューハイを飲みながら、ぐすぐすと鼻を鳴らして泣き続けていた。そして、顔を真っ赤にしていた。どう見ても飲みすぎですわコレ。

 

 時計を見ると、既に午後十一時過ぎ。愚痴を聞き続けて四時間以上経ったが、桐生院さんの様子を見る限り、限界が近い。というか愚痴の内容が何度かループしているため、多分、抱えていたものは粗方吐き出したはず。ついでにいうと、このままだと胃の中身まで吐き出しそうだ。

 

「桐生院さん? そろそろお開きにしましょうか。てか意識あります?」

「ごめんねぇ、みーくぅ……」

「ああ……駄目だこりゃ……」

 

 寝ているのか起きているのか。俺は酒を飲もうとする桐生院さんの手を掴んで止めると、軽く体を揺する。しかし反応は微妙だ。

 

「桐生院さん、立てますか?」

「えぇ……立てましゅ……」

 

 俺は桐生院さんを立たせようとしたが、どうにも足元が覚束ない。どう見ても酔っ払ってますねこれは。

 

 俺はスマホを取り出し、チャットアプリを起動して女性の同僚へ助けを求めるメッセージを送ることにした。

 

『桐生院さんが酔い潰れた。助けて』

『今、彼氏と一緒にいるんだけど? 良いムードなんだけど?』

『ごめんなさい。なんでもないです』

 

 そしてすぐに白旗を揚げた。用事があるとは思ったが、彼氏とのデートの最中だったらしい。今度会ったら殴られるかもしれんね。でも律儀にすぐさま返信くれて感謝である。他の面子にもメッセージを送ってみるが……時間が時間だけに返事がない。

 

 たづなさんに助けを求めて……いや、さすがに時間が遅すぎる。桐生院さん酔い潰しちゃったんで助けてください、なんて言えねえ……。

 

「桐生院さん? 家まで帰れますか?」

「んぅ……ミークぅ……ごめんねぇ……だめなとれーなーで、ごめんねぇ……」

 

 あかん、家に帰るどころじゃない。タクシーを呼んでも自宅に帰ることも無理そうだ。放っておけばその辺の路上で眠りそうである。自宅まで送って、なんとか鍵を開けてもらえば……でも酔い潰れた人を放置すると、冗談抜きで死ぬ可能性がある。

 

「酒を飲んで愚痴を吐いたと思ったら、そのまま中身まで吐きそうだなハッハッハ……はぁ……」

 

 さすがにこのまま放置して帰るわけにもいかない。介抱しようにも、この店の閉店時刻が迫っている。

 

「しゃあねえ……連れて帰るか……」

 

 俺はタクシーを呼んでから会計を済ませると、桐生院さんを介抱しながらタクシーが来るまで待つ。そして10分ほどしてタクシーが到着すると、桐生院さんに肩を貸しながら乗り込み、俺の家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「桐生院さん、鍵を開けるんで少しだけ自分で立って……ああもう、無理か。ごめんな、ちょっと我慢してくれよ」

「うん……」

 

 俺が借りているアパートに到着したものの、桐生院さんは自分の足で立てないほどに泥酔している。そのため謝りつつ抱き寄せる形で支えると、ポケットから鍵を取り出して自宅の扉を開けた。

 

 これ、近所の人に見られたら誤解されそうだよなぁ、なんて思いながら桐生院さんを自宅へと連れ込む。

 

 俺が借りているアパートは、トレセン学園にほど近い1DKの物件だ。扉を開けたら玄関兼4畳半ほどのダイニングキッチンがあり、8畳ほどの部屋と風呂、トイレにつながっている。

 

 自宅に帰ってもウマ娘のレース映像の研究などしかしていないため、8畳間も割と殺風景な部屋だ。テレビとベッド、タンスとスーツラック、それと絨毯を敷いた上に設置したこたつぐらいしかない。

 

 こたつの上にはノートパソコンやWifiのモデムなども置いているが、これはどちらかというと仕事用である。あと、色々殴り書きしたノートや、たづなさんに許可をもらって持ち帰ったライバルウマ娘の資料などもバインダーにまとめて置いてあった。

 

「ほら、ベッドですよ……桐生院さん、横になれますか?」

「んん……」

 

 俺が声をかけつつベッドに横になるよう促すが、桐生院さんからの反応が乏しい。そのため肩を貸していた桐生院さんの体勢を崩させると、横抱きにかかえてベッドへと寝かせた。

 

(ふぅ……意識はあるみたいだけど、大丈夫かな? えーっと、飲み過ぎの薬は……)

 

 俺は冷蔵庫を漁り、液体タイプの薬を取り出す。年末年始に同僚達と飲み会をした時に買ったものだが、消費期限はまだまだあるため使えるだろう。だが、桐生院さんの様子を見る限り、薬を飲めるようには思えない。

 

 とりあえずコップにミネラルウォーターを注ぎ、ついでにストローも準備すると、ベッドで横になる桐生院さんに声をかける。

 

「桐生院さん、水を飲めますか?」

「もう……のめま、しぇん……」

「酒じゃないから飲んで大丈夫ですよ……無理か」

 

 桐生院さんを抱き起こして水を飲ませようとするが、まったく飲もうとしない。

 

 それでもさすがにスーツ姿で横になるのは寝苦しいのか、桐生院さんはもぞもぞと動いたかと思うと黒のベストを脱ぎ、更に下のシャツも第一ボタンを外した。そしてそのまま第二ボタンから下まで外しそうだったため、ため息を吐きながら止める。

 

「年頃の娘がはしたない……って、家に連れてきた俺が言えるセリフじゃないか」

 

 泥酔した同僚の女性を自宅に連れ込み、ベッドに寝かせているというこの状況……明日が怖い。だが、今の俺にはやるべきことがある。酔っ払った可愛らしい女性が俺のベッドで寝転がっているのだ。男ならやるべきことは一つだろう?

 

 ――そう、看病だ。

 

 俺は風呂場から洗面器を持ってくると、二重にしたビニール袋をかぶせる。

 

 泥酔してしまった人間が寝ている場合、特に気を付けるべきことがある。汚い話だが、それは寝ゲロだ。色気もくそもないが、死亡事故が起きかねないほどの危険な事態である。

 

 桐生院さんが落ち着くまでは付きっ切りで見ておくしかない。それがあるため、桐生院さんを自宅へ連れて行ってはいサヨナラ、とはいかなかったのだ。

 

 いやもう、同僚とはいえ男の前で前後不覚に陥って自宅に連れこまれた時点で桐生院さんはスリーアウトな感じだが、俺としては手を出すつもりなどないためセーフ? である。しかし、吐瀉物が喉に詰まって死ぬ危険性は無視できない。そうなったらアウトである。

 

 酒を飲み過ぎると急性アルコール中毒を疑う必要もあるが、桐生院さんの場合飲んだ量はそれほど多くなかったし、単純にアルコールに慣れていないのが原因だろう。顔を真っ赤にして眠っているが、苦しそうな様子はない。それでも容態が急変する可能性もあるため、落ち着くまでは俺も眠れそうにない。

 

「やれやれ……」

 

 俺は桐生院さんのすぐ傍に腰を下ろすと、顔にかかっている黒髪を軽く払う。アルコールによって顔を赤くし、へにゃりと表情を崩したまま眠る桐生院さんは普段よりも幼く見える。だが、ストレスを相当溜め込んでいたのだろう。酒の力で吐き出させたが、これで少しでも持ち直してくれるといいが。

 

 俺は掛け布団を持ち上げると、優しく桐生院さんの体にかけていく。するとそれに気付いたのか、桐生院さんが俺の腕を掴んで胸元に抱き寄せて幸せそうに笑う。

 

「んふふ……」

「あーあー、ほら、いい子だから離しなさいって。俺の腕を抱き枕にしても寝心地なんて良くないだろうに。そうそう、よし、いい子だ……」

 

 年頃の娘さんがそんなことするもんじゃないよ、まったく。無防備すぎてこの子の将来が不安になるわ。トレーナーの名門だかなんだか知らないが、ちょっと箱入りに育てすぎではなかろうか?

 

「んー……みず……」

「え? 飲める? よしよし、それなら体を起こして……ほら、ストローでチューっと……」

 

 俺は桐生院さんを抱き起こし、口元にストローを近付ける。すると何を思ったのか、俺の方に顔を寄せてきた。

 

「んぅ……チュウ……」

「はいはい、チュウをするのはストローの方だからなー。そうそう、よく飲めました、と」

 

 俺が水を飲ませてなだめるように背中を叩くと安心したのか、桐生院さんの体から力が抜けた。布団をかぶせた胸元に視線を向けてみると、呼吸に合わせて定期的に上下している。寝息も安定しているため、本格的に寝入ったのかもしれない。

 

 俺はとりあえず桐生院さんが脱いだベストを丁寧にたたむと、もうしばらく様子を確認しておこうと考えてこたつに足を入れる。酒が入って少々眠いが、起きたら大惨事になっていた、なんてことがあったら目も当てられない。

 

「さーて、スマートファルコンのこの前のレース映像は、っと……」

 

 俺はノートパソコンを立ち上げると、時間を潰すためにもウララやライスのライバルウマ娘達の研究に着手するのだった。

 

 

 

 

 

 そして、翌朝のことである。

 

 ベッドに寝かせた桐生院さんの顔色も良くなってこれなら大丈夫と判断して軽く仮眠を取った俺は、台所に立って朝食の準備をしていた。

 

 今日は土曜で休日のため、午前中からウララとライスのトレーニングがあるのだ。朝からしっかり食べておかなければなるまい。時刻は午前七時過ぎと、普段の休日と比べれば早起きしたけどこれは仕方ない。桐生院さんがいるからね。

 

 朝食と言ってもトーストとベーコンエッグとサラダとコーヒーなんて、和食派の人間が見たらラリアットかましてきそうなラインナップだ。でも簡単に作れるから仕方ないね。

 

「んぅ……ふぁああ……っ!? ええっ!? ここどこ!? わ、わたし……ええええっ!? き、昨日の夜、いったい何が!? え? な、なんで? どうして!?」

 

 すると、桐生院さんが起きたのかパニクったような声が上がった。それを聞いた俺は起こす手間が省けたなぁ、なんて思いながら顔を覗かせる。

 

「おはようございます、桐生院さん」

「えええええええぇっ!? お、おはよう……ございます?」

 

 俺が挨拶をすると、桐生院さんはあたふたとしながら掛け布団を胸元に引き寄せる。

 

 寝ている間に結局シャツのボタンを外してしまったのか、第二ボタンまで開いた胸元が艶めかしい。というか、寝苦しかったのかズボンのボタンも外してたっぽい。はしたないですわよ? なんて俺の中のキングちゃんがコメントを零した。

 

「体調はどうですか? 朝食は入りそうですか?」

「体調……? あ、あれ? 少し気持ち悪い……ような……あと、頭がちょっと痛む……ような?」

 

 桐生院さんは掛け布団の中で身だしなみを整えていたが、俺からの質問に困惑したように答える。

 

「軽い二日酔いでしょうね。薬がありますけど、食後に飲むタイプなんでまずは食事にしましょう。ああ、洗面台の場所わかります? タオルも用意してあるんで、顔を洗ったらさっぱりしますよ」

「は、はあ……」

 

 俺が平然としているからか、桐生院さんも多少は落ち着きを取り戻したらしい。俺の言う通り洗面所で顔を洗うと、顔を赤くしながら尋ねてくる。

 

「あの……昨晩の記憶があんまりないんですけど……な、何か、ありました?」

「ああ……酔っ払うと記憶に残らないタイプですか。俺はしっかりと残るタイプなんですよねぇ。何かあったかと言われると……」

 

 寝ゲロはしませんでしたよ、なんて伝えるのはさすがにデリカシーがない。そのため俺は言葉を探したものの、結局はシンプルな答えになってしまう。

 

「何もなかったですよ。酔い潰れちゃったんで介抱したぐらいです」

「ほ、本当に?」

「ええ。ウララとライスに誓います」

 

 介抱のためとはいえ、酔い潰れた同僚の女性を自宅に連れ込んだ、なんて時点でギルティかもしれんけど……とりあえずトレーナーが続けられなくなるような真似は断固としてやっていない。だからそんなに顔を赤くしながらもじもじされても困るのです。

 

「で、どうですか?」

「えっ!? な、何がですか?」

「少しは抱えてるもの吐き出せて、すっきりしましたか?」

 

 俺がそう尋ねると、桐生院さんは驚いたように自分の胸に手を当てる。そして数十秒ほど沈黙したかと思うと、花がほころぶようにして微笑んだ。

 

「――不思議なほど、気分が軽くなりました」

「そりゃよかった。ストレスも愚痴も、溜め込んでも良いことはないですからね」

 

 それなら骨を折った甲斐があったってもんである。あと、溺れるとやばいことになるけど、アルコールも適度に頼れば力になってくれる。さすがは古来からの人類の友だ。頼り過ぎると手酷く裏切られるけどな。

 

「それじゃあ朝食を食べたら薬を飲んでください。少し早い時間なんで、トレセン学園に行くにしても自宅に一度帰って準備した方がいいでしょうしね」

 

 桐生院さんの自宅がどこにあるのかは知らないが、一度帰ってシャワーを浴びるぐらいの余裕はあるだろう。着替えて身だしなみを整える時間もあると思う。

 

 そう話して俺が朝食を準備していると、不意に桐生院さんが近付いてくる気配があった。そして服の袖を引っ張られたため何事かと視線を向けると、そこには頬を桜色に染めて上目遣いに見てくる桐生院さんの顔があった。

 

「あ、あの……もし、また落ちこんじゃったら……昨日みたいにお話を聞いてくれますか?」

「ええ、もちろんです。忙しくない時期なら問題ないですよ。あ、でも……」

 

 そこまで言って、俺はちょっとだけどう伝えたものか迷った。しかし、桐生院さんの顔を見て思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

「俺が止めるのが遅かったってのもあるけど、次は酔い潰れないよう飲む量をセーブすること。俺と飲んでる時は酔い潰れても介抱するけど、あんまり隙が多いと悪い男に誑かされるからな?」

 

 その辺、本当に心配になる。そう思って俺が敢えて口調を崩して軽口を叩くように注意を促すと、桐生院さんは顔を赤くしたままで俯いてしまった。

 

「は、はい……」

 

 そして小声で呟きながら俺の服の袖を引っ張ってくる。可愛らしいけど、瞳を潤ませながらそういう仕草をするのは危ないと俺は思う。

 

 そのあと俺は桐生院さんと一緒に食事をすると、玄関で見送ってから今日の仕事の準備に取り掛かった。

 

 本当は自宅からジャージ姿で行きたいが、一応、チームを設立する身になってからは普段の身だしなみにも注意するようたづなさんからも言われている。

 

 この前の乙名史さんみたいに前もってアポイントを取ってインタビューしてくることもあれば、トレセン学園周辺で待ち伏せしていた記者に突撃インタビューを受けることもあるからだ。

 

 シャワーを浴びたし、ひげも剃ったから問題なし。ウララとライスのトレーニングの時に着るジャージもOK。あとはカッターシャツやズボンは新しいものを着て……背広は昨日のやつでいいか。

 

 準備を整えた俺は、普段通り出勤した。そして普段通り部室に顔を出し、土曜ということで既に部室に来ていたウララとライスに挨拶をした、のだが。

 

「あ、おはよー! トレーナー!」

「おはよう、お兄さま……?」

 

 笑顔で挨拶を返してくれるウララとライス。しかしウララはともかく、ライスは俺の傍に近付いてくると何故か俺の周りをグルグルと回り出す。

 

「…………」

 

 無言で俺の周りを移動し続けるライスに、俺は首を傾げた。なんか鼻がぴくぴく動いてるけど、なに? なんなの?

 

「むぅ……お兄さま、昨日の飲み会は誰と一緒だったの?」

「桐生院さんだけど? あ、もしかして食べ物とか酒の匂いが残ってるか?」

 

 俺は背広の袖口を鼻に寄せて匂いを嗅いでみる。うーん……焼き肉みたいにしっかりと匂いがついてるわけじゃないけど、ソースっぽい香りがするような、しないような……。

 

 そしてその日、何故かライスはずっと不機嫌だった。

 

 

 




前回の更新でいただいた感想で気になった部分など。

Q.アプリだと来年になるとライスは引退する時期だけど、ウマ娘時空で考えると引退しなくてもいいのでは?
A.言葉足りずでした。あくまで引退を考える時期であって、ライスが望むならメジロマックイーンみたいに春の天皇賞3連覇狙ったり、チームキタルファにずっと居座ったりも可能という感じです。ただ、トレーナーは自分が育てているウマ娘が引退するということが頭からすっぽ抜けていました。

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