『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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第6話 雪女とはじめてのせんとーくんれん その3

 

 初めての戦闘訓練は、最後の第五戦まで無事に終了した……あいや、第一戦から大怪我の人出てたわ。全然無事じゃないわ。

 

 まぁ、とかなんとか思ったけども、オールマイト先生からは「初めての訓練にしちゃ上出来だったぜ!」とお褒めの言葉をいただけた。先生は緑谷くんの怪我にも少々言及して、しかしそれ以外の生徒は怪我なく、真摯に取り組めていたと総評した。

 

 その後オールマイト先生は物凄く慌てた様子で解散を告げて、流石ナンバーワンヒーローと言わざるを得ない速度でいなくなってしまった。緑谷くんに講評をしに行くと言っていたけど、もしかしたら彼の怪我を心配したのかもしれない。あれは相当な怪我だったもんなぁ。

 

「う、いたた……」

 

 女子更衣室に戻り、制服に着替えようとしているところで不意に私の身体が悲鳴を上げた。

 

「どしたの? 大丈夫?」

「もしかして訓練で怪我をなさっていたのですか?」

 

 近くで着替えていた芦戸さんと八百万さんが心配そうに声をかけてくれたが、理由が理由なので私は苦笑いで返す。

 

「や、違くて……ちょっと、昨日の個性把握テストのせいで筋肉痛が……」

「え、筋肉痛?」

「……筋肉痛になるほどだった?」

「そう言えば氷雨ちゃん、最後の持久走でバテバテだったわね。あまり体力がないのかしら?」

「筋肉痛って動くと治るけど、雪柳さんは訓練でもそんなに動いてなかったもんね。というかアレはもう、動くまでもない! って感じ?」

 

 麗日さんの最後の言葉に女子の皆はうんうんと頷いてくれてるけど、やっぱあんな体力テスト程度で筋肉痛になってるのは問題だよなぁ。

 

「やっぱりみなさん、普段からトレーニングとかしてるんでしょうか?」

「んー、入試前は結構頑張ってたけど、こっち引っ越してきてからは忙しくてなかなか……」

「私は家のジムで身体を動かしていますわね」

「家の、ジム……? ……えっと、ウチはまぁ、たまに朝とかランニングしてるよ」

「私も私も! あと、筋トレだね筋トレ! 筋肉はすべてを解決するよ!」

「私は趣味でダンスやってるから、それがトレーニングになってるかも。てか麗日、引っ越してきたってことはもしかして一人暮らし!?」

「あ、うん、そうだよー。実家三重なんだけど、通うのは流石に厳しくって……」

「一人暮らし、大変ですよね。私もそうなのでわかります」

 

 まぁ厳密には、中二の頃から一人暮らしはやっていたのだが……あの頃の大変さはちょっとベクトルが違うな。

 でも、初めての一人暮らしが大変なのは本当によくわかる。私は元々男だったこともあって特殊だが、麗日さんの場合は正真正銘の女の子であるという点も不安な要素だろう。

 芦戸さんが「いいなぁ一人暮らし」と呟くと、麗日さんが「親元離れるってやっぱ大変だよ。それに結構寂しいし。雪柳さんはどう?」と私に振って来たので「そうですね」とだけ返しておいた。

 

「……って、あれ。なんの話してたんだっけ?」

「トレーニングの話よ、三奈ちゃん。ちなみに私はもともと個性のおかげで運動は得意だから、特別なことはしていないわね」

「蛙吹さんの個性ってなんなんですか? 訓練のとき、すごくいろいろなことしてましたよね」

「ケロ。私の個性は『蛙』よ。蛙っぽいことはなんでもできちゃうの。あと、梅雨ちゃんって呼んで」

「あっはい」

 

 梅雨ちゃん。そう言えば最初の自己紹介のときにもそう言ってたな。ご要望の通り、これからは梅雨ちゃんと呼ぼう。

 

「ま、あの個性把握テストくらいで筋肉痛になっちゃうのは、ヒーロー志望としてちょっとまずいんじゃない? 多少は体力作りしないと」

「これからもヒーロー基礎学でいっぱい身体を動かすだろうし、ある程度は自然に体力付いてくると思うけどねー」

「雪柳ちゃん、筋トレするといいよ筋トレ! 筋肉はすべてを解決するよ!」

 

 ぶっきらぼうな感じに耳郎さんが、あっけらかんとした感じで芦戸さんが言う。最後の筋肉教の人はとっくに着替え終わっている葉隠さんだ。彼女の場合は着替えっていうか、着衣だけど。

 

「お喋りはほどほどにして、みなさん急ぎましょう。帰りのHRに遅れてしまいますわ。また飯田さんに怒られてしまいます」

「おぉう、そうですね。というか、相澤先生に除籍にされるかもしれません」

「あはは、それは流石に……ない、よね?」

 

 私たちの着替えのスピードは若干上がった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 放課後、1年A組の教室では先の戦闘訓練の反省会が開かれた。放課後なのでもちろん自主的なものだが、ほとんど全員が残っている。

 さっさと帰ってしまったのは、訓練の時から様子がおかしかった爆豪くんと、我らが轟師匠の二人。あとは、緑谷くんが保健室から帰ってきていない。

 

 とりあえず一戦目から振り返り始めたのだが、この対戦で大きなバトルを繰り広げた二人は揃って不在なので、思ったよりもあっさり終わってしまった。

 

「そう言えば雪柳くん、女子の皆がグラウンドに来るのが遅れたのは、君の個性の事情を説明していたからだと言っていたが……あれは結局、なんだったんだい?」

 

 ふと、飯田くんに水を向けられて、私はハッとした。

 そう言えば、男子の皆にも説明するんだった。完全に忘れてた。

 

「すみません、説明するつもりで忘れてました。けど……三人いないんですよね。どうしましょう」

「轟と爆豪は帰っちまったからなぁ……緑谷だけでも待つか?」

「反省会からは完全に脱線してしまうので、また今度でもいいですよ?」

「いやいや、そうは言っても流石に気になるでしょ。このままじゃ生殺しだって」

「生殺しって単語、エロいよね」

 

 うん、エロいね……じゃなかった。ブドウ頭な峰田くんの格言は置いといて、確かにもったいぶりすぎてて気になるだろう。

 でも、あとで個人的に呼んで説明するのも変な感じがするし、帰っちゃった轟師匠と爆豪くんはしょうがないけど、緑谷くんだけでも待ちたいところだ。

 

 と、そんなことを考えていたら、スイーとタイミングよく教室のドアが開かれて、緑谷くんが顔を覗かせた。

 

「おお緑谷! ちょうどよかった、お疲れ!」

「え? ああうん……?」

 

 レッドヘッドでツンツンヘアーな切島くんが元気よく声をかけて、緑谷くんは若干困惑している。

 また切島くんに加えて芦戸さんと、背が高くて筋肉質でたらこ唇が特徴的な砂藤くんが緑谷くんに詰め寄っていって、彼の訓練での勇姿をほめそやしたり、自己紹介したりしていた。

 

「――あれ!? デクくん怪我! 治してもらえなかったの!?」

 

 緑谷くんが腕を吊っている様を見て、麗日さんが駆け寄っていった。

 

 昨日、個性把握テストのときに私は保健室へ付き添って、彼がこの学校の保険医――リカバリーガールに個性でもって治癒されるのを見た。

 リカバリーガール曰く、彼女の個性『治癒』で怪我を治すと、患者の体力を消耗するらしい。昨日の怪我を合わせて考えると、体力が足りずに完全な治癒をしてもらえなかったのではないだろうか。無理に治癒すると死ぬらしいし。

 

「――あっ、おい緑谷!」

 

 そのまま様子を見ていたら、何やら緑谷くんが突然走り去っていった。話を聞くと、先に帰った爆豪くんを追いかけていってしまったらしい。

 

「えぇー……」

 

 緑谷くんを褒め散らかすパートが終わったら私の個性の話しようと思っていたのに、またいなくなっちゃったのか。

 

「どうするんだ、雪柳?」

「常闇くん……んー、まぁ、緑谷くんにもあとで話すことにします。男子の皆さん、いい加減気になってるでしょうし、よければ聞いてください」

「あ、お、おうっ!」

 

 緑谷くんが走っていった方を心配そうに見ていた切島くんが、私の言葉を聞いて戻ってくる。

 

 そして、女子の皆には二度目で申し訳ないけど、だいたい同じような流れで私の個性についての説明をした。

 

「『雪女』……身体が女性に変化する個性……!?」

「そんなん聞いたことねぇぞっ!?」

「日本人とは思えないほど色白だし、個性の影響で見た目が変化しているんじゃねーかとは思ってたけどよ……」

 

 するとみんな、とてもいいリアクションをしてくれる。

 さっき女子の皆があっさりと受け入れてくれたこともあって、私は割と気楽だった。男子の皆はかなり驚いてこそいるが、少なくとも表面上はネガティブな感情をあらわにしている人はいない。やっぱり、雄英ヒーロー科に入ってくるような人は人間ができてるんだな。

 

「なぁ、おい、雪柳……」

「はい、なんでしょうか峰田くん」

「おまえよぉ……普通に女子たちと更衣室に向かってたよな……?」

「……え、ええ、そうですね。女子の皆さんには授業前に説明して、受け入れてもらえたので」

「じゃあ……オイラもこれから女子更衣室で着替えていいってことだよな!?」

「何言ってんだおまえ」

「バカじゃねぇの?」

「頭おかしいんじゃねぇのか?」

 

 たぶん頭おかしいんだと思う。

 ……いや、いやまぁ言わんとすることはわからんでもないんだけど。

 

「峰田くん、さっきも言いましたけど、私の今の性自認って完全な女性ではないにしても、男性でもないんですよ。女子の皆さんはそこを理解してくれたっていうだけなんです」

「じゃあオイラも女だ!」

「男としてのプライドはねぇのか、おめぇ」

 

 まぁ峰田くんが何を主張しようと、彼が女子更衣室で着替える日は未来永劫こないと思う。だからって彼に対して勝ち誇るような気持ちは微塵も湧いてこない辺り、やはり私は男性ではなくなっているのだろう。

 

 あと、峰田くんはそろそろ、女子たちの生ゴミ以下のナニカを見る目に気が付いた方がいい。

 

「チクショー、チクショー……オイラも、オイラも女体化すれば……!」

「いいんですか? ムスコさんとは永遠にお別れですけど」

「お、おい雪柳。ムスコさんとかいきなりぶっこむなよ……」

「でも、女体化ってそういうことですよ……ふふふ……」

 

 私が遠い目をしながら笑って見せると、男子たちが気圧されたように一歩退いた。

 

 私がムスコと永遠におさらばしたのは第二次性徴の前だったので、カレは当然、実戦どころか模擬戦すら経験することがないままに体液……おっと間違えた。退役することになった。

 私がそこまで性自認に悩まずに済んだのは、その辺りも関係しているのかもしれない。

 

「――と、まぁそんなわけです。男子の皆さんには、さほど実害もないでしょうが……」

「実害を出してくれ雪柳! 男子更衣室で着替えよう!」

「……峰田くん、元男でもいいんですか?」

「女体に貴賤はない! 中身は……目を瞑る!」

「おまえ、そろそろいい加減にしとけ」

 

 峰田くんは男子たちにしばかれた。

 正直、個人的には別に見られるくらいはどうでもいいので、しょうがないにゃあ……とか言ってみたくなるけど、あれは冗談でも甘やかさない方が良さそうだ。あんまり調子に乗せて他の女子に被害が行くのはマズい。

 

「……えーと。そう、男子の皆さんにはあまり直接的な関係はないですけど、そういうものだと理解していただけると幸いです。あと、あまりむやみやたらに吹聴もしないでいただけると助かります」

「おう、もちろんだぜ!」

「了解した」

 

 ヒーロー科の人はみんな人間ができている……というわけでもないのは、地面に転がされたグレープ頭が残念ながら良い証拠だけど、それでも気味悪がったりされないのはありがたい。

 

 私自身、もはや男性のつもりはないにしても、小学校まで当たり前にやっていた男子のノリが恋しくなることはある。

 男子たちとももっと仲良くなって、そういうノリに巻き込んでくれるようになると嬉しいが、今はひとまず私の存在を受け入れてくれたことに満足しておこう。

 

 ちなみにその後、戦闘訓練の反省会という体はなぁなぁになって、それぞれ適当に喋っているだけになってしまった。

 しかし、単に放課後に居残ってお喋りというのは高校生らしくて良いな、と私は思うのだった。

 




 
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