『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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第43話 雪女@とれーにんぐきゃんぷ その4

 林間合宿二日目。今日からがいよいよ本番である。

 

 起床時刻は早朝の五時。そして、その三十分後にはA組B組の全員が体操服姿で施設の外へ集合させられており、大半が寝ぼけ眼を擦っているか、あくびを噛み殺そうとして失敗しているような有様だった。

 

 相澤先生とブラキン先生に曰く、今回の合宿は私たち全員の強化を目的としており、さらに言うとそれは、ヒーロー活動認可資格の〝仮免許〟取得を大目的に据えた上でのものらしい。

 ヒーロー仮免とは要するに、緊急時における公共の場での個性使用の限定許可証だ。本来、ヒーロー養成の名門である雄英高校においてもこの仮免は二年次に取得を目指すものなのだが、昨今の情勢を鑑みて私たち一年生にも早いうちに仮免を取らせようということになったのだそうだ。

 

 ……と、まぁ仮免そのものについてはともかくとして、そんなような前置きの後、爆殺王くんがちょっとしたデモンストレーションをやらされた。

 相澤先生が爆殺王くんに渡したのは、何やら見覚えのある球体。1年A組が入学初日にやらされた個性把握テストの、ボール投げで使ったハンドボールだった。

 相澤先生は爆殺王くんの当時の記録を告げた上で、以前と同じ方法でボール投げをやってみるようにと指示した。つまり、この三か月での成長の程度を確認しようというわけだ。

 で、結果がどうだったかと言うと、これが意外にもほとんど記録が伸びていなかった。具体的には『705.2m』から『709.6m』と増分は4.4m。これが普通のハンドボール投げだったら結構すごい伸び具合だと思うけど、元の数字が大きいので微増としか言いようがない。

 

 ボールを投げた爆殺王くん本人も、見ていた私たちも大なり小なり驚いていた。

 だが、相澤先生とブラキン先生だけは、さも当然だと言わんばかりの顔をしていた。

 

 相澤先生は言った。

 私たちは約四か月の間に様々な経験を積んで確実に成長しているが、それはあくまで精神面や技術面、少々の体力面での成長が主であり――爆殺王くんが今まさに見せた通り、()()はほとんど成長していないのだ、と。

 

 故に、この林間合宿では、短期集中的な〝個性伸ばし〟を行うというのである。

 

 

 

 ……いやまぁ、うん。

 私それ、三か月前にもうやったよね?

 

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 個性を伸ばすと一口に言っても、画一的な訓練ができるわけではない。A組B組41人、41通りの個性に合った方法が必要だ。

 

 私が個性伸ばしに取り組んだときはひとまず自分でその方法を考えてみたわけで、改めて自分の個性と向き合う良い機会にもなった。

 しかし、今回の合宿の期間は一週間だけだ。……いやまぁ私なんて一日である程度の個性伸ばしを終えてしまったわけだが、それはレアケース中のレアケースらしい。なので、この限られた時間を最大限に生かすために、個性伸ばしの方法については先生たちが事前に考えておいてくれたとのことだった。

 

 A組は相澤先生から、B組はブラキン先生から、それぞれ順番に呼び出されて個性伸ばしの方法を伝えられていく。これに結構時間がかかるから、今日は五時起きだったらしい。まぁ、まだ朝ごはんも食べてないので、いきなり訓練スタートってことはないだろうと思ってた……思ってたかな? 昨日お昼ご飯抜きだったしな……。

 

 とにもかくにも、各自への説明は出席番号順で行われたので、私は待っている間ずーっと柔軟体操をしていた。やりすぎてちょっと疲れたし、お腹が空いてきた。

 まだかなーまだかなーとちらちら相澤先生の方を窺っていたのだが、百ちゃんが離れていったところで目が合って、手招きをされた。

 

「お待たせ、雪柳。……昨日の夜、マンダレイとピクシーボブから体調を崩したと聞いたが、大丈夫なんだな?」

「あー、はい、えっと……寝たら治りました」

 

 相澤先生にも話が行ってたのか……ちょっと油断してたけど、まぁ、受け答えは自然にできたと思う。

 

 昨日、あの後。

 私はある程度気分が落ち着くまで管理人室で過ごさせてもらい、女子部屋に戻る頃にはそこそこいつも通り振る舞えるようになっていた。流石にちょっとテンションは低めになってしまったのでみんなに心配されてしまったが、女子風呂に連行されたせいでないことは念押ししておいた。

 で、それからみんなと程々に喋ったり遊んだり、そして一晩ぐっすりと寝たら朝には割とメンタルが回復していた。我ながら、なんて単純なんだろう。

 

 まぁそもそも、冷静になって思い返せば、私があそこまで取り乱してしまったのは不意打ちだったという部分が大きかっただけだ。体育祭の直後に飯田くんのお兄さん――インゲニウムの一件を知った時も、そう言えば同じくらいに動揺してしまった覚えがある。

 

 師匠やエンデヴァーさんに家族のことを打ち明けた時と何が違ったかと言えば、やっぱり覚悟していたか否か。師匠に対して「終わったことだと割り切っているつもりだ」みたいなことを言ったのも、決して嘘ではない。ただ、割り切ったからと言って傷跡が綺麗さっぱり消えてくれるわけじゃないし、痛みが鈍くなることはあっても一切感じなくなるようなことは一生涯あり得ない。傷跡に触れた時の痛みに耐えるには、まだ相応の覚悟を必要としてしまうというわけだ。

 

 ……それにしても、昨日はマンダレイさんやピクシーボブさん、それと緑谷くんに随分と余計な心配をかけてしまった。というか、お父さんの名前を出しちゃったのも完全に失敗だったし。

 誰かに言いふらしてしまうような人たちではないと思うけど、今日中にでもお礼とお詫びがてらに他言は無用だと一応言っておかないといけない。

 

 少し話が逸れたけど、要するに今の私は平常運転。相澤先生のご心配には及ばないのである。

 

「そうか、ならいいが……」

「それより先生。私も、個性伸ばしやるんですか? 三か月前にもうやっちゃいましたけど」

 

 私がそう尋ねると、相澤先生は一度口を引き結び、それから小さく息を吐いた後に答えた。

 

「確かに体育祭の直後、おまえは自主的な個性伸ばしを試みて、たったの一日で十分すぎるほど成果を上げた。だからというわけではないが、おまえは現時点で次のステップに行っても問題ない」

「えーっと……もしかして私、褒められてますか?」

「事実を言ってるだけだ」

 

 つまり褒められてますね? まったく、相澤先生は素直じゃないんだから。

 

 私が思わずニヤニヤしていると、相澤先生はこれ見よがしにため息を吐いた。

 

「言っておくが、おまえだけじゃないぞ。うちのクラスで言えば轟や爆豪、八百万あたりも同じだ。ただ、あいつらもそうだが伸ばせる部分がないわけじゃあない……差し当たっては、コイツを使う」

 

 と、相澤先生は、自身の背後にある三脚付きのごついカメラをくいっと親指で指した。

 

「えっと、それは?」

「サーモグラフィーカメラ……の、ようなものだ」

「へぇー……いや、どういうことですか?」

「サーモグラフィーカメラが何かはわかるな? ごく簡単に言えば、赤外線を感知して物体の表面温度を色分けして映像化するカメラだ。赤外線カメラとも言うな」

 

 まぁ、それは流石に知ってる。赤外線云々の仕組みはよくわかんないけど。

 

「このカメラは、温度を色で分けて映し出すところは普通のサーモグラフィーカメラと変わらない。ただし、対象となるのは物体の温度でなく、空気の温度だ。雪柳、あのあたりに冷気を発生させてみろ」

 

 相澤先生が指差したのは、誰もいない開けた空間。私は冷気を発生させるべく、そちらに向けて右手をかざして個性を使った。

 

「ほれ、見てみろ」

「……おー、すごい。色が緑になってますね」

 

 カメラが映し出している映像は基本的にぼんやりとオレンジ色っぽくなっているのだが、私が冷気を生み出した場所だけがこれまたぼんやりと緑色になっている。どうやら赤に近いほど気温が高く、青に近いほど気温が低い、ということになってるみたいだ。

 

「……というか、赤外線カメラなのに木とか地面とか普通に映ってますね?」

「あくまで似たようなものであって、赤外線カメラじゃないからな。そもそも、同じ仕組みで空気の温度は測れん」

「そうなんですか?」

「おまえは赤外線が何かを……いや、いい。別にこのカメラの仕組みを知る必要はない」

 

 相澤先生はまたため息を吐いて「とにかく、だ」と仕切り直した。

 

「おまえはひとまず、このカメラを補助器具として冷気の操作技術を向上させろ。以前、『冷気の操作は対象が存在している範囲がわかりづらいから難しい』、と言っていただろう。だから、このカメラを通して自身が操っている冷気を可視化すれば、多少は操作がしやすいはずだ」

「はー、なるほど。……もしかすると、これに慣れればカメラなしでも冷気の操作ができるようになる、かも?」

「ああ、その通りだ。さらに言えば、その感覚は視界外の氷や雪を操作することに流用できる可能性もある」

「ま、マジですか」

「あくまで可能性だがな」

 

 いや、可能性があるだけすごい……昨日ピクシーボブさんに教えてもらったサポートアイテムも含めて、一気にできることが増えるじゃんか。というか、増えすぎてわけわかんなくなりそうだな……。

 

 私が喜び半分不安半分でむむむと唸っていると、相澤先生に「話聞け」と軽いゲンコツをもらった。

 

「個性の成長速度にはそもそも個人差があるもんだが、おまえの個性の成長速度はあまりにも未知数だ。以前のように、あっという間に成長してしまう可能性もあるが……とりあえずしばらくは、この方法で様子を見る。いいな?」

「はい、わかりました」

 

 ……それから私はカメラに関する簡単な操作説明を相澤先生から受けて、さっそく訓練を開始――したかったんだけど、ここで朝食の時間が挟まって、完全に出鼻をくじかれてしまった。

 まぁ、昨日に引き続きワイプシが作ってくれていた朝食は、別に凝ったメニューだったりしたわけじゃないにしろ、十二分に満足行くものだったけどね。ごちそうさまでした。

 

 そんなこんなで、私たちは腹ごなしのウォーミングアップをしたあと、ようやく訓練をスタートしたのだった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 一応、ちょっとやばいかも、とは思っていたのだ。

 

 以前、個性伸ばしを行なった際にも軽い頭痛があったけど、今回の訓練は比にならないくらい頭に負荷がかかってる感じがしていた。頭痛の痛み自体はこの前のやつに比べて少し強い程度だが個性の使用をやめてもなかなか落ち着いてくれなかったり、痛みとは別に脳みそが疲れてきているような感覚があったり。

 

 しかしまぁ、冷気操作の難しさを考えればこのくらいは当然だろうと思ったし、耐えられないほどの不快感でもなかったのでとりあえず大丈夫だろうと高を括ってしまったのだ。

 

「――っ」

 

 これといったきっかけはなかったと思う。

 唐突に、ぐらり、ぐるりと世界が回って、私は反射的にその場でしゃがみ込んだ。

 今まで経験したことがないような、強い、強い眩暈だった。無理に立っていようとしていたら、まず間違いなく倒れていただろう。

 

 固く目を閉じて膝に顔を埋めても、ぐるぐると視界が回る感覚が治まらない。思わず吐き気を催すほどに気持ち悪くなってきた。

 

『雪柳さん、どうしたの? 大丈夫?』

 

 ふと、頭の中に女性の声が響く。マンダレイさんの個性『テレパス』によって、彼女の声が直接頭の中に届けられたのだ。

 耳を介さずに声が聞こえてくるこの感覚はとても不思議で面白いんだけど、今はちょっと勘弁してもらいたいところだった。

 

「おい雪柳、どうした」

 

 マンダレイさんの声の後に足音が近づいてきて、それから思いのほか近いところで声がした。

 なんとか顔を上げてみると目の前で相澤先生が膝を突いており、いつもより少し険しい表情でこちらを見ていた。

 

「相澤先生……すいません、ちょっと、眩暈が……うっ」

 

 喋った途端に吐き気の波が押し寄せてきて、私は慌てて口元を右手で押さえる。ギリギリのところで決壊は免れたが、次に口を開けた時に堰き止められる自信はなかった。

 

 ……その後、相澤先生の助けを借りて木陰まで移動し、そこでしばらく休むことになった。

 だいたい三十分くらい経った頃には目眩も頭痛もある程度落ち着いてきて、どうしてこうなったのかを説明する余裕も出てきたのだが、相澤先生に割ときつめに叱られてしまった。

 

「――いいか雪柳、今後は体調に異変があったらすぐに報告しろ。倒れそうになる、なんてところまで行く前にだ。……まぁ、『死ぬほどキツイが死なないように』なんて煽った俺も悪かったな。今回の合宿でおまえらには相当な無茶を強いているが、がむしゃらにやれと言っているわけじゃないんだ」

「は、はい……肝に銘じます……」

 

 頭痛の方はともかくとして、あの眩暈はもう二度と味わいたくない。相澤先生にゴーサインを出されても断固として拒否するレベル。本当に嫌だ。

 ……いや、でもなぁ。

 

「あの、そしたら私、どうやって訓練すればいいんでしょうか。たぶん、前の個性伸ばしの時のことを考えると、あの頭痛が成長痛みたいなものだと思うんです。やっぱりある程度負荷をかけないと、個性は成長しないですよね?」

 

 私がそう尋ねると、相澤先生は頬をぽりぽりと掻いた。

 

「まぁそうだな。要は、その頭痛やらがひどくならない程度の負荷を見極める必要があるわけだが……その前に少し、気になることがある。いいタイミングだから話をしよう。ちょっと待ってろ」

 

 と、言うや否や相澤先生は私の側を離れて、すぐに緑髪でまんまるお目々な女性――プッシーキャッツが一人であるラグドールさんを連れて戻ってきた。

 

「雪柳ちゃん大丈夫かにゃん? 気分悪くなっちゃったんだって?」

「ラグドールさん。大丈夫です、なんとか」

「そうかにゃん? でも、あんまり無理しちゃダメだよ!」

 

 ラグドールさんはプッシーキャッツの四人の中でも飛び抜けて明るく、元気いっぱいな人だ。

 ちなみにもう一人は虎というヒーロー名の筋骨隆々な男性で、しかし他の三人と同じデザインの可愛らしい衣装を着ているもんだからインパクトがすごかった。

 朝食の後、訓練開始直前に四人揃って改めて私たちの前で挨拶……というか決めポーズ(フルver)を披露してくれたんだけど、まぁなんというか、いろいろと濃すぎてどこからツッコめばいいのかまるでわからなかった。

 

 閑話休題。

 

「で、えっと。相澤先生、どうしてラグドールさんに来てもらったんでしょうか……?」

 

 相澤先生の〝気になること〟というのは、いったいなんなんだろうか。

 首を傾げた私に対して、相澤先生は答える。

 

「先程、ラグドールに個性を使ってもらってな。基本的にはおまえら全員の居場所を把握するためだったんだが、同時におまえらの情報もいくらか見てもらった」

 

 相澤先生はそこまで言うと、ラグドールさんへ視線を向ける。

 ラグドールさんはひとつ頷いて、話を引き継いだ。

 

「さっきも簡単に説明したけど、あちきの個性は『サーチ』。目で見た人の居場所や弱点なんかがぜーんぶわかっちゃう個性なの。でね、雪柳ちゃんのことも見させてもらったんだけど、弱点がちょーっと不思議だったんだにゃん!」

「弱点が、不思議?」

「うん! ズバリ、頭!」

「……え」

 

 ……それってもしかして、私の頭が悪いってこと? おつむが足りてないってことですか? そ、そりゃそうかもしれないけど、そんな、個性で弱点として暴かれるほどなの……?

 

「……おい雪柳、なんで泣きそうになってるんだ」

「いや……だって……」

 

 こんなタイミングで指摘されると思わなかったんだもん……。

 ……いやほんと、昨日も物間の野郎を相手に思わずキレたけど、期末試験からの夏休み補習漬けのコンボで私の自尊心はボロボロなのだ。なんならその前の中間試験とその補習の傷も癒えないままに再び傷を負ったのだ。まだ、カサブタにもなっていないのだ。

 

 しょんぼり項垂れる私を見て、相澤先生は大きなため息を吐いた。

 

「雪柳、別に今はそういうことを言いたいんじゃない。いや、俺も最初はそういうことかもしれないと思ったし、その可能性も捨て切れないが……ラグドール、あなたの個性で見える『弱点』というのがどのようなものなのか、もう少し厳密に教えてもらえませんか」

 

 相澤先生は再び私からラグドールさんへと視線を移しながら、目を細めた。

 

「んー、そうだにゃあ……たとえば、怪我を負っている人だったら患部が光って見えたり、病気してる人も悪いところがわかったりするよ。あとは、疲労が溜まっている場所とか……でも、イレイザーヘッドが求めてるのは、個性による弱点がわかるかどうか、ってところかにゃん?」

「ええ……雪柳の個性が、雪柳の頭に、脳に負担をかけている。その可能性はありますか?」

「一言で言うと、あるにゃん。断定はできないけどね」

「……と、まぁそういうわけだ。はっきりさせるには専門の機関で検査しなければいけないが、ひとまずそういう可能性を考慮しておく必要がある」

「……は、はぁ……」

 

 私は、相澤先生とラグドールさんの会話をぽかんとしながら聞いていた。

 

 個性が脳に負担をかけている。

 そりゃ、過度に負荷をかけた時に頭痛や目眩が起こることを考えると、そうなのかもしれないけど……弱点、と言われると違和感があるような。

 だって、普通に個性を使ってる分には……いやでも、オールレンジ攻撃とかやると脳に負荷がかかってる感じが顕著になるし、やっぱりそういうことなのか? というか何をもって弱点とされてるのか全然わかんない……いやちょっと待てよ、もしかして私が勉強できないのって、そういう? そういうことなの? 

 

「……そんなに深刻な顔をするな、雪柳。個性が身体に合っていないというのは多少珍しいことではあるが、ないことじゃない。うちのクラスでも青山や緑谷がそうだ」

「……緑谷くんは、わかりますけど……青山くんもですか?」

「ああ。まぁ本人が言ってないなら詳しい話は避けるがな」

 

 そっか、あんまりちゃんと考えたことがなかったけど、そういうこともあるんだな……とりあえず、身近に同じような人がいるというのは安心できるかもしれない。いやまぁ、そもそもそうだと決まったわけではないんだけど。

 

「……ともあれ、もうじき昼食の時間だ。訓練の再開は午後からでいい。で、訓練の方法だが……今は、カメラに映る限り目一杯に冷気を広げて、その形状を変化させていた。そうだな?」

「はい。粘土こねるみたいな感じでずっとやってました」

 

 ゾウさんとかキリンさんとか作ってました。楽しかったです。

 

「……基本的なアプローチはそのままでいい。だが、次からはもう少し段階を踏んでいくようにしろ」

「段階……冷気の範囲を小さくしたり、とかですか?」

「ああ、そうだ。最初から限界ギリギリでやるんじゃなくてな。それと、おまえは以前【氷】と【雪】の生成・操作はそれぞれ別々の感覚でやっていると言っていたが、冷気に関してはどうだ?」

「え? えーっと……」

 

 冷気は……あれ? わかんない。全然意識したことなかったぞ。

 冷気は夏場だと普段から適当に纏っている。暑いのが苦手だからだ。たぶん相澤先生に……というか、大人に言ったら怒られると思うけど、それこそ中学生の頃からずっとやってることで、なのにまったく考えたことがなかった。

 

「……その様子だと、今まで意識せずに使っていたんだな? なら、これからはもっとそこを意識してやってみろ。なんとなくやるよりも頭への負担が軽くなるかもしれん」

「そんなもんですかね?」

「個性の使用に限らんが、本来、物事を無意識に行うってのは意識的にそれをこなせることが前提にあるべきなんだ。そうでない無意識的な行為は、大抵の場合なんとなくやってるだけの行為でしかない。それで上手く行っているうちはいいが、修正が必要になった時に往々にして苦労する羽目になる」

 

 私が「ほえー……」と声を漏らす一方で、ラグドールさんも相澤先生の隣でうんうん頷いていた。

 

「イレイザーヘッドの言う通りにゃん! 意識して訓練するのはとっても大事! 午後からは注意して見てるから、どんどん頑張っていいよ!」

「はい、わかりました。よろしくお願いします」

 

 手のかかる生徒で申し訳ないな、と思いつつも、私はラグドールさんの激励や相澤先生のアドバイスに最大限応えるべく、気合を入れなおした。

 

 ……あ、お昼ご飯もおいしかったです。




 
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