ドラグーン・レジェンド   作:イビルジョーカー

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2話を投稿します。







第2話 攻防戦

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜。危ない危ない。死ぬとこだったぜ」

 

「バルセルクに配属されちまったのが運の尽きさ。でも、まだ運はあったみたいだな」

 

 研究施設の内部にある正面入り口のホール。

 広い空間の端っこで、外の戦闘から逃がれてきたアレスのマーヒュ属の一般兵士二人組がその焦り切った気持ちを徐々に落ち着かせていた。

 

「にしてもよ、精鋭部隊が来るなんて思いもしなかったぜ」

 

「はぁ? 精鋭部隊が来るなんて当たり前だろ。バルセルクだぞ? 敵味方関係なく殺戮しまくる頭イカれを相手にするなら、そこいらの部隊じゃ歯が立たないだろ」

 

 黄色い短髪の兵士は、黒い長髪の兵士が放った言動が信じられないとばかりに捲し立てる。

 

「いや、そりゃそーだけどよ、てっきり救援の部隊は来ないって思ってたんだよ。バルセルクの旦那方が相手取るんだし、精鋭送ったって勝てるか分からないだろ? 下手すりゃ被害甚大待ったなしだぞ」

 

「分からんでもないがな。けど考えてみろ。どんだけ被害を出してでも、それに見合うだけのす価値があるもんがこの施設にあったとすれば……納得できるだろ?」

 

「価値があるもの? なんだよソレ」

 

「はは。そんなこと俺が知るかよ。バルセルクどもは知ってるみたいだが、俺たちみたいな下っ端は知らん方が身の為だよ」

 

 そんな会話を繰り広げながら、アレスの兵士二人。

 

 

 ──────ーッッ

 

 

 ふと、彼等の会話を遮るかのように微かな音が兵士達の耳に入る。

 

「なんだ……? 音がするな」

 

「ああ。なんつーか……地中を掘り進む感じの、こー、ゴゴゴって。そんな感じのだな」

 

「……おい、なんか段々と大きく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオオオオォォォンッッッッッ!! 

 

 

 

 

 

 最後まで言葉を紡ぐことなく、凄まじい衝撃が床下から発生し兵士たちを襲う。命は無事なものの、彼等の意識は瞬時に暗黒へと送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、見事内部への侵入成功しましたね!」

 

 晴れやかにやってのけたと言わんばかりの笑顔を浮かべるニズグ。

 そんな彼女に対し、やや土埃まみれとなってしまったゼウ、キュラン、ジークア、ハーディスの4人は呆れ半分と苛立ち少々といった感じで、ジト目な視線を送っていた。

 潜入班の施設内部への侵入方法は至って単純。ニズグのドリル状の両手を使った掘削技能で地中から目的地まで掘り進むというものだ。

 無論、相手側に気付かれないようにする為、気配を完全に隠すことができるハーディス専用の『ルペイン』という兜型のアーティスを使用。

 ルペインは、相手の知覚のみならず、レーダーの端末装置にも察知されずに済む隠蔽特化の有能なアーティスなのだが、デメリットもある。

 音を完全に消す事ができないのだ。

 ある程度減音はできても、消音とまではいかない。故に本来ならニズグはそういった事を考慮して

 掘らなければならかったのだ。

 しかし、悲しいかな。彼女は掘る事にエンジンが掛かってしまうと中々止まらない。

 そんな面倒臭く厄介な性分を抱えていた。

 結果的にそれが原因となり、派手に床を打ち破る形で侵入してしまった。しかもアレスの兵士2名に気付かれそうになった。

 これでは完璧な成功とはとてもじゃないが言えないのは間違いない。

 

「侵入自体はな。もう少し勢いを弱めろ。こいつら以外に兵士が他にいたら……確実にバレてたぞ、えぇ?」

 

 凄まじい形相を張り付かせて顔を近づければ、大抵の者は恐怖に慄くだろう。ゼウは怒鳴りたい激情を何とか抑え、比較的小さく、しかし確実に聞こえるドスの効いた声とその顔でニズグに忠告する。

 

「は、はひ。すみません……」

 

 反論できるほど、ニズグに反骨精神など備わっていない。

 恐怖から気の抜けた返事をする他になかった。

 

「はぁぁ。まぁ、いい。侵入自体はできたし、相手が相手だ。どの道バレる可能性が高い」

 

 怯えた様子の部下をこれ以上責められるほど、ゼウも非情者ではない。

 バレそうになったとは言え、現時点で施設内部へ入り込めたのはニズグのおかげだ。

 そこだけは間違いない。

 

「けど、ゼウ隊長。どうして正面入口のホールなんかに?」

 

 ここに来たのは決して偶然ではない。

 ニズグのスキャウパーによって得た施設内部の構造情報からゼウがここへ行くよう指示したのだ。

 戦略的観点から見てもわざわざホールへと出るメリットなどない。

 ジークアの疑問は、他の面々も同じだ。

 

「この場所にあるんだよ」

 

 それに対しゼウはやけに神妙な面持ちで答える。

 

「俺らが派遣された最大の理由が、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃああッ!!」

 

 兵士の一人を背後から飛びかかる形で襲い、その頭部にクローファングの刃を叩き込む。

 悲鳴を上げる暇もなく兵士は糸の切れた人形のように倒れ込み、その状態でコアに止めを刺す事を忘れない。

 ハーフメルは頭がなくなろうとコアさえあれば、仮死状態を維持し場合によってはそのまま再生することができる。

 元通り再生するには数週間とかかるが、十分な医療設備があれば時間を浪さず復活できてしまう。

 故にしっかりと止めを刺さなくてはいけない。

 

「当ったらない〜〜〜よっとッ!!」

 

 一方、少し離れた場所ではスキューが何かから逃れるように移動しつつ

、挑発を絶やさなかった。

 確実にスキューの後を追うように迫り来るソレらは、紛れもなく"孔"だ。壁や地面に開く類の"穴"ではなく、何もない虚空の宙に開いているのだ。

 しかも。孔の縁の周囲は陽炎のように歪み、一種の磁場のようなものを形成している。

 この孔を作り出したのはアレスの兵士たちだ。

 より正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 この孔の正体は"湾曲孔"と呼ばれるもの。

 この世界における銃器である"遠距離放射型アーティス"を対象に向け

、座標を思考で設定。

 放って命中すれば大抵の対象は半粒子状に破壊され、生命体ならどの部位に当たろうとも確実に即死は免れない。

 そんなものがいくつも発生し、スキューを仕留めようとする。だが、一発も当たらない。

 ギリギリに回避している……といこともなく、軽快且つ俊敏な動きには余裕さえ感じさせる。兵士たちの攻撃を意に介さず、スキューは敵の攻撃を掻い潜り翻弄する。

 

「ちょこまかとッ!!」

 

「もっと撃ちまくれ!」

 

 焦燥。苛立ち。恐怖。それらが兵士たちの冷静な思考を奪っていき、ただ無鉄砲に無駄に。計画性の欠片もない攻撃を繰り返す。

 そんな様子を見て、スキューの余裕は更に加速する。

 

「多ければ当てられるとでも思ってんのかな? 甘い甘い!!」

 

 一度でも。それこそ、ほんの一擦りしても。

 身体が粒子状へと分解するほどのダメージを負いかねない攻撃の数々だが、それらはスキューに命中することなく、不発に終わる。

 湾曲孔は命中した瞬間箇所を問わず即死させる

 というメリットがあるが、デメリットもある。

 それは始点と終点の間が見えてしまう事だ。

 始点……アーティスから終点である対象までの間には若干ながら歪みが生じる。よく凝らして集中さえすれば容易に見えてしまうもので、おまけに直線的だ。

 故に分かってしまえば読むこと自体難しいことではない。つまり、スキューはそのデメリットを把握し、攻撃を回避しているという訳だ。

 

「そッれェェ!」

 

 背後に回り込んだスキューは、背中の触手を振るい兵士2名の首を掴むと一気に力を加える。

 

 ブヂィィッ! 

 

 金属の内骨格フレームと有機質の筋肉繊維。

 双方が引き千切れる音を奏でて、二つの頭部が身体から離れ落ちる。

 これだけに終わらず、今度は触手で兵士3人のコアのある胸部中央を貫く。完全に致命傷となり、3人の兵士は物言わぬ鉄と肉の塊へと成り果てる。

 このまま行けば、アレスの一般兵は全員やられるだろう。

 それだけ精鋭は手強く、一騎当千とばかりに数の不利をモノともしない。

 しかし、快進撃はそう長くは続かない。

 

 ドォォンッ! 

 

 轟くのは、一つの爆発音。距離はほんの3Km先だ。スキューとルガー、更にはアレス兵士たちまでもがその音に反応し、視線をそちらへと向ける

 見れば黒い柱状の何かが立ち上っていた。

 スキューとルガの記憶では、アレがある場所にはセイレとルグル。

 そしてフレスベルの3人が戦っていた筈。

 すぐさま敵の兵士たちを放って爆発した場所へと駆け出そうとした二人だが、それを阻止する者がいた。

 

「「!! ッ」」

 

 鋭く、明確で、絶対に逃さないという強い意志を嫌というほど染み込ませたような…そんな気配。

 いや、殺気と呼ぶべきか。

 それが二人の全身に悪寒を奔らせる。

 ほぼ突発的に互いに左右へ分かれるように跳躍するのとほぼ同タイミングで、一本の刃が二人の間を貫き通していた。もし、ほんの秒数でも遅ければ確実にその刃の餌食になっていただろう。

 

「ほう。まぁ、躱して当然か」

 

 刃を振り下ろしたのは、一人の男。

 長い藍色の髪をかき上げながら、狂気的な笑みを浮かべる姿は獲物を前に悦ぶ獣のソレだ。

 

「狂切者のカミフか!」

 

 スキューが名を叫ぶ。

 

「や、やばいのが来てくれちゃって!!」

 

 ルガは動揺しつつ、クローファングを構える。

 

「精鋭が2匹……僥倖だな。さあ、是非とも心震える悲鳴を聞かせてくれ

 

 狂切者の異名と共に知れ渡った業物、『チザメ』の切っ先を二人へ向けながら、カミフは距離を詰める為、一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗く、仄かな光源が照らすだけの長い通路をゆっくりと歩いていく潜入班の面々。他には何もなく、ソレ自体はただの通路なのだが、肝心なのはこの通路が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ゼウ隊長。これは一体どういうことなんだい」

 

 しばし沈黙が続いていたが、それを破ったのはハーディスだった。

 

「『黙ってついてこい』って言って来たけどさ。さすがに何の説明もなしってのは……ねぇ」

 

「もう着く。話はそれからだ」

 

 ハーディスの方を見ず、あくまでも淡々と言うゼウ。やけに真剣味を帯びて言うその姿は、明らかに易々と口にできない何かを知っている体のそれだ。

 どうやら、この通路は何処かへと通じているらしい。その場所に答えがあり、それまではどうあっても口を閉ざすつもりのようだ。

 これ以上言っても無意味だと判断したハーディスは、特に何も言わず。

 他の面々も同様に口を閉ざし、潜入班に沈黙な空気が蔓延し始める。

 

「着いたぞ。ここだ……」

 

 それから約2分後。言葉の一石を投じ、沈黙の空気を破ったのは、ゼウ本人。

 彼等の目前には見るからに重厚そうな扉があり、その扉の表面には円形の幾何学的なラインが施され、ネオンの光をほんのりと放っている。

 

「『ヴァナス、ヴィラアラ、ティフィス』」

 

『音声暗号、声紋、生体ユグジス反応からゼウ・ザンダーと断定。入室を許可します』

 

 録音された自動音声と共に金属同士を弾くような、乾いた音が響く。

 ネオンの光を放っていたラインは青へと変わり、ゆっくりと扉が開かれる。

 

「これは……」

 

 まず目に入ったのは、黄金。

 荘厳と称することができるほどの輝かしさを発するその部屋は、天井、床、壁といった一室の空間そのものを構成するありとあらゆる場所全てが黄金に染まり、無いところは一切見受けられない。

 

「……もしかして、これ、チフトですか?」

 

 チフトとは様々なレーダー機器、更には察知系統の能力さえも感知されないという特性を秘めた希少な物質で、特徴なのが黄金色を有する点だ。

 つまり、部屋に余すことなく施された黄金は、ニズグの予想が正しければ全てチフトだということになる。その質問に対しゼウは隠さず、普通に答えた。

 

「ああ。全部そうだ。まぁ、モノがモノだからな。ここまで集めるのにかなりの労力と時間が掛かったらしい」

 

 希少とあるようにチフト自体、そう易々と手に入れられる代物ではない

。基本的に鉱物で構成された特殊なミミルから取れるものなのだが、時期が決まっており、しかもそのミミル自体非常に少ない。

 おまけに発生条件に関しては不明なので、探す場合はほぼ虱潰しだ。故に軍事方面で利用されることは殆どなく、一応人工的な量産を試みてはいるが、その研究に関しては芳しくないのが現状である。

 

「というか、隊長。あの暗号のやつ、古代語ですよね?」

 

 今度はキュランから質問が飛んで来る。先程、扉の開錠に使った例の音声暗号だ。

 

「そうだ。意味的には『我、ここを通るべき者。開けるがいい』って感じだ」

 

「はえ〜意外でした。古代語なんて、学者でも知ってるのは少数なのに」

 

 ニズグが言葉通り意外そうに言う。

 口には出さないが、鬱陶しそうな顔から察するにおそらく『ほっとけ』

、と心の中でそう呟いているのだろう。

 

「知名度が低いからこそ暗号に使えるんだよ……さて。そろそろ無駄話も終わりだ」

 

 何気ない会話に終止符が打たれる。誰も言葉を紡ぐことはなかった。単に気持ちを切り替えた訳ではない。

 すぐ目前にあるモノに目を惹かれてしまったのだ。

 彼等の前に現れたのは、一つの円柱状の大きな水槽。

 高さは5m程で、幅は2m。

 それ自体は至って普通の水槽で、別に秘密がある訳でもない。問題なのはその水槽に収まっているものだ。

 

「……お、女の子……?」

 

 ジークアがやっと声を絞り出す。

 それは紛れもなく女の子と呼ぶに相応しい外見をしている。

 腰より少し上に伸びた長い黒髪が下から湧き出す気泡によってゆったりと波打ち、膨らんだ胸部とそれらしい腰の部位。

 少し焼けたような色の柔らかい肌に複眼やバイザー状の視覚器官とは異なる目蓋のある単眼構造の両目。それらの特徴からマーヒュ属のハーフメルの少女という答えがゼウを除く、潜入班全員の頭の中に浮かんだ。

 しかし、ある違和感に気づいたジークアが声を上げる。

 

「あれ……? この子、金属部位がない?」

 

 ジークアがふと感じた違和感の正体。それはこの水槽の中に収められた

少女に()()()()()()()()()()()()()()事だった。

 

「へ? いやいや、無いなんてことないでしょ」

 

 ニズグは軽く手を振り、有り得ないと言ってジークアの言葉を否定する。それに対し、キュランも否定的な意見を述べる。

 

「ニズグの言う通りだよ。ハーフメルはみんな金属部位を持って生まれる

。身体半分は金属で出来てる訳だし」

 

 その言い分は尤もだ。

 ハーフメルは個々で多少の違いはあれど、大体の割合で、半分は金属で構成されている。

 これは後から肉体的に改造を施したという訳ではなく、産まれた時から既に持っているものだ。

 金属と有機物質が共存する身体を持つ生命体。

 それがハーフメルだ。そうでない生き物の場合、ゲヘナに生息するオークスのようなエネルギーで構成された生物が殆どだ。

 純粋な有機物質で構成された生命など、この世界には存在しない。

 

「ん? でも、確かによく見ると……ない?」

 

 一糸纏わぬ、まさに産まれたままの状態である為、隠れて見えないなどと言うことは有り得ない。

 ニズグは改めで見て確認してみたが、ジークアの言った通り、確かに少女の身体に金属部位は全く見受けられなかった。

 

「……ほんとだ。ない」

 

 ニズグと同じようにキュランも確認した。

 やはり金属部位が無いことは紛れもない事実のようである。

 

「けど、中までは分からないだろ? この女の子は視認できる金属部位が無いだけかもしれないし」

 

「うーん……正直、そんなの聞いたことないけど」

 

 キュランの可能性の話にハーディスが割り込む。

 

「目の前にあるじゃないか。この女の子がそうなんだよ」

 

 ハーフメルの金属部位はその種として共通の特徴であり、生物としての区分とも言っていい。

 事実として、この少女に金属部位は一片さえも見受けられない。

 ならハーフメルじゃないのか? という話になってしまうが、キュランはあくまで外見に無いだけで身体の中にあるのだと言う。

 そんな実例はハーディスの言葉通り、何処を探してもない。しかしそれは今現在の話であり、

 これから先の未来において、それが起き得ない確証などは何もない。

 そして、今。

 ハーフメルの生物としての常識が覆されたのだと。少なくともキュランはそう思っている。

 

「憶測でモノを語るのは結構。そいつの自由だからな。だが、全然違うってことだけは言わせてもらうぞ」

 

 しかし残念な事に……キュランの考えは的外れもいい所のようだ。

 

「へ? 違う? いやまさか〜」

 

「本当だ。この娘っ子はハーフメルじゃねぇ」

 

 それじゃあ、一体何なんだ。

 全員の思考が、ゼウの言葉によってこの一つへと収束される。

 

「異世界から来た生き物……"人間"さ」

 

 ニカリと。自身の歯を惜しむことなく見せつける不敵な笑顔は、まるで悪戯が成功した子供に似たものだった。そして。

 予想だにしなかったゼウのその言葉に対し、潜入班の顔に色濃く出る反応は、まさに彼の思惑通りのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフメルの中にはユグジスを自在に操作し、定めた言葉、通称技銘(ネムワ)と呼ばれるものを詠唱することで特定の現象を発動・行使する粒果式(ラーニメント)と呼ばれる異能を持って扱う者が多くいる。

 とは言え、ユグジスを装置や道具ではなく、個で意識的に操作すると言うのは身体の手足を動かすのとは違い、決して簡単なものではない。

 基本的にハーフメルは体内に流れるユグジスの動きを変えることしかできない。

 そうすることで集中力の向上や多少の身体機能の強化といった効果はそれなりにあるが、1分か数秒程度が限界。

 現象を発生させる段階に至る為には苛烈な訓練と長い期間を必要とし、そうして得ることに成功しても、望んでいた成果にならない場合がある。

 その辺りは、残酷ながら生まれ持った才能の有無になってしまう。

 才能と揺るがない信念。

 この二つを備えてこそ、粒果式は真価を発揮すると言っていい。

 そして。この粒果式を扱えるハーフメルはイージス、アレスの両軍内において、一般兵士の上にいる精鋭や幹部の地位に付いているのが大半だ。

 むしろイージスは精鋭になる為の条件として、

 粒果式の取得者でなければならないと決められており、アレスの場合は粒果式を持っていなくても実力次第で幹部になることはできる。

 もっとも、精鋭の撃破や高難度の任務達成という難題な条件付きなので、決して簡単ではないが。

 ともあれ、オオウルはアレスの幹部なのでその粒果式を持っている。

 秘匿を好む性分と使うに値する相手がそうそういないと言う理由で滅多に使わず、その詳細に関しては同じバルセルクメンバーであるカミフとベアヌスしか知られていない。

 ただ、彼の粒果式によって起動される技銘なら、噂程度には認知されている。

 

 曰く。闇を招来する。

 

 曰く。その闇を自在に操り、敵をその闇で封じ嬲り殺す……と。

 

「い、生きてる……よな?」

 

 所代わり陽動班。

 オオウルの強く、洒落では済まされないレベルの威力をもった一撃は、まさに"凄まじい"としか言えない程だった。

 敵も味方も関係なく吹き飛ばすどころか、分子レベルの塵と化す。

 化け物としか呼べない規格外。

 そんな怪物を相手にして尚、精鋭たちは何とか死を迎えずにいた。

 

「ええ。……なんとかね」

 

 セイネの言葉に対し、ルグルはそう答え、互いの安否を確認。とりあえず生きていることに安堵する。

 

「フレスベルは……いたな。おーい! 大丈夫か

 ッ!!」

 

 2人の背後……およそ10mくらいの位置か。そこでフレスベルが俯せに倒れてはいるが、セイネの声に反応してか、問題なく起き上がる。

 

「いってて……なんつーモンかましてんだよ……

 ……」

 

 頭を手で押さえてはいるが、傷が出来た訳ではなく単純に衝撃によるダメージだ。

 大きな傷、あるいは死に至ってしまう程の負傷は全くない。

 オオウルのあの一撃は、完全に3人へ向けられていた。

 空と地上とで多少距離のあった3人でも容易に飲み込んでしまうほどの広範囲威力を秘めた攻撃だったが、咄嗟にルグルがケルテを使い、エネルギーバリアを展開。

 フレスベルとセイネはルグルと共にケルテのバリアの中に間一髪というタイミングで入り込めた事もあって、無事に済んだ。

 ただ、周囲は闇に包まれ、視界は絶たれたに等しいが。

 

「これは……暗闇から奇襲してくる気か?」

 

 フレスベルは周囲を警戒する。断っておくが夜になった訳ではない。

 そもそもこの世界、ラグロギアスには完全な闇夜が存在しない。

 薄暗くなる程度で、しっかりと周囲を視認できるし、そもそも夜の時間帯になどなっていない。

 なら、この漆黒の闇は何なのか。

 何も見えず、音さえも聞こえない。

 さながら……星一つない宇宙に放り出されたようなものだろう。

 

「……コレ、何なのか分かる? まぁ、技銘を言ってたから、少なくとも粒果式的な事象なのは分かるんだけど……」

 

「俺もそう思うよ。けど、現時点ではそれ以上の事は分からないってのが正直なとこかな」

 

 状況は全くの未知。それ故に最悪と断言してもいいが、それでも3人は至って冷静だった。

 ルグルは直感的にこの暗闇がハーディスが用いる黒いユグジスとは異なる事を見抜き、それにセイネが肯定の言葉と共に己の意見を述べる。

 そこに動揺、混乱は一切ない。

 そしてフレスベルも冷静に意見を述べ始める。

 

「というか、闇っていうのは語弊があるんじゃないですか? 俺ら3人、バッチリ見えてますよ」

 

 周囲は見えない。だが、近くにいる3人は互いに確かに見えている。

 コレが意味するのは、この闇自体"光のない事象"としての闇とは全く違うかもしれない、と言うことだ。

 

「まぁ、そこん所は置いておいて。重要なのは間違いなく奇襲して来るってこと……こんな風にね!!」

 

 ガギィィィィィィンッッッッッ!!!!!!! 

 

 甲高い音が鳴り響く。

 原因は突如として3人の背後から襲い掛かろうとした、オオウルの巨大な手。

 それをセイネが自身のアーティス、トライポトフの穂先をぶつけ、阻止した事で生じたもの。

 その音を聞き、セイネの行動を見た瞬間。

 フレスベルとルグルはすぐに行動した。

 ルグルは淡い白色に輝く光のユグジス、トラスを左手に球体状に収束させ、投げ飛ばす。

 投げ飛ばす……と言っても、実際に光が彼女の手を離れることはなかった。

 球体状から少し太く長い鞭状へと変化し、オオウルの腕の部位……おそらく前腕だろうか。

 そこに逃すまいと巻き付き、引っ込ませないように封じる。

 

「今よ!」

 

 ルグルがフレスベルに向けて叫ぶ。

 続いて、フレスベルが右腕から赤いものとは異なる青色の結晶体をオオウルがいるであろう位置へと放った。

 青い結晶体は赤とは異なり起爆性の物質ではなく、強力な毒性物質が入ったもの。

 着弾すれば瞬く間に対象の身体を侵食し、その命を奪う。

 だが、結晶体はオオウルの身体に届かないばかりか、空を切るだけだった。

 

「!! っ 違う! そこには居ない!!」

 

「正〜解♪」

 

 咄嗟に叫ぶフレスベルを嘲笑うようにオオウルの声が響き渡る。

 その瞬間、闇は見事に晴れて消え去り、腕が出ていた先には何もなかった。

 おそらく腕を分離し、遠隔で動かしていたのだろう。

 そして、肝心の本体は3人の背後にいた。

 左右の両手を歪な刀身に変形させたオオウルは、宙に浮くもう二本の腕も同じように刃へと変え、計4本の剣腕を用いて精鋭らを囲い込むように高速的且つ、不規則な剣戟を描く。

 前方に二本。後方左右に分離したもう二本の剣腕が精鋭たちの周囲を旋回する形で舞うことで逃亡を阻止する。

 それはまるで、入ることも出ることも叶わない刃の牢獄そのものと言っていいかもしれない。

 しかし、これはあくまで、相手の命を奪う殺戮の技。

 相対する者の命を奪う無慈悲な刃なのだ。

 

「!! ッ 避けろォォッ!!!!」

 

 必死な声で叫ぶセイネ。

 普段の陽気でチャラけたソレをかなぐり捨てた声に反応したルグルとフレスベルは、咄嗟ではあるものの、戦場で培って来た直感から自分達へと迫る凶刃に対し反応することができた。

 が、遅すぎた。

 

「ぐうぅッ!!」

 

「あぐっ……アァッ!」

 

 一振りの腕剣が始めにルグルの右肩から胸部、

 そして腹部へと深く切り裂き、そして流れるようにフレスベルの背中を斬る。

 幸いコアには到達していない為、生命維持には支障はない。

 だが、負傷してしまった。

 3人かがりでやっとと言う実力者を前に負傷するということは、せっかくの数による有利性を損なうに等しい。ただでさえ容易ではないのに、勝てる可能性が更に狭められてしまったのだ。

 

「クッソ!」

 

 そして剣腕は、もう一振りある。

 それがセイネめがけ、刺突という形で牙を剥いた。

 急いで身を捻るように翻し、横へと跳ぶセイネ。しかしその際、相手の突き技の勢いを殺す為、右腕を盾にしてしまった。

 結果。剣腕の勢いを殺せたことで、セイネは刺突を回避する事に成功はした。もし、これで突きの勢いを殺す事ができなければ、コアごと身体を上下に両断される最悪の事態を招いていただろう。

 だが、さすがに完全に防ぐことはできなかった。

 剣腕は彼の右腕を刺し貫き、一瞬ばかり止まった。セイネはその隙を見逃さず、思いきりをつけた全力で自分の腕ごと剣腕を地面へ叩きつけ、トライポトフを突き刺し返す。

 これで剣腕一本の身動きは封じた。後は刺さった剣腕の刀身を抜くだけ

なのだが、ただで抜かれはしなかった。

 刀身が蛇のように曲がったと思えば、間髪入れず伸びた切っ先でセイネの腕を切り落としたのだ。

 

「ッ……やってくれるじゃないか」

 

 切断された断面からは、灰銀の金属骨格と粒子が流れる"粒子ケーブル"と呼ばれる管器官の断面が顔を覗かせており、ケーブルからは粒子が流れ、傷口からはハーフメル特有の墨のように黒い血液がポタポタと垂れ落ちる。

 血液量が少ない為、腕を切断されたとしても、多量には流れ出ることはなく、人間で言うところの『出血多量』で死ぬこともない。

 とは言え、だ。

 腕を切られるというのはハーフメルであっても相当なレベルの激痛になる。それでも取り乱さず、あくまで立ってオオウルを見るのは、単純に目を離してはいけない程に危険な存在だからだ。

 

「セイネ!」

 

 叫びつつ、ルグルは目に怒りを宿し、目の端を吊り上げてオオウルを睨む。フレスベルもまた同じように睨み、同時にいつでも、今度こそ外さないよう腕を向け、照準をオオウルへ定めていた。

 

「そー怖い顔すんなって。引っかかった方が悪いんだよ、こーゆーのは」

 

 何てことはないと宣う様に内心怒りが滾って来る反面、オオウルの言葉からある程度の予想がついた。

 自分達は、この男に一杯食わされたのだと。

 何故周囲が闇に閉ざされているにも関わらず、自分達の姿だけは目視できたのか。

 初めは単にあの闇の性質的なものだと考えたが、わざと一箇所に纏める為にしたとすれば、より理に適っている。

 "引っかかった"というのは、そう言うことだ。

 正確に理解することのできないような状況下に集団が置かれた時、その場合における行動は大まかに二通りに分けられる。

 混乱して散り散りになるか、冷静に落ち着いて不用意に離れず状況を把握し対処するか。

 このどちらかだろう。

 精鋭である彼等は迷いなく後者を選んだ。

 幸いにも自分達の姿は明確に見えていたのと、

 強力な一撃を防ぐ為に一箇所に固まっていた為、散り散りにならずに済んだ。

 とは言え、今やその幸運は仇だったと再認識せざる得ないだろう。

 一箇所に集まって警戒していてくれたおかげで、逆に奇襲し易くさせてしまっていたのだ。

 

「一箇所になったところを狩る腹積りだったのね」

 

「まぁな。バラバラになったところを狩るのもいいんだけどよ、やっぱ集まってた方が一気に狩れて中々気持ちいいからな。はっはは!」

 

 不甲斐ないッ!! 

 笑いながら何てことないかのように語るオオウルを恨みつつ、同時にそんな感情が心中の奥底から込み上げてくる。

 敵の思う壺に嵌るというのは、精鋭として誇りのある彼女にしてみれば、容易に飲み込める事実ではないのだろう。

 が、それでも今は身体を駆け巡り、暴走しかけるこの激情を無理やり押し込める。事態や状況を正確に見定める必要があるからだ。

 自分含め負傷した3人の精鋭チームとたった一人。されど精鋭幾数に相当する実力を秘めた凶者。この状況を有利に盤石を固め、隙を見て退却するか。

 もしくは……この強者の命を取る形で勝利を収めるか。

 その為の戦いに意識を集中しなければならない。

 下手を打てば、あるのは死。それしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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