リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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いただいた感想で気付いたのですが、推薦というものを2件いただいていました。
ジョンドゥ2さん、レクハナさん、ありがとうございます。
マイページでお知らせがあるわけでもなかったので、そういった項目があることに気付いていませんでした……。


第42話:新人トレーナー、思い立つ

 桐生院さんと飲みに行き、三日の時が過ぎた。ゴールデンウィーク目前で、ウララを出走させるならば青竜ステークスの申し込みをするか決めなければいけない時期である。

 

 その間に俺がやったことといえば、これまで通りウララとライスの育成だ……いや、嘘である。これまで通りとはいかない部分があったことを、俺は否定できない。

 

 何故か急降下したライスの機嫌をなおすという、これまでにないミッションが加わっていたのだ。

 

 ただし、既にミッションはコンプリート済みである。ライスは普段通り上機嫌になった。だが、その代償として何故かライスに貸していた俺の上着が犠牲になってしまった。尊い犠牲が発生してしまったのだ。

 

 以前のようにウララと一緒に胴上げワッショイしたり、頭を撫でたり、ライスの希望でお姫様だっこしたり、様々な方法で打開しようとしたが失敗。結局は機嫌を取ろうと何か欲しいものがあるか、と直截な手段に訴え出たところ、俺が貸していた上着を所望されたのである。

 

 たしかにライスが羽織る分には雨合羽みたいな使い方もできるだろうが、もうちょっと女の子らしいデザインの服の方がいいだろうに。『同じようなデザインの服が見つからなかった』とライスは言うが、案外男性向けのデザインの方が好みなのだろうか?

 

 最近は暖かくなってきたし、上着は必須とも言えないから別に構わないのだが……今度可愛らしい服でも買ってプレゼントした方がいいだろうか、なんて思った俺である。もちろん、ライスにプレゼントする際は、ウララの分も買わねばなるまい。平等にしないと今度はウララが拗ねるからね、仕方ないね。

 

 そんなこんなでちょっとしたイレギュラーはあったものの、俺は普段通りウララとライスの育成をしていた――のだが。

 

(ウララの収得賞金が未勝利戦で400万、端午ステークスで1000万の合計1400万……ユニコーンステークスは出走条件がないからまだいいとして、7月前半のプロキオンステークスに出すならあと100万は欲しい……)

 

 ウララの今後の出走に関して、俺は部室で頭を悩ませる。

 

 重賞なら本賞金の半額が収得賞金になるが、ウララが勝った端午ステークスはオープン戦である。本賞金の半額ではなく1000万が収得賞金として加算されるが、GⅢのプロキオンステークスには一応、1500万という収得賞金の壁があった。

 

 プロキオンステークスはシニア級も出走できるレースのため、今のところ直近の本命がユニコーンステークスであることに変わりはない。だが、選択肢は多ければ多いほど良いのだ。

 

 勝負服を着てGⅠレースに出て、勝利してウイニングライブで踊ってみたいと願うウララの目標を叶えるには、様々な方法を検討する必要がある。

 

(賞金が高い芝のレースに殴り込み……魔境過ぎてどうにもならんな)

 

 オープン戦レベルだろうと、オグリキャップやスペシャルウィーク、キングちゃんといった面々とぶつかる可能性があるのだ。育成を始めた当初と比べれば芝のコースも走れるようになっているが、今のウララでは厳しいだろう。

 

 そうなると、やはり目前に迫った青竜ステークスか、一度飛ばして5月後半の鳳雛ステークスか。

 

 ユニコーンステークスは東京レース場の1600メートルで、青竜ステークスも同じレース場かつ同じ距離だ。ユニコーンステークスでウララの勝率を上げようと思えば、青竜ステークスに出すべきだと思う。

 

(でも、高い確率でスマートファルコンが出てくるよな……)

 

 俺が懸念しているのは、スマートファルコンの存在だ。オグリキャップなどは日本ダービーが控えている以上、わざわざダート路線に顔を出すことはないだろう。しかし、スマートファルコンだけは違う。あの子だけはダートが主戦場のため、ウララとぶつかる可能性が高いのだ。

 

 ウララなら勝てる、と断言したいところだが、スマートファルコンの走りを見るとトレーナーとしての理性が待ったをかける。ウララはレコード勝ちを2回記録しているが、それはスマートファルコンも同じだ。

 

 以前は昇竜ステークスでの借りを返せると意気込んだものの、今のウララでもスマートファルコンが相手となると五分五分――とまではいかない。

 

 俺の贔屓目抜きで、冷静に能力を比較した場合、ウララが勝ちを拾えるのは3回に1回程度だろう。他に出走してくるウマ娘の面子によっては、更に勝率が下がるか。

 

 まさかスマートファルコン本人に、『青竜ステークスに出てくる?』なんて聞くわけにもいかない。友人同士の会話でぽろっと聞いてしまったり、相手が『このレースに出る!』と宣言しているなら話は別だが、トレーナーから探りを入れるのは御法度だ。

 

 ウララから聞かせるという手もあるが、そんな真似はさせたくない。

 

(問題は、スマートファルコンが逃げウマ娘ってことなんだよな……一応対策というか、勝ち筋はあるんだが……)

 

 俺がスマートファルコン相手だとウララの方が分が悪いと考えているのは、能力だけでなく戦法の違いが大きい。スマートファルコンの逃げ足で最初から最後まで逃げられると、いくらウララでも差し切れない可能性が高いのだ。

 

 かといってスタート直後に逃げを封じようにも、下手な方法だと進路妨害で降着になる。そもそもスマートファルコンはスタートがウララより上手だし、ウララは逃げウマ娘が逃げられないよう駆け引きをするなんてことはできない。

 

 そのためウララにある勝ち筋が何かというと、ライスの存在だ。

 

 1着を獲るであろうウマ娘をマークし、最後に差し切るという戦法。ウララはそれを、普段の練習からライスという絶好の先生から自然と学んでいるのだ。

 

 ただし、スマートファルコンのような逃げウマ娘を最初からマークするとなると、ウララ自身逃げウマ娘のような走り方になってしまう。加えて、スマートファルコンならばマークしてくるウララをわざとハイペースなレースに巻き込み、ガス欠を狙うこともできるだろう。

 

 いくらライスの戦法をウララが模倣できたとしても、根本的なスペックで劣れば戦法も劣化せざるを得ない。最強のステイヤーであるライスだからこそ、どんな相手でもマークできるという側面があった。

 

 つまり、今のウララではスマートファルコンに対抗する手段が乏しいわけだが――。

 

(でも、逃げても始まらねえ……いつかは当たり、倒さにゃならん相手だ。それが早く来たってだけの話だ)

 

 青竜ステークスを回避して鳳雛ステークスに出し、ユニコーンステークスでスマートファルコンとぶつからせるというのもアリだろう。だが、鳳雛ステークスは1800メートルと、青竜ステークスと比べて200メートル長い。

 

 それならばやはり、青竜ステークスにウララを出そうと俺は思った。もちろんウララの意思も確認するが、ユニコーンステークスの前哨戦になるというのも大きい。

 

 青竜ステークスで勝って、ユニコーンステークスでも勝つ。そのために俺はウララを鍛えているのだ。負けさせるためでは断じてない。

 

 そんなことを考えていた俺は、ふと、気付くことがあった。

 

(……あれ? 青竜ステークスで勝ってユニコーンステークスでも勝てたら……収得賞金が4000万超えるな……あれ? その場合、7月前半のジャパンダートダービーも確実に出走できる……よな?)

 

 というか、ユニコーンステークスはGⅠレースであるジャパンダートダービーの前哨戦である。クラシック級限定のため、仮にユニコーンステークスで負けたとしてもウララの収得賞金ならば出走も可能だろう。

 

 問題は距離が2000メートルと、ウララにとっては少々厳しい距離だということか。ライスとのトレーニングの甲斐もあって2000メートルならばギリギリイケるだろうが本当にギリギリである。

 

 もちろん、全ては捕らぬ狸の皮算用だ。ウララが青竜ステークスで負け、ユニコーンステークスでも負ける可能性もある。それでも出ようと思えばジャパンダートダービーに出られるだろう。

 

(……ウララの勝負服、作るか)

 

 直近の目標をユニコーンステークスに定めていたが、GⅠという大舞台にウララを送り出せる機会があるのだ。

 

 中距離レースのため入着すら困難かもしれないが、後々のことを思えば早い段階でGⅠの舞台を体験させておくのも悪くないだろう。

 

 仮に青竜ステークスやユニコーンステークスで好成績を収めていた場合、ジャパンダートダービーで着外になるとチームキタルファ設立から続いていた入着率100パーセントという記録も途切れるだろうが、そんなものはどうでも良い。ウララの成長の方が大切だ。

 

 ただ、ユニコーンステークスは6月後半でジャパンダートダービーは7月前半と少々過密スケジュールになるため、ウララの調子次第では回避するが。

 

(でも……うん、勝負服は作っとこう。そうすればウララのモチベーションも更に上がるだろうしな)

 

 俺はそう結論付けて、ウララとライスが部室に顔を出すまでひとまずは割り振られた仕事を片っ端から片付けていくのだった。

 

 

 

 

 

「えっ!? 勝負服!? 作っていいのー!?」

 

 そして、部室に顔を出したウララに話を伝えると、そりゃあもう大喜びだった。

 

 当分先になると思っていた勝負服の作成が、かなり早まるかもしれないとわかったのだ。ウララは頭部の耳をぴくぴくと動かし、尻尾をぶんぶん振りながら俺の服を引っ張る。うむ、今日もうちのウララは可愛い。

 

「ほんと!? ねえトレーナー! ほんとなの!?」

「もちろん、本当だとも。ただ、さっき説明した通りだ。出走するとしてもジャパンダートダービーは中距離2000メートル……今のウララにとっては、少し厳しいレースになる」

 

 勝てない、とは言わない。俺のウララなら、2000メートルならまだ勝てる。

 

 たとえばこれが芝3000メートルの菊花賞に出ろとか、芝3200メートルの春の天皇賞に出ろ、なんて話になったら即座に白旗を揚げる。というか揚げた白旗で無茶言うなと殴りかかるだろう。

 だが、ダートの中距離ならば可能性はある。もちろん、あくまで可能性の話だが。

 

「ジャパンダートダービーを見送ると、次のダートのGⅠは11月前半にJBCクラシック、レディスクラシック、スプリントの3つがあるけどこの3つは同日開催だ。それに、シニア級のウマ娘も出てくる。クラシック級だけが出走できるダートのGⅠはジャパンダートダービーしかないしな……」

 

 ダート路線、重賞が少なすぎて嫌になる。というか、どうにかしろURA。いやうん、今からURAに文句を言ってもどうしようもないんだけど。

 

 それでもウララを育成し始めた当初のように、短距離オンリーだともっと悲惨なことになっていた。マイルも走れるようになったし、中距離も2000メートルならギリギリなんとかいけそうである。

 

 無論、出るとなればレースまでに2000メートルでも問題なく走れるよう鍛え上げるが。というか、ダートの場合シニア級を終えるまでにGⅠに出走できるチャンスが9回しかないというのが痛い。

 

 その上、JBCの3レース、チャンピオンズカップ、東京大賞典はクラシックとシニアの2回で出走できるため、出走できるレースの種類としては6種類しかないのだ。

 

 これが芝路線だとクラシック級の間だけで軽く超えてしまうだけのGⅠレースが開催されるあたり、ダートの人気のなさが悲しい。

 

 しかも、この最大9回というチャンスもウララが2000メートルまで走れるという前提条件があればこそだ。

 

 ジャパンダートダービー、JBCクラシック、東京大賞典、帝王賞は全て2000メートルのレースになるため、中距離を走る能力がなければGⅠに出走する機会が半減する。いやもう、以前考えてわかっていたことではあるけども。

 

「ま、そういうわけでジャパンダートダービーに出ることを視野に入れたいと思う。ウララはどうだ?」

「うんっ! もっちろん! わたし、これまで以上にがんばるからねっ!」

 

 ウララは気合十分といった様子で、ライスも嬉しそうにウララを眺めている。うん、頑張ってくれるのは良いんだけどね?

 

「頑張るのは良いけど、無理は駄目だからな? ジャパンダートダービーに出るとしても、ユニコーンステークスからそれほど間が空いてない……ウララの調子次第では回避することもある」

 

 俺がそう言うと、ウララは表情を真剣なものに変えて頷いた。

 

「うん……怪我せずに、楽しんで、だよね?」

 

 ウララも俺の方針はしっかりと理解しているのだろう。それまでの喜びを抑えて納得してみせたその姿に、俺は思わず破顔してしまう。

 

「そうだ。GⅠに出るのも大事だけど、俺としてはそれ以上にお前達が大切だ。無理をして故障した、なんてことになったら何にもならないからな。あと、俺はへこむし泣くぞ」

 

 そう言って、俺はウララの頭を撫でた。するとウララは心地良さそうに目を細め、尻尾をぱたぱたと揺らす……と、ライスが無言で頭を傾けながら近付いてきたため、そっちも撫でた。可愛い催促しおってからに。

 

「早めに伝えたのは、今後ウララはスマートファルコンと何度もレースでぶつかる可能性が高いからだ。あの子に勝つためには、これまで以上に奮起してトレーニングに励む必要があると思ってな……物で釣るってわけじゃないんだが」

 

 うん、勝負服をダシにやる気を出すよう促しているようにしか思えんね。でも、ウララなら勝負服のことがなくても毎日やる気満々だからね。

 

「ファル子ちゃんが……」

 

 ウララはスマートファルコンの顔を思い出したのか、右手を小さく握りしめる。ウララとしても、スマートファルコンは無視できない相手なのだ。

 

「青竜ステークスはユニコーンステークスと同じレース場、同じ距離だ。出てくるだろうさ」

「うん……がんばって、次は勝たないと……だね」

 

 普段は明るく前向きなウララでも、スマートファルコンが強敵だと痛感しているのだろう。それでもウララの口から『次は勝たないと』、なんて言葉で出てきて、俺は思わずウララの頭を両手で撫で繰り回す。

 

「わわっ! トレーナー、くすぐったいよー!」

「勝ちたいって気持ちは大事だけど、気負い過ぎるなよ? なあに、お前ならやれる。お前なら勝てるさ」

 

 くすぐったそうに、嬉しそうに笑っていたウララだが、俺の言葉を聞いて目を丸くする。そして、一拍置いて満面の笑みを浮かべた。

 

「――うんっ!」

 

 おう、良い返事だ。こりゃ俺も気合いが入るってもんである。

 

 だからライス? 無言で頭を差し出してくるのはやめるんだ。撫でるけど。

 

 

 

 

 

 そして数日経って青竜ステークスの出走申し込みを行った俺は、更に数日経ってから部室に届いた出走表が入った封筒を前に、思わず呟いてしまう。

 

「きたか……」

 

 俺はなんとなく両手を合わせ、どこの神かもわからない相手に神頼みを始める。

 

(ウララがスマートファルコンに勝つには、運が必要だ……ウララが内枠でスマートファルコンが外枠なら、スタート直後に捕まえることができるかもしれない……お願いします! 神様仏様三女神様!)

 

 なお、三女神というのは全てのウマ娘の始祖と言われている存在で、トレセン学園の正門から入ったところにある噴水に石像が設置されていたりもする。前世では聞かない名前だが、今世においてウマ娘に関することを祈るのなら神や仏以上に頼れる存在だろう。

 

 俺はそう思い、一心に祈りながら封を切る。そして一度深呼吸をしてから出走表を開いた。

 

(いざ――!)

 

 本当は運に頼ることなくスマートファルコンに勝てるよう、ウララを鍛えてやりたい。だが、今はまだ、時間が足りない。まだまだウララは伸びるだろうが、純粋な実力ではスマートファルコンに一枚劣るのだ。

 

 だからこそスタートする際の枠番が重要になるのだが――。

 

「……あれぇ?」

 

 俺は思わず、間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

 何故なら、青竜ステークスに出走するウマ娘の中に、ハルウララの名前はあってもスマートファルコンの名前がなかったからだ。

 

(いない……よな? あれ? 本当にいない……ぞ?)

 

 俺は出バ表を端から端まで何度も見直す。しかし、何度確認してもスマートファルコンの名前がない。

 

(……え? なんで?)

 

 意気込んでいた俺は肩透かしを食らった気分になる。まさか、故障でもしてしまったのだろうか? 調子が悪くて青竜ステークスを見送っただけならばまだ良いが、故障してレースに出られなくなった、というのなら話は別だ。

 

(待て待て、落ち着け俺……こっちが一方的に意識していただけで、スマートファルコンが出てくると決まっていたわけじゃねえ……でも、えー……)

 

 この、何とも言い難い心境よ。俺はもう一度だけ出バ表を確認するが、スマートファルコンの代わりにハッピーミークの名前がある、なんてオチもなかった。

 

「……なんで? あ、これ前もやったな……」

 

 俺は思わず呟いて、自分でツッコミを入れる。

 

 スマートファルコンもそうだが、俺が元々警戒していた有力ウマ娘の名前は一つもない。それにおかしいなぁ、と首を傾げながらも、俺は気を抜くことなく青竜ステークスでウララを勝たせるべく気合いを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 ――そして、ウララは特に問題なく勝った。

 

『更に加速したぞハルウララ! 最終直線! 残り200メートルで一人旅! 2番手とは既に8バ身近い差がついている! これは決まりだ! もう決まりでしょう! ハルウララが今、一人旅を終えてゴール!』

 

 多少マークされたものの、レース中盤で先行したウマ娘を一気に抜き去り、終盤に差し掛かる直前に逃げウマ娘を捉え、そのまま単独で先頭に立って勝つウララの姿がそこにはあった。

 

「ウララちゃん、強くなったねお兄さま」

「ああ……」

 

 ライスの言葉に返事をしながら、1着でゴールを通過したウララを見る。ウララは満面の笑顔で観客席に向かって手を振っており、それを見た観客達からは大歓声が上がっていた。

 

『着順が確定いたしま――っとぉ!? ハルウララ、1着のハルウララがレコード勝ちです。これまでのレースレコードを0秒4縮めました! これで8戦3勝3レコードです! 勝ったレースは全てレコード勝ち! すごいぞハルウララ!』

『彼女ならシニア級に混ざっても違和感がないですねぇ……今年のクラシック級のダート路線は彼女とスマートファルコン、この二人の争いになりそうです。そしてそんな二人の戦いに割って入るようなニューヒーローの誕生にも期待したいですね』

 

 実況と解説の話を聞きながら、俺はウララが再びレコード勝ちしたことで小さくガッツポーズを取る。

 

 スマートファルコンが出てこなかったのは予想外だったが、ウララが勝ったことは素直に喜ばしい。オープン戦で2勝したということで、未勝利戦の分と合わせてこれで収得賞金が2400万円だ。

 

 クラシック級のダート路線に限れば五本の指に入るレベルで収得賞金を稼げている。これならば、オグリキャップやスペシャルウィーク、ビワハヤヒデなどの芝路線で賞金が上位の連中が突如としてまとめてダート路線に殴り込んでこない限り、ウララはジャパンダートダービーに出られるだろう。

 

(スマートファルコンが出てこなかった理由がいまいちわからんが……とりあえず、これでジャパンダートダービーも狙えるな。明日あたり、たづなさんに相談してウララの勝負服を作るための手続きをしないと……)

 

 一応確認してみたが、スマートファルコンは故障などはしていなかった。そのため青竜ステークスに出てこなかった理由が本当に見えてこない。

 

 既に収得賞金を十分稼いだと判断して、ユニコーンステークスまでトレーニングに集中している可能性もある。ただし、これでユニコーンステークスまで回避したら、俺としてはスマートファルコンが何を考えているのか全く理解できなくなる。

 

(まあ、スマートファルコンのことは棚上げするとして……これなら5月後半の鳳雛ステークスを無理に狙う必要もなくなったな。ユニコーンステークスは6月後半……ライスの宝塚記念もあるし、これからしばらくはトレーニングに精を出すか……)

 

 ライスは5月後半の目黒記念にも出走する予定だが、ウララに関しては当面、トレーニングで更に鍛え上げる方が良いかもしれない。

 

 GⅢのユニコーンステークスは、すなわち、初の重賞の舞台なのだ。ライスと一緒にいると感覚が麻痺しそうだが、俺が初めて受け持ち、一から育ててきたウララが重賞に出る。それだけで今から胸が高鳴るというものだ。

 

 青竜ステークスは東京レース場で開催されたというのもあり、観客席には商店街の面々の姿もある。わざわざウララの応援に駆けつけてくれたのだ。

 

 そんな商店街の面々の前でレコード勝ちできたことは、ウララとしてもさぞ嬉しいことだろう。

 

「うっし……次もあの子を勝たせないとなぁ……」

 

 俺は相変わらず笑顔で観客席に向かって手を振っているウララを眺めながら、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 その半月後。

 

 スマートファルコンが鳳雛ステークスに出走してレコード勝ちし、ウイニングライブにてユニコーンステークスへの出走を宣言することになるのだが、今の俺はそれを知る由もなかったのだった。

 

 

 




おまけ

「ゼンノロブロイです……ルームメイトのライスちゃんが見慣れない男性用の外套を着て、幸せそうにベッドで眠っています……ゼンノロブロイです……ゼンノロブロイです……」
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