『今回の対神頭脳戦は、青陣営の勝利により終了いたしました。
青陣営には報酬として"夢現世魔星"青の完全復活、”最終の神” Dには罰として魔力活動の活性化の禁止を与えます。
では、また。
”全生命体共存管理者”キラ・ドルトンヘイアより連絡は以上です』
「負けたな」
「ああ、負けた。
一晩で。
完膚なきまでの敗北だ」
Dは、自室でははっと乾いた笑いを響かせ、椅子に寄りかかって天井を見つめる。
まさか一晩で負けるとは。
こんな完全な、完璧な負けがあって、どうしたら勝てる。
困った、もう頭脳戦じゃ勝てそうにない。
「おっはー。
やあ、Dちゃん。
言う事なしの敗北だね。どう?この気持ち」
「最悪です。まさか、この私がこの感情をアルセウス以外で味わうことになるとは……、本当に困った」
「おい」
床に寝っ転がって漫画を読んでるアルセウスがなんか言ってるけど、無視だ無視。
何か言いたいことがあるならまず自分の行動を顧みろ。
当たり前のようにドアから侵入してきたキラに、私は思わず弱音を吐く。
いざ神でも、自身が消滅しうるレベルに負けると心が折れるらしい。
「私はそもそも勝てると思ってなかったんだよ?
冷静に考えて無理でしょだって。
Dちゃんは心とかおもちゃでしかないと思ってるだろうけど、そんな舐めてかかれるほど心、愛ってのは脆くない。
だから、迂闊すぎた,舐めすぎた」
「実際これで突破されちゃったあたり否定できないですが後出しで言わないでくださいよ……。
あー、危機感感じて変に抵抗したのが最悪の展開を引き起こしたって感じですね……」
私が今回の勝負を一方的に始めた理由はそれだけだ。
青が色々なことを思いついて実行し始めて、それに対して強い危機感を感じた私は何も考えないで足掻いた。
足掻いた結果、水に当てられた焼け石が化学反応を起こして一気にこちらを熱し返してきた。
たったそれだけのこと。
「まー、よかったなとりあえず。
魔力の増幅操作だけ禁止されたんなら死ぬわけじゃないし、今の仕事が出来なくなるわけでもない。
だいぶ温情加えられてると思うが、マジでよかったじゃん」
漫画を一冊読み終えたアルセウスは、ゴロリと寝返りを打って別の漫画を読み始めた。
こんなダラダラしてるヒキニートみたいな神が一番偉いのは癪だけど、これもなんの弊害も無しに分身が使えるから出来る芸当なだけだ、普通はできない。
「でも仕事はやってもらいますからね。
禁止されたのは魔力の増幅やそれの効率的な活用のための成長。
存在を抹消させれなかったのはあなたがいなくなるとあまりに宇宙の均衡が壊れたり、仕事が溜まったりするからです。
自分の存在意義のためにも仕事はやってください」
「わかってるよ……。
私も自身の存在意義を失ってまで一人の神に執着するほど馬鹿じゃないつもり」
後ろから聞こえる冥土の声にため息を吐きながら、パソコンを再び打つ。
『今回の件について
Dより
この宇宙において……、』
報告書、幾つの神に出さなきゃいけないかなぁ……。
「よお、起きたか?
俺だ、電脳だ」
「うん。起きた。長い、長い夢を見ていた気がする」
「そりゃそうかもな。
自身の喪失が発生してたんだ、いつ死んでもおかしくなかった。
ただ、生きててよかった」
私は森の中で目覚めた。
昼間なのに、暗い森の中だった。
私は白雪姫みたいに囲まれていて、周りの人がみんな泣いていて、私がいない間に大変なことが起きたのかと思った。
電脳はいつも自分のことをオレ様とか言ってたのに、俺になっていたし、電脳も死んでしまったのかと思った。
違った。
私は、いつ消えてもおかしくない状況だったらしい。
私のことを電脳ですら、白ですら忘れてしまっていたらしい。
要は私の存在自体がなくなっていたというのだ。
私は困惑した。
私の消滅でここまで泣かれて、私はどうすればいい。
こんなことを言って仕舞えばおしまいなのだが、事実、私にそこまでの価値はないのだ。
電脳がいれば星の再構成もできるし、神に対抗することだって可能だ。
ただ、前例を作ってしまえば他の人間の存在が抹消されるようになるとかもありうるし、これが一番正しかったのかもしれない。
もちろん、この思いは言わない。
だけれど、そうなんだと、嫌なほどに、吐き気がするほどに思った。
私は、私以外の全ての人間に、私以上に私のことを、愛されているのだと。
白に抱きつかれた。
白自身は、神になったことで全く動けないほどに体力を失っているのに、それでもなお私を抱いた。
抱いて、泣いた。
ただ静かに抱きしめてきて、泣いている。
「大丈夫、大丈夫。
私はいる、ここにいる、あなたを愛している」
私は言う。それでもなお離さずに、彼女は泣き続ける。
ひっぐひっぐと嗚咽しながら、私よりも大きいその体の、その顔を私の胸に埋めて泣き続ける。
私はその体に触れて、その体を温かく感じた。
柔らかい。エネルギーと物質の塊であるはずのその体が、なぜか愛おしい。
その脂肪が、その皮が、その筋肉が、その体温が、ただの科学的現象であるはずなのに、ことごとく好きだ。
「わたしは、青に、愛されて、生きている。
生きる意味は、ここにある。
生きる価値は、ここにある。
でも、わたしは、負けた。
神に負けて、青を忘れてて、それでも、それでも、わたしは、これだ。
だから、青も、それなんだ」
思わず私は彼女を抱きしめ返した。
それでも形容できないほどに温かくて、柔らかくて、可愛くて、好きだった。
そんな程度じゃ、その体の愛おしさは変わらない。
その体の尊さは変わらない。
私は彼女を愛した。
それは、私が自分の生きる意味になっていたからだ。
彼女を愛することで、それそのものが私だったからだ。
だから、愛し返されるという行為を知らずに、私は愛していた。
それが私だけのものじゃないと知らずに。
「私が、馬鹿だった」
私は白を強く抱きしめて、声をあげて泣いた。
私の、負けだ。
対神頭脳戦、その結末。