バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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これは昔描いたネタの一部分です。
読まなくても展開には問題ありません(他の話を読んでから戻るのを推奨します)。


裏設定込みのお話
閑話 勇者と蜘蛛


「ユリウス様。

 また、オーツ国から依頼です」

「なんの依頼だ?」

「悪夢の残滓を討伐せよということです」

「エルロー大迷宮か。

 わかった。

 すぐそっちに向かうと伝えてくれ」

 

 

ソファから立ち上がり軽く伸びをする。

もう外は明るくなってきて窓からは朝の日差しが差し込んできた。

けれど、今この瞬間にも苦しんでいる人がいるのだと思うと僕の心は明るくなんかならない。

 

 

「ユリウス兄様。もう出掛けてしまうんですか?

 まだ3日しか経っていません」

「すまない。すぐにまた戻ってくる」

 

 

落ち込んでしまったシュンを慰めるために僕は考える。

本当に言葉通りすぐの別れで申し訳ない。

あちらに行けばまた依頼されていくだろうし、しばらく帰れはしないのだろう。

 

 

「そのスカーフ。僕の持ってるものとお揃いだろ?

 あと、その地竜や蜘蛛もみんな迷宮出身だし僕たちは迷宮に好かれてる。

 また無事に倒して元気に帰るさ」

「わかりました。頑張って行ってきてください、兄様!」

「お気をつけてください。無理はしないで」

 

 

スーとシュン。

僕は勇者ってだけでなく兄としてもありたいけど。

こんな弟と妹に恵まれて僕は幸せだ。

 

 

「二人ともありがとう。さ、エミュシャ。行こうか」

「はい。行きましょう」

「じゃあまた!」

 

 

彼らの声を背に受けて、僕の後ろでドアはガチャリと鈍い音を立てて閉まったのだった。

 

 

 

 

「ヤーナとハイリンスも準備は出来たかな」

「さぁ?一応情報は伝わってると思いますが」

「悪夢の残滓か。なんか縁があるな、僕たち」

「そうですか?

 私は似た種族ですが、それを含めても特に強い感情を抱いてはいませんよ」

 

 

2人もすぐに客間から出てきた。

僕たちと同時に知らされていたのだろうか。

おそらく違うだろうし、いつでも出れる準備をしていたのはさすがとしか言いようがない。

 

「じゃ、悪夢の残滓を倒しにいこうぜ。

 ユリウス、エミュシャ」

 

出てきた僕たちに、ハイリンスはいつも通り不敵に笑う。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

場所は変わって迷宮入り口。

僕たちは迷宮案内人のゴイエフさんと合流することになっている。

 

 

あ、入り口の砦のところに地図を見ながら立っている。

しかも普段に比べたら人数が多い。

道自体は覚えているだろうし、何かあったのか?

 

 

「ユリウスさん。また今回もよろしくな。

 いつも世話になってる」

「こちらこそ。

 そういえば、いつもよりも人がだいぶ多いですが。

 まさか、ここ数年の魔物の異常発生と関係してなにか起きているんですか?」

「いやぁな。

 悪夢の残滓も新しく発生した魔物を追って入り口近くまで来ちまった感じのようだから影響はあるっちゃあるぜ。

 最近も群れ単位で活発になってるぽいからな。

 あと気をつけろ。あくまで可能性だが死の乗馬かもしれねぇ。

 黄色いものが背中にくっついてたっていう報告もある」

「デス・ロデオ。種族の面汚しですね。被害は?」

 

 

エミュシャが嫌そうな声をあげる。同族である彼女がそう言うのも無理は無い。

でも、人間にも良い人と悪い人がいる。

そんなもので分けることなんてできない。

まして罪悪感のもとに働いている彼女が悪い存在であるわけはない。

 

 

「今のところ死んだやつが2人。怪我人は4人っていう報告だ。

 行方不明者はたくさんいるが、まあそいつらは大抵あれかもな……。

 ま、あんたはなにも悪くねぇ。

 べっぴんさん」

「あ、ありがとうございます。えっと」

「話してちゃキリないぞ。ユリウスとヤーナも待ってるし。

 ゴイエフさんたち案内を頼む」

 

 

ハイリンスの声のもと、彼も決まり悪そうに頭を掻いた。

 

 

「すまんな。あんたたちにはここ最近で一番世話になってるのに。

 こんな湿っぽい洞窟で過ごしてる時間が長いといろいろ話したくなっちまう。

 じゃあ迷宮に入るぞ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ユリウス!この魔物は剣じゃ倒せねぇ!!魔法を使え!!」

「ヤーナ!数が多い!!火炎魔法だ!!」

「はいっ!!」

「ふぅ。電撃!!」

 

 

ガチャリという、魔物らしくない音を立てながら地面に落ちていく魔物たち。

元々浮いていることがおかしいし、部品のような形をしているのもおかしい。

まるで人工的に作られた魔物みたいだ。

 

 

「流石勇者様、お強いです。

 この魔物はここら辺では逃げるしかないというのに」

 

 

しかも前回は単体でしかいなかった。

この集団で襲ってくるとは短時間でどれだけ数を増やしたんだ?

剣での攻撃も効かないし、鋼で体が出来ているってどういう仕組みなんだ。

 

 

 

「ハイリンス様、スモールレッサーギアルといいます。

 ここ数年で大幅に数を増やしたのか目撃されるようになりました。または……」

「または?」

「下層から縦穴を通って上層まで出てきたか」

 

 

それはマズい。

下層は何がいるのかほとんどわかっていない。

おそらく僕たちでも倒せない魔物ばかり。

そんなものが外へ出たら被害は尋常ではないものになる。

個体数が多いと思われるこの魔物ですら、僕たちが倒すには苦しむのだから。

 

 

「とりあえず先に進もう。僕たちがとりあえず倒すべきは悪夢の残滓だ。

 申し訳ないけれど、魔物の異常発生については後手に回るしかない。

 下層にいてくれればまだ被害は出ないのだし、今起きている被害をなくすことが最優先だ」

「ちょっと待って!」

「どうした、ヤーナ?」

 

 

「2匹身体が凄い小さくなってる。まるで」

「エレテクト種か」

 

 

愕然とする。

今まで、エレテクト種以外でも小さくなった魔物の報告は数件しかない。

数件あるのも問題だけれど。

ともかく、これはなんなんだ?

 

 

「ヤーナ。わかりませんが、数匹持ち帰って国で調べてもらいましょう?ユリウスとハイリンスもいいですか?」

「モンスター関連はエミュシャに任せてるからな。俺は構わんが」

「僕も構わない」

「ありがとう」

 

 

エミュシャはその魔物を拾い、糸でできた袋に詰める。

小さくなったものも何匹かを突っ込んでガッチリと閉めた。

 

 

「これは私の持ち物として持っています。行きましょう」

 

 

そう言って、蜘蛛の姿のエミュシャはガサガサッと身体を震わせ、空間の狭間に袋を突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「倒した時に身体が小さくなる魔物。エレテクトじゃないならなんだったんでしょう」

「わからないけど、最近迷宮おかしいから」

 

 

薪を囲み休息をとる。

案内人の人達が言うけどそうじゃない。

 

 

「いや俺たちは迷宮外にも色んな魔物の討伐にいくが、普通じゃねぇ、いやそもそも見たことねぇヤツばかりだ。巨大な岩が連なった蛇、弓を使って射ぬこうとしてくるフクロウ、ブレスを打ちながら空を跳ね回る巨大な水竜とかな。ワケがわからなくなる」

「そう言えば。最初に発見された死の乗馬を知ってるか?」

 

 

案内人の1人が話し始めた。

 

 

 

 

「15年前。蜘蛛の巣を燃やして大丈夫な頃だった時の話だ。今だから言えるが、盗賊のようなことをしていた。冒険者の装備を奪ったり、蜘蛛を殺して経験値をあげたりを繰り返す生活だった」

「まあ、もう期限切れだろ。続きを話してくれ」

 

 

ハイリンスはあからさまに苛ついている。

一度俺達も盗賊の被害に遭ったからなぁ。

 

 

「あんな不気味な日は絶対忘れねぇ。蜘蛛の巣を見つけたから、中の蜘蛛を殺すために俺達は巣に火をつけた。そしたらソイツが出てきたんだ。

スモールレッサーバチュル。ソイツは当たり前のようにスモールレッサータラテクトの上に乗って逃げ始めた」

「待ってくれ。バチュルがスモールレッサータラテクトに乗ってたのか?死の乗馬ぁならともかく、どちらもそこまでの知能はないと思うんだが」

 

 

僕もそう思う。

街なかにいるバチュルは欲望以外の意志があるかも怪しいんだ。

そんな自己主体性はあるはずない。

 

 

「まあ聞いてくれ。あのとき俺は、というか俺達全員は始めてバチュルを見たんだ。だから捕まえようと追いかけた」

「それで捕まえてどうしたんですか?」

 

 

「それが逃げられた。たかがスモールレッサータラテクトに。しかも、奴は身体の半分近くあるバチュルを乗せていたのにだ」

「!」

「バチュルの方も、俺達の足元に向かって糸を大量に撃ってくる。まるで足を止めれば動けなくなると判断したみたいにだ。そして奴らはT字路でどっちに曲がるか考えたふうにしたあと、右に曲がってモンスターに紛れて逃げていった」

「あの。とんでもなく恐ろしいことを聞いていいですか?」

 

 

エミュシャが手を軽く挙げる。黄色い長髪に薪の光が反射して薄く赤めいている。

 

 

「なんで、ユリウスとシュンのスカーフは15年前から消えていないんですか?」

「は?」

 

 

目の前の案内人、キエフは地面に肉を落とす。

 

 

「おい、ユリウス。そのスカーフ15年前からあるのか?」

「ああ。はい。っ!!」

「なんてことだ。糸がそこに行ってたか。転売に転売を重ねてたから、どこにいったかわからなくなってたんだ。まさか勇者にわたってたなんてな」

「いや、キエフさんそこじゃねえ。蜘蛛の糸だぞ?」

 

 

「あ。な、なぜ、――まだ残ってる?」

【蜘蛛糸】。というか糸系のスキルはスキルの保持者がいなくなった時点で消え去る。ということは。

「さ、最悪の場合だが」

「迷宮の悪夢と元祖の乗者は、どちらもまだ生きている――」

 

 

 

 

 

『ユウシャ。来た』

『ユウシャ?来た!』

 

 

マズい。

 

 

「火を消してくれ。来たぞ」

 

 

ゆっくりと、巨大な蜘蛛が現れた。

それこそ人間の数倍の大きさがあるような蜘蛛だ。

 

 

「グレータータラテクトが1、2、いや3体か」

「いや、まだだ」

 

 

「悪夢の残滓!違う」

 

 

ジジッ!!ジジジッ!!と鳴いている。これは。

 

 

「上にエジク・ラアがいる!

死の乗馬だ!案内人の方々は自分の身を最優先にして下さい。僕がグレーターを先に片付ける。だから他のみんなで死の乗馬の足止めを!!」

「わかった!!」

 

 

マズい。

恐らく死の乗馬と戦ってまともに時間を稼げるのはエミュシャだけ。

速く仕留めないと!!

 

 

「閃光斬!!乱突!!光斬!!」

 

 

ドスン。

 

 

よしこのまま!あと、2匹!!

 

 

 

 

 

 

「私が足止め、あ、危ない!!」

「きゃっ!!」

 

 

私は急いでヤーナを抱きしめ、そのまま地面に倒れた。

と同時に残沚は現れ空を切り裂く。

 

 

「ハイリンス、ヤーナを守って下さい!!」

 

 

急いでヤーナをハイリンスへ向かって投げ蜘蛛に変身。

 

 

「私は素早さにだけは自信があります。とらえてみなさい!!」

乗者が勢いよく糸を撃ってくるのをギリギリで回避する。

 

 

「ファイヤボール!!」

 

 

ヤーナがハイリンスの陰から援護射撃をしてくれる。

それでも素早さに追いついて無いみたいだが。

 

 

私以外に攻撃が向けられると大分マズい。

 

 

「電気罠!!」

 

 

罠を作り、残滓の動きを制限かつヤーナたちに攻撃が向きにくいようにする。

どこまで持つか。

ユリウス、急いで。

 

 

 

 

 

ズシャリ。

ドスッン。

あと1匹。グレータータラテクトだって普通じゃ1人で倒すものではないし、時間はかかってしまう。速く倒さなければ。

 

 

「聖光波!!」

 

 

たしかに、よろけた。

 

 

「今か!!」

よし倒した!不意打ちなら残滓に当てられるかもしれない!

 

 

「【真空斬】!!」

斬撃としては最高レベルの火力。だけど。

 

 

ガキリ。

 

 

手の鎌で受け止めた!?

 

 

「みんな注意しろ!エミュシャは防護の準備!!」

「はい!!」

「聖光!!」

 

 

サンッ!!ザァァァッ!!

 

 

「絶対防壁!!」

 

 

光の粒子が勢いよく残滓に直撃し、押し戻していく。普通の魔物だったらほぼ確実に倒せるけれど。

ジュッ!!

やっぱり。残滓にも乗者にもほとんど効いていない。かなりタフだな。

 

 

『ユウシャ。ヤッカイ』

『メンドクサイ』

 

 

ユラッ!!

なっ。背後――。

「剣を奪われた!!」

「俺の盾もだ!!」

 

 

マズい。スティールの錬度がエミュシャと違う。

コイツらを地上に出したらマズすぎる。

バシュという音とともに周りにあるいとはどんどん増えていく。

 

 

「なっ!?」

「きゃっ!!え?」

 

 

ハイリンスとヤーナの足が発射された糸に絡めとられる。

魔法を出さないと2人が危ない!だけど、当たるか?

 

 

『マザー?』

『グランマ?』

『『ア』』

 

 

え?

ぶるッ!ぶるるっ!!

 

 

ザンッ!!

残滓が乗者を振り落として切りつける。

乗者も身体を大きくして取っ組み合いが始まった。

 

 

どういうことだ?

 

 

「ユリウス!!今だ!!」

「わ、わかった!!」

 

 

2匹の蜘蛛に照準を合わせる。

 

 

「ふぅ――。聖光線!!」

 

 

そして、死の乗馬は動かなくなった。

 

 

「すまない。剣を奪われてしまった」

「大丈夫です。結果的に倒したんだから剣戻ってきたじゃないですか」

「俺はなんも出来なかった」

「だから、エミュシャも言ってましたけど結果オーライでしょう?」

「そうだな、バカ女」

「何でまたそれいうんですか!?」

 

 

でも。何故。奴らは仲間割れしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 

「どうしました?」

「先走っちゃったヤツがいた。勇者にやられたっぽいけど」

 

 

魔王は溜め息をついてテーブルにおいてあるスイカをそのままかじる。

 

 

「バルトはあまり気にしなくていいよ。私たちが10年以上かけて少しずつやってきたこと。それを変に破壊されたら不味いんだよね」

 

魔王様、怒ってらっしゃる。

 

 

「柔らかく内部から破壊。考えが凝り固まってた私だけだったら確実に思いつかなかった、集団の恐ろしさ。その発想には惚れ惚れするよ」

「でしょ?」

「ここ10年で現れた種族はたくさんある。こんなに長く生きてきたのに、知らない魔物ばっかりだ」

「はぁ」

「だから、世界は不確定。正直怖い。でも」

「「頑張らなきゃね」」

テーブルに座った少女は、魔王様と共に笑った。




筆者「ポケモンの名前もっとひねれません?あれギアルでしょ?あの歯車2つくっついたトーマスみたいなやつ」
管理者D「私に800匹進化系まで名前考えろってのか?」
筆者「やっぱなんでもないです」



ギアルも好きです。

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