「で、何をしに来たんですか?」
「とぼけるでない。分体も出来たし、ワレはあの世界管理する必要あるだろうが」
ある星のある一室。
黒髪の少女は無機質な空間でパソコンをカチカチと打っている。
そして、その後ろで白いパーカーを着た黄色い髪の若い男が腕を枕にして寝転がりながら漫画を読んでいた。
1人の女子高生のものであるはずであるのに、その部屋には全くの弛緩も感じられず凍てつくような力ばかりが感じられる。
「あの世界のポケモンは今までの奴等と違って少し適応させているし、滅びかけの世界でもある。これほど稀な実験場も無いのだよ」
「人々を救うような最高神らしくもない発言ですね」
D。恐ろしく高位な神であり、星を幾つも生み出す力を持っている邪神である。
アルセウスと比べるのはひどく酷な話で、比較にならないという表現が一番正確だが。
アルセウス。
ブドウの房のような繋がりを持つ宇宙の塊において、その一粒、宇宙1つを丸ごと産み出した神。
そんな神が動くことは元来許されていないはずなのだが、それでも彼はここにいる。
「あの世界にポケモンを突っ込むのは興味があったしお前の協力には非常に感謝している。ワレの管轄外であったからな」
「そうですか?私は当然のことをしただけですよ?」
神々の世界は、繋がりの世界であるといえる。
最高神の1人と繋がることは安定や平和を確実にすることと同値であり、それはかなり安全な立場にいるDでさえも望んでいたことだった。
そこに突如訪れたアルセウスからの依頼と、ほぼ同時期に起きた大爆発。この上ないチャンスを、邪神が逃すわけがない。
「人間と話すときは威厳を保たなければならないからな。カジュアルに話せるのは非常に気持ちが良い」
「――それがカジュアルなんですか?」
苦笑いをしながらパソコンのキーボードを叩く。
アルセウスがいることは、Dにとっても決して悪い話ではないのだ。
難しい話を嫌う冥土は彼のオーラを感じれば近づこうとも思わないらしく現に彼が来てからは1度も感づかれていない。
しかも、Dにとっても疲れはするが仕事をしなくてよいと思えばまだ十分プラスである。これからの利益も考えればまったく安い話であった。
「アルセウス様は大丈夫だったのですか?」
「こちらのしがらみの話か?あくまで本人が下手に動くなという話だからな、分体を飛ばしてしまえばなんてことはない。だから本人が動くなというのも本来意味が無いんだが、まーそれに気づくわけもないか」
自身の力を自由に分割して飛ばす。
並みの神には簡単なことではなく、Dにも成功するかはわからない芸当である。
アルセウスはプレートの力を利用することで息を吸うように可能にしているが、同位の最高神にとってもその行為が難しいことには未だに気づいていない。
「聞くが、『オリジンエレテクト』の設定について変える気はやはりないのか?」
「別にありませんよ。彼は生きられればの話ですが、順風満帆の人生を送ります。いや、蜘蛛生ですね」
「なんだかな。筋違いというか、突飛という気がする」
アルセウスはプレートからお茶を絞りだしコップに注ぐ。
馬鹿げたことをしているのだが、これはアルセウスの力があるから出来ることでもある。
「さあ、念願の人になるのですよ?ちゃんと人らしくなるじゃないですか」
「アリエルに狙われながら、だがな。お前はやはり性格の矯正が必要か?」
無論、冗談である。
これほどの神が性格を改竄されれば流石に最高神のせいだと足がつくため、そんなことはしない。
その弱味を知ってなのかDは変わらない表情でキーボードを叩く。
「ともかくいつでも潰せる力があることだけは覚えておくように。その時は剣ぶんまわして先制攻撃するからな?」
「そのコンボはやめて欲しいですね――。流石に知っています、力の差は」
その昔。Dは冥土と2人でアルセウスに挑んだことがある。
結果は惨敗。回復能力を奪われてから四肢をもがれ、1年ほどなぞのばしょに放置された。
そして、完全に回復してから冥土と2人でもう一度殴りかかった。アルセウスからは何も手出ししないという約束を取りつけてから。
ディアルガとパルキアを召喚されボコられた。回復能力を奪われてから四肢をもがれ、ギラティナにやぶれたせかいに連れていかれ再び一年放置。
その後2人でギラティナをなんとか張り倒し出てきたものの、アルセウス本人は飽きて元の宇宙に帰っていたという有り様だった。
以来、アルセウスの話を聞いただけでも虫唾が走っていたし、今回の話を初めに聞いた時はどんなことをやられるのかと震えていた。
まさか、依頼だと言って頭を下げられるとは思っていなかったのだ。
「次は瞑想しながら耐久してやるから安心しろ」
「思考覗きましたね?別にいいですが」
当たり前に思考を読む――これが分体の性能であってたまるか。
Dの正直な感想である。その感想に一切の間違いはなく、分体は18体ほど出せるので本当におかしい性能だと言うしかない。
本人はいうほど強くないというが、冗談も甚だしい。
「ムゲンダイナ一匹放り込んだらあの世界は楽になるが、そうはしないのだろう?」
「当たり前じゃないですか。なんならネクロズマもしばらくは投入しませんよ。グラカイレックはもう突っ込みましたが」
「あ、じゃあデオキシスいるか?最近こっちの宇宙の隕石からいっぱい沸いてきて困ってるんだが」
「やめてください。こっちの宇宙がポケモンまみれになります」
おいそれって、やばいよな強さ的に。
なんで核兵器みたいな強さのポケモンのデオキシスがGみたいに湧いてるんだ?
Dは叫びたくなるが、もちろん隠す。こんな神でも最高神なのだ。
変なことを考えただけでも物理的に首は飛び、あとはなんかその後にぽんぽん色々飛んで死ぬと予想できる。
「お前も相当だがな。まあよい、ギュリエディストデュオスはいるのか?」
「ギュリエディストディエスですね。呼びますか?」
「一応呼んでくれ」
「わかりました」
『ギュリエすぐにここに来てくださーい。場所は自分で特定してくださーい』
『わかりました』
そして、すぐにワープホールは現れた。
ブウン。
「Dさ――」
は?
ギュリエディストディエスは顔を出した瞬間、それに気づいて硬直。
最適な答えを探すも見つからず、ただただ立ち尽くすことしかできない。
え、え?は?え?
「まあ良い、落ち着け」
「はっ!」
「頭を上げろ。つくばうな」
「ですが……」
姿勢を元に戻しながら、最大限に思考を巡らせる。
何が起きているんだ?なぜここに最高神がいる?Dの仕業か?なに考えてる。下手しても下手しなくても死ぬぞ。
「最近はドラゴンの暴走も収まり始めた。フェアリーの分体全員でドラゴン族を丸ごと崩壊させることも考えたが、少し解体するだけですんだようだ」
「――えっ」
少しって何匹だ?とギュリエは考える。1割でも訳のわからない数になるが、過激派を鎮火するレベルなら3割ほど殺ったのかもしれない。
やはり、この方はおかしい。
「お前は別に仕事をしていない訳では――いや、仕事はしていないがドラゴン族であるのに星を傷つける存在でないというのはだいぶ異端だ。それは称賛に値する」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
ギュリエディストディエスの頬から一筋の汗が滴り、身体は震える。
返答を間違えた瞬間にサリエル様ごと、なんならDごとこの星を飛ばされかねない。
そのだけの力がこの最高神にはあり、なんならいつでも自由に使えるのだ。
「別にワレはパワハラ上司では無いのでな。別に罰を与えるつもりで来たわけではない。むしろ褒美だ」
「なんでしょうか?」
直立不動でギュリエは固まる。
アルセウスはアルセウスで初めこそ楽に接して欲しいと思っていたのだが、面白いからそのままにしようと決めた。
「あのポケモンという生命体は、世界にエネルギーをもたらす」
「と、いうと?」
「その種族は全宇宙最大級のスピードで食物連鎖を繰り返す。そして、あの世界は生命が滅びるほどエネルギーが星に届く。その意味がわかるか?」
「……!」
星の急速な再生。世界の安泰。
そしてサリエル様の復活。
「まあ、人類がポケモンの征服に耐えられるかはわからないが」
それは待ってくれ。
サリエル様は人類を愛していたということは、それはサリエル様を傷つけることになるのでは?
「人間とポケモンが共存する方法は無いのですか?」
「さあな。ま、あの世界でポケモンについてまともに知っているのはあのダニと何人かの転生者のみだ。やつらが全員滅びれば人類はポケモンと共存する方法を思考するすべを失い、アリエルごと星を破壊されるかもな」
え?
結局、世界ごと壊されるということか?少しでも舵を切り間違えれば。
これは、褒美なんてものではなく劇薬だ。
確かにあの世界はただの薬などでは回復もしそうにないが、だからといって治すことも壊すことも簡単にできる劇薬をポンと渡されても恐怖以外の何者も抱けない。
サリエル様ならどうしただろうか。人間とポケモンを、どうやって共存させるのだろうか。難しい。わからない。
ギュリエディストディエスは呆然と立ち尽くした。
一方、Dは別のことに驚き固まっていた。
え、あれ蜘蛛じゃなくてダニなのか?あのバチュルっていう生き物。
無論、ダニである。生態的にもダニ。進化後は蜘蛛になるが進化前はあくまでダニである。
スキルに関してはポケモンの技をすべてパクっているだけであるので別に関係は無いのだが、アルセウスの前で醜態を晒すというのはDにとっても嫌だったらしく悔しそうな顔を露にする。
そもそもゲーマーであるDがゲームでの自身のミスを許せないと点もあるが。
そうは言っても白と会っていなければ即死していた可能性がかなり高いので、青にとっては蜘蛛としてクイーンタラテクトの卵から産まれたのは幸運でしかないと言える。
つまりDの勘違いで青は生存したのだ。
「まあよい、その話はここまでにしよう。今回ワレがここにいるのはある理由があってだ」
「勿体ぶってますね?世界の仕組みについてでしたっけ?」
「事実勿体ぶったからワレは何も文句言わんが――。ポケモンをこの世界にぶちこむことの条件についてだ。これから様々な理由で変更されるとは思うが、根本の根本、憲法みたいなのは作っておきたいと思ってな。ちゃんと聞くように」
「「わかりました」」
いつもならあり得ない面持ちをするD。そこには、最高神と付き合うことに対する覚悟がはっきりと写し出されている。
「ポケモンにある奇妙なスキル2つを取り敢えず説明しておけばよいか?まず小型化か。5cmから元のサイズまで任意に変更可能という情報でよいな」
「「はい」」
これって拒否権あるのか?とDとギュリエは全く同じ感情を抱いたが、勿論それを聞く勇気があるわけはない。
まだ先程の雰囲気なら聞けたかも知れないが、もうそうではない。
「次に目玉の『強化産卵』。そもそもが十二分にすごいが、まああれにも色々強化要素がある。デフォルトでついてるのはただの産卵だけだが。じゃあ産卵について説明しよう」
「HP1を消費して1つの卵を産む。ただし、食事をしてSPを回復しながら産卵した場合はそのHP消費は存在しない。そして、この産卵で減ったHPはスキルのHP自動回復で回復することはなく獲物を捕食することでこのHPの最大値は回復する。また、自分で産んだ子や卵を捕食した場合SPは回復し経験値も得られるがHP回復は得られない。取り敢えずこの仕組みで異論は無いな?」
「「ありません」」
「OK。じゃあ最後は『特性』についてだ。ポケモンには基本1つの特性、いわば能力が付与されている。その特性はそれぞれ1つのスキルに変化させ取得させた。これで話は終わりだが、まだ聞きたいことはあるか?」
「ポケモンを増やす目的を教えていただくことは可能でしょうか?」
ギュリエディストディエスはわずかに震えながら口を開く。
それには、星を守りたいという感情と、星を救って欲しいという2つの感情がせめぎあっているようだった。
「あ、それはな。結構実験的な趣が大きい。あとはこの宇宙にポケモンの種をばらまけるからな」
「えっ!?アルセウス様、何を考えてらっしゃるのですか!?」
それに対して即座に反応したのはDだ。というのも、この宇宙自体はDの権限で自由に動かせるものではないのだ。
それを自分の都合で変えてしまうなど、とんでもない。
しかも、相手は全宇宙最高レベルの侵略力を持つポケモンでDは頭を抱えるしかなかった。
「無論、世界の生き物には関与しないという取り決めは継続だよな?D」
「はい」
奴の方が、よっぽど邪神だった。
アルセウスブッ壊れてるぜ!
魔王様リトライ風の結構なネタ回。
※説明
アルセウス……ポケモン世界の神。全ての属性になる能力を持つ。プレートには属性エネルギーが含まれているので、それを奪われると属性のバランスが崩れ、無敵状態では無くなる。
ムゲンダイナ……超エネルギーを持っている異世界のポケモン。コイツのエネルギーがあれば大体解決する。
ネクロズマ……ポケモンにおける異世界の神であるドラゴン。アルセウスならボコボコに出来る。
ギラティナ、パルキア、ディアルガ……ドラゴンで、アルセウスの弟分。普通に強い。ギラティナはやぶれた世界という空間を支配していて、パルキアはこの世界の空間、ディアルガはこの世界の時間をイジる能力がある。
グラードン……陸地の王。マグマだまりに生息するゴジラみたいなやつ。人が出会うことはほぼない。
カイオーガ……海の王。深海に住んでいるシャチみたいなやつ。人が出会うことはほぼない。
レックウザ……天空に住む龍で、青龍のような姿をしている。グラードンとカイオーガが喧嘩すると大体仲裁に来る。人が出会うことはほぼない。
デオキシス……遺伝子ポケモン。高さ2メートルくらいの宇宙人のような姿で、DNAのような螺旋状の腕を持つ。隕石に含まれた遺伝子から湧いてくる。幻のポケモンなので、珍しい。
フェアリー……ドラゴン技を無効化するタイプ。強い。