土日挟んでしまいました……。
朝日の中、彼女はそこにいた。
俺が今まで見た時とは違う姿で、そもそも彼女の巣窟に入ったのは初めてだったが、俺は彼女であると確信できた。
ワープゲートで出来た次元の扉をガチャリとドアの様に開け、一歩一歩歩き出す。
ギシリ。足元のフローリングが歩くのに伴って鳴り、その音で気づいたのか彼女は俺へわずかに口角を上げながら振り向く。
「やあ。こんな朝一番に乙女の部屋に入ってきて、なにをお望みだい?
電脳」
「あー、確かに朝早かったかもな。そこは反省してる。
だがそれとこれとは話が別だ。
答え合わせをするぞ。
キラ・ドルトンヘイア」
タワマンの一室に差し込む朝日の中、キラはパジャマ姿のままバツが悪そうに作り笑顔をした。
「おはよう。
思ったよりも早かったね。ボク?私?ここでは私にするか。
私の見立てだと明後日くらいかなって思ってたんだけど。
それに、神様の助けを乞いたのも1回だけ。しかもあれ、課題の説明みたいなもんだったから実質ゼロじゃない?」
「はぁー、御託はいい、って言いたいが……、ゆっくり話す。
そもそも明後日だと思ってるのも十分化け物だよ。最初からDの勝ち目がなかったって言ってるみたいじゃねーか」
「当たり前じゃん。あんなお粗末な記憶消去、私でだって解明できる。
Dちゃん人の感情舐めすぎなの。
百億年くらい生きてきてるせいで、すっかり心を忘れてる。
お姉ちゃん的には可哀想って感じてるんだよ」
「お前はDの姉でもなんでもねぇだろ。
血の繋がりもないし、本心から揶揄ってるだけだ」
キラはサンドイッチを持ちながらにっこりと机の対面にいる俺に笑いかける。
だが、俺はそんなのに構わずすっかり呆れていた。
というのも俺が来てから奴がサンドイッチを作るまでずっと待たされたせいで、ここにいる時間としてはすでに30分が経過しているからだ。
しかも同時に彼女が部屋着に着替えるまで別室に追い出されたため、全く話すことができなかった。
唯一幸運だったのはこの空間では今日日曜日で仕事か学校に出かけるということがないくらいか。あとコーヒーを注いでもらった。
「ところで思ったんだが、お前今神のヘルプ1回だけって言った?
俺Dとギュリエディストディエス、あと白で3回助けてもらってるはずなんだけど」
「あー、私龍のこと別に神と認めてないし。
公的な手続き上は神と見做してるけど、のらりくらりしすぎじゃん彼。
個人的に好きじゃないんだよねー」
ベランダの先、空の彼方を見ながら、頬杖をつきながらフーっと息を吐く。
嫌われるぞ、龍。まあ龍だししょうがないけど。
「あとそもそも白ちゃんについてはヘルプ、というか当事者だしね。それを言っちゃえば記憶を弄ってあるあの龍も当事者ではあるんだけど。
ま、こんなくだらない話はやめにしようか。
3人だろうと1人だろうと変わりはしない。
こんな細かいこと気にしてたら将来モテないよ?」
頬杖を立てて、こっちを視線で貫いてくる。
正直話してるだけでめちゃくちゃキツい。こんの腹黒女、マジで精神を削ってくる。
爪切りのヤスリ部分かよ。
「俺は別にアイツがいりゃあいいんだよ……。
お前の言うとおり話を戻してやる。
まずお前のところに来たのは、この勝負において単にお前が中立な立場で、審判だからだ」
「ふーん。
そうだね、そのとおりだ。私は星羅族。
存在が法律みたいになっている。
だけど、Dちゃんの方に言いにいけばよかったのに。当事者でしょ?
わざわざ答え合わせしにくるほどでもないのに」
「思い出したら全部わかる、これはDが言ってた言葉だ。
そして俺は全部わかったはずだ、だけど記憶は戻ってこない。
その言葉の綾を裁けるのはお前しかしない」
「うおー、頼ってるねぇこちらを。
と言うか君面倒くさくない?それ思い出したらっていうかわかったらでしょ……。
絶対ミスだって」
俺とキラは同時にため息を吐いた後マグカップに注がれたコーヒーを飲む。
なんでシンクロしてんだ、絶対こっちの方が怠い思いしてるって。
Dにやられた勝手なサイバー攻撃の処理を強いられてんだから。
「マジな話すると、全部思い出したら全てわかるってのは、そもそも思い出すために何か必要だと思ってな。
となると、D本人は何もやりたがってないんだからお前の方に委託したってのはすぐ思いつくことだろ」
「正解!」
キラは急に破顔してグッド親指を突き出してきた。
うーわ、こいつ全部今までのこと知ってたじゃねーか。
怠いふりしてたの、本当に全部ふりだったのかよ。
めんどい。てか怖い。めちゃくちゃ怖い。
「よくわかったね、いいよいいよ!
Dちゃんが私に委託したんだ。そもそもそうしないとちゃんとジャッジを下せないからね。
神と神……、君が神かは怪しいけど、そんな勝負だし?星羅族はそりゃ出しゃばってくるわけだよ」
外からの風に彼女の黒色のショートヘアが靡く。そういや、髪の色そんな簡単に変えられるんだな。
確か金色だったはずだが。
「そりゃそうだ。私だって地味になるためにここで遊んでるのに。
一人称だってボクから私に変えてるし、大学で目立たないために頑張ってるんだよ?
イケメンだから結局目立っちゃってるけど……。
結構楽しいよ、学校」
「そうか?俺はそう思わないが。
実際Dも感情シナプスバグってたんだし、お前が異常なだけじゃね?」
「そんなこと言わないでよ、面白いのに理屈は無いし面白いんだからいーじゃん」
それを地球でやることが悍ましいって言ってんだよ。
らく、お前ら神は揃いも揃って地球で一般人のふりをして遊びやがる。
それで本物が手に入ると思うな、偽物の構築者が。
そんな思いを汲み取ったのかキラはこちらから少し目を逸らして話す。
「ちょっとだけだしいいと思わない……?
ま、君はそんな子だったってことでおしまい。
次の話に行こう。
どこまでわかってる?」
「俺の体内にいた主人格を返せ。
Dが消滅させたそれもお前なら元に戻せるだろ。
そしてそれは全て解決した後のお前の義務であるはずだ。審判者であるお前のな」
「痛いところを突くねぇ……。
その通りだよ。それも私の役割だ。だから全部思い出したら君の勝ちって言ったんだよ、Dちゃんは。
で、思い出しただろう?だから君の勝ちだ。
おでこ出して、今思い出させるね」
「待て」
俺はキラに手のひらを向けた。
体を乗り出していたキラは、その出した手を引っ込め小首を傾げる。
もうお前は成人してんだろそれは未成年の俺には効かねぇよ。
大学の男どもにでもやっとけ。
俺は奴の目を強く見つめ、必死に言葉を紡ぐ。
記憶の消えかけに対抗するのにこっちも息絶え絶えなんだよ。
「青の記憶についてだ。
同時に青の存在も戻せよ?記憶だけじゃなく。
この星にいた時からの青の存在も記憶も、全部あの星までのものをよこして完全に魂から同じものをそのまま戻せ」
「……」
キラは一瞬目を見開き、少し固まっていた。
だが、その直後、声を出しながら破顔する。
「ははははは、驚いた!
まさかここまで、ここまでわかってるんだね、いいよ君、好きだ。
好きだよ、大好きだ」
「るせー、ビッチが。
それを止めろ。言葉じゃなく行動で示せ」
「いやー、まさかここまでわかるとは、本当に大っ好き、心から愛してる!
はぁ……、はぁ。
大正解だ、4分の4、君の完全勝利。
全部わかってたんだね。まさかその名前を出せるとは思ってなかったよ、はは……♡」
チッ。我ながらコイツを可愛いと思えた、少し魅了されかけたのが非常に不愉快だ、悔しい。
それも俺が蒼生の中の男の成分しか所持していないからこうなるんだろう。
青も青で好き、大好きという言葉で脳が溶かされていた可能性も十分あるが、性的に好意を持ちかけたというのが俺にとっては限りなく気分が悪い。
肝心なキラは机を叩いて笑うのはやめたが、まだ肩が上下しているし息も荒い。
顔も紅潮していて、俺の発言がよほど気に入ったようだ。
これ好きな人がちゃんといないと殺されるな、小悪魔、いや正真正銘の悪魔だ。
「まず、その名前を出せるって思ってなかったんだよ、私もDちゃんも……。
その記憶は一番はっきりと消滅させたはずだからね。
それを判明させるとは、正直驚いた。
よければだけど、どうやってそれを知ったか教えてくれない?」
うーむ、これ言っていいのか?
これ言って後々厄介ごとになるとか……、ないな。
ま、こんな番外戦術知ったところで対応できないだろう。
「筋肉」
「え?」
「口の筋肉の発達具合、神経の伝達速度で判断した。
白と名付けしあったって時点で黄色か青、とかそういう単語幾らかに絞れたから、あとは反復だ。
どれが一番ナチュナルに言ってるかを一晩かけて色んな方法で計測した。
シナプス可塑性、長期増強って知ってるだろ?」
「え、本当に?
シナプス可塑性とか長期増強ってあれだよね、同じことをしてたらだんだんそれをより素早く活発に行えるようになるように神経が変化する、って奴だよね?
それをやったの?」
「ああ。あっちの世界で蜘蛛の体が構築されたから、その分地球での会話の影響出なくてめっちゃ楽だったぜ」
キラは引き攣った顔でドン引きしていたが、やがてさっきみたいに笑い出した。
なんだよこいつ、笑い上戸かよ。
いや、コイツこれで男を落としてきてんのか。変な学習方法しやがって。
「まずさ、それを思いついたとしてもさ、実践するのがイカれてるよ、君。
いいね、いいね、最高だ。
そんな君には、どうせだし、最後の答えを教えてあげる。
君とDちゃんの最後の勝負は、君がここまで思い出すことだ」
「はぁ?
待て待て待て、じゃあさっき俺の勝ちって言ってた時本当に俺の勝ちだったか?
そもそも4分の4ってなんだよ、けむに巻くなよ?」
「大丈夫大丈夫、全部教えるよ。
まず一つ目、君が私に結果発表しにくること。
二つ目、私に対して事象を言って、解決策も提示してやらせること。
ここで、本当は君とDちゃんは引き分けだったんだよ。
それで三つ目、彼の名前を思い出すこと。
そして四つ目、上記三つを全て君が見つけること。
だから君はフルコンプ、君のパーフェクトゲームだ」
ーー詐欺じゃねぇか。
さっきまで全部思い出したら勝ちって言ってたのは実は引き分けで、実際のところ勝ち判定になるのは名前を思い出してから。
こんなのおかしい。
名前思い出してから行ったからよかったものの、覚えてなかったらどうなってたんだ。
「ま、まあ、君が腹立ててるのもわかるんだ、さっきまで勝ちって言ってたの、四つ中二つしかわかってなかったし、実は引き分けだったんだ、って思ってるでしょ?
それでも君の勝ちになってたんだ、何も要求とかはできないけどね。
あと最後の上記三つがわかれば君の勝ち、も名前さえわかればパーフェクトゲームということでDに弱い勝負になってたの。
それも含めれば、原生生物弄っちゃダメって縛りの中でも半原生生物で半神の君と青に勝負を仕掛けられたってわけ。
だのに、全部,本当に四つとも明らかにするとはね……。
君は最高だ!」
ブンブンと両手を振って興奮を表しているキラだが、正直コイツには胡散臭さしか感じられない。
だってコイツ普通に二枚舌なんだもん、今回のことに関してじゃなくても。
あと普通に性格が悪い。正直付き合いたくない。
「ああ、君はDちゃんに完全勝利した。
その上で何か要求したいことってある?
実はさ、君がDちゃんに3か4で勝った場合、何か要求していいって話になってるんだよ。
Dちゃんに要求したいことはなんでもいいよ、まー、消滅とか言ったらその分の仕事は受け持ってもらうかもだけど」
「ーーは?」
おかしい。
それはない。
消滅は、ないだろう。
青をそうされた俺が言うのはおかしいが、それは出来ないだろう。
無理がすぎる。
けれどキラは、そんな俺の本心を知ってか、ケラケラと笑いながら言う。
「いや、出来るよ。
それをお勧めしないけど、他の神様の幾らかはガチギレするだろうしね。
私がとやかく言う権利はない。さあ、君の要求を行ってごらん」
「お前はDのこと、別に消えてもいいと思ってるのか……?」
それを聞くと、キラは口を一瞬つぐんだ。
だが、それでも彼女は話し出す。
「私は星羅族だ。
法律は自分の意思で審判を変えない。
私は私なりの矜持があるんでね。
ああ、君はDちゃんのことを私がなんとも思ってないと思ってるかもだけど、私は彼女のことを妹のように可愛がっているよ」
それを俺を見ながら、直視しながら言ってきた。
まじかよ、コイツまじかよ。
自分の妹のように思ってる存在、これは嘘じゃない。
嘘じゃない上に、消えても仕方がないと思っている。
それが、決めた法律だから。
決めた法律を破ることはそれ以上のものだと彼女は思っているから。
やばい、おかしい、イカれてる。
俺は心を決めて、俺は言った。
「じゃあ、俺は頼む。
Dに対しては、自身の魔力に関して今まで以上に向上させる行為を禁止する。
そして、青について、何もなかったようにして元通りにしろ。
以上だ。いいな、これなら」
それを言うと、キラは破顔した。
破顔して、これを言ってきた。
俺はドン引きした。
「ありがとう。
君のその考えを尊重しよう。
君のそんなところが大好きだ」
「一生愛してやる」
ーーーーそれでもなお、窓から差し込む朝日は彼女を明るく美しく照らした。
みんな大好き。
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