その後、ちょっと遠めの職員用トイレでお花摘みにいそしんだ私は、
しかし。
「あ、雪柳さん! ようやく見つけましたわ!」
「あれ、百ちゃんじゃないですか。どうかしましたか?」
八百万さん、もとい百ちゃんと廊下でばったり出くわした。どうやら私を探していてようだが、はて。
「実は、午後から女子全員でチアリーディングによる応援合戦を行うそうなんです。クラスの控室にいるものと思ったのですが、とても機嫌の悪い爆豪さんしかいらっしゃらなかったので探しました」
「チアリーディングに、応援合戦? それ、本当ですか?」
「ええ、峰田さんと上鳴さんが、相澤先生からの伝言だと」
峰田くんに上鳴くん……なんて怪しいメンツなんだ。でも、相澤先生の言を騙るなんて大きすぎるリスク、彼らが犯すだろうか……うん、犯さないでもなさそうだな。
「チアリーディングって、体操服のままですか? それとも、衣装も用意されてるんでしょうか」
「いえ、衣装に関しては私の個性でとのことです」
うわぁ、ますます怪しい。なんで学校側がやれって言ってるのに衣装が用意されてないんだ。まして、八百万さんは騎馬戦も勝ち上がってるんだし、その直前にチアの衣装を作らせて消耗させるなんて不合理なこと、相澤先生が言うはずなくない? むしろ、応援合戦なんてやること自体合理的じゃないって言って不参加を勧めそうなのに。
でも、万が一……億が一にでも峰田くんと上鳴くんの伝言が本当だったら、拒否するのはまずいかもしれない。勝手な判断をするなとこっぴどく怒られそうだ。いや、チアしなかったことで怒られるとか、新手のセクハラすぎるけど。
「まぁ、了解しました。そういうことなら急ぎましょう……でも私、チアリーディングなんてできる気がしないんですけど」
「それはまぁ、私も……精一杯気持ちを込めれば、応援の気持ちは伝わるでしょうか」
……そういや私はここでも女子の括りでいいのだろうか、と疑問に思ったが、まぁ見た目が女だしいいのかなとすぐに思い直した。
※ ※ ※
で。
『――最終種目発表の前に、予選落ちのみんなに朗報だ! これはあくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げてもらってる……ん、だが――』
『なーにやってんだ……』
『どーしたA組女子!!?』
今、相澤先生、何やってんだって言ったな……。
「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
怒る百ちゃんの視線の先には、この惨状の下手人である峰田くんと上鳴くんの姿が。二人とも、それはそれは悪い顔で笑いながらサムズアップしてらっしゃる。
私はため息を吐き、それから個性を使って二人の体操服の背中にキンキンに冷やした拳大の氷を生成してあげた。二人は突然奇声を上げて暴れ始め、周りから奇異の視線を浴びていた。
「これでお相子じゃみんなは納得しないでしょうけど、とりあえず私からのプレゼントです」
「ん? 雪柳があの二人になんかしたの?」
「背中に氷を少々」
「うわ、私今想像しただけでぞくっとしちゃった」
芦戸さん改め三奈ちゃんが自分の身体を抱いて、ぶるっと身体を震わせた。
まぁ罰としては大したものじゃないけど、嫌がらせとしては質が高いだろう。
「うぅ……何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「アホだろアイツら……」
がっくりと肩を落とす百ちゃんに、黄色いぽんぽんを投げ捨てながらアホ二名を睨み付ける耳郎さんもとい響香ちゃん。
百ちゃんはとにかく峰田くんたちに騙されたことにショックを受けており、響香ちゃんはどうもチアの格好が恥ずかしいらしい。百ちゃんを慰めているお茶子ちゃんも普段より頬が紅潮しているように見えるので、羞恥を感じているようだ。
「まぁでも、本戦まで時間空くし、張り詰めててもしんどいしさ……いいんじゃない!? やったろ!!」
「好きね、透ちゃん」
おらぁぁ! と、やる気満々ウーマンな透ちゃんはまったくもって恥じらう様子もなく(まぁコスチュームで全裸キメてるくらいだしそりゃそう)、梅雨ちゃんは相変わらずのポーカーフェイスだけどさほど嫌がっていないように見える。三奈ちゃんも同じような感じだ。
で、私はというと……うん、満更でもない。
私は、私の見てくれの美人っぷりを理解している。
別にナルシストというわけではない。元男だった私は、今でこそ女性に対して恋愛感情やら性欲やらを抱くのが難しくなっているものの、しかし今でも女性の容姿をある程度男性目線で評価することができるというだけの話だ。まぁ、結局は私の主観ではあるんだけど、女性として生まれて女性として生きてきた人よりも、客観的な視点を持っていることは間違いないと思う。
それゆえ、私は私のことを着飾るのが結構好きだ。私服なんかも、まぁ自分のセンスの及ぶ限りで、なおかつ面倒臭くない程度にだけどこだわっている。
そして、今回のチア衣装に関しても、多少の気恥ずかしさはあるにしたって、客観的に見て間違いなく似合っている。胸がないのは評価の分かれるところだろうけど、『貧乳はステータスで希少価値』という至言もある。需要はあるのだ。別に求めてないけど。
「雪柳、こういうの嫌じゃないの? あんまり言うもんじゃないだろうけど、ほら、元々……アレじゃん?」
響香ちゃんは言葉を濁しつつ気を遣ってくれたけど、私は首を横に振る。
「いえ、普段できない格好ができて、ちょっと楽しいですよ。男だったら絶対に着れない……や、着るのは自由ですけど、少なくとも私自身は、男の自分が着てる姿見たくないですし。でも、今の見た目なら見苦しいものではないじゃないですか」
「うんうん、氷雨ちゃん超似合ってるよ!」
ただまぁ問題があるとすれば、予選であんな無様さらした奴が何ふざけとるんじゃ、みたいなことを言われるような気がしないでもない点だな。ちなみに実際に言われたらマジのガチで泣く自信がある。全国中継で泣いてやる。
『……えー、まァちょっとよくわかんねぇサプライズもあったが、何はともあれレクリエーションだ! みんな楽しく競い合えよ!』
とりあえずプレマイ先生は深く突っ込まないことにしたらしく、進行を続けていく。
『さてさて、それが終われば最終種目! 騎馬戦からの進出4チーム、総勢16名によるトーナメント形式!! 1対1の、ガチバトルだ!!』
今年も相変わらずトーナメントでのタイマンらしい。去年は確か、スポーツチャンバラだったかな? 一年の部は本放送では見なかったけど、ニュースで取り上げられていたので覚えていた。
その後、くじ引きで組み合わせを決める段になって、突然尾白くんが手を挙げて出場を辞退したいと言い出した。
なんでも尾白くんは騎馬戦の時の記憶がないそうで、それって何かヤバい病気なんじゃと私は心配したが、どうやら彼のチームの騎手――確か、名前は心操といったか。彼に、個性で何かをされたらしい。さらに続けて、同じく心操チームにいたB組のまるっこい男子も辞退を申し出た。
実に男らしい二人の申し出についての判断は主審のミッドナイト先生に委ねられたが、「青臭いのは好み」だそうで、彼らの辞退が認められた。ちなみに、同様に心操チームだった青山くんは普通に参加するとのこと。まぁ、それでこそ青山くんって感じだ。どちらの決断が間違っているというわけでもない。
で、二人の欠場によって繰り上がりをどうするかでまた少し話し合いがあって、結局B組の二名が最終種目に出場する運びとなった。私は騎馬戦をほとんど見ていなかったので細かいことはよくわからなかったが、B組にはB組の絆があるんだな、という印象を持った。
そして、ようやっとくじ引きが行われ、トーナメントの対戦カードが決定した。
一回戦の注目は……どうだろう、さっきのくだりで心操って人が気になるのと、あとはもう一人のヒーロー科以外であるらしい発目という人、あとは一回戦目最後のカード……お茶子ちゃんvs爆豪くんの対戦が、気になるというか心配というか。
『よーしそれじゃあトーナメントはいったん置いといて、イッツ束の間! たのしく遊ぶぞレクリエーション!!』
プレマイ先生の実況の後、ミッドナイト先生がレクリエーションの進行に取りかかる。
私はまた身体を動かしてぶっ倒れたくないので、ミッドナイト先生に許可をもらってレクには参加しないことにした。予選で落ちてしまった私にとっては目立つチャンスかもしれないが、どうせなら衣装も着てることだし、透ちゃんも「やったろう!!」と言っていたことなので、チアリーディングの方を頑張ってみることにした。
「違うよ雪柳! ここは右手はこう! そんで左足はこう! それから腕を振ってその場で一回転!」
「シングルアクセルですね!」
「違うよ!!!」
まぁもっとも、チアリーディングなんてまともに見たことないのでどんな動きしたらいいのか全然わかんないし、三奈ちゃんにダンスのレクチャーをしてもらって適当にぽんぽんを振り回していただけだ。
……それに、ふと思ったのだが、チアリーディングで目立ったところで「彼女はいいヒーローになるぞ! よし、スカウトしよう!」なんて思うヒーローがはたしているのだろうか。うん、深く考えるまでもなく、いるはずがない。てか、そんな動機でスカウトされても断る。
「もしかして私、レクに出て個性のアピールしたほうがよかったのでは……?」
しかし、気が付いた時には後の祭り。いや、体育祭はまだ終わってないけど、レクリエーション種目は全部終わってしまっていた。
……ホント、無理を押して参加したのに、全国に恥をさらしただけで終わりそうなんですけど? やばない?