バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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143 いざ魔族領へ

「で、鬼は魔の山脈の方に今はいるってことね?

 まじ?」

「おおマジっぽいよ」

 

魔王と白にめちゃくちゃ絞られていたけれど、部屋に入ってきたメラゾフィスが通行規制の解除を教えてくれた。

というのも帝国軍の攻撃で魔の山脈に逃げたらしい。

私たちもそっちに行くんですけどね。

 

「青、遭遇すると思う?」

「うん。

 あと先に言っておくけど笹島くんだからどっちにしろ拾うよ。

 彼放置しちゃったせいで憤怒が今発動してるから、最悪ゼルギズに任せる」

『まかせろ!』

 

頭にゼルギズの声が響く。彼は今は私の体内の無虚空間にいるけど、いざとなれば出てきてくれるだろう。

それにただの龍(宇宙のやつも含めて)くらいなら勝負できるゼルギズなら実際平気なはずだ。

なんなら殺さないようこちらが全力で手加減しなければならない。

 

「おういちょっと待て!

 えっと、笹島くんなの!?ていうかなんで知ってんの?」

 

おーおーソフィアくん声を荒げるな。

白とか黙ってるんだから、驚きで固まってるだけかもしれないけど。

 

「結構厳重な警備されてるエルフの里ならともかく、私の探知範囲はバチュルのいる場所。

 つまり世界全体になる。

 エルロー大迷宮の中層ですら生映像見れるんだからそりゃ知ってるよ。鑑定も出来るし」

「じゃあなんで今まで放置してたの!?

 クラスメイトだよ!?」

 

痛いところをつくね、それ。

いや、わかってるよ?学校の友達だし。

でもそれ以上じゃないじゃん。

 

「憤怒って、七大罪系スキルの怒が進化したガチのやつだから、ちょっと怖かったんだよねー。

 まず笹島くんの理性が死ぬんだけど、まあそれはそれとして。

 問題はDがこの世界の根幹に設定してるスキルってことだ。

 一朝一夕で解除できる気はしないし、なにより私がそこまでして助ける気がなかった」

 

「ま、今回は近く通るわけだし、ついでに回収してこう。

 白もこんなだし、障害は予め排除しとかないとね」

 

ソフィアの人間じゃないものを見る目が痛いよ。

私も実際それは認めるけどさ、私は笹島くんに同じクラスの人間っていう認識しかないんだ。

それに私も自分で決めて発動させたものにケチつけるほど性格は良くない。

 

「青、とは言ってもあまり長くは滞在できそうにない。

 ギルドの方に私が行った時魔族として警戒されていた。

 鬼を追い払った強さを持つ帝国軍にまで絡まれると流石にめんどくさい」

 

魔王の苦虫を噛み潰したような顔に、私も苦い顔をする。

うーむ、バレたくないとは思ってたけど、こんな魔族領の近くまできたらそりゃバレるな。

ただ私が女神ですって言えばなんとかなりそうだけど。

今女神教になってるしこの国。

そんなこと言ったらもう魔族領まで転移しちゃえばいいんだけどね、だから出来るだけソフィアを鍛える方向で行きたい。

 

「あと一つ気をつけておいた方がいいこと思い出したから念の為に言っておく。

 今ポの方が魔王より強いから。

 MAエネルギーでの成長量があいつのほうが早いって、ちょっと今日の転移で確信したんだよね。

 てなわけで、多分ないと思うけどポがまたちょっかい出したら私が暴れるよ。いい?」

「「ーーーーーー」」

 

窓枠に頬杖をついて外を眺めながら私が言ったその言葉に、返答を返す人はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

てなわけで雪山です!

あともう諦めました!

無理無理こんな雪山、おそらく氷点下30度くらいになってる。

体感ならおそらく50度くらいだ。

こんなところに誰かを出してはいけない、全員私の体内にぶち込んだ。

 

「そもそももう転移してよくないか」

「いや、転移バレしたらなんで転移しなかったん?って話になるし。

 出来るけどしたくないです。あと着くでしょすぐに」

 

バハムート形態のゼルギズは腕を組み、熱い蒸気のようなため息を吐いた。

私は今、30mほどに巨大化したゼルギズと共に歩いている。

そのおかげで周囲の気温は15度くらいだ。ただ、ゼルギズが離れればすぐ冷えてしまうだろうからヘタにソフィアとかは出せない。彼女体小さいしすぐ冷えちゃう。

本来のゼルギズの力なら山の氷自体一気に溶かすことでも出来るんだけど、それをすると山がぜったいマグマになるので出来ない。

私らにはこの星が狭すぎる。

 

「うおー、またか」

「たく、自然の質量攻撃がすごいね」

 

ゼルギズの熱で溶けた雪によって再びドゴゴゴと雪崩が起きて私を埋め流そうとする。

それでも私たちは歩みを止めず、雪の中そのままのスピードで歩き続ける。神を舐めるな。

 

「この山確か普段こんなに寒くないんだよね。

 笹島くんと氷龍がどんぱちやってるから冷えてるっぽい。

 たく、手をかけるよ」

「誰も死なないんだしいいではないか」

「一般人なら死ぬんだよなぁ……。

 あ、あと同じペースで歩いてくれてありがとね。歩幅違うのに」

「構わん構わん」

 

あ、山の上から猿の群れ、ってあれ、アノグラッチか!?

迷宮でのエンドレスエイプのやつ。殺したら無限に殺意示してくる猿達だ。

どうしよう、こっちに向かってきてる。

山頂から降りてきてるあたり、氷龍から逃げてんのか!?

なにやってんだよ氷龍!白とか出てたら死んでたぞこれ!

 

「あー、先にここ通るって氷龍にレポとっておけばよかった……。

 どうする?」

「全部殺すか」

「そーだね。

 雪崩起きるリスク含めても殺そう」

 

ゼルギズにブレスを吐いてもらって、私もレーザーを横薙ぎに射出して焼き切る。

ジューと肉が焼ける音と共に、ジジジッとまた新たな猿が断末魔を上げる暇なく焼き切られる。

うお、多いな。

今ので数百体は死んだのにまだ続いてるよ、やっぱこの猿めんどくさい。

ついでに今の熱のせいで猿の後ろから大雪崩が発生してて、猿を巻き込んで津波みたいになっている。

別にこのまま歩いてもいいんだけど、さっきと違って猿が巻き込まれてるからめちゃくちゃ掴まれそうで嫌悪感があるな。

 

「よし青、飛ぶか」

「うん、笹島くんのところまでそうしよう。

 声だけはカットしてるけど、視覚を見られるのはしょうがない。

 飛んでるとちょっと文句言われるかもだけど龍退治の時はいっつも飛んでるし。

 今はみんな中入ってるしいいでしょ」

「じゃあ掴む、ちゃんと掴まって……、」

「「あ」」

 

私がゼルギズの手に掴まれて飛ぼうとした瞬間両足を猿に掴まれて、ずるりと私は雪の上に抜け落ちる。

そしてそれと同時に突っ込んできた雪崩で、私はゼルギズから完全に姿を隠した。

 

ーーーピタゴラスイッチかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の体は、ブレーキの壊れた列車のようだ。

操縦席に座ってレバーを動かしているのに、まるで体はそれを聞かない。

かろうじて人の群れ、おそらく軍だろう、それから逃げることには成功したものの、凍えているからかSPの消費が激しい。

SPがなくなったらどうなるんだろう、動けなくなるのだろうか。

このままでは凍えて僕はこのままだと雪山で死んでしまう。

かといって、軍から逃げてしまった僕は、僕自身を止めてくれる存在をもう見つけることができない。

でも、もういいのかもしれない。

数えきれないほどの人間をもう殺した。

もう生きててはいけないほどの人間をすでに殺した。

 

誰もいない吹雪の山で、迷惑をかけることもない最期の時を過ごすのもーーーー。

 

 

その時だった。

目の前に純白の服を着て横たわる天使のような少女を見つけたのは。

その少女はこの世のものとは思えないほど美しい金髪で、雪の中スースーと寝息を立てて眠っている。

最悪だ。

最悪だ、最悪だ、最悪だ。

ほんとうに、最悪だ……。

 

憤怒を抑えたくても、つい油断してしまった僕の意思は僕の体に追いつけない。

僕の刀が、風を切り裂きながら勢いよくその少女めがけて振り下ろされる。





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