リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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突発的な残業でさっき帰ってきました(小声)

前回の更新分で感想欄がすごいことになってますが、ご心配いただきありがとうございます。作者は元気です。

前回の更新分の内容に突っ込みを入れてくれた方々もありがとうございます。なるほどなー、と思いつつ全部読んでます。
でもすまない……以前感想の返信していた時に書いたけど、基本ノリと勢いで書いててプロットも設定もないから強引でツッコミどころがぼこぼこ出ちゃうんだ……すまない……もっと酷い理由でキングちゃんが解雇されちゃう形になってたのを今の形にリテイクしたもんで、作者の感覚マヒってたんだ……でも止まるとそのままずるずるいきそうなんで、このままでいきます。

あと、他の方の感想を攻撃するのは、駄目、ゼッタイ。

個別にメッセージを送ってくれた方々もありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。

それと、前回の更新で50話達成って感想欄で教えてくれた方々もありがとうございます。


第48話:新人トレーナー、3人目をチームに迎え入れる

 さて、キングちゃんを部室に呼び、ウララとライスに紹介をした。

 

 ウララは元々ルームメイトということで、キングちゃんが来るなり大喜びで抱き着いていた。キングちゃんはそれを困ったように受け止めていたが、口の端が緩んでいたためなんだかんだで喜んでくれているのだろう。

 

 ライスに関しては――。

 

「こうして言葉を交わすのは初めてですね。長距離GⅠ3冠ウマ娘のライスシャワー先輩と同じチームに入れて光栄ですわ」

 

 ウララを引き剥がしたキングちゃんは、そう言って笑顔でライスに右手を差し出した。握手を求めてのことだろう。

 

「…………」

 

 だが、ライスは反応しなかった。何故かキングちゃんをじっと見つめている。キングちゃんの身長を確認し、続いて胸の辺りに視線を向け――って、はしたないですわよ?

 

「よろしくね、キングヘイローちゃん。キングちゃんって呼んでいい?」

「え、ええ、よろしくお願いします……では、ライス先輩とお呼びしても?」

「うん。それとチームメイトなんだし、ライスの方が先輩だけど喋り方は好きにしていいよ?」

 

 キングちゃんと握手を交わすライス。キングちゃんが困ったように俺を見てくるが、俺は頷きを返す。

 

「……では、そうさせてもらうわ」

 

 キングちゃんは困惑した様子だったが、気を取り直したように頷く。ライスとキングちゃんのファーストコンタクトは、割と良い感じ……か?

 

「とりあえず、俺はキングちゃんと一緒に担当ウマ娘に関する書類を出してくるから。ウララとライスは着替えといてくれ」

「はーい!」

「うん、わかった」

 

 部室に呼んだは良いが、俺がキングちゃんを担当するって書類を出さんと何も始まらん。それに、チームキタルファに登録する手続きもしないとな。

 

 俺はキングちゃんと連れ立って、手続き関連を処理してくれる窓口へと向かう。書類にささっと記入し、窓口に提出すればそれでオッケーだ。キングちゃんと一緒に来たのは、同意があってのことだと証明するためである。

 

「よし……これでキングちゃんはうちのウマ娘になったな」

 

 書類に不備がないことを窓口の職員がチェックすると、すぐに受理される。これで名実共に、キングちゃんがチームキタルファのメンバーになった。

 

「これからよろしく、キングちゃん」

 

 俺が振り返ってキングちゃんに言うと、キングちゃんは何故か不満そうな顔をしている。何事?

 

「ええ、よろしくお願いするわ。ところで……そのちゃん付け、いつまでするの?」

「え? 駄目か?」

 

 ウララがキングちゃんキングちゃんってずっと呼んでるから、俺もそれで馴染んじゃったんだけど。

 

 俺が首を傾げていると、キングちゃんはため息を吐く。

 

「ウララさんやライス先輩は呼び捨てでしょう? チーム内で差をつけるのはどうかと思うわ」

「それは……たしかにそうだな」

 

 言われて俺は納得する。差をつけるつもりなんて毛頭ないが、キングちゃんがどう思うかの問題だろう。

 

「それじゃあ、これからは呼び捨てにするよ。よろしくな――キング」

「っ……」

 

 呼び捨てにすると、キングはぴくん、と体を震わせた。あれ? やっぱりちゃん付けの方が良いんだろうか?

 

「どうした?」

「な、なんでもないわよっ! ただ……うん、そうね」

 

 キングは少しだけ顔を赤くしたかと思うと、表情を隠すように横を向いた。ただ、その横顔は少しだけ寂しそうで。

 

「名前の呼び方一つ比べてみても、()()()()()()()()って……いえ、なんでもないわ」

「…………」

 

 それは誰と比べてのことか。俺は尋ねることはせず、キングの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。すると、キングはぎょっとした顔付きになり――あ、いかん、つい。

 

「おばかっ! 乙女の髪に無断で触るなんて……もうっ、おばかっ!」

「すまん。ウララとライスにしているみたいにやっちまった」

 

 キングはウララやライスと比べると、大人びた面がある子だ。チームに招き入れて、いきなりの失敗である。

 

 キングは手櫛で髪を整えると、最後にもう一度、『おばか』と呟いた。ただ、本気で激怒している感じではない。でも今後は気を付けないとな……。

 

 俺はそう考えながら、部室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 で、更に問題が起きた。

 

 部室に戻ってキングも着替えさせ、ウララやライスを見た俺は、そういえば、と話を切り出す。

 

「そういやキング、トレーニングを始める前に君の筋肉の付き具合とかを確認させてほしいんだけど」

「それは構わないけど……どうやって?」

「え? 触ってだけど」

 

 特に足回りの筋肉がどうなっているかは確認しておきたい。ぱっと見た感じ、ライスのように筋力バランスが偏っているってことはなさそうだが、さすがに見ただけじゃ正確なところまではわからないしなぁ。

 

「……触って?」

「触って」

「私の、どこに?」

「足とか腰とか。できれば上半身の筋肉も確認したい」

「…………」

 

 おっと、キングの表情がすごいことになってきたぞ。顔を真っ赤にして、頬を引きつらせている。

 

「あなた……それってセクハラよ?」

「いや、そういうつもりはまったくないんだが……困ったな」

 

 俺は苦笑しながら頬を掻き、仕事用の机からバインダーを取った。そして今までまとめてきたライスやウララの資料を開き、キングに見せる。もちろん、ウララとライスに許可を取ってからだ。

 

「俺の場合、筋肉の付き方をチェックして記録しといて、どんなトレーニングでどこにどれだけ筋肉がついて、スタミナやスピードがどれぐらい育ったかを計算してるんだ」

 

 ウララと出会ってからというもの、定期的につけている記録だ。ライスも育成を引き受けてから、一切手抜きすることなく記録している。

 

「これは……」

 

 キングは食い入るように資料を見詰める。

 

 ウララもライスも身長が伸びたり、体重が増えたり、腕の長さや足の長さが僅かとはいえ変化したり、筋肉がついたりで、日に日に体のバランスが変わっていく。

 

 それを都度修正していくのはさすがに無理だが、体の左右どちらかに重心が寄ったら元の位置に戻したり、利き足や利き手に合わせて調節したりと、細かく管理していた。

 

 俺はライスの資料を見せると、育成を始めた当初のページを見せる。

 

「たとえばだけど、ライスは俺が育て始めた時、筋力のバランスがおかしくてな……見ただけでバランスが崩れてるってわかるレベルだったんだ。で、さらに全身に疲労が溜まっていたから、疲労を抜きつつ筋力のバランスを整えて、なおかつスタミナが落ちないようトレーニングさせてたよ」

 

 その結果、有記念で1着を獲ってくれた。今は筋力のバランスを整えた状態で維持しているが、怪我につながるため特に注意を払っている。

 

「ウララもそうだ。最初はダートの短距離しか走れなかったけど、今はスタミナを増やしてパワーをつけて……ダートなら2000メートルぐらいまでなら走れるようになった」

 

 移籍というわけではないため、キングの元トレーナーから資料を引き継ぐってわけにもいかない。いや、キングのためなら頭の一つや二つ、なんなら土下座でもするが、俺が求めている情報を持っていない可能性もある。

 

「キング、君に関してはレース映像から割り出した情報をまとめちゃいるが、さすがに限度がある。トレーニングさせていく内に理解できる部分もあるけど、触診が一番手っ取り早くて正確でな」

 

 もちろん、筋肉の付き具合などを確認せずにトレーニングさせることも可能だ。ただしその場合、ウララやライスと比べて()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 キングがどれぐらい怪我や病気に強いかも、これから確認していかなければならないが……キングが嫌がるのなら、無理強いはできない。

 

「というかキング、聞いてる?」

 

 さっきから反応ないけど、どうした? 穴が開くほど資料を見詰めてるけど……。

 

「……ごめんなさい」

「どうした急に」

 

 いきなり謝られたが、本当にどうした?

 

「この資料を見れば、嫌でもわかるわ……あなたを疑ったのよ。もしかしたら、口実を作ってウマ娘の体に触りたいだけなんじゃないかって」

「いや、それセクハラというか、普通に犯罪だから……あれ? 触ってる時点で犯罪か?」

 

 俺はお兄さまだからライスはセーフとして、ウララはアウトか? いや待て、ライスもアウトだよ、うん。

 

 ただ、下心があるかと言われるとないんだよな……むしろライスの筋力のバランスを確認する時なんて、割と内心は冷や汗ものである。

 

 遠い目をする俺に、キングは真っすぐな視線を向けてきた。

 

「以前、ウララさんが疲労困憊で寮に帰ってきていた時期に、電話で文句を言ったことがあったわよね? でも、あなたの言う通りだったわ。ウララさんはほとんど疲労を残すことがなかったし、怪我もしなかった……私がお風呂に入れたり、私のベッドに潜り込んではきたけど」

「それはごめん。いやもう、本当にごめん」

 

 以前からキングには迷惑をかけっぱなしだ。俺が謝ると、キングは相好を崩して柔らかい笑みを浮かべる。

 

「でも、こうしてデータとして見せられるとわかるわ。ウララさんがあんなに強くなった理由もね」

「……と、いうことは?」

「ええ。私も納得したわ。好きに確認なさい……ただしっ!」

 

 不意にキングが険しい顔付きになる。いや、険しいというより、顔を赤くして俺を威嚇するように睨んでいるだけだが。

 

「す、スリーサイズはウララさんかライス先輩に測ってもらうわ! いいわね!?」

「そりゃもちろん、構わないけど……」

 

 どうせ数値として見ることになるんだが……いや、キングとしては大事な部分なのだろう。というか、さすがにスリーサイズとかは俺も測ったりしねえよ。ウララとライスがそれぞれお互いに測り合って報告してるよ。

 

 そうやって騒ぐ俺を、ウララは楽しそうに笑顔で眺めていた。ライスも、笑顔だった。

 

 

 

 

 

 そんなゴタゴタがあったものの、キングのチェックが終わったら早速トレーニングの時間である。キングは顔を赤くしてもじもじとしていたが、トレーニングをするとなるとすぐにキリっとした顔つきになった。

 

 ウララとライスはレースに向けてのトレーニングになるが、キングは初日ということもあり、データ収集のために短距離から長距離まで各距離を走らせる。一応、ダートの方も各距離を走らせてみるが……。

 

(うん、予想通りキングは芝の短距離が一番向いてるな。距離が延びるにつれて適性が落ちるけど、長距離もいける……タイムも悪くない。スピードもあるし、疲れてきても顔を下げない根性がある)

 

 戦法は差しが一番得意で、先行もこなせるタイプだ。ウララとライスを足して2で割ったような適性だな、なんて思ったりもする。ただし、ダートは向いていないが。

 

「はぁ……はぁ……どう、かしら……」

 

 芝とダートで各距離を走らせ終わると、キングが聞いてくる。

 

「大体は予想通りだな。スタミナが不足しているのも予測通りではあるんだが……キング、君はこれからどうしたい? どのレースに出たい?」

 

 短距離やマイルを走るだけなら、十分なスタミナがある。ただし、中距離になると2000メートルぐらいならともかく、2400メートルとかになるとちょっと怪しい。そして長距離レースの場合、現状ではスタミナが足りないと言わざるを得ない。

 

 長距離も走るだけなら問題はない。しかし、勝つとなると厳しい……正直に言えば無理だ。有力ウマ娘が出てこないオープン戦ぐらいなら長距離だろうと地力の差で1着になれるかもしれないが、強いウマ娘がいると負ける可能性が高いだろう。

 

 息を整えたキングは、俺の質問を聞いて顎に手を当てる。

 

「そう、ね……私は一流のウマ娘になるって考えしかなかったわ。クラシック三冠を獲れば一流だと……」

 

 そう言って眉を寄せるキング。そんなキングの反応に、大丈夫かな、と俺は思う。

 

(一流って言葉がキングにとってかなり根深いな……一流、一流か……)

 

 GⅠに出走できるだけでも十分に一流のウマ娘だと思うが、この子の場合、根底に母親に認められたいという気持ちがあると思う。だが、キングの母親は海外でGⅠを獲ったウマ娘って話だし、生半可な成果ではキングを認めないのではないか。

 

(かといって今のキングの世代は本当に魔境だ……キングのおふくろさんが言うことも、わからんではない。オグリキャップにスペシャルウィーク、他にも何人も強いウマ娘がいるしな)

 

 GⅠを片っ端から獲らせる、なんてことは非常に困難だろう。というか、そんなことが簡単にできたら苦労はしない。

 

(直近のGⅠは6月前半の安田記念……これはマイル走だからキングに向いてるけど、シニア級も出るレースだ。時間もないしさすがに無理だな。次は6月後半の宝塚記念……こっちはライスが出るし、そもそもシニア級が出るレースだと収得賞金で負けるから出られないか)

 

 芝はダートと比べてレース数が多いし、キングの適性的にほぼ全てのレースに出られるだろう。だが、今からの時期だとクラシック級のみ出走できるレースは数が少ない。ほとんどのレースでシニア級も出てくる。

 

 そうなると、GⅠは絶望的だ。キングは3勝しているが、収得賞金で考えるとそこまで稼げていない。まずはGⅡやGⅢ、オープン戦で収得賞金を増やす必要がある。そうしなければ、シニア級のウマ娘で収得賞金が多い子と出走登録が被った時に困る。

 

(実力で考えると、シニア級のウマ娘が相手だろうと勝てる水準ではある……でも、トウカイテイオーやメジロマックイーン、ナイスネイチャとぶつかる可能性もあるんだよな)

 

 さすがにその辺りの実力者が相手だと、今のキングでは荷が重すぎるだろう。

 

「キング、俺の考えとしては、当面は短距離かマイルのレースを中心に走らせたい。で、並行して徐々にスタミナをつけさせていくから、スタミナがついたと判断したら中距離や長距離のレースに出したいと思うんだが」

 

 当然、スタミナをつけると同時に、スピードももっと磨いていく。キングには優れた天性の加速力があると俺は見ているが、スタミナを鍛えるだけじゃ届かない領域があるのだ。

 

「中距離や長距離だとスタミナに不安がある以上、妥当な判断ね……菊花賞は?」

「今からだと4ヶ月ぐらい時間があるんだよな……うーん……みっちり鍛えれば勝負にはなると思う。君なら入着を狙えるだろうし、伸び次第で3着以内……ただ、1着は厳しいだろうね」

 

 俺は正直に伝える。せめて半年時間があればもう少し勝負になると思うんだが……。

 

 菊花賞の3000メートルとなると、皐月賞や日本ダービーに出たウマ娘でも適性的に厳しいってウマ娘が何人かいる。ただ、有力ウマ娘の大半が長距離も苦にならないだろうからなぁ。有力ウマ娘の中では適性的にキングが一番劣っている可能性すらある。

 

 それをなんとかするのがトレーナーである俺の役目だが、さすがに時間が足りん。

 

「秋華賞なら距離の適性的にも実力的にも1着を狙えると思う。ただ、これは君がどうしたいかだ。俺がどうしたいかじゃない、君が希望する未来を掴むために君を鍛えるんだ」

 

 キングが長距離のGⅠで勝ちたいというのなら、勝てるようにする。それが俺のやるべきことだ。ただ、キングを()()()()()()()()()()()()()()わからないため、しばらくは手探りで鍛えていくことになる。

 

 ライスの時の経験があるから、キングの身体能力や頑丈さ、回復速度を調べるのに……短くて二週間ってところか。

 

「……あなたは、私をどう育てたいと思っているのかしら?」

 

 キングはしばらく悩んだ後、そんな質問を投げかけてくる。

 

「俺か? 俺の見立てだと君は短距離向きのスプリンターだけど、マイルも中距離も長距離も走れる才能がある。距離が延びると苦しくなるけど、スタミナをつけて少しずつ適性距離を延ばしていけば短距離から長距離まで、全部のレースで活躍できるだろうな。それらを考慮すると……」

 

 俺は腕組みをして、首を捻る。

 

「まずは短距離のGⅠ……9月後半のスプリンターズステークスに出してみたいな。ただ、収得賞金が足りないから出られるかは運次第だ。スタミナがついたらマイル、中距離、長距離でそれぞれGⅠを狙ってみたい……うん、そうだな」

 

 ライスはキングと逆の距離適性――長距離から短くなるにつれて不利になるタイプだが、キングの場合、ライスほど不利にはならないだろう。

 

「全距離でのGⅠ勝利とか……どうだ?」

「……本気で言ってる? シンボリルドルフ会長ですら達成してないわよ、それ」

「ま、さすがに厳しいって思うけどな。GⅠは……うん、強力なライバルが多すぎるから、全距離で重賞を獲れるウマ娘を目指すのもありかな、なんて思ってる」

 

 短距離、マイル、中距離、長距離でGⅠを獲るというのはさすがに大言壮語が過ぎるだろう。しかしキングならGⅡ、GⅢを含めた重賞なら、十分に全距離で勝てるのではないか。

 

(あっ……その場合、一番のライバルってミークじゃねえか)

 

 俺は脳裏に桐生院さんとミークの顔を思い浮かべた。ミークは全距離を走れるウマ娘のため、キングとぶつかる可能性が非常に高い。

 

「全ての距離……短距離、マイル、中距離、長距離のレースでそれぞれ重賞を勝ったウマ娘っていたかしら?」

「少なくとも日本にはいなかったと思うけど。海外は……どうだろうな。さすがにウマ娘の数が多すぎて把握してないよ」

「……達成したら、一流のウマ娘よね?」

 

 キングは窺うようにして尋ねてくるが、俺は顔の前で手を振る。

 

「いや、一流どころか日本のウマ娘史に名前が刻まれるレベルの偉業だと思うぞ? やろうと思ったウマ娘はいると思うけど、達成できたウマ娘は知らないしなぁ」

 

 シンボリルドルフの七冠とか、ライスの長距離GⅠ3冠みたいなインパクトは……あるかな? 全距離重賞制覇とか、カッコいい響きなんだが。

 

「全距離重賞制覇? なるほど、いいじゃない」

 

 俺の呟きを拾ったのか、キングがにやりと笑う。そして胸を張ったかと思うと、口元に手の平を当てながら笑い声をあげた。

 

「おーっほっほっほ! それならあなたには、私の隣に立って一緒に進んで行く権利をあげるわっ!」

 

 すげえ、電話口では聞いていたけど、リアルでこんな笑い方する子、本当にいたんだ……初めて見たわ。

 

 キングは何かを吹っ切るように笑い声をあげると、すっきりした顔をして俺を見た。

 

「だから、これからよろしくね……トレーナー」

「ああ……よろしくな、キング」

 

 そういえば、キングにしっかりとトレーナーと呼ばれたのは初めてかもしれない。

 

 普段は『あなた』と呼ばれていた気がするが……トレーナーとして、少しは認めてくれたということだろうか。

 

(ライスも完全に打ち解けるまでなんだかんだで時間がかかったしな……まずは第一歩、か)

 

 こうして俺は、キングをチームキタルファに加えて新たな日々を送り始めるのだった。


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