すべてが0になる世界   作:ぼうねん

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新しい一日は二度来るか?

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 道端を歩いているとき、テストで暇を持て余しているとき、電車に夕陽の光が差し込んでいるとき、母校の小学校の前を通るとき...そこにはいつも昔の自分がいて、僕のことを見ているように感じるのだ。

 

「そういえば、先輩ってここに来て何年なんだ?」

「私は女の子だから歳を取らない設定なんだ。」

「設定じゃねえか。」

「まあ高校生くん、いつも通り、頼むよ。」

 かくして、今日も新しい一日が始まる。

 新しい一日というのは慣用的に使われている言葉だがよく考えてみるとさぞ不思議な言葉である。

 昔の人は二度同じ一日など来ることがないと、確信していたのだろうか。もちろん、二度同じ一日が来るなんてことは当然無いのかもしれない。

 そもそも時間の遡行性に論じられたこと自体が、最近の話なのだから。

 時間は遡行しないというのは常識だ。けれど、時間は遡行しないと断定されると、僕はそれに待ったをかけたくなるのだ。

 なぜなら、それを肯定する理由がないからだ。

 

 ...けれど、この涅色に輝く石を前にしてみれば無駄な議論なのかもしれない。

 この石とは、簡単に述べると大体の願いを叶えてくれる優れものどころではない大いなる代物だ。それを僕が、先輩と呼び慕っている(要出典)人が管理しているというわけだ。

 そして、このパラレルワールドに迷い込んだ人たちの願いを叶える。

「というか、その手紙なんですか。」

「これ?秘密。」

 先輩は、机の中に手紙をしまって立ち上がる。

「来るよ。」

「来る?」

 ドアが開く。

 その壊れかけているドアは、日々開く時の雑音が増しているような気がする。ちゃっちゃとその石で、直せばいいのになんてことは毎回思う。

 だけど、しない。

 当然理由があるのは反応からしても承知なのだが、それを教えてくれないというのがここに僕が来てからの疑問でもある。

 

「よお、ディアー高校生」

 軽く会釈をすると、早速この世界に迷い込んだ人、つまり依頼人は早々に席に着く。

 ドアの付近にいられると逆光で姿がよく見えなかったが、年齢は自分より少し歳上で、チャラそうな大学生というのが第一印象だ。

 喋り方からしても社会人とは思えない。

 外向的な性格であることが伺え、なんというか、常に体を動かしているような人間だ。つまりは動きがうるさい人間。

「姉貴、この前の件は考えてくれたか?」

「二十年前に戻りたいというわけでしたよね。」

 先日、この人とは会って話をしたのだ。後日要相談ということになり、そして今日という日が巡ってきたわけだが流石にあの石をもってしても物理法則を凌駕すること、時間を遡行することは可能なのだろうか?

 その疑問には僕も大きな関心を示している。

 先輩がどんな返答をするのか、ワクワクしながら待っていると先輩はスッと、いいですよとだけ言い残し席を後にしたのだ。

「流石姉貴、話が分かるぜ!もし過去に戻ってモネイが稼げたらドンと分けてやるからよ!」

「ちょちょちょっと先輩、待ってくださいよ。」

 部屋を出て、石に向かう先輩を慌てて呼び止める。

「どうした高校生。」

「そんなに軽く、いいんですか?どうでもいいことにはあんなに渋るのに。」

 すると先輩は、僕の胸をトンと叩く。

 なんのジェスチャーなのか全く分からぬまま先輩は部屋を出て行く。

 ...と思いきや戻ってきて僕に目掛けてグーパンチをする。

「どうでもよくない」

 今度こそ本当に先輩は部屋を出て行った。

 こうして、部屋には二人残されたというわけだ。

「というか高校生、お前はなんの係なんだ?結婚してんのか?」

「冗談がキツイぜ。そもそもアイツには好きな人がいるんだ。」

 男はテーブルに足を乗っけながら指を指す。ズバリと、そりゃお前だぜと。

「いや、否定されたよ。先回りして。」

「おい、そりゃクールだな。そうだな、慰めてやろう、モネイいるか?」

「さっきからずっと気になっていたんだが、そのモネイってもしかしてマネーのことか?」

「その通りだぜブラザー。」

 いつからブラザーになったんじゃとツッコみたくなったが、謎が謎を呼びかねないため堪えた。

「だとしたら、少しキモいからやめた方がいいぞ。」

 ...男はしょげて何も言わなくなってしまった。

「わ、悪かったって。」

「おっとボーイ、今、後悔したか?」

「へ?」

「ただいま。なんかいい感じのことをしておいたのでもう元の世界に帰っていいですよ。そしたら、二十年前に飛んでるので。」

 いい感じのことってなんだ!?

「サンキューサンキュー。じゃそういうことで。」

 待て待て、そんなにとんとん拍子で話が進んでいいのか?違和感が拭えきれない。

 頭の中がハテナで埋め尽くされるが、先輩は今はまだ何もするな、と言わんばかりに肩に手を乗っける。

 男は立ち上がり、先程と同じように出口へと早々に向かう。

「おっと言い忘れてた。少年!」

 僕への人称を統一してほしいという願いも先程と同じようにめんどくさくなるためあえてせず、話を聞く。

「過去のことってのは悔やんでもしょうがねえぜ!後悔するよりもその行動で生まれた良いことを見つけろ!なんせ過去ってのは変えられねえんだ。」

 今から過去へ遡行する人間が言える台詞ではないし、噛まずに言えてるあたり常套句なのか?

 だとしたらキモいな。

 その後、さよならも言わずに男はドアを飛び出し井戸の中へと飛び込んでいった。

 井戸の中というのはつまり、元の世界への出入り口だ。

 本来、元の世界へ戻る直前に大抵の人は躊躇する。なぜなら、この世界に来れるのは生涯で一度のみなのだから。そう考えると中々に異様な光景であった。

 

「...で、先輩は何をしたんだ?」

「彼の過去は変えられないという発言、面白いね。」

「そうか?俺にはただの戯言にしか聞こえないな」

 先輩は、再び椅子に座り机の中にある、先程の手紙を取り出した。

 そして、僕に差し出す。

「読んでみなって」

 中を開けると、パッと見だが一枚しか紙は入っておらず文字もびっしり描かれているわけでもなかった。

 至ってシンプルな、シンプルすぎる手紙。

 故に、要旨を理解するのに時間はかからなかった。

「先輩...これ、もしかして」

「アイツの手紙だね。差出人不明だけど、間違いなく。律儀に、時間まで書いてあるんだから」

 先程の、来るよという台詞はそこからなのだろう。

「てことは先輩、アレってハッタリだったのか?」

「論なし。彼が戻った世界では何も変わってないよ。二十年前なんて嘘っぱちにやけっぱち。」

 てことは、彼は僕たちに騙されたと思いながら生きていくのだろう。そう思うと、僕は罪悪感と憐れみに包まれてしまう。

「まあ、騙してくれなんて頼んだのは、二十年前のアイツなんだ。どこを気にする必要がある?高校生くん。」

「けど、その二十年前のアイツって存在するのか?未来を変えたことによって...えーと、アイツが消えて。だけどアイツが消えると手紙もないから...」

 混乱し始めてしまったが、先輩はもうすでにその考察をしていたのだろう。

「その難しい話はまた今度にしよう。兎にも角にも蟹にも、お疲れ様。今日はもう帰っていいよ。」

「...では、お言葉に甘えて。」

「あ、待って高校生。」

「なんだ?」

 

「二度同じ一日訪れることはない。だから、大事に毎日を過ごしてくれたまえ。」

「...あぁ、そうさせてもらうぜ。過去は変えられないもんな。」

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