バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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女神降臨の次の日、彼らは何を思う。






閑話 世界を揺るがす者

「ついにサリエーラ国首都に女神が出現したか」

「はい、今現在記録された映像がデータとして世界中に配布されています。

 この蜘蛛で」

「は、蜘蛛で、か?」

 

 

秘書が持つ黄色い蜘蛛を見て私は一瞬思考を止めた。

これは少し、世界がとんでもないことになっている。

想定を遥かに凌駕してきたか。

 

 

「少しだけ考えたい事がある。

 その蜘蛛を置いて一人にさせてくれないか」

「は!」

 

 

彼女がギイと扉を閉めたと同時に、私は頭を抱える。

何があった。

どうしてこうなった。

アリエル、君は今なにをしているんだ。

 

 

なぜ君はそいつにこんなに勢力を拡大させた?

4000年動かなかった君が、なぜ全てを砕くことを許した。

 

 

黄色い蜘蛛は今もこの街に大量に発生している。

どうやら、怪我に湧くウジやゴキブリを集中的に食べるために好かれているということだ。

私は見つけたら然るべき処理をしているが。

だが世間では便利な生き物として馬と同等に扱われることすらある。

『蜘蛛は黄色に限る』

そんな言葉すら流行ってしまった。

 

 

 

そんなことをしていると思ったらいつの間にか女神の復活などという。

聞いた話によるとケレン領の女神が世界を変えるのだとか。

とんでもない眉唾物だ。

 

 

私はそう思っているが、民衆は止まらない。

なんせ相手はケレン領を半年で人口5倍近くまで引き上げ、サリエーラ国内で最も裕福にした化け物だ。

大抵が人口流入による増加だが最も豊かであることに変わり無い。

ああ、嫌な話だが勝てる気がしない。

不快だ。

 

 

そもそも蜘蛛であったのだからアリエルの眷族ではないのか?

彼女は元々自分よりも弱い存在に屈しない。

それでありながらケレン事件の際には女神のもとで働いている。

長く付き合っていればいるほど、その心境の変化を理解出来ない。

 

 

アリエルよりも女神が強い可能性はあるか?

無いと信じたいが、それにしては関係性がおかし過ぎる。

人が嫌いでたまらない彼女が避難民の救助を行っていたのだぞ?

ありえない話だ。

 

 

クソ。

そんなことは今はいい。

考えなければいけないことはたくさんあるが、優先順位がある。

今この瞬間考えなければいけないことは女神そのものではなく、真言教についてだ。

このままでは真言教の女神教へ対する優位性が一瞬でひっくり返ってしまう。

今の一瞬の幸せにかまければ即世界が終わる。

そのために動かなければ。

 

 

『すまない、入ってきてくれ。

 今の街の状況について教えてくれないか』

『わかりました。失礼します』

 

 

ガチャリというドアの音とともに入ってくる秘書。

この子はまだ真言教の本当の存在理由については知らない。

だから、正直に聞いていく。

 

 

「まず、今現在の街の状況についてだ。

 女神が降臨はしたがすでに女神教についての映像の拡散は禁止していた。

 だから市民が昨日の女神降臨に関する情報を詳しく知ることはないだろうが、それに対する不満はあるだろうか」

「僭越ながら申し上げますが、今現在市民の不満は膨れ上がっているようで政府の管轄外では女神教を信じる者も出始めたようです。

 今までは女神教を同調圧力で禁止していた部分もありますが、これからは難しくなるでしょう」

「だろうな。残念ながら想定通りだ。

 いかんせん女神教を否定する材料が圧倒的に不足している。

 なんなら、私の信じている真言教の方が馬鹿馬鹿しい」

「そんなことは……!」

 

 

ああ、断じてない。

システムにスキルを返却して救うなどという女神教の教えは決してあってはいけないものだ。

我々は、自らの力で輪廻の歯車を回してMAエネルギーを増幅させなければいけないのだから。

短絡的なその手法では今の惑星破滅を防ぐのは不可能。

だから馬鹿げているのは女神教であり、こちらは正攻法。

だが、世界の真実を知らない限りはあちらの富に叩き潰される。

本当に厄介な相手だ。

 

 

「ですが、ケレン領の女神は本当の女神ではないようです」

「は?なぜだ。

 どうしてそうなった」

「街の人々が話しておりました。

 映像は禁止していても、人々の口伝えは封じ込め切れませんでした。

 申し訳ございません」

「いやいい」

 

 

よくない。

私のわずかな希望がまた一つ潰された。

なんと女神でないことをあちらから情報開示してくるか。

まずい、アリエルとは考える作戦の練度が違う。

 

 

というのも今もサリエルはエルロー大迷宮の最下層に封印されているからケレン領の女神は完全なる偽物だ。

痛覚耐性を昨日レベルアップさせたからそれは確実。

だから、これを私だけが持っている情報だと思っていたしここから女神教を攻めるという手段もあった。

だがその情報はすでに開示されていてその上で信用を保っているときた。

女神バレによる信頼下落を先に潰してきたか。

 

 

しかもこの情報は今まで流されていなかったはず。

となるとこの子が聞いてきた情報は昨日の女神降臨のものそのままだ。

女神違いの話がただの噂である可能性もあるが、こんな罰当たりな噂が根拠もなしに展開されているのは違和感がある。

やはり昨日開示されてそれが一日で伝わったという可能性の方が濃厚だな。

 

 

「君は女神教のことをどう思っている?

 正直な思いでいい。

 今の君の仕事を脅かすことは決してないし、食い扶持を奪おうなんてことは全く考えていない。

 だから教えてくれ」

「正直に、ですか。

 すみません、述べさせていただきます。

 私は女神教も真言教も正しい宗教であるんだと思っています。

 いや、思っていました」

 

「ですが、ここ1年における女神教の躍進を見て、私はわからなくなりました。

 宗教を新しく裏打ちする存在が現れその神によって事実国は発展しまった。

 女神教に矛盾点があっても、現実がそれを塗りつぶしてしまっている。

 正直、私は何を信じればいいのかわかりません。

 真言教は自衛を促しますが、経済発展を果たしていない。

 女神教は発展を促しますが、自己防衛を許していない。

 

 ですので、今は真言教を信じていますが、私はわかりません。

 ですが真言教を信じていたいです」

「そうか、ありがとう」

 

 

さて、どうするか。

この子は孤児で、私の庇護のもと育ててきた子だ。

だから今のは正直な感想であるはずだろうし、最も真言教を信じてきた種類の人間だ。

その子でさえ女神教と真言教の狭間で迷っている。

 

 

 

 

下手したら、あと数ヶ月でこの宗教は終わりを迎えるかもしれない。

命に変えても阻止してやるが。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今現在はどうなってる。

 言ってみろ」

「世界は完全に修復されています。

 MAエネルギーの代用となる物質が循環しているようです。

 星のひび割れなどももうありません」

「そうか」

 

 

これはとんでもないことが起きている。

4000年かけて修復しなかったものがたった一年で完全回復した。

アリエルのもとのイレギュラーが極めて狂った存在になっている。

だいぶ尖ったものだ。

 

 

 

ケレン領の女神。

一般にはそう謳われるエネルギーの怪物。

生まれて1年しか経たないのにアリエルに勝利可能な化け物だ。

 

 

実際アリエルに勝てるかと言えば、実戦を見ていないのでなんとも言えない。

だが、まあ勝てるはずだ。

現にアリエルはあれに従って行動をしているから上位関係でも植え付けられたのだろう。

私に抵抗してきた時も速度の限界を突破していたし。

 

 

だがこれは同時にチャンスでもある。

なんたってあれはエネルギーの塊だ。

おそらくあれは神1体分のエネルギーに匹敵する。

うまく抑えればこちらのもので、すぐにでも私は神になれる。

 

 

エネルギーをどう吸収するかは後で考えるとしてまずはどう回収するか。

先日食われたことも考えるとあいにくあれもこちらを餌だと思っているようで、下手をすると私もただの餌になりかねない。

しかも不定形生物を捕獲するというように考えなきゃいけないだろうし、ロボを作るにしても時間が必要だ。

となると、あれの成長速度についていけない。

嫌なイタチごっこを展開してくれる。

 

 

 

まあそんなもの構わない。

4000年間で、私にとって最も大きいチャンス。

これは必ず私のものにする。

 

 

たとえ世界が破滅しようとも、野望のために消費してやる。





揺れる宗教、揺れる欲望。
やはりエルフは悪。
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