『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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4.期末試験編
第33話 雪女は林間合宿に行けないようです


「……えー、そろそろ夏休みも近いが、雄英ヒーロー科でヒーローを目指す君たちが30日間、一か月も休んでいられる道理はない」

 

 ある日の帰りのHRにて、相澤先生がそんなことを言い出した。

 しかし、夏休みのスタートは七月下旬に入ったあたりのはずで、まだ一か月以上も先だから近いと言われてもあんまりピンとこなかった。あれかな、年取ると月日が過ぎるのがあっという間になる的なやつ。相澤先生に直接言ったら流石に怒られそうだ。

 

 ともあれ、相澤先生は若干ざわついた私たちに向かって言い放った。

 

「夏休み、林間合宿やるぞ」

「知ってたよ―――!!! やった―――!!!」

「肝試そ―――!!」

「風呂!!」

「花火」

「風呂!!」

「カレーだな……!」

「行水!!」

 

 一人うるさいブドウがいるけど、みんな黙殺している。

 私の前の席の百ちゃんは、「環境が変わると活動条件も変わってきますわね」と一際真面目なことを言って、さらにその斜め前の席では常闇くんが「いかなる環境でも正しき選択を、か……面白い」とちょっとカッコイイことを言っていた。あとブドウが「湯浴み!!」とまた叫んでいた。うるさい。

 

「寝食みんなと! ワクワクしてきたぁあ!!」

「――ただし」

 

 透ちゃんが大きな声をあげたところで相澤先生が食い気味に口を開くと、1年A組は一瞬で静かになった。

 

「……その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、学校で補習地獄だ」

「みんな頑張ろーぜ!!!」

 

 相澤先生の宣告を聞いた切島くんや上鳴くんが、みんなを、あるいは自分を鼓舞するようにそう言った。

 

 ……残念だけど、物事には頑張ってどうにかなるものと、ならないものがあるんだよなぁ。ひさを。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ――と、そんな話があったのは、もはや半月ほど前のこと。

 あっという間に時は流れて、期末試験まで残り一週間を切っていた。

 

「全く勉強してね――――!!!」

 

 朝の教室で上鳴くんが叫び、三奈ちゃんが壊れたスピーカーのようにひたすら笑っていた。

 

「体育祭やら職場体験やら行事続きで全く勉強してねぇ――――!!」

「確かに、行事続きではあったが……」

「中間はまぁ……入学したてで範囲も狭かったし、特に苦労はなかったんだけどなぁ。筆記もだけど、何より期末は……」

「――演習試験もあるのが(つれ)えところだよな」

 

 砂藤くんの言葉を引き継いだのは、妙に余裕な態度の峰田くん。机に頬杖を突いて、あらぬ方向を向いていた。

 

「……峰田おまえ……中間何位だったんだ……?」

「9位ですが、何か?」

「え、えぇ――――!? あんたは同族だと思ってたのにィ――――!!!」

「おまえみたいなのはバカで初めて愛嬌出るんだろうが!! どこに需要があんだよどこに!!!」

「ま、〝世界〟かな」

 

 峰田くんがフッと鼻で笑ったところに、緑谷くんが口を挟む。

 

「あ、芦戸さん、上鳴くん! が、頑張ろうよ! やっぱり全員で林間合宿行きたいもん! ね!」

「うむ!! 俺もクラス委員長として皆の奮起を期待している!!」

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ……と、言いてぇところだが」

 

 緑谷くんに続いて飯田くんがカクカク動きながら言って、師匠がちらりと私に視線を送ってくる。

 

「……お、おぉ、雪柳おまえ……そんな綺麗で儚げで悲しい笑顔を……」

「……上鳴くん、三奈ちゃん、大丈夫ですよ。世の中、下には下がいます。もしも補習になってしまっても、大丈夫。私がいますから。必ず私がいますから」

「か、完全に諦めてる……なんてむなしい……」

 

 クラスのみんなから生暖かい視線を向けられるけど、私の心には波風の一つも立たない。完全、完璧に凪いでいる。

 

「ま、まぁ雪柳は……中間ですら補習やらされてたもんな……」

「一週間以上、放課後毎日……あれはちょっとかわいそうだったね……」

 

 ……完璧に、凪いでいる。

 

「雪柳がそんなに勉強できないの、かなり意外だったよな。なんていうかほら、八百万と似たような気配があったっていうかさ」

「てか氷雨ちゃん、あれでどうやって雄英の入試受かったん……?」

「ちょ、お茶子ちゃん! それは……!」

 

 ……か、完璧に……。

 

「――ハッ、そのクソバカ女はお情けで合格してんだ。筆記がろくに取れねぇクソカスだったんで、雄英が特別枠を設けたんだとよ」

 

 …………。

 

「え、特別な枠? 何それ……って、あれ? 雪柳……泣いてる?」

「え!? ちょ、ちょっと氷雨ちゃん大丈夫!? ちょっと爆豪くん! 氷雨ちゃん泣いちゃったじゃん!」

「あわわ、ごめん氷雨ちゃん! 私が気ぃ遣わんであんなことゆーたから……!」

 

 私は机に突っ伏してさめざめと泣いた。おのれ爆殺王、なんでこんなタイミングで暴露したんだ。てか、ホントに相澤先生に聞きに行ってたのか……!

 

「……うぅ、ぐすっ。いいんです、いいんです。確かに爆殺王くんの言う通りなんです。私、筆記で三割くらいしか取れなくって、それでも実技の結果が優秀だったからって、特別枠を設けてもらって入学したんです。ええ、そうです裏口入学みたいなもんなんですよ……」

「特別枠……!? いや、確かにさ、一般入試の合格者数って36人で、推薦入試の合格が4人って毎年決まってるって話だったから、なんでヒーロー科の人数41人なんだろうってずっと不思議だったけど……」

「まさか、雪柳が例外の枠だったとはな」

「ねぇねぇ、実技が優秀だったっていうけど、どのくらいだったの? もしかして爆豪より上とか?」

「……はい。(ヴィラン)ポイントが50ポイントくらいで、救助ポイントが30ポイント。合計80ポイント越えでした」

「は、はちじゅう! いやすげぇな!」

「実際、雪柳さんは実技面で非常に優秀ですものね。最近のヒーロー基礎学では特に」

「まぁ自由な校風が売り文句だしな? 雪柳のヒーロー基礎学での成績見たら、文句は言えねぇって」

 

 なんかみんなめっちゃ褒めてくれる……肯定してくれる……心が癒されていく……。

 

 鼻を啜りながら顔を上げると、前の席の百ちゃんが私の方に振り向いていた。

 

「……あの、雪柳さん。私、座学ならお力添えできるかもしれませんわ。上鳴さんや芦戸さんも、いかがでしょうか?」

「ヤオモモ――――!!!」

「百ちゃん様……!」

 

 百ちゃんの提案に三奈ちゃんが諸手を上げて喜び、私も引っ込んだ涙がまた滲みそうになった。八百万の神ならぬ、八百万が神だ。

 ありがたやーありがたやーとモモゴッドを拝もうとしたのだけれど、当の彼女は何故か突然がっくりと肩を落とした。

 

「……まぁ、私……演習の方はからっきしでしょうけど……」

「も、百ちゃん?」

「あっ、いえ、なんでもありませんわ」

 

 なんだかよくわからないけど、演習試験が不安なのだろうか。百ちゃんならそんなに不安がるようなことはないと思うけど……。

 百ちゃんの様子が気にかかったのは私以外には師匠だけのようで、私が目を合わせて首を傾げると師匠はわずかに首を横に振った。どうやら師匠もよくわからないらしい。

 

 慰めようにもなんと声をかければいいかわからず言葉に詰まっているうちに、響香ちゃん、瀬呂くん、尾白くんが百ちゃんの傍に近寄ってきた。

 

「ねぇ八百万、三人ほどじゃないんだけど……ウチもいいかな? 二次関数の応用でちょっと躓いちゃってて……」

「わりィ俺も! 八百万、古文わかる?」

「できれば、俺も……」

 

 そして、次々に百ちゃんへそんなお願いをしたところ、百ちゃんの表情が見る見るうちに明るくなっていって、彼女は元気いっぱいに「良いデストモー!!」と両手を上げて立ち上がった。

 

「では週末にでも私の家でお勉強会を催しましょう!!」

「まじで!? ヤオモモん家楽しみー!」

「……なぁ、水差すようでわりィけど、八百万一人で全員見てやるのは流石に負担なんじゃねぇか?」

「む、確かにそうだな。八百万くん一人に任せてしまうのはよくないかもしれない。よし、ならば俺も学級委員長として協力しよう! 轟くんや緑谷くんも、教える側に回れるんじゃないか!?」

「まぁ、でしたらなおさら私の家へ! お母様に頼んで講堂を開けてもらわないと!」

 

 ……なんか話が妙に大きくなってきたし、何より百ちゃんの家が大きそう。講堂って何? それって個人が所有するものじゃなくない?

 

 それから百ちゃんはどんどん盛り上がっていって、私たち相手に贔屓の紅茶があるかどうかなんて聞いてきたけど、飯田くん以外はろくに返答できなかった。ナチュラルに生まれと育ちの違いを叩きつけられたが、百ちゃんが物凄くプリプリして張り切っていてかわいかったので、みんなどうでもよくなっている感じだった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 その日のお昼、私はちょっと珍しい面子と一緒に学食に来ていた。

 緑谷くん、お茶子ちゃん、飯田くん、轟師匠、梅雨ちゃん、透ちゃん、そして私という七人だ。

 緑谷くんとお茶子ちゃん、飯田くんは、まぁおなじみの三人組。一堂に会しているのはまったく珍しくない。

 で、職場体験以降、私と緑谷くん、飯田くん、轟師匠の四人は親密になって一緒に行動する機会が増えている。秘密の共有って、仲間意識芽生えるよね。

 お茶子ちゃんと梅雨ちゃんは席が近いこともあって仲良しで割とよく一緒に学食に行ってるようだし、私と透ちゃんも似たような感じだ。……というか、女子は結構その日その日で一緒に食べる人が流動的に変わってる。お弁当だったりそうじゃなかったり、という人が多いのがそうなっている理由の一端かもしれない。

 

 とにもかくにも、それぞれだけならよくある組み合わせなのだけれど、この全員が一緒に、というのは間違いなく初めてだった。

 

「うーん、筆記試験は授業でやった内容のはずだからなんとかなりそうだけど……演習試験の内容が不透明で怖いね」

「筆記はまだなんとかなるんや……」

「……緑谷くん、言葉には気を付けてくださいよ……」

「え、あ、ごめん雪柳さん……! ほ、ほら、僕らができる限り教えるから、雪柳さんもなんとかなるよ……!」

 

 私はハンバーグをお箸で切り分けながら、乾いた笑いを零す。

 

「ま、まぁまぁ氷雨ちゃん……えっと、演習試験は一学期でやったことの総合的内容だ、って……」

「ええ、相澤先生がそう言ってたわね。でも、正直それだけの情報じゃ全然わからないわ」

「戦闘訓練と救助訓練、避難器具とか救助器具の使い方も教わったけど……振り返ってみると基礎トレが多かったよね」

「うん、そうだね。とにかく、試験勉強に加えて体力面も万全にしておくのが無難――あいたっ!!」

 

 ふと、緑谷くんの背後に一人の男子生徒がやってきて、どう見ても故意に緑谷くんの頭に肘をぶつけた。私たちは思わずぎょっとして、その下手人に視線を向けた。

 

「――おやおやごめん、君の頭が大きいから当たってしまった」

「き、君はB組の! えっと……物間くん! よ、よくも!」

 

 緑谷くんが後頭部を押さえながら噛みつこうとしたけど、男子生徒――物間、というらしい彼は食い気味に口を開いた。

 

「君ら、ヒーロー殺しに遭遇したんだって? A組ってさ、体育祭に続いて注目浴びる要素ばかり増えていくよねぇ。ただその注目って決して期待値とかじゃなくて、トラブルを引き付ける的なものだよね?」

 

 ……おぉん? なんだぁコイツ……?

 

「あぁ怖い! いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らまで危険な目に遭うかもしれないなぁ! あぁ怖――」

「――物間シャレにならん。雪柳の件でそういうのはホントにダメだって言ったでしょ。それに、飯田の件だって知らないの?」

 

 そろそろコイツしばくか、と私が袖を捲ろうしたところで、突如物間くん……いや物間でいいや。物間が膝からがくっと崩れ落ちた。

 物間を手刀で沈めたのは、オレンジ髪のサイドテールで健康的なスタイルの女子生徒だ。体育祭で見た覚えがあるけど……。

 

「拳藤くん!」

 

 ……ああ、そうだ拳藤さんだ。どのタイミングで、誰からだったか忘れてしまったが、ちらっと名前を聞いたんだ。直接話はしたことないけど、向こうも私のことを知っているらしい。

 

「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだ」

 

 心がアレなのか。まぁアレじゃなければあんな発言はできんだろうね。

 拳藤さんは私のことも引き合いに出していたけど、まぁそれはどうでもいい。私が怒っているのは飯田くんに対してのことだ。まったく、もう一か月も前のこととは言え、あんなほじくり返し方するかね。

 

 まぁなんにせよ、拳藤さんは物間を止めてくれた良識ある人だ。不快感を前面に出すようなことはするまいと、大人しくしておく。

 

「……ねぇ、あんたらさっき、期末の演習試験不透明とか言ってたよね? あれ、入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」

「ん? それ本当ですか? どうしてご存じで?」

「私、先輩に知り合いいてさ。ちょっとズルだけど聞いたんだ」

 

 はー、なるほど……いや別に、ズルってほどのこともないと思うけどな……。

 

「……いや、ズルじゃない、ズルじゃないよ! そうだよきっと事前の情報収集も試験の一環として組み込まれててだから相澤先生もあえて詳しい説明をしてくれなかったんだそっかそうだよね先輩にでも聞けばよかったんだどうして僕は気が付かなかったんだ――!」

「……拳藤さん、それは気にしなくていいですよ。緑谷くんの持病の発作みたいなものなので」

「あ、あはは、A組にもいろいろいるんだね……」

 

 拳藤さんだけでなく、私の隣でお茶子ちゃんも苦笑いを浮かべていた。そろそろA組の面々は緑谷くんのぶつぶつモードにも慣れてきたけど、初めて見る人にはちょっと刺激が強かろうて。

 

 と、そんなやり取りをしているうちに、物間が再起動して顔を上げた。

 

「バカなのかい拳藤……せっかくの情報アドバンテージを!! ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったというのに……!」

「別に憎くはないっつーの」

 

 物間の首元に再びトッ、と拳藤さんの手刀が炸裂し、奴は今度こそ完全に沈黙した。南無三。

 それから拳藤さんは挨拶もそこそこに、物間を引きずってそのまま去っていった。

 

 ……なんだか突然嵐がやって来て、あっという間に去っていったみたいだった。しかしともあれ、私たちは期せずして値千金の情報を得ることができた。拳藤さん的には単なるお詫びのつもりだったりしたのかもしれないけど、本当にありがたい限りだ。

 

 

 ――で、その情報をクラスのみんなに伝えたのは、放課後のことだ。対人戦闘だと個性の調整が大変な上鳴くんと三奈ちゃんの二人は特に安堵していて、「やったぁ」って感じの気の抜けた笑顔を浮かべていた。

 

 しかし、これに何故か突っかかったのが爆殺王くんだった。

 爆殺王くんは「個性の調整なんて勝手にできるもんだろうが」とナチュラル天才発言をした上で、さらに緑谷くんへとその矛先を向けた。最近個性の制御を身に付け始めた緑谷くんのことが何やら気に入らないようで、「期末試験の結果で完膚なきまでの差をつけてぶっ殺してやる」と宣言したのだ。

 爆豪語における「ぶっ殺してやる」という言葉が「ぶっ倒してやる」くらいの意味であることはもはや周知の事実だけど、それにしたって穏やかじゃない。

 いやまぁ、爆殺王くんが穏やかだったことなんてそもそもないけど、確実にいつもより荒れ狂っていた。何せ、師匠や私に対してまで名指しで宣戦布告をしてきたくらいなのだ。

 

 それから私たちが返事をする間もなく、爆殺王くんはドアを破壊しそうな勢いで開け放って、帰っていってしまった。

 その様子を見た常闇くんが「焦燥……あるいは憎悪……?」と小さく呟いていて、まぁ流石に憎悪は言い過ぎだと思ったものの、しかし爆殺王くんはそれに類するような感情を抱えている様子は私にも見て取れた。

 

 なんだかとても不穏だったけれど、一つだけ確信をもって言えることがある。

 

 私は間違いなく、自分の筆記試験の心配をしたほうがいいということだ。




はい、というわけでまたまたまとめて御礼を。

20万UA突破、お気に入りおよそ4000件、感想300件超、本当にありがとうございます。また、高評価もたくさんいただいておりましてとても嬉しいです。万人に受けるとは端から思っていないとはいえ、低評価が付くとやっぱりしょんぼりしますので、逆に高評価いただいた時は毎度小躍りしています。せんきゅーべりーまっち……。

また、誤字報告も毎度ありがとうございます。なんか段々誤字脱字が多くなってるような気がするので、もうちょい頑張って見直したい……いやでも一人でのチェックには限界があってですね……ごにょごにょ。まぁともかく、誤字脱字がありましたら「間違ってるぞおらぁ!」と容赦なく報告していただけると助かります。

あと、アンケートの回答もありがとうございました。実はアンケート取ろうか悩んだけど結局は消したつもりで、何故かアンケートが残ってることに気が付いたのが昨日でした。
結果としては小説版エピ後回し希望が優勢で、元々自分の中でもそうしようかなと思っていたこともあり、期末試験編に入ることにしました。というか入りました。とりあえず小説版一巻の内容に関しては、少なくとも文化祭編以降、どこかのタイミングで書くことにします。
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