バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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144 その身体、肢体

剣の先、千切れた腹から赤い体液があたりに撒き散らされ、鬼の頬に残った。

ああ、またこの感覚だ。

僕が人を殺した感覚、この感触。

柔らかくて暖かい、そんな血と臓物の感触。

閉じることも出来ない支配された目でこの現実を直視して、僕はその少女の死を確信した。

 

『おい、待てよ!待ってくれ!』

 

そんな言葉を、思わず吐く。

それでも、自分の口はそう動かないし、自分の体は止まらない。

僕の体は、死んだはずの少女の肉体を蹂躙し続けていた。

踏み潰し、両腕で腕を掴み、千切り投げる。頭蓋を掴み地面に叩きつける。

赤い液体が飛び、茶色いものが、灰色のものが吹き飛ぶ。

 

『もう死んでるだろ、彼女!

 やめろ!やめろ、僕の体!』

 

憤怒が彼女の亡骸をいまだに標的にしているということは、彼女が生きているということ。

スキルが示しているのはそういうことだ。

けれど、僕にはそんなふうには見えない。

だって、もう、彼女は、とっくに、原型すら……。

 

「やばっ。

 マジでイッてんじゃん、最高?いやサイアク?」

 

足裏にふにっとした感触。

僕の無骨な足は、無傷で無垢で、清らかな姿の彼女のマシュマロのように柔らかい腹を踏みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すこし、その足をどけてくれたら、わたしうれしいな」

 

その言葉に僕の体はなぜか従い、彼女は立ち上がる。

彼女は立ち上がり、近くに落ちていた彼女の服まで移動して、広げてため息を吐く。

そして突如、それを消した。

 

なんだ、この子。人間じゃないのか。

いやそうだ、なんで僕は逆に人間だと思ったんだ。

ほぼ裸で、純白の奴隷服みたいな服一枚で、吹雪の中悠長に眠っていた?

そんなこと人間じゃできるわけない。

じゃあ、この子はなんなんだ?

 

 

もう一つ。

この子、あの状態から再生したのか?

臓器とか散らばってたのに、頭脳から?

確かに脳と頭は周囲にない、おそらく再生に使われている。

といってもこんなことをできる生物はこの世に元来存在しない。

僕の知っている限り地球にもいない。

つまり、僕はこの子についてなにもわからない。

だけど、足裏のふにりとした感触が忘れられずに思わず引きずりこまれるのを頭の中で必死に拒絶する。

あれはこの星に来てから、いや、今までの人生の中でも感じたことのない何かだった。

おかしくなる。急に変な感触を与えないでくれ。

 

 

「君の名前は?オシエテ?」

「ッーーー!」

 

僕の眼前に現れて、透き通った青い目を向けニンマリと口角を上げる彼女。

僕の刀が雷を纏い、少女の首を切り落とす。

切り落とされた首は風に煽られ遠くに飛んでいき、そして雪に埋もれた。

けれど、その切り口から血は流れていない。

直後、首なしとして立っていた彼女にいつの間にか首が生えていた。

僕の体は刀を思いきり振りかぶり、頭から竹のように彼女の体を真っ二つに一刀両断する。

少女は地面に崩れる。

体は片方が消え、残りが何事もなかったかのように、元通りでスラっと立っている。

足を切り落とす。

少女は地面に倒れる。

いつの間にか立っている。

腹から真っ二つに切る。

腹から下が消えて、立っている。

なんだ、なんなんだ、この子。

プニュリ、プスリと柔らかい肉に刃が差し込まれる感触を感じる度に思わず顔をしかめたくなる。

もう、やめたい。助けて。助けてくれ。

そんな思いに反して、僕の体は彼女を襲い続けた。

 

 

 

 

 

 

ついに僕の体が止まった。

僕が自由に動かせるようになったっていうわけじゃない。体が文字通り止まっただけだ。

その間彼女はさっきから、僕に殴られ続けて、切られ続けて、傷つけられ続けた。

それでも、そのニマァとした微笑が消えやしないし、その体は美しさを保ち続けている。

吹雪の中、陶器のようで赤みを帯びた裸体で、金色の髪を艶らしく光らせ、僕の目の前に立ち続けている。

頭にバチリというショックが響く。

 

 

あ、そうなのか。

そうなのかよ、くそっ……。

わかった。わかってしまった、この子の正体が。

ただの再生能力を持っただけの人間じゃないし、なんならこの世界の生き物でもない。

そんな存在に、僕は心当たりがあった。

それは僕たちを転生させたであろう存在、そしてこのスキルを作り、僕たちに分け与えた存在だ。

なら全部辻褄が合う。

合成音声のような声で鳴る、あのスキル獲得時の女神の声も、どこかで信仰されているらしい女神様も。

この世にいる女神様はそうじゃない代理人を立てていると思っていたんだけれど、あれ、そのものってことか……。

そもそも生命じゃなくてシステム。生き物じゃないステージギミック。この世界の管理者。

そして言うならば、神。

 

『参った、な』

「もう動かないのならば、こちらから行くね?

 せいぜい頑張ってほしいな、鬼くん」

 

地球人ならばまだ高校生にもなっていない、そんな彼女はブラブラと揺らしながら歩き始める。

その腕を、その体を、まるで警戒心の無いように、誘っているように。

筋肉なんてものは見えない、ただなめらかな美しい曲線で構成された彼女は吹雪の中、目の前の僕を見つめて歩く。

そして、底無しの闇を湛えながら、この鬼の体では蹂躙出来るはずの無防備な姿を晒し続けていた。

 

彼女は僕に触れるか触れないかというところで、指に力を込めた。

やられる、一撃で。

負けだ。ここまで追い込まれてなお、僕は彼女に魅了されている。

彼女のその艶めかしい肉体に、それを感じてしまった。

まずったな、死ぬ前にこれか。

 

肉薄した彼女が、上目遣いで口角を上げた。

そして、指に力を籠め、天に右腕を掲げる。

息がかかる。近い、近すぎておかしくなりそうだ。

 

目の前の彼女はそんな至近距離で、初めて見せた作り物じゃない笑顔で、にやりと笑って言った。

 

「デコピン」

 

「え……?」

 

爆風。

巨大な風圧が思いっきり押し寄せる。

思わず彼女の左腕を掴むと、彼女もその腕を握り返してきた。

ふにゃっとした滑らかな腕で、つややかで細い指なのになぜか吸い付いたように離れない。

轟音とともに僕たち以外のすべてが吹きとばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、こっち側へ」

 

空は晴れていた。

快晴。

吹雪など、無かったかのような、青空。

 

「目覚めたね、鬼くん。

 君の前世は知っている。そのうえで言おう。

 私は過去が嫌いだ。これからの動き次第だけで世界は決まると考えている」

「は、はぁ……」

 

憤怒は消えていた。

ああ、全部溶かされてしまった。

過去を殺されてしまった。

そしてこれからは、共犯者か。

この化け物と。

 

 

 

 

『うわっ!

 お前また裸で戦ってたのかよ!まじでなんなん?

 服着ろよマジ、痴女って呼んでやろうか?』

「ごめんごめん」

「……」

 

いつの間にか山のような真っ赤な龍が彼女の後ろに降り立っていた。

言葉通りだ、比喩じゃない。

本物の山が山の上にいる。

そう思わせるほど、デカい。

 

「そういうゼルギズだってでっかくなってるじゃん。

 それふもとで見られたら大騒ぎだよ?」

『む、むう……。

 あ、わ、我は悪くないぞ!

 まさか吹雪晴らすとは思っていなかったんだからな!』

 

なんだ、これは……。

神様と龍がしゃべっている。

なんだこれ、夢?

 

『あ、邪魔。今話してる』

 

赤い龍が、龍を掴んだ。

水色の巨大な龍だ。

決して小さくないのに小動物のように掴み山の向こうへぶん投げる。

それも多分僕でも憤怒が発動していないと難しい相手を。

なんだ、なんなんだこの化け物どもは。

 

「あー、あとで氷龍にあやまっとこ」

『そうだな』

 

あー。あーあーあー。

僕はろくでもない存在に見つけられてしまったらしい。

やっぱり、神は神だ。





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