『雪女』のヒーローアカデミア   作:鯖ジャム

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第8話 雪女 in the USJ その1

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の先生の三人体制で見ることになった」

 

 マスコミ襲撃事件の翌日。

 今日こそは何事もなく昼休みを終え、午後のヒーロー基礎学の時間がやってきたわけだが、まず教壇に立ったのは相澤先生だった。

 

「ハーイ! 何するんですか!?」

 

 教室のちょうど真ん中あたりの席にいる、なんかこう特徴を挙げるのが難しい瀬呂くんがいの一番に質問をした。

 すると相澤先生は、どこからともなく謎のカードを取り出す。

 

「災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

 『RESCUE』と書かれたそれは、一昨日の戦闘訓練の時にオールマイト先生が掲げていたものと同種だ。サイズが違って見えるのは目の錯覚……? いや違う、違くない?

 

 まぁ、みんなはそんなどうでもいいこと疑問にも思わないらしく、とにかく救助訓練そのものに対して思い思いのことを口々に話し始めて、教室全体が騒がしくなる。

 しかしそれも相澤先生がこわーい声音で注意をすれば、ピタっと止んだ。私たちの調教は順調に進んでいる。

 

「今回は、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」

 

 相澤先生はそう言いつつリモコンを操作して、コスチュームのロッカーを開ける。これ、何回見てもワクワクしちゃうな。私の中に残っている男心がこれでもかと刺激される。

 

 今回の訓練場は校舎から離れた場所にあるらしく、バスで移動するそうだ。敷地内をバスで移動って、いったいどんな大型テーマパークさ。UHS(=UA HighSchool)は伊達じゃないってわけだ。

 

「以上だ。準備開始」

 

 ふざけたことを考えていたら、相澤先生の号令への反応が遅れた。

 すぐさま動き出したクラスメイトたちからもほんの僅かに遅ればせながら、私は立ち上がった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 それから十五分後、男女それぞれに着替えを済ませ、バスの発着場に集合した。

 

「ん。デクくんも体操服だ。コスチュームは?」

「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから……ところで、〝も〟って?」

 

 私の前で話していたお茶子ちゃんが振り返ると、緑谷くんも釣られて振り返って、私と目が合った。

 

「あ、なるほど雪柳さんか」

「私のコスチューム、かなり動きづらかったので。救助訓練には致命的に向かないですし、サポート会社に送り返して新調してもらってるんです」

「あ、そうだったんだ。僕のもサポート会社の修復待ちなんだ」

 

 私のコスチューム、というかあのただの白い着物は、実は相澤先生にも苦言を呈された。昨日、帰りのHRが終わった後に声をかけられたのだ。

 あんなデザインを通したサポート会社にも問題がある、とは先生の言だが、それはそれとしてきちんと要望を出さなかったお前にも問題があると上げて落とされた。いや上げられてもないが。

 そんなわけで昨日の放課後にちょっとした手続きをして、一度着ただけなのにあのコスチュームとはサヨナラバイバイすることになったのだ。つまり、結果だけ見れば緑谷くんと同様、そもそも手元にコスチュームがない。

 

 ……それにしても、女子はみんなコスチュームに着替えていたし、一人だけ体操服だったら嫌だなぁとか思ってたから、体操服仲間がいてよかった。

 まぁ、緑谷くんはグローブやらサポーターやら付けているのに対し、私は本当に体育の時と同じで体操服オンリーなんだけど。

 

「――バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」

 

 ふと、飯田くんが大きな声と身振り手振りで、クラスメイトたちにそんな指示を出した。いや、身振り手振りどころかホイッスルを吹いている。なんでそんなもの持ってるんだ。

 

「! 飯田くん、フルスロットルだ……!」 

「もしかしてそれ、『エンジン』の個性とかけてますか?」

「あ、それおもろい!」

 

 お笑いに厳しいと定評のある(偏見)関西人のお茶子ちゃんが緑谷くんを褒める……いや、三重って関西か? まぁ関西みたいなものだろう。ほぼ関西。ちなみに緑谷くんは「あ、や、ちが……!」と狼狽えていた。

 

 そして、とりあえずみんな飯田くんに逆らうでもなく出席番号順で並んだのだが、いざバスに乗ってみると全然意味がなかった。

 

「くそぅ、こういうタイプだったか……!」

 

 たぶん飯田くんが想像してたのは座席が縦に並ぶタイプのバスだったんだろうけど、実際には路線バスのような内装だった。出席番号順に乗り込んだはいいものの、みんな結局適当に座っていった。うーん、飯田くん空回り。エンジンだけに。

 

「…………」

「…………」

 

 ……しかし……なんでよりにもよって……。

 

 一番最後に乗り込むことになった私は、実質席の選択権がなかった。他の席は全部埋まってて、空いていたのは……轟師匠の隣だけだったのだ。

 轟師匠は私をちらりと見たが、すぐにフイっと窓の外に視線をやってしまう。ああ、そういう感じね……。

 

 前の席の耳郎さんが気遣わしげにこちらを見てきたが、曖昧に笑って首を横に振っておいた。というか、耳郎さんは私なんかより自分の心配したほうがいい。どうして爆豪くんの隣に座っちゃったんだ。

 

 まもなくバスが発進すると、車内はすぐに騒がしくなった。相澤先生には調教されてるし、みんな根が真面目だから教室での授業とかは静かなものだけど、やっぱり1年A組は基本的に賑やかなクラスなのだ。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

「え!?!?!?」

 

 不意に梅雨ちゃんの声が車内によく通って、みんなの注目が梅雨ちゃんと、そして彼女に話しかけられていたらしい緑谷くんに集まる。え、轟師匠? 轟師匠なら私の隣で寝てるよ。

 どういうわけか哀れなくらいに動揺している緑谷くんだったが、彼が何かを言う前に切島くんが口を開いた。

 

「おいおい待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはあんな怪我しねぇぞ? 似て非なるアレだぜ。……でもしかし、シンプルな増強型の個性はいいよな。派手だし、できることが多い!」

 

 切島くんは自分の個性『硬化』が地味だとぼやいたが、緑谷くんが「カッコいいと思うよ。プロにも通用する個性だ!」とフォロー。その向かい側で青山くんがすかさず自分の個性の派手さを自慢したが、芦戸さんに欠点を指摘されて固まっていた。

 

「派手で強ぇっつったら、やっぱ雪柳と轟、爆豪の三人だな」

 

 突然名前を呼ばれて、私はびくっとしてしまった。え、轟師匠? 轟師匠なら私の隣で以下略。

 また、斜め前の席で意外にも……いや、授業中とかを鑑みるにさほど意外でもないけど、とにかく大人しくしていた爆豪くんも反応を見せた。

 

「でも、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「ンだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

 

 梅雨ちゃん、爆豪くん相手によく言うよ……。

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるあたり、爆豪ってすげぇよ」

「てめぇのそのクソみてぇなボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 上鳴くんも……あと、やっぱり耳郎さんは爆豪くんの隣はやめておくべきだったんじゃないかな。どうせ個性で音楽を聞くから大丈夫だと思ったのかもしれないけど、それでも轟師匠の隣の方が……いや、その場合私が爆豪くんの隣だったかもしれないから、大いに助かってはいるけど。

 

 通路を挟んだ斜め前の二人掛けの席には八百万さんとお茶子ちゃんが並んでいたが、それぞれ「低俗な会話ですこと」、「でもこういうの好きだ、私!」と対照的なことを言っていた。低俗なのは会話というより上鳴くんのボキャブラリーな気がするけど、まぁ賑やかなのはいいことだと私も思う。

 

「もう着くぞお前ら、いい加減にしとけよ……」

「「「はい」」」

 

 相澤先生の言葉に、やはり車内はピタっと静粛になった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「すっげ――――――! USJかよ!!!?」

 

 UHSの敷地内に、まさかのUSJ。私のアホな思考はフラグだった……?

 や、まぁ遠めに見えるウォータースライダーっぽいのは岩石まみれだし、さらにその奥には燃え盛るビル群が。左手の手前には崩落した建物があるし、テーマパークにしては物騒すぎるんだけどね。

 

「みなさんようこそ。ここは、あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も――」

 

 ――ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)、という名前の施設らしい。本当にUSJだった……いや本当にUSJか? 訴えられるリスクとネーミングの無理やり加減が釣り合ってなくない?

 

 ……と、まぁそれはともかく、今まさに喋っていたのは、宇宙服のようなコスチュームを身に纏った人物。

 緑谷くんによると、この人はスペースヒーロー・13号というらしい。災害救助の現場で活躍しているヒーローなのだそうだ。お茶子ちゃんはファンらしく、人一倍興奮していた。

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせのはずだが」

「先輩、それが……」

 

 13号先生に何やら耳打ちをされた相澤先生は、小さくため息を吐いていた。

 

「仕方ない、始めるか。13号」

「はい先輩。えーでは、始める前にお小言を一つ、二つ……三つ……四つ……五つ……」

 

 増える増える……。

 

「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んで、塵にしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 13号先生の言葉に緑谷くんが相槌を入れ、お茶子ちゃんが首がもげそうなくらいに頷いている。

 

「ええ、そうです……しかし、簡単に人を殺せる個性です」

「「「!」」」

 

 13号先生の静かな声に、私たちの緩んだ空気が引き締まる。

 

 現代の超人社会は個性の使用を資格制として制限することで成り立っているが、一歩間違えれば容易に人を殺せるような〝いきすぎた個性〟を個々が持っており、特に、雄英のヒーロー科にいるような私たちはその典型例であると13号先生は言った。

 初日の体力テストで自身の個性の可能性を知り、一昨日の戦闘訓練ではそれを人に向けて使うことの危うさを体験した私たちが、今度は人命のために各々の個性をどう活用するかを学ぶ――それこそが、今日の訓練で一番大事なところであると。

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。以上! ご清聴ありがとうございました」

 

 ぺこ、と13号先生が一礼をしたところに、私たちは拍手と歓声で応える。

 13号先生が相澤先生に顔を向けると、彼は「よし、そんじゃあまずは……」と、入り口の高台からまっすぐ正面の、噴水のある広場を指差して――。

 

「……っ!」

 

 私は、たぶん相澤先生とほぼ同時に、その違和感に気が付いた。

 

「全員、ひとかたまりになって動くなッ!!!」

 

 噴水の前に広がる、黒い靄。

 

「13号! 生徒たちを守れッ!! あれは――!」

 

 覗いた瞳と、目が合った気がした。

 

(ヴィラン)だ!!!」

 

 六年ぶりの、本物の悪意がそこにあった。

 




 
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