そう叫んで、グチャグチャな感情を無理やり振り切ったような顔で、ただの“石”をブチ壊して欲しかったんだという一念で書いた。
遠目にも、悪友サンラクの危機が如実に感じ取れた。
ペンシルゴンの脳内が高速で思考を巡らせる。
ほんの少しだけでも、ほんの数秒でも。時間を稼ぐ手立てはないか、意識をそらす何かはないかと模索して。
コレに槍を叩きつければきっと──
“私はセツナ。私が何か、と聞かれたら、そうね……ここに、ずっと永くいるだけの、──ただそれだけの、何でもない、いつかの誰か、かしら”
“へえ。貴女は、そう、アーサー・ペンシルゴンね。覚えたわ。こうして、わざわざまた来てくれたんですもの。せっかくだから、少しお話しましょうか”
“そう。外はそんな風に。そう──ああ、ごめんなさい。ちょっと、色々と昔の事を思い出しちゃって。うん、けど、ありがとうアーサー。貴女がいなかったら、きっと私は、そんな些細な事も知る事はなかったろうから。嬉しいわ、ほんとにね”
“アーサー。ねえ、アーサー。改まってこんなこと言うのも変だけど、満月にしか会えない私に何度もこうして会いに来てくれて、たくさんの事を教えてくれる貴女のこと、──大好きよアーサー……ってあらあら、お顔が”
“アーサー”
「──おいっ!!」
職業柄、人の表情には敏感だ。
多くの人前に立ち、振る舞う。それゆえ指先1つにまで神経を注ぎ、眼差しとて気を緩める事はない。
自身も周囲も操れる位、喜怒哀楽に機敏でなければならない。
明け透けな感情は当然に、……ひた隠しにしようとする感情も例外ではない。
あの人は、と。話に出る度に、その目の潤みが見えたのだ。
口元の微かな震えも。
笑顔を取り繕う頬の緊張も。
紡ぐ言葉は小さく掠れて。
無理矢理に“想い”を全身に詰め込んだかのようだった。
今にも破裂してしまいそうな、壊れかけの何かになってしまいそうな姿で。
その姿を見る度につくづく信じられなかった。
人とはこうも、1人のために感情を溢れんばかりに溜め込んでおいて。けれども、抑えに抑えていられるものなのかと。
何でもないペンシルゴンの話に、ふわふわと笑うセツナは、でも、ウェザエモンの事を話すときは何時だってそうだった。
指先にまで張り詰める哀しみはいついつ聞いても必ず感じられて──
その哀しみを、これ以上背負わせてなるものか……!
──槍を振り下ろす。
振り払う訳じゃない。セツナとの思い出を壊す訳じゃない。これが彼女の墓であるのだとしても、ただそれでも! そうしてまでもアイツを倒して、終わらせなきゃいけない!
「女泣かせのウェザエモン──ッッ!!」
ナニカを型取った石を、確かに、粉砕した。
「……っ、……ぁ」
よかった、と思った。
オイカッツォは未だスタミナ切れで、近いけれどもすぐ傍にはおらず。サンラクは離れた所でアンチクショウとにらめっこだ。
とてもではないが人前に出せる顔ではない──それでも、こうも禍々しくバカでかい憤怒の眼差しを向けてこようものならその限りじゃあない!
ぐしゃぐしゃの顔を上げれば感じたことのないほどに高まる圧力がウェザエモンから確かに感じ取れて、だからなんだと負けじと睨み返した。
…………
惜しむらくはペンシルゴンではウェザエモンに引導を渡せず、悪食ゲーマーにその座を譲るしかない事だった。
可能ならグーでビンタしてやりたかったと、──ついにウェザエモンの奥の手を捌いて決着の様相となった、そんな大願成就の情景からしかしペンシルゴンの心は移ろぐ。
空を仰げば薄気味の悪い暗黒の空に、見るも見事な満開の桜が掛かっていて。
セツナと隣り合って、囁き合って、笑い合って。
ペンシルゴンの脳裏に、そうやって交わした言葉の数々がなぜだか嘘のように蘇った。
その時、ざあざあと唐突に風が吹いた。桜の花びらが次々と舞い散っていく。
カラカラと足元で石ころが転がる。ペンシルゴンの手で粉砕した石ころが、桜の花びらに覆われていって。
「アーサー」
「──」
いつの間にか枯れてしまった桜の樹の下で、いつの間にか佇んでいたセツナのその表情に──ペンシルゴンは達成感と、途方も無い喪失感に、とりあえず笑顔を
衝動に任せた。
表現できたかは別として、こんな葛藤をどうしても見たかったんだ俺は!!
お目汚し失礼しました。