『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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第27話 雪女と燃え上がる職場体験 その4

 職場体験二日目の朝、コスチュームに着替えた私と師匠は出勤……出勤でいいのか? とにかくまたもや例のでっかい部屋に呼び出されて、エンデヴァーさんと対面していた。

 

「……ニクス。俺の顔に何かついているか」

「うっ、い、いえ何も……えーっと、い、いつもお髭とか燃えてらっしゃいますけど、熱くないのかなぁ、なんて……」

「これは見た目ほど高温ではない。それに、俺は熱に耐性がある」

 

 そ、そうなんだぁ……いや、もちろん本当はそんなことが気になったんじゃなく、昨日師匠から聞かされた話がバリバリに脳裏をよぎってただけなんですけどね。ホント、見る目変わっちゃったな……。

 

 ただ、エンデヴァーさんにそのことを知られるのはよくないと思うので、表には出さないようにぐっと我慢。師匠ですらも、ここには父親としてでないナンバー2ヒーローとしてのエンデヴァーさんを見に来たのだと言っていたわけだし、私もそういうつもりでエンデヴァーさんを見よう。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい。今日からは、おまえたちにヒーローとはどんなものかを実地で見せてやる」

「パトロールにでも行くのか」

「否、目標は〝ヒーロー殺し〟だ」

「「!」」

 

 私と師匠は、顔を見合わせた。

 

「ヒーロー殺しの出現には一定のパターンがある。そのパターンに則れば、奴はまだ保須市に潜伏している可能性が高い。しばしの間、保須市に出張して活動する。おまえたちにはそれに付いてきてもらうぞ」

「……はい」

「……わかった」

 

 ヒーロー殺し。

 保須。

 

 私と師匠の頭に思い浮かんだのは、()のことだった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ブリーフィングの後、その日の昼頃には、私たちは保須市へ到着していた。

 移動は社用車で、大きめの、しかし長くないリムジンみたいな車だった。大統領とかが乗ってそうな感じだ。

 専属の運転手さんがいて、後部に私と師匠、エンデヴァーさん、そして二人のサイドキックが乗り込んだ。サイドキック二名はそれぞれキドウさんとオニマーさんというらしく、昨日私たちの面倒を見てくれたフランベさんは別件にあたっているらしい。

 

 保須に着いてからは、市内のパトロールを行った。

 キドウさんとオニマーさんのサイドキック二人組が別行動で、私と師匠はエンデヴァーさんの後ろにくっついて行く形だった。少なくとも今日は、余程の緊急時以外に私たちへの戦闘許可は出さないと言われた。つまりは見学ってことだ。

 師匠はちょこっと不満そうにしていたが、私は文句はない。妥当な判断だと思う。

 何せ、私たちが出会うかもしれないのは、あのヒーロー殺しなのだ。そういうヤバい奴に向かって出しゃばると痛い目を見るのは、身をもって知っている。

 

 ……ただ結局、この日はヒーロー殺しどころか、他の(ヴィラン)にすら遭遇することはなかった。ヒーロー殺しの出現により、他の犯罪者たちが軒並み鳴りを潜めてしまっているのだろうというのがエンデヴァーさんの推察だ。

 今日やったことといえば、ひたすらに街を練り歩き、たまに通りがかった人に声をかけられて、ファンサービス的なことをするばかりだった。

 

 エンデヴァーさんが歩いていると、まぁ目立つ。大通りの反対車線側の歩道からですら視線を向けられているのがわかるくらいには、注目を集めていた。

 しかし、エンデヴァーさん自身に声をかけに来る人はほとんどいなかった。まぁ見るからにいかつくて威圧感あるし、ファンサービスとか全然しなさそうだ。たぶん、実際しないんだと思う。

 でも、とにかく目立っていたので、そのついでで私と師匠に気が付く人が結構多かった。師匠は言わずもがな体育祭の準優勝者でエンデヴァーさんの息子だと知れ渡っているし、私だって良くも悪くもかなり知られているだろう。そして、私も師匠も顔を隠すようなコスチュームでない上に、髪色とかが特徴的なので簡単に気が付かれてしまったわけだ。

 エンデヴァーさんも私や師匠のもとへ人が寄ってくる分には何も言わなかった。程々に切り上げるようには促されたものの、少し意外だったかもしれない。

 

 ちなみに私は握手も写真撮影も割とこなれてきており、存分に愛嬌を振りまいて対応した。

 対する轟師匠は戸惑ってこそいないがぎこちなく、笑顔を見せるような感じではなかった。まぁ、師匠がいきなりキラッキラに微笑んで「応援ありがとう! これからもよろしく!」とか言い出したら逆に怖い。何もしなくてもイケメンだし、クールなタイプなんだと好意的に解釈してもらえるだろう。

 

 ……話がだいぶ逸れたな。

 まぁ要するに、職場体験の二日目は存外何事もなく終わった、ということだ。

 

 事態が動き出したのは、職場体験三日目の夜。私たちが保須市に入ってから二日目のことだった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 発端は、爆発だった。

 

「――何、今の……?」

「焦凍! ニクス! 付いて来い!!!」

 

 私が立ち止まって呟いた時には、既にエンデヴァーさんは走り出していた。

 師匠もすぐにそれに反応して、私は一人だけ出遅れてしまった。

 

「あ、ちょ……すみませんエンデヴァーさん、個性の使用許可を! 移動に!」

「許可する! 早く付いて来い!!」

 

 エンデヴァーさんも師匠も走るのが早くて、私の足では付いて行けない。個性の使用許可を取り、すぐさま【氷衣】を使って、ふわりと宙に浮きながら彼らに追いすがる。

 

「エンデヴァーさん、今のって……!」

「何かはわからん! しかし、確実に何かが起こっている!」

 

 宵闇の空が明るく照らされている。黒い煙がモクモクと立ち込めており、かなり広い範囲で火の手が上がっているようだった。

 

「いいか、よく見ていろ焦凍! ニクス! ヒーローとは何たるかを今日こそ見せてやる!」

 

 エンデヴァーさんがめちゃくちゃ張り切っていた。なんかこう、師匠に良いところ見せようと勢い込んでいるような感じ。師匠の家庭環境を聞いてなければ、もっと純粋に微笑ましく思えたんだけど……。

 

 現場へ急行している途中で、キドウさんとオニマーさんが合流してきた。別段示し合わせたわけではなく、彼らも爆発音を聞いて駆けつけてきていたようだ。

 

 そして、さらにほんのしばらくした頃、ふと、裾の内側のポケットに入れてあるスマホがブルブルと振動した。

 こんな時になんだろうと思って、取り出すかどうか悩んでいると、隣を走っている師匠がスマホを見ていた。走りスマホだ。

 

「着信ですか? 今、私のスマホにも何か来たっぽいんですけど」

「緑谷からだ。クラスのグループに……位置情報だけ」

「緑谷くん? 位置情報?」

「焦凍ォ! ケータイじゃなく俺の背中を見ろ焦凍ォ!」

 

 師匠はエンデヴァーさんをガン無視して、眉間に皺を寄せていたかと思うと、突然立ち止まった。

 

「――雪柳、これ、SOSかもしれねぇ」

「え?」

「あいつ、意味もなくこんなことする奴じゃねぇだろ。確証はねぇが……」

 

 師匠の言葉で、私はようやく事の重大さに気が付いた。

 

「――轟くん、私が運びます。背中に乗って下さい。案内お願いします」

「大丈夫なのか?」

「余裕です。ちょっと冷えますけど、ちゃんとベルトもしますよ」

 

 私は師匠に背を向けて、彼をおんぶした。帯に纏っていた氷を延長して、師匠の身体に巻きつける。

 

「何をしている!? どこに行くつもりだ焦凍ォ! ニクスゥ!」

「江向通り4-2-10の細道。そっちが済むか、手の空いたプロがいたらそこに応援頼む。おまえならすぐ解決できんだろ」

「何を」

「友だち、ピンチかもしれねぇ」

 

 師匠がポンポンと肩を叩いたのを合図に、私は「しっかり掴まっててください!」と言って空高く飛び上がった。

 

「で! どっちですか!?」

「向こうだ! あそこのビルの貯水槽見えるか!? あっちの方向に向かって真っすぐだ!」

「了解!!」

 

 私と師匠の体重を合わせて、少なくとも100㎏超。この程度なら【氷衣】の氷を含めてもまだまだ力は有り余る。その有り余った力を、私や師匠の身体が耐えられる限り、スピードに回すことができるわけだ。

 

「――うっ、くっ……! はえぇな……!!」

「頑張って耐えてください!! あと、方向転換は早めに指示を!!!」

 

 これ、背負うよりも抱きかかえたほうがよかったかもしれない……! うん、反省! 次回に活かそう!

 

「あのビルの広告看板を過ぎたら右に! そっからすぐの広めの通りに、ラーメン屋が見えるはず! そのすぐ脇の路地裏だ!」

「はい!」

 

 どこかで見た覚えのある女性ヒーローが映ったシャンプーの広告看板を通り過ぎて、すぐに右へ方向転換。道幅が広い通りが見えてきて、ラーメンの文字が視界に映る。

 

「あそこの路地裏ですね!? 上から探しましょう!」

「ああ!」

 

 私はすぐにでも止まれる程度までスピードを落とし、件の路地の上空を飛ぶ。

 

 ――すると。

 

「――いた、あれだ!」

「降ります!」

 

 人影が三つ、四つ。

 壁に寄りかかって座っているのは見たことのない人で、少し離れた位置で膝を突いているのが緑谷くん。

 そして、地面にうつ伏せで倒れている白いアーマー姿の人物が飯田くんで、今にもそれに刀のような刃物を突き立てようとしているのが――。

 

「轟くん!! 氷出して!!!」

 

 私が大声で言うと、返事の代わりに師匠が右手を伸ばし、そこから大量の氷を発生させた。

 私はその氷を即座に支配下に置き、いくつもの氷柱(つらら)へと形状を変化させ、刀を持った包帯まみれの男に向けて容赦なく発射した。

 

「――!」

 

 声を出したせいで完璧な奇襲にはならず、包帯男は瞬時に反応して私の攻撃をすべて回避。氷柱は伏した飯田くんを避けて地面にぶつかり、粉々に砕け散った。

 

 私は師匠と共にふわりと着地。すぐに師匠を氷の安全ベルトから解放して、二人で並び立った。

 

「飯田くん、緑谷くん! 大丈夫ですか!?」

「雪柳さん! それに、轟くんも!」

「緑谷、ああいうのはもっと詳しく書くべきだ。しばらく意味考えて、無駄に時間かかっちまった」

 

 その指摘は後でよくない!? と私は思わず師匠に顔を向けたくなったが、ぐっとこらえた。今、大きく飛び退った包帯男――〝ヒーロー殺し〟から目を離すのは、危険すぎる。

 

「――轟くん、雪柳くんまで……!」

 

 飯田くんが地面に伏したまま、絞り出すように声を上げた。赤い色がちらりと見えた時には血の気が引いたが、最悪には至っていなかったらしい。間に合って、よかった。

 

「雪柳、俺が前に出る」

「私がサポート、ですね」

 

 轟師匠を矢面に立たせることへの不安はあるが、それが一番合理的。

 先ほどの回避行動から鑑みて、相手の動きはかなり速い。私の氷の生成速度では後れを取ってしまうだろうから、師匠の素早い氷結攻撃を私が操作して補助するのがきっと最善だ。

 

「応援が来るまで数分、耐えるぞ」

「はい!」

 

 師匠が右足からノーモーションで氷を伸ばしていくと、ヒーロー殺しは跳躍してこれを避けた。私はそこですかさず師匠の氷の一部を操作し、再び氷柱を生成してヒーロー殺しに攻撃を仕掛けたのだが、奴は空中で身体を捻ることで刀を振ってあっさりと相殺してきた。

 

 ただ、その間に師匠が緑谷くんと飯田くん、それとおそらくプロヒーローの人の三人を氷で持ち上げて滑らせ、私たちの背後へと移動させることに成功する。

 

「刃物、包帯、赤いマフラー……それに、あの身のこなし。ブリーフィングで聞いた通りの感じですね」

「ああ……だが、こいつらは殺させねぇ」

 

 ヒーロー殺しは難なく地面に着地した後、動き出そうとはしなかった。私たちの様子を窺っているように見える。

 

「二人とも! そいつに血を見せちゃダメだ!! たぶん相手の血を経口摂取して自由を奪う個性だ! 僕らはそれでやられた!」

 

 緑谷くんが背後でそう叫んだ。

 なるほど、それで三人とも身動きが取れなかったわけか。飯田くんはともかく、他の二人は大怪我をしているようには見えなかったから不思議だったのだ。

 

「それで刃物か……なら、距離を取って――」

「――危ないっ!」

 

 ほんの一瞬、たぶん無意識な瞬きの合間を縫って、ヒーロー殺しは師匠に目掛けてナイフを投げていた。

 師匠の半歩後ろで見ていた私はいち早くそれに気が付き、近くにあった氷柱の残骸を咄嗟に操作してナイフにぶつけ、軌道を逸らすことに成功した。

 

「――良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」

 

 ただ、当然ヒーロー殺しは追撃してくる。

 ナイフの方に注意が行っていた師匠に一瞬で接近し、逆手に持った幅の広い大型ナイフで師匠を切りつけようとしたのだ。

 師匠は咄嗟に氷でガードしたが、ヒーロー殺しが突然ちらりと上空に視線を動かした。師匠も、そして私もそれに釣られて上を見ると、私の頭上に刀が放り投げられて今にも落ちてこようとするのが目に映った。

 

「――っぶねぇ」

 

 私がそれを【氷衣】によって緊急回避しようとしている間に、ヒーロー殺しは師匠に攻撃を加えようとしたらしく、師匠はここまで見せなかった左側の炎を使うことを余儀なくされたようだった。

 

「轟くん、左を……!」

 

 緑谷くんが驚きの声を上げているが、私はそれに反応している余裕はない。

 ヒーロー殺しは地面を蹴り、壁を蹴り、空中にあった刀を掴み、そしてそのまま私をまっすぐ見下ろして、重力に引かれるままその刃を振り下ろしてきたのだ。

 

 背後の足元には飯田くんやプロヒーローの人がいる。

 回避は、出来ない。

 

「雪柳!」

「ッ、大丈夫ッ!」

 

 私は右手で左の義手の手首を掴み、迫りくる刃を待ち構えて――受け止めた。受け止めることが、できた。

 

「ハァ……籠手か何かか……!」

「うっ、くっ……!」

 

 しかし、ヒーロー殺しは刃が通らなかったことを確認するや否やそのまま地面に降り立つと、返す刀で私の右腕の方を切りつけてきた。纏っていた氷のおかげで傷は浅い、が、確かに痛みが走った。

 

 さらにヒーロー殺しは足裏での蹴りを放ってきて、私はそれを腹部にもろに食らってしまう。帯に纏っていた氷が砕けて緩衝材になったようだが、それでも胃液がこみ上げてきた。

 ただ、それをなんとか堪えて、さらなる追撃を許さないように砕け散った【氷衣】の氷を流用して氷柱を作りだし、ヒーロー殺し目掛けて放った。

 

 もっとも、そんな単純な攻撃がヒーロー殺しに当たるはずもなく、しかし奴は師匠に背後を取られる立ち位置を良しとしなかったようで、師匠の頭上を跳び越えるようにして一度私たちから距離を取ってみせた。

 

「――ッ、こ、れか……!」

 

 薄皮を一枚切られた程度だったが、どうやらしっかり血を取られたらしい。ヒーロー殺しが刀をなめる仕草をした途端、ゾワリと総毛立つような感覚がして、指先の一本すら動かせなくなってしまった。

 ……いや、義手だけは動かせるようだ。指が動くし、肘もおそらく曲げられる。ただ、結局は肩を動かすことができないので、特別何かができそうな感じでもない。

 

 でも、私には【氷衣】がある。自由自在には動けずとも、倒れることはない。

 私は再びまったく身動きの取れない三人の前、師匠のすぐ後ろという立ち位置に移動して、【氷衣】で身体をその場に固定した。

 

「……何故……」

 

 私の背後で、飯田くんが小さく呟くのが聞こえた。

 

「何故だ……三人とも……やめてくれよ……」

 

 師匠はヒーロー殺しが私たちの方へ向かわないように攻撃を重ね、その間隙をかいくぐってくる奴の攻撃をなんとかいなし続けていた。

 

「兄さんの名を継いだんだ……僕が、やらなきゃ。そいつは僕が……!」

「継いだのか、おかしいな……」

 

 師匠は、飯田くんの言葉に返すのと同時に、今日一番の大氷結を繰り出した。ヒーロー殺しの野生動物のような素早い身のこなしを捉えることは叶わなかったが、またもや大きく距離を置かせることを強いた。

 

「俺が見たことあるインゲニウムは、そんな顔してなかったぞ。おまえん家も裏じゃいろいろあるんだな……」

 

 師匠がなんだか若干的外れっぽいことを言ったところで、突如、師匠の生み出した氷塊がいくつもの破片に寸断された。

 

「己より素早い相手を前に、自らの視界を遮る……愚策――」

「――でも、ない!」

 

 私は、視界に入っているすべての氷の破片を支配し、奥にいるヒーロー殺しへ向けて放った。一撃でも当たればノックダウンし得るような速度で、だ。

 

 が。

 

「ぐっ!?」

「っ、轟くん!!」

 

 突然、師匠の左腕に小さなナイフが二本、突き刺さった。ヒーロー殺しが私の攻撃の合間を縫って、投擲してきたのだ。

 

「ハァ……氷の操作か……悪くないコンビネーションだが、愚策は愚策だ」

 

 そして、奴自身は何度目かの大きな跳躍を見せ、空中に躍り出ていた。

 どこからか取り出した数本のナイフを片手で構えて、真っすぐに私を見つめていた。

 

「――く、っそ……!」

 

 まだ、身体は動かせない。【氷衣】で四肢を操って、なんとかするしかない。

 避ける? いや、さっきと同じかそれ以上に、避けたら背後の飯田くんたちに当たりかねない。

 では防ぐ? 氷の生成も近くの氷を寄せるのも間に合わないし、【氷衣】の操作で正確に投げナイフをガードできる自信がない。

 

 どうすれば、と思考が停止しかけたその時――視界の端から緑色の光が飛び出していくのが見えた。

 

「緑谷!」

「緑谷くん!」

「なんか、普通に動けた!!」

 

 なんかってなんだ!? と思ったが、お腹が痛んで声には出せなかった。

 

「時間制限か」

「いや、あの子は一番最後にやられたはずだ! でも俺はまだ動けない!」

 

 師匠の呟きに倒れたプロヒーローの人が答える。つまり、何か解除の条件があるってことだろうか? それとも……。

 

「ぐへっ!」

 

 ヒーロー殺しに掴みかかっていた緑谷くんが、振り払われて地面に落ちる。直後、師匠が「下がれ緑谷!」と声をかけて氷結攻撃を仕掛け、私はそれをアシストするがやはりヒーロー殺しは捉えられない。緑谷くんがこちらに転がってくるのを守れた程度だ。

 

「……血を取り入れて動きを奪う個性、僕だけ先に動けた理由は3パターン考えられる。人数が多いほど効果が薄れるか、血の摂取量か、あるいは血液型……」

 

 緑谷くんの考察に対し、プロヒーローさんはB型、飯田くんはA型だと答える。私は飯田くんと同じA型だが……。

 

「血液型……ハァ、正解だ」

 

 ヒーロー殺しは舌なめずりしながら、あっさりとそう言った。別に奴が親切なわけではなく、わかったところでどうしようもない、ということをわからせるためだろう。

 

「……雪柳、おまえの個性で二人担いで、逃げられるか」

「厳しい、と思います。私自身も【氷衣】で無理やり身体を支えているだけなので、咄嗟の状況に対応できません。今、あれに背を向けるのは危険すぎます」

「そうか……なら、プロが来るまでとにかく粘るしかねぇな。近接は避けた方がいい」

「そうだね。轟くんは血を流し過ぎているし、雪柳さんもまだまだあいつの個性の効果時間が続くはずだ。僕が奴の気を引き付けるから、二人で援護を!」

「相当危ねぇ橋だが」

「渡るしか、ないですね」

 

 私たちが話している間、ヒーロー殺しはじっとこちらを見つめてきていた。仕掛けてこないのは正直不気味の一言に尽きるが、方針を擦り合わせる猶予を得られたのは好都合だった。

 

「……ハァ……おまえたち三人は、いいな……生かす価値がある……三対一というのは、甘くないが」

 

 ヒーロー殺しが僅かに身じろぎするのと同時に、私たちは改めて身構える。

 

「緑谷、雪柳。三人で、守るぞ」

 

 轟師匠がそう言った直後、緑谷くんがヒーロー殺しへと向かっていった。

 




 
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