『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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お待たせ、待った?(浮気者



8.インターン編
第61話 雪女と迫りくる新学期


 

 雄英高校は新学期の始業日を迎えた。私たちヒーロー科一年生がヒーロー仮免許取得試験に挑んだ明くる日のことである。

 あまりにも多くの出来事があった夏休みがついに終わりを迎え、本当の意味で学生としての日常が戻ってきたというわけだ。

 

 ……と、日常が戻ってきたなんて言った傍から覆すようで複雑な気分なのだが、1年A組ではさっそくイレギュラーな事件が発生していた。

 厳密に言えば昨夜のうちに勃発し、今朝には終結していたのだが……。

 

「えぇ~っ!? ケンカして謹慎~~~!?」

「馬鹿じゃん!!」

「ナンセンス!」

「馬鹿かよ!」

「骨頂――!」

 

 緑谷くんと爆豪くん。

 いろいろと複雑そうな幼馴染の二人が昨夜に寮を抜け出して殴り合いの喧嘩をし、当然のようにそれはバレて相澤先生から寮内での謹慎を言い渡されていたのである。

 

「えええ、それ、仲直りしたの?」

「仲直り……っていうものでも……うーん……言語化が難しい……」

「よく謹慎で済んだものだ……!! では君ら、これからの始業式は欠席ということだな!!」

「爆豪、仮免の補習どうすんだ」

「うるせぇ……てめぇには関係ねぇだろ」

 

 まぁ、十中八九爆豪くんの方から喧嘩を吹っ掛けたのだろうが、緑谷くんが応戦したという事実が意外だ。かつての戦闘訓練を思い起こせば二人が殴り合う姿を想像できないわけではないものの、それとこれとはやはり話が違うだろう。

 

 ……なんにせよ、私の感想もみんなと変わらない。

 こと爆豪くんに関しては昨日の仮免試験でも要救助者に対する暴言などというアホすぎる落ち度で不合格を突き付けられたのに、その晩に謹慎を食らうような真似までやらかすなんてまさしく骨頂としか言いようがないと思う。愚の。

 

「――オイ雪女ァ! さっきからなんつー目で見てやがんだテメェ!! 文句あんなら言えやコラァ!」

 

 私が白け切った目で見ていたのが爆豪くんにバレた。

 しかし別に文句はないし、先の通りみんなと同じ感想を抱いているだけなのでわざわざ言う必要性も感じないが……みんなからの注目を浴びてしまって、居心地が悪い。

 

 ……結局、昨日は寮に帰ってきてからもみんなとはろくに話さず、すぐに部屋に籠った。食欲も湧かなかったので百ちゃんや梅雨ちゃんが夕食に誘いに来てくれたのも断って、夜中にみんなが寝静まったのを見計らってシャワーを浴びに行ったくらいだ。

 今朝は諸々の準備のためにやむを得ず共有スペースで行動していたが、挨拶と生返事を返すくらいしかしていない。

 感じが悪い、なんなら失礼とすら言われかねないのは重々承知している。

 でも、今の私には彼らに……というか、誰に対しても愛想を振りまくような気力がないのだった。

 

「……ちょーいちょいちょい爆豪ってば!! 雪柳に八つ当たりすんのやめなよね!」

「そーだそーだー! 爆豪くん反省しろー!」

「そうだぞ爆豪ー、おまえが仮免落ちたのは完全に自業自得だかんなー」

「ヒエラルキー崩れたり! ヒエラルキー崩れたり!」

「峰田、それ轟にも刺さってるからやめたれ……」

「……いや、俺も自業自得だから、別に……」

「テメェは黙ってろや半分野郎!! テメェが入ってくんと話ややこしくなんだよクソが!!」

「……ん? 爆豪おまえ、それってもしかして――」

「テメェも喋んなクソ髪!!!」

 

 ――そして、みんなは若干ぎこちないながらも、そんな私ですら慮ってくれるのだから……ますますやっていられない。

 

「……爆豪くん」

 

 私はため息を吐いた後に、爆豪くんを見つめながら口を開いた。

 

「掃除、ちゃんとやっておいてくださいね」

「――上等だテメェコラ表出ろや!!!」

「氷雨ちゃんなんで煽ったん!?」

 

 爆豪くんに言われなくても表には出る。始業まで余裕があるけれど、謹慎中の誰かさんと違って教室には行かないといけないのだから。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 と、まぁそんなわけで。

 1年A組の新学期は、緑谷くんと爆豪くんを除いた19人でスタートすることになった。

 

 初日から普通に授業もあるのだが、スケジュール自体は若干変則的だ。

 

 一時間目からグラウンドで始業式が行われ、その後HRを挟んでから授業開始の予定となっているのである。

 

「――皆いいか!? 列は乱さずそれでいて迅速に!! グラウンドへ向かうんだ!!」

「いや、おめーが乱れてるよ」

「委員長のジレンマ!!」

 

 飯田くんがうるさい。久々の学校生活で学級委員長というアイデンティティを存分に振るえるとあってか、随分と生き生きしている。まぁ、夏休み中も合宿やら寮生活やら仮免試験やらで十二分に学級委員長をやっていたと思うけど、本来の土俵でやるのは特別……なのかも、しれない。

 

 ともあれ、私たちは学級委員長殿の指示に従って整列し、粛々とグラウンドに向かっていたのだが――。

 

「――聞いたよぉ、A組ィィ……!」

 

 その途中で、()()が出た。

 

「2名!! そちら仮免落ちが2名も出たんだってぇ!? おっかしいよねぇA組は優秀なはずなのにねぇ!? アーッハッハッハッハッハ!!」

「出たな物間! 相変わらず気が触れてやがる!!」

 

 そう、物間である。相変わらずやかましいし鬱陶しい。

 私が若干顔をしかめていると、じろじろとA組の面々の顔を見比べていた物間とやがて目が合って、奴がニヤニヤと笑顔を浮かべた。

 

「雪柳……さては君が」

「いえ、私は合格しましたよ。落ちたのは轟くんと爆豪くんです」

 

 言葉を遮って淡々と告げれば、物間は「そ、そうかい……」と鼻白んだ様子。

 そのまま黙っていなくなればいいのにと思ったが、残念ながらそういう流れにはならなかった。

 

「……ははーん、さてはまたオメーだけ落ちたな?」

 

 切島くんが閃いたと言わんばかりに指摘して、物間の顔から表情が抜け落ちたのである。

 

 あぁなるほど、と私も納得いった。

 奴には、自分自身も期末試験で赤点だったくせにA組の補習組を煽った前科がある。切島くんはそれを思い出して、今回もそんなオチだろうと推測したわけだ。

 

 物間の反応からしても図星と見た――が、しかし。

 見計らったかのようなタイミングで現れたB組の面々を背に、物間がクソ憎たらしいドヤ顔を見せつけてきた。

 

「――残念だったね、こちとら全員合格さ。水があいたね? A組」

 

 念のため補足しておくと、物間を除くB組のみんなは至って普通の態度である。いやむしろ、私以上にしらっとした目で物間を見ているくらいだった。特に拳藤さんは。

 

「…………」

 

 ――ふと、その拳藤さんの視線が、私に向けられた。否、彼女だけでなく、B組の女子のみんなや男子たちからも。全員が全員あからさまではないが、意識されているのがわかる。

 

 別に、B組と顔を合わせるのが合宿以来というわけではない。入寮してから仮免試験までの圧縮訓練の中で何度も会っているし、いくらか話もしている。

 

 彼らとは、どうにも微妙な距離感だ。合宿中に交流する機会があって多少仲良くなったが、その直後にあんなことがあった。

 彼らが人並み以上に心配してくれているのはわかるが、私はそれにどう応えればいいのかわからない……A組のみんなからの心配すらまともに受け取っていないのに、わかるはずがない。

 

 結局こちらから目を逸らして、私はそれっきりB組とのやり取りに加わることはなかった。

 

 

 

 そして私は、その後の始業式もぼんやりとした気分のまま過ごした。

 根津校長が何やら長々と話していたり、生活指導担当のハウンドドッグ先生がばうばう吠えていたり……要するにほとんど何も聞いていなかった。

 

 ――それゆえ、私が〝ヒーローインターン〟なるものの存在を知ったのは、教室に戻ってからおこなわれたHRの中でのことだった。

 

「ごめんなさい、いいかしら先生」

 

 HR中に後ろを向いてこそこそ話していた三奈ちゃんを相澤先生が注意した直後、話しかけられていた梅雨ちゃんが手を挙げて質問を投げかけた。

 

「さっき始業式でお話に出ていた『ヒーローインターン』がどういうものなのか、聞かせてもらえないかしら」

「……ヒーロー、インターン……」

「ええ、根津校長がお話の中でおっしゃっていましたわね。先輩方の多くが取り組んでらっしゃると……」

 

 私の呟きを聞いてか、前の席の百ちゃんが補足するように付け加える。私がろくに話を聞いていなかったのがバレていたのかも。

 

 相澤先生はざわつく教室を見渡しながら頭を掻き、「それについては後日説明するつもりだったが……まぁそうだな、先に言っておく方が合理的か」と呟いた。

 

「平たく言えば、仮免を取った生徒が校外でおこなうヒーロー活動……つまりは、以前におこなったプロヒーローのもとでの職場体験の延長、本格版ってところだ。ただし、授業の一環ではなく、生徒が任意におこなう活動であるという点で大きく違ってくる」

「はぇ~そんな制度が……って、えっ!? じゃあじゃあ、体育祭での頑張りにはいったい何の意味が!?!?」

「む、確かに……インターンがあるなら、体育祭でスカウトをいただかなくとも道が拓けたのでは?」

 

 相澤先生の平たい説明を受けてクラス一同がおおむね納得した雰囲気の中、突如としてお茶子ちゃんが興奮気味に声を上げ、彼女のすぐ前の席にいる飯田くんもそれに同調する。

 お茶子ちゃんはあまりにもうららかでなくなっていたために隣の席の砂藤くんから窘められていたが、それでも「しかしぃ!」と食い下がるあたりよっぽど腑に落ちないらしい。

 

 そんな彼女に対して相澤先生は「早とちりをするな」と叱りつつ、さらに続ける。

 

「ヒーローインターンは生徒が任意でおこなう活動だと言ったが、これは受け入れ先の事務所を探すところからしてそうだ。そこで、体育祭で得たスカウトをコネとして使うのが前提になってくるんだよ」

 

 ちなみに、過去には各ヒーロー事務所がインターン生を募集する形式を取っていたそうだが、雄英生徒を引き抜くために事務所同士でのいざこざが多発したためにこういう形になってしまったらしい。要は、大人たちの大人げない振る舞いのせいで私たちが割を食うはめになっているわけだ。

 

 一応、体育祭でスカウトがもらえていない場合も本人が実際にお世話になった職場体験先や、指名のなかった生徒用の職場体験先として提携していた事務所相手には交渉可能だそうだが、スカウトでできたコネに比べればかなり心許ないのが現実らしい。

 

「仮免を取得したことでより本格的に、そして長期的にヒーロー活動へ加担できる。だからこそのヒーローインターンだが、以前にも話した通り一年次での仮免取得はあまり例がなく、したがって一年生のインターン参加も前例に乏しい。(ヴィラン)の活性化も相まって、おまえらのインターンをどうするかについては慎重に検討している段階だ」

「…………」

 

 ――私は、思わず鼻で笑ってしまった。前の席の百ちゃんや轟くんには聞こえてしまったかもしれないが、相澤先生には見咎められなかったか。

 

 慎重に検討しているだなんて、なかなか面白い冗談だ。

 

 一年生のインターンの前例が少ないだとか(ヴィラン)の活性化だとか、今さらそんな程度の理由でインターンの許可を出さない道理がない。

 

 前例の有無なんてそもそも大した問題じゃないし、(ヴィラン)の活性化だってむしろヒーローとしての経験を積むには好都合。

 

 これまで徹底して〝(ヴィラン)に屈しない姿勢〟を貫いてきた雄英高校やヒーロー公安委員会なら、そうやって考えるに決まっている。あるいはもっと突飛な言い訳を並べてきたとしても私は笑わない。

 

 でも、今さら()()()だなんて、冗談でなかったらなんなのだろう。

 どうせ適当な理由をつけてでも実施するであろうことを慎重に検討するなんて、()()()だとは思わないのだろうか。

 

 ……呆れたが、まぁ、過程は別にどうでもいい。

 

 ヒーローインターン。

 それが、私にとって次の乗り越えるべき壁であることは間違いなかった。

 





次回投稿はまた未定。
気長にお待ちくださいな。

ぼざろ二次の方への言及が多いと思うけど一応進捗はツイッターで確認できます。
マシュマロとかで「おらぁん! てめぇ雪アカどうなってんじゃコラァ!」って言われたら返事もしますです。ええはい。

ツイッター
https://twitter.com/SAVAnoSugerNi
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/savanosugerni
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