リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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mn_ver2さんより、支援絵を2枚いただきましたのでご紹介です。

【第12話:新人トレーナー、涙を流す】
で、ゲートに入って深呼吸をしたウララの顔つきが変わるところ

【挿絵表示】


【第55話:新人トレーナー、誓う】
で、ウララが倒れる寸前で持ち直すところ

【挿絵表示】


クオリティ高いですし小説の挿絵みたいです……該当する話のところにもセットしてますので、もし読み返す機会があれば是非見られてください。


第84話:新人トレーナー、考え事をする

 有記念の翌日。

 

 俺はいつものように朝から部室でスポーツ新聞を読みながらのんびりコーヒーブレイク――なんてことはしていなかった。

 

 有記念のレースが終わり、ウイニングライブも終わるなり車ですぐさまトレセン学園と提携している病院にライスを連れて行き、怪我の具合を確認し終わったのが昨晩の深夜。

 

 ウララとキングには重傷ではないことを伝えて寮へ連れて行き、ついでに美浦寮の寮長、ヒシアマゾンちゃんに電話で事情を説明してライスと同室のゼンノロブロイちゃんに協力を仰ぎ、ライスの着替えや下着類を預かったらとんぼ返りで病院に戻った俺は、時間が時間だけに一泊するライスに付き添い、病院で一晩を明かした。

 

 俺が確認した結果通り、というべきか。ライスの左足は中足骨が二本折れていた。第2、第3中足骨……足の人差し指と中指の根本、と言えばいいだろうか。レントゲンを撮ってみると、その部分がぽっきりと折れていたのである。

 

 中足骨が折れるというのは、人間でも割とよくあることだ。特にスポーツを継続的にやっていると疲労骨折することがある。陸上競技を始めとした足に負担が強くかかるスポーツだと起こりやすい。

 

 骨折ではあるが、症状によっては歩いたり走ったりしてもそこまで痛みが出にくい箇所だったりもする。だが、疲労骨折のようにいつの間にか折れていて、何か痛いな、変だな? と思って病院に行ったら折れているのがわかった、なんてパターンじゃない。

 

 車並の速度で走るウマ娘の中でもトップクラスの実力を持つライスが全力で力を込め、地面を蹴りつけた衝撃で折れたのだ。相当痛かったはずである。

 

 幸い、というべきか他に異常はなかった。触診通り関節や他の骨が折れていたりヒビが入ったりしていることもなく、精々、レース直後ということで関節が熱を持っていたぐらいだ。

 

 ライスを診てくれたお医者さん曰く、関節周辺の筋肉もしっかりと鍛えられている上に柔軟性があるため、今回の骨折のような突発的なもの以外は早々起こらないだろう、とのことだった。

 

 ただ、ウマ娘の身体能力を思えばどうしてもこういった怪我は起こりやすい。中足骨が折れたぐらいならまだマシで、有記念のレース映像を見たお医者さんは下手したら開放骨折や粉砕骨折をしていたかもしれない、とも語っていた。

 

 それぐらい、()()()()()()()はウマ娘の限界を超えていたのだ。中足骨を骨折してしまった、ではなく中足骨が折れただけで済んだ、と思うべきだろう。

 

 そんなこんなで治療というか、レース直後ということで汗などを拭って清潔にした後、診察してもらったわけだが……。

 

(思ったよりも軽くて良かった……というか、言い方はアレだけど折れた場所が良かったのか……)

 

 ギプスで固定する必要はなく、松葉杖や車椅子を使う必要もない。これまで毎日行っていたトレーニングを中断し、折れた場所に負荷をかけないようにしながら日常生活を送れば自然と治るとのことだった。

 

 綺麗にぽっきりと折れているらしく、今の状態で走り回ったり、むやみやたらに負荷をかけなければ自然と骨がくっ付くらしい。

 

 ライスの足の形に合った足底板を作ってもらい、移動の際はそれをつけていれば良いようだ。ライスは若く、回復力もある。トレーニングをせずに落ち着いた生活を送れば一ヶ月もしない内に日常生活を送る分には問題がなくなるらしい。

 

 ――そう、日常生活を送る分には、だ。

 

 軽いトレーニングを行えるようになるまで、順調に回復して二ヶ月から三ヶ月程度。痛みが出ないか、腫れが出ないかを確認しつつ様子を見つつ、元のレベルでトレーニングができるようになるまで最短でも三ヶ月はかかってしまう。

 

 そしていくらライスが若くて回復が早いといっても、しっかりと治るまでは油断は禁物だ。これで骨折が癖にでもなってしまえば頻発してしまうだろう。

 

 更に言えば、特に問題なく順調に骨がくっ付き、元通り走れるようになったとしても、療養期間の間に衰えた体を鍛え直すのにどれだけかかるか。

 

 以前のように歪んだ筋力のバランスを整えつつ疲労を抜く、なんて話じゃない。治るまでは安静にして、無事に治ったら衰えた筋力を鍛え直し、なおかつ骨折が再発しないよう注意する必要もあり……と中々に大変だ。

 

 完治までにどれだけ衰えるか。そして、衰えた体を怪我が再発しないよう注意しつつ鍛え上げるのにどれだけかかるか。

 

 俺は病室のベッドで眠るライスを眺めながら、つらつらと考え事をする。

 

(何も問題なくトレーニングができるようになって……元の水準まで鍛えるのに最短で半年ぐらい……か? その頃にあるレースは……GⅠの宝塚記念あたりか)

 

 ざっとした計算だが、何事もなければ復帰レースはその辺りになるだろう。さすがにいきなりGⅠに出すのも厳しいし、来年の宝塚記念といえばキングが挑戦していると思う。

 

 そう考えた俺は、以前、たづなさんと話していたことを思い出す。

 

『そうですよね。チーム結成から一年後……来年になればライスシャワーさんも引退を考える時期ですし、その頃になればトレーナーさんも新しいチームメンバーを増やせますか』

 

 そんな話をしたのは、ウララの端午ステークスとライスの春の天皇賞が終わった直後ぐらいだったか。

 ここでいう引退というのは、ウマ娘としてレースから完全に身を引くという意味での引退、そして()()()()()()()引退だ。

 

 シンボリルドルフやエアグルーヴさんのように、シニア級を卒業してドリームシリーズを目指すという道がライスにはある。実績という点で、ライスはトレセン学園に在籍しているウマ娘の中でもシンボリルドルフに次ぐ。

 

 GⅠ6勝。春秋天皇賞制覇。長距離GⅠ制覇。秋のシニア三冠。有記念2連覇。

 

 並べてみるとこれだけの実績があるのだ。まず間違いなくドリームトロフィーを狙えるだろう。

 

 ドリームシリーズに関して、出走条件は秘匿されている。でもライスの実績と人気があれば大丈夫だろう。というかライスで無理なら他のウマ娘でもきっと無理だ。

 

 夏のサマードリームトロフィー。

 

 冬のウィンタードリームトロフィー。

 

 一年の間に夏と冬の二回のみ開催されるレースだが、シニア級までと違って半年ずつ練習期間が取れるのならば疲労も溜まらないだろう。

 

 あとは純粋に引退するという道もあるけれど……まあ、この辺りは俺が決めることじゃない。ライスが決めることだ。

 

 俺はベッドの上ですやすやと眠るライスの寝顔を眺める。この子は学校の成績も良い方だし、望めばレースを引退して大学や専門学校に進むのも一つの道だろう。これまでの知名度的に、芸能界デビューなんてことも可能かもしれない。可愛さは兄である俺が保証する……ん? いや、何もおかしくない……ん? 俺お兄さまだけど兄じゃなかったわ。

 

 とにかくライスは可愛いし、ダンスも踊れるし、歌も得意だ。そういった道もあるだろう。

 

 億単位で稼いでいるため、進学するとしても金銭的な問題もまったくない。ああいや、金銭的な問題はなくても、進学先によっては願書の出願期限が……まあ、まずは足を治す方が先決だし、進学するにしても来年で良いか。

 

 俺は寝ているライスの頭を撫でる。するとライスの表情が甘えるようにほにゃりと崩れた。頭部のウマ耳もピクピクと動いている。

 

(引退、か……)

 

 ライスが怪我をして、その言葉が強い実感として圧し掛かってくる。ライスほどの実績を残して引退できるウマ娘が一体何人いることか。

 

 トレーナーになって二年も経ってない俺でさえ、メイクデビューでも未勝利戦でも1勝を挙げられず引退するウマ娘を見てきたのだ。そんな彼女達と比べると恵まれた……もちろんライスの努力があってこそだが、恵まれた引退になる。

 

 だけどまあ、繰り返しになるけどライスの意思こそが重要なわけで……まずは足が治ってからだな、うん。粉砕骨折したとか関節が砕けたとか靭帯が切れたとか、治るかどうかもわからない状態じゃないんだ。その辺りの判断は足が治ってからでも遅くない。

 

 俺がそうやってライスの頭を撫でていると、ライスの目がゆっくりと開いていく。そして寝ぼけまなこで数回瞬きすると、不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ……お兄さま……どうしてライスの部屋に……」

「おはよう、ライス。ずっといたんだけど、俺がライスの病室にいたら駄目かい?」

「んーん……お兄さまだったら、いいよ……」

 

 そう言って頭を撫でていた俺の手を掴み、甘えるように頬を寄せてくるライス。うーむ、可愛い。でもちょっとくすぐったい。

 

 ライスは俺の手に更に密着しようと寝返りを打ち――びくっ、と体を震わせた。

 

「いたっ……あれ……なんで足が……あれ? お兄さま?」

 

 どうやら寝返りを打った拍子に左足をベッドに押し付けてしまったらしい。ライスの意識は痛みで覚醒したらしく、俺の顔を見て目を見開く。

 

「えええぇっ!? お、お兄さま!? な、なんで? どうやって寮に入って……」

 

 寝起きで混乱しているらしく、ライスは大慌てだ。何故か自分が着ているパジャマを確認したり、薄手の掛け布団の中を確認したりと忙しない。

 

「ライス、ここは寮じゃないぞ。病院だ。昨晩のことは覚えてないのか?」

 

 まあ、レースで限界を超えて、骨を折った状態でウイニングライブまでこなしたのだ。その後は深夜まで診察を受けていたし、寝ぼけるのも仕方ない。

 

 時刻は午前七時過ぎと、起きるには丁度良い時間だろう。ライスの睡眠時間は七時間は取ってるし、問題ないはずだ。

 

 ちなみに俺は寝ていなかったりする。たづなさんへの報告が2割、色々と考え事をしていたのが6割、残り2割は乙名史さんや他の知り合いの記者から、夜更けにも関わらずひっきりなしに電話が掛かってきたのだ。

 

 どうやらライスが怪我をしたことで、俺が寝ているはずがないと判断したらしい。まあ、連絡先をきちんと登録しているのは話してみてまともな感じがする人だけだから、かかってきた電話もライスが大丈夫か、って話だったけど。

 

 記事にするとかではなく、純粋に心配してくれたらしい。そりゃウマ娘のレースを記事にするのを職業にしている人だし、ウマ娘が故障したら驚くし心配もするよなぁ、なんて……こちら側から正式発表するまでは記事にもしないって言ってくれたため、当面は休養とだけ伝えておいた。

 

 さすがに病院で頻繁に電話をするのは迷惑だから、ウララとキング、それとたづなさんにこれからスマホの電源を切るというメッセージを送り、その後はスマホの電源を切って放置しているが。

 

 懐からスマホを取り出し、電源をつけてみる……と、出るわ出るわ。着信の嵐である。メッセージも何件か飛んできてるが……お、丁度ウララからメッセージが来てるな。

 

『トレーナー、起きてる? ライスちゃんはどう?』

『おはよう、ウララ。ライスも今起きたぞー。調子は悪くなさそうだ』

 

 俺はライスが何故かベッドのシーツを確認しているのを眺めながら、ウララに返事を送る。あー、そっか。トレセン学園に戻ってウララとキングのトレーニングも見ないといけないのか。

 

 年末ってことでそこまでがっつり厳しいトレーニングにはしないけど、ある程度の負荷は与えておかないと体が鈍る。

 

 さてどうしたものか、と俺が首を捻っていると、満足できるまで調べものをしたのかライスが俺をじっと見ていた。そして俺と目が合うと、す、と逸らしてしまう。

 

「お兄さま……その、お、怒ってる? ライスが無茶して、怒ってる……よね?」

 

 そして、まるで叱られるのを怖がる子どものように尋ねてきた。

 

 怒ってる、とな? ……うーん、怒ってるんだろうか……いや、中足骨が折れた直後にそのまま走り続けた時は何と叱ろうか色々考えたけど、こうして一晩経ち、ライスの怪我も完治の見込みが立っていることから怒りは……いやうん、やっぱり怒ってるわ。

 

 俺はそれまで座っていた椅子から立ち上がると、ライスが使っているベッドに腰をかける。ちなみに表情は真顔だ。

 

「いいかい、ライス。俺は今、とっても怒っています」

「や、やっぱり……」

 

 ライスは俺の言葉を聞き、目に涙を溜め始めた……って、ちょっ!? ライス!? なんで泣くの!? というか泣くにしても早すぎない!?

 

 思わぬライスの反応に、俺は前言を撤回したくなる。怒ってるは怒ってるけど、ライスが思うほどは怒ってないんだよなぁ。

 

 俺は真顔をやめて、苦笑を浮かべる。そしてライスの左足に負担がかからないよう注意しつつ、ライスを抱き寄せた。

 

「怒ってるってのは嘘……ってわけじゃないけど、そこまで怒ってないよ。ただ、それ以上に心配した……滅茶苦茶心配したんだからな……」

 

 そう言いつつ、俺はライスの後頭部を優しく撫でる。

 

 中山レース場から帰る後も、なるべく早く病院に行くことをだけを考えて運転してたしな……病院についてからはそこまで話す時間がなかったし、ウララとキングを寮に送り届けたりもしてたし……ライスもレースの疲れで眠るのが早かったしな。

 

 だからまあ、こうやってしっかりと話す時間は取れなかった。その上で言うなら、やっぱり『心配した』の一言に尽きる。

 

 いくらそこまで重篤な怪我じゃないといっても、骨折は骨折だ。骨が折れた状態で走り、レースの途中で痛みで転倒でもしたらライスの選手生命が絶たれる可能性もあったのだ。最悪、命を落としていた可能性すらある。

 

 だから心配して――同時に、怖くもあった。

 

「……ごめん、なさい」

 

 俺の言葉を聞いたライスが涙声で謝る。その声色に、ライスが生きていることに、俺は安堵の息を吐いた。

 

 レースで走る前までなら、トレーナーにできることはいくらでもある。だが、レースで走り出したらトレーナーにできることはほとんどない。ウマ娘が走るところを見届けるだけで、止めることも、一緒に走ってやることもできやしない。

 

「いいかい、ライス……今回は運良く、骨が折れるだけで済んだ。でも、下手したらレースの途中で転倒していたかもしれない。そうなった場合、もっと酷い怪我を負っていたかもしれない。もしかすると転んだ拍子に他のウマ娘を巻き込んで怪我をさせたかもしれない」

 

 全部が全部、もしもの話だ。ただし、可能性としてはゼロじゃない。可能性の話ではあるが、死んでいたかもしれない、とは口が裂けても言いたくなかったが。

 

「レースで勝てたからそれで良い、なんてことは言わない。ライスにとっては勝つことが大切だったんだと思う。でも、俺としてはレースで勝つことも大切だけど、それ以上にライスの方が大切だ。本当は異常が発生した時点で走るのをやめてほしかったんだけど……」

 

 そこまで言って、俺はライスを抱き締める両腕に力を込めた。

 

「あの時のライス、すごかったもんな……これまで見てきた中で、一番すごかった。お前に勝てるウマ娘なんていない。お前が最強だ。シンボリルドルフだろうとシンザンだろうと、お前に勝てるもんか……そう思えるぐらい、良い走りだったよ」

「おにい、さま……本当? ライス、そんなにすごかった?」

「ああ……最高の走りだった……これで怪我してなけりゃ、手放しで喜べたんだけどなぁ」

 

 そんな話をしつつ、俺はライスから離れる。本当に、怪我さえなければ最高の結果と喜べた。それでも怪我がまだ軽い部類だからこそ、こうして喜べる余地があるのだが。

 

「ライス」

「うん……」

「昨日お医者さんが言っていた通り、当分はトレーニングも禁止だ。少なくともちゃんと骨がつながって、日常生活を送れるようになるまではトレーニングは全部禁止。守れるな?」

 

 俺はライスの瞳をじっと見つめながら言う。この子はなんだかんだで無茶をするし、裏でこっそりとトレーニングをするかもしれない……いや、大丈夫か。それで怪我が長引けばどうなるか、よく理解しているはずだ。

 

「うん、わかった」

 

 ライスは迷うことなく頷く。それをじっと見つめながら、俺は苦笑を浮かべた。

 

「今の状態で無茶したら俺、多分本気で怒るからな?」

 

 実際にその場に出くわさないとどうなるかわからないけど、骨折した状態でライスがトレーニングをしていたら間違いなく本気で怒る。

 

「うん……ライス、まずはしっかり治すね。無理せずしっかり治した方が、結果的に早く復帰できそうだし……」

「そうだぞ、ライス。ここで無茶をしても何の意味もないからな」

 

 ライスはちゃんと理解してくれている。というか、以前一度骨折してるから大人しく治す重要性を理解しているのだろう。復帰後の話は……まあ、まずはしっかり治ってからだな。

 俺はそう締め括った。

 

 

 

 

 

 あ、でも、時期的に進学するかとかはきちんと決めておかないと、ライスが無駄に一年間過ごすことになりかねん。

 

 俺は病室の壁にかけてあるカレンダーを見る。昨日が有記念で、今年も残すところあと四日ほどだ。ふむ……年末年始が目前となると、ライスも帰省して両親と色々話す良い機会かもしれんな。

 

 ただ、足の怪我があるし、一人で帰省させるのは不安か……。

 

「足底板さえ作ればすぐに退院できるらしいけど……ライス、今年の年末年始はどうするんだ?」

「……どうしよう。年末年始もトレーニングかなって……」

 

 ライスは視線を逸らしながら言う。いや待て、さすがに年末年始に帰省させるぐらいはするぞ俺も……他のチームやトレーナーより短いかもしれないけど……。

 

 俺は心中で弁解しつつ、ライスに話を振った。

 

「ライスの将来のこともあるし、俺もついていくから一度帰省して親御さんと話をしないか?」

「トレーニングできないし、帰省して……しょ、将来!? お兄さまと一緒に!?」

 

 ライスは一度頷いたかと思うと、目を見開いて驚く。え? 今の話、驚くところあった?

 

「さすがに電話やメールでってわけにはいかんだろ……大事な話だしな」

「大事な話!?」

 

 レースを続けるにしても、親御さんからしたら骨を折ってからの復帰で大丈夫かと不安に思うだろう。レースを引退して進学なり就職なりするにしても、親御さんに何も話さず、なんてわけにはいかない。家を借りるにしても連帯保証人がいるし、就職するにしても身元保証人がいるし……。

 

 それに何より、ライスの将来もだけどご両親がどんな人かをチェックしておきたい。ライスのご両親だから大丈夫だとは思うが……失礼ではあるものの、ライスがレースで稼いだ賞金に手を付けるような性格だった場合、たづなさんに話をして色々と手を打たないといけない。

 

(ま、ライスを見てればご両親も良い人だってのはわかるけど、一応はなぁ……帰省するにしても、怪我が治ってないから不安だし。家庭訪問みたいだな。年末年始に行くあたり、こっちの方が非常識だけど……)

 

 とりあえず、ライスの怪我の具合いと今後の復帰予定に関しては担当トレーナーとして話をしなければならないだろう。

 

 俺はベッドの上で何やら身悶えているライスを見ながら、そんなことを考えるのだった。


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