『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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1.入学編
第1話 雪女と裏口入学?


 私が雄英高校の門をくぐったのは、今日で三度目だった。

 

 一度目は筆記試験の時で、二度目は別日の実技試験の時。

 じゃあ、三度目の今日は何の用事かというと……これが、いまいちよくわからない。

 

 有体に言えば、呼び出しを受けたのだ。合否の通知がなされる前に。

 

「本当に……なんなんだ」

 

 現在、私は事務の人に案内された応接室で、とにかくそわそわしていた。試験の時よりもよっぽど緊張しているし、この上なく不安。ちょっと吐きそうだった。

 

雪柳(ゆきやなぎ)さん、大丈夫かい?」

 

 隣に座っている男性――私の後見人である蟹田(かにた)さんが、気遣って声をかけてくれる。彼の顔をちらりと見れば、控えめな苦笑いが浮かべられていた。

 

「そんなに心配しなくても、悪い話ではないと思うよ? まさか、いち受験生をわざわざ呼び出して不合格を突き付けてくるとは思えないし……あと、実印の用意を、なんて言われてるわけだしね」

「……まぁ、それは……」

 

 それは、確かにそうかもしれない。でも、不安なものは不安なのだ。

 

 そもそも、私が入試倍率300倍以上と謳われる雄英高校のヒーロー科を受験したのは、ほとんど記念みたいなものだった。

 ヒーローを目指そうと明確に決めたのは中三の夏で、それまでの間、あるいは決めた後ですらも別に身体を鍛えたりだとか、そういうことはしなかった。ちょっとこう、家庭の事情的なアレで忙しくて時間がなかったし、あとはまぁめんどくさかったし。

 ともかくそんな体たらくだったから、ヒーローを目指すと言ってもどっか適当なヒーロー科のある高校に入れればいいや、という程度にしか考えていなかったし、受験シーズンが終わった今もなお、そのつもりでいる。なんなら高校は普通科に行って、大学でヒーロー免許取得を目指してもいいかな、ってな具合なもんで。

 

 だからまぁ、雄英に落ちていても別に問題はないし、むしろ落ちていて当たり前だと思っている。

 思っているが……それはそれとして、わざわざ学校に呼び出されて不合格だなんて言われたら心に多大なダメージを負うだろうから、やっぱり不安で仕方ないのだ。

 

「……というか、実技はともかく、たぶん筆記の方が全然ダメだったので合格はないと思うんですけど」

「あー、そうだったのかい? でも、それじゃあ……ああ、それこそ、筆記はダメだったけど実技がすごく良かったから特別に合格! とか」

「いやいや、そんな都合良くは……」

 

 ――コンコン、と。

 私の言葉を遮って、不意に、扉をノックする音が聞こえてきた。

 そして、私や蟹田さんが返事をする間もなく、二人の人物……人物? が部屋に入ってきた。

 

 疑問符を付けざるを得なかったのは、先んじて入ってきた背の低い……ネズミ、だろうか。とにかく、右の目元に大きな傷跡のある二足歩行の小型哺乳類が視界に飛び込んできたからだ。……いやまぁ、たぶん『ネズミ』の個性とかなんだろうけど、ここまで露骨な異形型はそうそう見かけないし、思わず人間かどうか疑ってしまったのだ。

 

 もう片方は普通の人間ではあるのだが、こっちはこっちで、こう、見た目が……一言で言うと小汚い。黒ずくめだし、髪ボサボサだし、顎髭も口髭もチリチリしてるし。浮浪者とまでは言わずとも、不審者にしか見えないのが正直なところだった。

 

 それぞれだけでもあんまりな二人組の登場に、さしもの蟹田さんも固まっていた。私が思わず眉をひそめてしまったのも、まったくもって無理のないことだろう。

 

「お呼び立てした上に、お待たせしてしまって申し訳ない。初めまして、私はこの雄英高校の校長の根津。そして、こちらは我が校の教師である相澤くんさ」

「――あ、は、はい。ほら、雪柳さん」

「え? あぁ、はい」

 

 蟹田さんに促されて立ち上がり、軽く頭を下げる。

 ……え、いや、校長? 校長って校長? 学校の長と書いて校長……? と、目の前のネズミさんの言葉を噛み砕こうとしてほぼ失敗したが、とりあえず名乗り返すことにした。

 

雪柳氷雨(ゆきやなぎひさめ)、です」

「雪柳さんの保護者の、蟹田です」

 

 私に続いて蟹田さんも自己紹介をすると、根津……校長は一つ頷いた。それから「楽にしてほしいのさ」と言われて、私たちは再び腰を下ろす。根津校長も私たちの向かい側のソファに飛び乗るように座って、小汚い男の人――相澤先生(で、いいのだろうか)も根津校長の隣に腰を掛けた。

 

「さて、雪柳さん、蟹田さん。今日はわざわざ出向いてくれてありがとう。さっそく本題に入ろうと思うのだけど、雪柳さんの合否についての話なのさ」

「お、おぉう……」

 

 本当にさっそくすぎて、思わず変な声が出てしまった。そして、急速に胃が痛くなってきた。

 

「まずは、実技試験についてだね。知っての通り、制限時間内に仮想(ヴィラン)であるロボットを倒して、種類に応じたポイントを加算していく、というものだったわけだけど……雪柳くんのポイントは51ポイント。これだけでも、今年の受験生のトップ10に迫るほどのものだったのさ!」

「は……え、トップ10? トップ10って……いや、これだけでも、って……?」

 

 確か、一般入試の定員は36人だったはず。トップ10に迫る得点だったってことは、つまり。

 あと、これだけでも、という持って回ったような言い方。まるで、他にも加点要素があるかのような……。

 

「ふっふっふっ、その表情、気が付いたようだね……そう、あの試験で見ていたのは、それだけじゃなかったのさ! 審査制の救助活動ポイントが与えられることになっていて、雪柳さんには30ポイントが認められた! よって、合計81ポイント――実技試験の成績トップなのさ!」

「――お、おおお、すごい、すごいじゃないか雪柳さん!」

「…………」

 

 何よりも驚きが勝ってしまって喜び損ねた私の代わりに、蟹田さんが声を上げて喜んでくれた。

 

 実技成績トップ。私すごい。すごくない?

 

 いや、まぁ……記念受験とは言っても、勝算がまったくなかったわけではない。その理由は至ってシンプルで、私の個性がだいーぶ強いからだ。

 ただそれにしても、トップとは……。

 

 段々と事実が身に染みてきて、ニヤニヤしそうになってきた――。

 

「――しかし、ね」

 

 と、思いきや、今の今まで一言も発さなかった相澤先生が突然口を開いた。

 

「残念ながら、すんなり合格とは言ってやれん。心当たりがあるんじゃないか?」

「……あっ」

 

 軽く充血した目で見つめられて、浮かれそうになった気持ちがあっさり沈んだ。

 思い出したのだ。ついさっき自分で蟹田さんに言った、私の個性がだいーぶ強いのに、雄英高校の受験が記念にしかならない理由。

 

「筆記試験、五科目合計三割強」

「……おぉう……」

 

 そう、私は勉強ができないのだ。

 偏差値79の高校のテストなんて、まともに解けるわけがない。むしろ三割も取れてることに驚いた。たぶん、選択問題の勘がよく当たったんだな。

 

「雪柳さん……」

「いやぁ、思ったより取れてましたね」

「ゆ、雪柳さん……」

 

 物凄く微妙な顔と声音で名前を呼ばないでほしいです、蟹田さん。

 

 私たちのそんなやり取りを見て、根津校長と相澤先生は揃ってため息を吐いた。

 

「要するに雪柳さんは、実技の結果はとてもよかったけれど、筆記の方がびっくりするくらい伴わなかった。それで、我々としても判断に困ってしまったのさ」

「は、はぁ……」

「そして、教職員一同での協議の結果……君には、特別スカウト枠として合格を与えるということになったのさ!」

「特別、スカウト?」

 

 何それすごそう。

 

「特別スカウト枠なんていうのは、はっきり言って急ごしらえで作った名前だけのもの。さほど深い意味はないのさ。つまるところ、一般入試では公正さを保つ必要があるから君を合格にするわけにはいかない。けれど、君のその才能をみすみす手放すのは惜しい。だから特別中の特別! 我々の方からのスカウトという形で、君にはぜひとも雄英高校に来てほしいというわけなのさ!」

「はぁ、なるほど。……要するに、合格ということで?」

「端的に言えばそういうことだ」

 

 根津校長の熱弁を噛み砕いて聞き返すと、相澤先生が肯定してくれた。

 

 合格、合格ねぇ。

 ……や、マジか。

 

「思ったより反応が薄いね?」

「なんかちょっと、裏口入学っぽいなって思ってしまいまして」

 

 一般入試での公正さを、とかなんとか言ってたけど、これで公正さを保ってることになるんだろうか。

 ついでに言うなら、私は別に雄英高校への入学に強い思いがあるわけでもないし。実技の成績が良かったこと自体は喜べそうだったけど、雄英に合格できたことが物凄く嬉しかったというわけではないのだ。

 

「でもまぁ、せっかくなのでありがたく」

 

 しかし、断るという選択肢は、ないだろう。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――ふぅ、ほんの一瞬だったけれど、ヒヤッとしたね」

「ええ。まさか、合格を伝えてああも淡泊な反応をされるとは。固辞されていたら面倒でした」

 

 諸々の手続きを終えた雪柳氷雨、そしてその保護者である蟹田を見送った根津と相澤は、校門から校舎へと戻りつつ言葉を交わしていた。

 

「ヒーロー公安が口を挟んでくるなんて、と言いたいところですが。彼女……いや、彼と言うべきでしょうか? とにかく雪柳に関しては致し方ない。合理的な判断だと言えるでしょう」

「そうだね。それに、そもそも雄英高校は国立だから、公安の、ひいては国の判断には基本的に逆らえない。今回の件は、無理に逆らうほどのこともなかったしね。あの場で語ったことがすべてではないけれど、嘘も言っていない。雪柳さんには確かに光るものがあった。それを磨いてあげたいと思う気持ちは、教育者である以上抱いて当然さ」

 

 根津は相澤を見上げて、言う。

 

「相澤くん、雪柳さんのことはきっと君に預けることになる。くれぐれも、よろしく頼むよ」

 

 相澤も根津を見て、しかと頷いてみせた。

 




U.A.FILE.EX
CLASS No.21
HISAME
YUKIYANAGI

〇個性『雪女』
・主には氷や雪を生み出し、自在に操ることができるぞ!
・操れる氷の結晶は、一つ辺りの重さに限度があるが、数はほとんど無制限だ! 一個の大きな氷の塊は持ち上げられないけど、同じ総重量の無数の氷なら自由に操れる! 何がどう違うのか本人にもわからないぞ!
・自分で生み出した以外の氷や雪もコントロール下に置けるが、そのためには直接視認しているか、既に支配下にある氷や雪と接触している必要があるぞ!
・ある時個性の性質が変化して、身体が女性になってしまったぞ!

雪柳’s髪 → 真っ白。前髪ぱっつんで背中まで伸ばしてる。
雪柳’s目 → 透き通った碧。
雪柳’s顔 → キレイ系。
雪柳’s口 → 敬語で擬態。ホントはちょっと乱暴。
雪柳’s胸 → ない。
雪柳’s肌 → 真っ白。興奮や緊張ですぐ赤くなる。
雪柳’s足 → 細い。そして遅い。

オリ主のイメージ画像
その1
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その2
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その3(雄英学生証写真っぽいの)
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その4(中学時代の学生証写真っぽいの)
【挿絵表示】

※イメージ画像は、画像メーカープラットフォーム「Picrew」、「△○□×(みわしいば)」様の画像メーカー三種(https://picrew.me/search/creator?crid=72503)にて作成させていただきました。

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