『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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第38話 雪女はなんやかんや夏休みを満喫しているようです その1

「……んーっ! この唐揚げ、ホントに美味しいわね! 雪柳、これ手作りなの?」

「はい、手作りですよ。本当はにんにく入れた方が美味しいんですけど、お弁当用なので代わりに生姜たっぷりです」

「まさか朝に揚げてるわけじゃないわよね。冷凍で作り置きしてるのかしら?」

「そうですそうです。一度にいっぱい揚げれば意外と面倒でもないですし、市販の冷食よりはおいしいかなと」

「いやいや、比べ物になんねぇって! ヘイ雪柳、俺ももう一個いいか?」

「どうぞどうぞ、そのためにいっぱい詰めてきたので」

「雪柳、私のお弁当から好きなの取りなさい」

「あ、ありがとうございます。えと、じゃあ、このひじきの煮物を……」

 

 七月下旬、某日。

 私は1年A組の教室で、ミッドナイト先生とプレゼント・マイク先生と一緒にお昼ご飯を食べていた。

 机を寄せ、それぞれ持ち寄ったお弁当のおかずを交換しながら、和気あいあいとお昼ご飯を食べていた。

 

 ……うん、改めて考えるとすごい状況だな。学校の先生二人とお弁当つつき合ってる時点で割とすごいし、その二人が普通に有名なプロヒーローなのがもっとすごい。私、いったい何をしてるんだろうね?

 

「……むっ、おいしいですね、ひじき。なんか久々に食べました」

「あら、そうなの? 冷凍もできるからお弁当用に結構いいわよ? こんにゃくとか入れちゃうとダメだけどね」

「ヘイミッドナイト、俺も一口いいか?」

「山田、あんたさっきからもらってばっかりじゃない」

「山田先生、そのだし巻き卵もらっていいですか?」

「山田は勘弁してくれよ二人とも! アイ、アム、プレゼント・マイク! 特に雪柳、山田先生はマジでやめて!」

 

 山田先生は大げさに天を仰ぎつつもスッと弁当箱をこちらに差し出してきたので、遠慮なくだし巻き卵をもらう。山田先生のだし巻き卵、焦げ目がほとんどついてないし形もきれいだし、味もやたらと繊細ですんごいおいしいんだよな……この人このビジュアルで料理上手いのギャップが過ぎるでしょ……。

 

 

 

 ――と、まぁ、ここらでそろそろ真面目に状況を説明しようか。

 

 まず現在、雄英高校は絶賛夏季休業中である。ちょうど一週間前、つまりは先週の金曜日に終業式があって、全学生待望の夏休みが始まったのだ。

 では、どうしてそんな夏休みの最中に私が学校にいるのかと言えば……なんて、別にもったいぶるほどのことでもないんだけど、まぁ事前に宣告されていた通り補習を受けるためだ。ただそれだけ。

 

 補習の日程はなかなかにエグい。

 平日の朝九時前から昼下がりの三時ごろまで、つまりは普段の一時間目から六時間目に相当する時間割がみっちりと組まれており、これが林間合宿直前までの三週間にわたって続くことになっている。

 そして、普段の時間割の二時間分を一コマとして一日3科目、なおかつ当然すべての補習がマンツーマンで行われるもんだから、普段の授業よりも気を抜く暇がないときた。

 平時と比べれば七時間目がないし土曜日も全休だけど、一週間をほぼ乗り切った現時点で振り返ってみても、正直この補習の方がよっぽど疲れる。つらい。マジでつらい。

 

 また、私が期末テストで赤点を取ってしまったのは数学Ⅰ、数学A、物理基礎、そして近代ヒーロー美術史の4科目だったのだが、補習科目がこれだけに留まらないのがもっとつらい。5教科のその他科目、具体的には英語、国語、現代社会に化学基礎の四つ……いや、国語は現代文と古文でそれぞれ別なので実質5科目の補習も行われているのである。

 確かに赤点ギリギリの科目が多かった……いやごめん見栄張った。多かったんじゃなくって全部赤点ギリギリだったんだけど、でも、決して赤点ではなかったのだ。中間テストよりも難しい内容で、しかし間違いなく赤点ではなかったのだ。

 なのに、ほとんどの科目で補習が行われるなんて、結局補習が回避できたのが11科目中2科目だけだなんて、こんなの絶対おかしいよ――と、私は相澤先生に対して控えめに抗議をして、十倍くらいの勢いでド正論を浴びせかけられて半泣きになるという一幕があったりなかったり。

 

 ……少し話が逸れたけど、要するに私が夏休み中にもかかわらず学校でお昼ご飯を食べているのは、お昼を跨ぐほどの補習を課されているからだ。うーん、割と身も蓋もないな……。

 

 でもまぁ、それじゃあプレマイ先生とミッドナイト先生が私と一緒に昼食を取っている理由に面白味があるかというと、残念ながらこっちも別に大したことはない。強いて言うなら()()()()って感じなのだ。

 夏休み中は学食が営業していないのでお弁当を持参する必要があり、またこの補習は私だけのためのスペシャルなイベントなので一緒にお昼を過ごすクラスメイトも当然いない。

 そのため、私はこの長い長い補習期間中、ずっとひとりぼっちの昼食を余儀なくされるはずだったのだが、補習の初日からプレマイ先生が「ヘイ雪柳! 一緒にメシ食おーぜ!」と声をかけてきたのだ。

 プレマイ先生がフランクな人であることは重々承知していた。しかし、いくらなんでもそんな同級生みたいなノリで絡んでくるとは思わなかったので心底びっくりしたし、なんかこう、いろんな意味ですごい人だなと改めて実感。そしてもちろんその提案を断る理由はなく、私はプレマイ先生と仲良くお昼休みを過ごすことになったわけだ。

 

 で、ここにミッドナイト先生が加わったのは、実を言うと今日が初めてだった。

 つい先ほどまでミッドナイト先生が担当している近代ヒーロー美術史の補習を受けていたのだが、昼休みになると同時にプレマイ先生がやってきて、私と一緒にお昼を食べていることがバレたのである。

 いや、まぁ別に悪いことをしてるわけじゃないし誰にバレようと構わなかったんだけど、だからってミッドナイト先生が「あら、じゃあ私もご一緒していいかしら? 今日はちょうどお弁当持ってきてるのよね」と言ってきたのは想定外。しかし、やはり特に断る理由もなかったため、ミッドナイト先生が職員室にお弁当を取りに行って戻ってくるのを待って、三人でお弁当を広げることになったのである。

 

 

 

 ……さて。

 

「――おーい、ゆっきやっなっぎー! ……って、あっ、マイク先生にミッドナイト先生、ごめんなさ……んん? いや雪柳いるじゃん!? え、なんで先生たちとご飯食べてるの!?」

「あれ、三奈ちゃん。お久しぶりです」

「あ、うん、久しぶりー」

 

 私がプレマイ先生のだし巻き卵に舌鼓を打っていると、突如として教室の後ろのドアが開け放たれ、やけにハイテンションな三奈ちゃんが姿を現した。

 

「芦戸さん、廊下を走ってはいけませんわ」

「そうよ三奈ちゃん。いくら夏休みで人がいないからって危ないわ」

 

 さらに続けて百ちゃん、梅雨ちゃんの声が聞こえたかと思えば、二人以外にもお茶子ちゃん、響香ちゃん、透ちゃんがぞろぞろと教室に入ってきて、あっという間に1年A組の女子が勢ぞろい。

 

 そして、全員が全員、私とプレマイ先生とミッドナイト先生がお弁当を広げている光景に首を傾げていた。

 

「おうおうA組の女子リスナーたち、なんだよどうした揃いも揃って! 雪柳の応援にでも来たのか!?」

「いや、補習の応援にわざわざ駆けつけるとか新手のいじめですよそれ……」

「あれじゃないかしら、プール。確か、夏休み入る前に使用許可取ってたわよね?」

「あ、はい、そうです。今日の午後、夕方五時まで使用させていただけることになっていまして」

 

 プレマイ先生の発言に私がツッコミを入れている一方で、ミッドナイト先生の明察を百ちゃんが肯定した。

 

 雄英生、特にヒーロー科の一年生は夏休み中に長期外出や遠出を控えるように、とのお触れが出ていた。

 その理由はもちろん、私たち1年A組生徒の一部が期末試験直後に(ヴィラン)連合と接触してしまったからだ。あれはあくまで偶然の出来事で、(ヴィラン)連合の狙いは一貫してオールマイト先生である、というのが警察の公式な見解ではあるが、だからと言って私たちが安全安心とは到底言えない。

 この外出制限は致し方のないこと。少なくともA組のみんなはそれを重々理解していた……が、それはそれとして、私たちは遊びたい盛りの高校生なのだ。ずーっと家で大人しくしているだけの夏休みに満足できるわけがない。

 

 そこで、せめてもの抵抗というかなんというか、A組の女子全員で学校のプールに集まろうという話になったのだ。学校であればみんな遠出にはならないし、USJ事件のことはあるにしても雄英高校以上に安全な場所なんてそうそうないから、これは妙案だった。ちなみに発案者は透ちゃんである。

 そして、雄英側も生徒たちの自由を制限していることに多少の負い目があったのか、「日光浴がしたい」という割といい加減な理由でも許可を出してくれたのだ。

 

 今日がプール使用許可の下りた日であることは私ももちろん把握している。ばっちりしっかり水着持ってきてるし。だから、彼女たちが学校にいること自体は別に驚かないんだけど、ちょっと不思議に思う部分もあった。

 

「……えーっと。それでみなさん、どうしてここに顔を出したんですか?」

 

 補習は三時過ぎに終わるので、それでも二時間弱は遊べる計算になる。そりゃあ補習なんてぶっちぎって水着に着替えてしまいたい気持ちはあるけども、向かう先が学校の敷地内ではどうしようもない。いや敷地外でもダメだけどさ。

 

 とにもかくにも、私が後から合流することは事前に伝えてあるから、どうしてみんなが教室にやってきたのかよくわからなかったのだ。

 

 この疑問に対し、響香ちゃんがイヤホンジャックを指でくるくると弄りながら口を開いた。

 

「……あー、うん、それはわかってるけど。でもほら、ウチらが遊んでる間、雪柳は補習頑張んないといけないわけじゃん? あと一息だろうけどさ」

「う、うん、そうそう。だからまぁ、なんというか、ね?」

「みんなで氷雨ちゃん応援しに行こう、ってことで来たんやけど……」

 

 透ちゃん、お茶子ちゃんが続けざまにそう言って、他の三人もちょっと困ったような笑顔を浮かべていた。

 

 ……あ、あれ? 待って、本当に私の応援に来てくれたの?

 いや、いや待って違う。違うんです。プレマイ先生が言ったのは、みんなが学校に来た目的そのものが私の応援だったんじゃないかということで、私が否定したのはあくまでそれ。別にみんなの応援がいじめだとか言いたいんじゃなくてですねあのあの……。

 

 ……と、慌ててそんな言い訳をしたら、みんなしてクスクス笑い出した……ははーん、さてはからかわれたな?

 

「ま、まぁとにかく、皆さんは先に楽しんでいてください。補習が終わったらすぐに向かいますから」

 

 私はぐぬぬと歯噛みしながら早口に誤魔化した。

 

「ええ、わかったわ氷雨ちゃん。補習頑張ってね」

「うん、頑張れ氷雨ちゃん!」

「ファイトですわ!」

「ん、ファイト雪柳」

「頑張ってね氷雨ちゃん!」

「雪柳ファイトー!」

 

 すると、みんなはそれぞれ私に対する応援の言葉を残して、それから連れ立って教室を出ていった。

 

 ふぅ、と一つ息を吐いたところで、ミッドナイト先生がやたらと生暖かい笑顔を私に向けていることに気が付いた。

 

「な、なんですか?」

「んーん、なんでもないわ。青春してるなーって思っただけよ」

 

 さらに、プレマイ先生が箸を持った手で頬杖を突き、ニヤリと笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「なぁ雪柳、どうせなら午後の補習、早めに始めちまうか?」

「早めに、ですか?」

「おうよ。流石に補習免除ってわけにはいかねーけど、ちょっとくらいは融通利かせるぜ?」

「プ、プレマイ先生……!」

 

 ああ、プレマイ先生はなんて生徒想いな先生なんだろう。バンザイ、プレマイ先生バンザイだ。

 

「プレマイ先生、来週もいっぱい唐揚げ持ってきます」

「お、マジで!? サンキュー!」

「雪柳、そういうやりとりしちゃうと賄賂贈ってるみたいよ」

「いえいえ、これはほんの気持ち、ほんの気持ちですから……」

 

 ミッドナイト先生が呆れたように零したけれど、なんやかんや咎めるつもりはないらしい。

 これはミッドナイト先生にも袖の下を……いやいや、ちょっとしたお気持ちを表しておくべきかも。ミッドナイト先生、何が好物かな……。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 突然だけど、私は夏が苦手だ。

 

 まず、単純に暑いのがダメ。

 私は寒さや冷たいのに強い分……なのかはわからないんだけど、とにかく暑かったり熱かったりすることが苦手だ。夏場の私は、冷房の効いている屋内以外では常に個性を使って身体の周りを冷やしているくらいで、そうでもしないと一歩も動けないくらいにぐったりしてしまうのである。

 

 次に、直射日光がダメ。

 肌が白すぎるせいで紫外線に弱く、真夏の日差しをまともに浴びようものならゆで上がったカニみたいになってしまうのだ。

 なんなら春先くらいから快晴の日には日焼け止めを塗らないと怪しかったりするほどなので、たとえば夏場でも制服は当然長袖シャツだし、サイハイソックスを履いていて脚の露出もしていない。私服も袖や丈の短いものは部屋着しか持ってないと思う。あと、髪を伸ばしてまとめたりしないのもうなじの部分を日差しから守るためだったり。

 前述の暑さに関しては実を言うと個性で何とでもなるので、どちらかというとこっちの方が由々しき問題なのだ。

 

 で、まぁ結局何が言いたいかというと、学校の屋外プールで遊ぶにあたり、私は完全なる防備が必要であるということだ。

 

 ウォータープルーフの日焼け止めを至る所に塗りたくり、学校指定の水着の上から白いラッシュガードを羽織る。さらには目を守るためのサングラス、つばの広いサファリハットも用意した。

 

「よし……準備万端、かな」

 

 更衣室に置いてあった大きな鏡で自分の姿をチェックし、一人でうんうんと頷く。

 更衣室を出てプールの方へと向かうと、外へ繋がっているであろう扉の手前にシャワースペースがあった。帽子とサングラスを避けておいてシャワーヘッドの下に手をかざしてみれば、自動で温水が出てきた。

 そして、ざっとシャワーを浴びた後、帽子はひとまず被らずにサングラスだけをかけて、いよいよ外に出た。

 

 すると。

 

「――む、雪柳くん、久しぶりだな! 補習はもう終わったのか!」

 

 筋肉モリモリマッチョマンの変態……いや別に変態じゃないけど、とにかくやたらとガタイのいい男が私を出迎えた。

 

「……えっ、と。飯田くん……ですか?」

「む? ああ、水泳帽とゴーグルでわからなかったか! すまない!」

 

 うん、全然、びっくりするくらいわからなかった。正直に言って「ほらこの通り!」なんてゴーグル外してもらっても微妙。メガネかけてくれないと……いやまぁ、ふくらはぎ見ればわかるけどさ。

 

「というか、男子もプールの使用許可取ってたんですか? なんか……もしかして、全員いません?」

「いや、切島くんと爆豪くんだけいないな。プールの使用許可は、上鳴くんと峰田くんが取ってくれていたんだ。夏休み中の訓練に、とな。そして、緑谷くんが男子の皆に連絡をくれたのさ!」

「へぇー、上鳴くんと峰田くんですか……」

 

 プールの方に目をやると、向こう側に泳ぎ着いたらしい黄色い頭とブドウ頭がちょうど水から上がってきていて、私と飯田くんの方に顔を向けた。

 そして、どうも私の存在に気が付いたらしく、物凄い勢いでこちらに走ってきた。

 

「峰田くん上鳴くん! 危険だからプールサイドを走っては――」

「――おい雪柳ィ! なんでおまえラッシュガードなんか着てんだよぉ! しかもどっちにしろおまえもスク水だろそれ!! おまえたち、おまえたちはぁ! どうして!!!」

「いや待て上鳴。おそらくシャワーを浴びたことによってぴったりとラッシュガードが張り付き、浮かび上がってるあの身体のライン……あれは非常に素晴らしいものだとは思わんかね?」

 

 至極真っ当な飯田くんの注意を遮るように上鳴くんが吠えて、峰田くんが大層気持ち悪いことを言っている。こいつら……。

 

「……二人とも、さては女子の水着姿目当てでプール借りたんですね?」

「え、は!? そ、そそそそんなわけねぇだろ!?」

「そ、そうだそうだ! 濡れ衣だ! 俺たちは来たる林間合宿に向けて少しでも研鑽を積もうとだな……」

 

 はぁ、どうだか……この二人、体育祭のチアの件で思いっきり前科あるし。というか、ついさっきの私に対する発言がほぼ自白だったと思うんだけど。

 

 私がサングラス越しにじとーっと視線を送ると、峰田くんと上鳴くんは目を逸らし……逸ら……いや逸らさないんかい。こいつら、私の身体をちらちらと見てやがる。

 

「はぁ……あのですね、これもう何回も言ってますけど、私元男ですよ? もうちょっとプライド持ちましょうよ」

「雪柳、俺も何回だって言ってやるが、女体に貴賤はねぇ!」

 

 ホント無駄に意思が固いな、この峰カス……いやまぁ他の女子のみんなに危害が加わるくらいなら私で満足しといてほしいところだけど、ホントにもう……。

 

 まぁとりあえず峰田くんのことは放っておくとして、私に気が付いたらしい他の男子たちにも軽く手を振って挨拶を返す。いつからいるのかわからないけど、みんなまだまだ元気そう。

 

 で、それから私は女子の方に合流した。

 三奈ちゃん、梅雨ちゃん、透ちゃんがプールの中で泳いでいて、他の三人はプールサイドに座って水の中に足をさらしていた。

 私が小走りで近づけば、彼女たちは笑顔で出迎えてくれた。

 

「雪柳さん、補習お疲れさまでした」

「お疲れ様ー。でも氷雨ちゃん、早くない? まだ二時すぎだよ?」

「実はあの後、プレマイ先生が早めに補習始めてくれたんですよ。で、進捗も上々だからって、かなり早めに切り上げてくれて」

「へぇー、マイク先生やるね」

 

 ホント、結局半分くらいの時間で終わらせてくれたんだからプレマイ先生様様だ。私ってばこんなに甘やかされちゃっていいのかしら……でも、そもそも英語は赤点取ってないんだし、ちょっとくらいいいじゃない。いいじゃないの。

 

 私は軽く柔軟体操をした後、ラッシュガードを脱いでサングラスを外し、帽子と共にプールサイドの隅の方に置いておく。

 ついでに手首に付けてあったヘアゴムで簡単に髪をまとめて、いざプールへ。

 

「……あぁ~……」

 

 気持ちがええ、気持ちがええんじゃ……ただ浮いてるだけだけどねぇ……。

 

「氷雨ちゃんお疲れ~」

「雪柳早かったねぇ」

「ケロ、お疲れ様氷雨ちゃん」

「どうも~……」

 

 両手両足を広げ、完全に脱力した状態でぷかぷか浮いていると、泳いでいた三人が近寄ってきたようだ。ふにゃふにゃとした返事をしたら、三奈ちゃんが顔を覗き込んできた。

 

「雪柳、義手大丈夫なの?」

「あ~、大丈夫ですよ~。防水機能付きなので~……」

「そっかそっか。ねぇねぇ、ビーチボール持ってきてるんだけどさ、水中バレーみたいなのやらない?」

「あ~、いいですよ~」

 

 球技はあんまり得意じゃないけど、まぁ水の中でやるバレーくらいなら上手い下手は関係ないじゃろうて。

 

 その後、私たちは順繰りにペアを組むことにして適当なルールで2vs2の水中バレーをやったのだが、段々チーム決めや審判をするのが面倒になって、いつの間にやら全員で何回ラリーを続けられるかという遊びをし始めていた。

 水中での機動力が段違いな梅雨ちゃんと、イヤホンジャックで格段にリーチのある響香ちゃんがエースポテンシャルを発揮し、また単純に運動神経がいい三奈ちゃん、透ちゃんも奮闘。お茶子ちゃんと百ちゃんと私もちょいちょい個性を使ったりしていたら、余裕で数百回はラリーが続くようになっていた。私たち、たぶん世界でも戦えるチームだ。

 

 ……まぁ、あんまりラリーが続くもんでやめどきを失ってしまい、女子全員ちょっとわけわからないくらい疲れてしまったのはご愛敬。

 私たちはプールサイドに上がり、日光浴という名の休憩時間を過ごすこととなった。

 

 

 

 ――しばらくした頃、男子たちがいる方から怒鳴り声が聞こえてきた。

 ラッシュガードを羽織ってサングラスをかけ、その上からさらに帽子を乗っけた状態で寝転がっていた私は、何事かと思って身体を起こす。

 

「おぉう、爆殺王……」

 

 プールの入り口にいたのは、薄い金髪のボンバーヘッド。それと、あの赤い髪は切島くんだ。

 爆殺王くんは、彼に無理やり引っ張られてきたんだろうか……いや、あの爆殺王陛下が「みんなで訓練!」なんて場に自分から顔を出すとは到底考えられないので、たぶんそうなんだろうな。

 

 爆殺王くんが突っかかってる相手は、例に漏れず緑谷くんだった。何やら勝負を吹っ掛けているようだけど、大変だねぇ……。

 

 と、完全に他人事気分でその光景を眺めていたら。

 

「――おいクソ雪女ァ! てめぇもだ! てめぇもここでぶちのめしたらァ!!」

「……え? なんで?」

 

 爆殺王陛下の怒りの矛先は、何故か私にも向けられていた。

 マジで全然意味がわからなかった。




※お詫びと訂正
以前、感想返信において「オリ主は普段ハイソックスを履いている」という旨の発言をしましたが、正確には黒のニーソ、もっと言うとサイハイソックスを履いておりました。これは、今話中においてオリ主が独白している通り、日焼け対策のために素足の露出を極力避けているためであります。このような重大な情報に誤りがあったことを深くお詫びし、ここに訂正させていただきます。大変申し訳ございませんでした。


オリ主のコスチュームについての情報をまとめたものを活動報告に上げました。おおよそは本編中で説明、描写された通りですが、若干不出の情報もあるので興味がある方は覗いてみてください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=265068&uid=356437

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