神官は歩いていた。
教皇と全く同じ格好をして街の中を当たり前のようにぶらぶらと。
だが、なぜか誰にも注意されない。
誰もがその光景に、違和感を持っていなかった。
『で、なんなんですか本当に。
私もう知ってますからね、アンタがあの星について連絡して来る時ロクなことないって』
「まあまあ、そう言わずに。
お前もこっちにくればいいのに」
『やですよ上司のところ行きたい部下とかいないでしょ』
「我は親ー!我は親ー!
厳重に抗議いたします」
ソイツの名はアルセウス、例の全部破壊する系最高神である。
それに電話上で相対しているのがギラティナ、全部巻き込まれる系上位神である。
例の如く、彼ら2匹は異世界同士で電話を繋げていた。
今回はそんな彼らのポケットのモンスター的な閑話である。
「罰だ、ギラティナ……!なんか面白いことやれ……!」
『ギ……ギラティナカッター!』
「制裁!」
『で、なんなんすかマジで。
アンタ絶対楽しんでるじゃないですかそっちで。
私に電話しないでくださいよ』
「楽しんでるから電話してるんだよ。
ギラティナ、自害しろ」
『……ありえない……この私が……』
『うわこっわ!
マジこっわ!
アンタ見えてないだろうけど私マジで首に刃当ててましたからね!
死にますよ!』
「だからやってるんだよ。
ギラティナ、自害……」
『ストープ!!!』
ガシャンガシャンと電話越しに食器が割れる音が響く。
おそらく自害しようとする前にちゃぶ台に飛んで回避してるな、トムとジェリーか。
そう思いながら左手の焼き鳥を頬張り、空を眺める。
赤と青の美しい放物線の光を描くように龍が飛んでいる、戦争だ。
「ともかく、そんなことはどうでもいい。
始まった」
「あーあーあー、そうですか!
どうせアンタは生き残るでしょー!?
Dでも死ぬんすか!?」
「ワンチャン」
「は?
え、マジ、ですか……?」
「マジマジ、おおマジだよ」
はぁー、とため息を吐く。
考えてみれば当たり前だ、数年前からとっくに奴はそこまでは射程圏内に入れていて物理的に仕留める気だったんだから。
そこまで考えりゃ合点がつく、それが可能であることさえ考慮出来れば。
まー出来ん出来ん、そんなこと出来るわけないねん。
アルセウスは考えるのをやめて右手のケバブのような肉にガッついた。
今もこの世界は絶賛勢力回復中である。
「お、やってんじゃーん。
てかこの語録なんのやつなん。
便利だから我たまに使うけど元ネタ知らん。
あんまり聞きたくないタイプのやつだったら言わんでくれ」
『私も知らないですよー』
「あ、そうなん?」
「これ一つ下さーい!
神様手帳!これハンコ押す感じっすよね!
御朱印みたいに!」
「そうだよ」
「あんがとさん」
『ちょっと待って下さい何買ったんすか』
「神物手帳。こっちの世界だと神様手帳って呼ばれてたけど」
『それ神社会だと最近セクハラになりかねないから気をつけるんですよ、マジで』
「めんどくさい世の中だねぇー。いくら体の一部とはいえ本人が売ってんだからいいだろ」
神物手帳、神の一部を内包する手帳をアルセウスは団扇のようにパタパタと仰ぐ。
うん、これは髪の毛を媒体にしているらしい、最初のページに金色の髪が挟まっている。
ただ、彼はそんなことよりこれが簡単に買えるということに目をつけていた。
「これ一般人が普通の御朱印帳くらいのテンションで買えるのやべーなー」
『は。それアンタだから買えたとかじゃないんですか』
「いやいや、これ神社の祭りで普通に売ってるから。
ちな神社の文化広めたのも多分アイツ」
『…………イかれてるんすか』
「いいだろ」
ほんと、イカれてる。
空を駆ける閃光を眺めながら想像する。
今も煌々とした光を放つ線たちだが、この光はもっと強まっていく。
いずれ金平糖のように弾け、色とりどりのエネルギーがばら撒かれる。
パチリパチリと、口に入れたら破裂する飴のように鋭く。
もしかしたらこの星そのものにも衝撃が来るかもしれない。
けれど、色とりどりのさまざまな色が爆発して、命の源のような体液が宇宙を輝かせるだろう。
「時にギラティナ。
Dはなぜ弱い」
『はぁ……?
アイツのことを弱いって言うんならほとんどの神が弱いってことになりますよ?
仮にも私と同じ位の上位神です。
彼女が未だ完成していないといえどそれは侮辱になりかねません』
「ならせめてお前より強くあれよ……。
冥土と2人かかりでなんでお前にボコられる」
『……』
グビッとコーラを飲み、空を見ながらゲップを吐く。
マックのドリンクのような紙容器。
そうだ、そもそもアイツが弱い。
よくここまで逆襲されてこなかったものだ。
「アイツには意志がない。
もちろん思考もあるし考えもあるが、夢がない。
面白いものを探すのはいいが,そのくせ視野が狭い。
なんか面白いもの探すとか言ってるけど、アイツ芸人の劇場とか見たことあんの?」
『急にどうしたんすか。
言ってる意味はわかりますけど』
「大人になっちまってんだ」
『はぁ?』
怪訝そうなギラティナの声に思わずため息をつく。
やべー、今言っといてよかった。
今言っとかなきゃコイツすらも停滞しちゃうところだった。
「自分を削ってない。
自分の足で探してない。
フラスコでめっちゃかき混ぜてどうなるかなーってやってるけど自分で計算はしてない。
そりゃそうだよなー、だって我がポケモン打ち込めって言って初めてやったもんなアイツ。
我に依頼するならどうせ最初から打ち込んどいたほうが早いとか言わなくてもわかるだろ。
あくまで星は実験場であって、これが世界じゃないぞ」
『神にとっては、っていう前言葉はつきますがね……。
理屈はわかりました。つまり、Dは仕事に追われすぎて子供から大人になってしまった、と言うことであっているんですか?』
「大体な。
仕事はあるべきだ。
本来なら、時間が出来たらなんてどうせ出来んし。
50%の時間しかなくても50%のパフォーマンスは出来るんだから、やれって話だ。
我を見ろ。今仕事の合間だけどそれやってんぞ」
『旅行じゃないんすかそれ』
「あ、うん。多分」
いや、というか旅行じゃないんよなー。
野次って言われたら言い逃れ出来んかもだけどもっといい娯楽はいっぱいあるもん。
まー、視察視察。
コイツが暴れすぎたらワンチャンこっちも損害被るし。
「というかアイツがイカれてるんよなー。
わかるよ?確かにわかるよ?
でもだからってさ、50%のパフォーマンス封じるために締結結ぶ?
Dの魔力増強禁止の締結、だってその足掻きすら封じるためにやってるんよね?
それって結局仕事だけやらせて殺す時にしっかり殺せるように上位関係結んでるってわけ。
あの時殺す権利が与えられたってのにそっち選択したってことは完全に全部の残った仕事やらせてから食い殺す気だろうし、麻酔薬ぶちこんで獲物昏倒させる寄生バチと同じムーブじゃん。
下手な神だってドン引きだって」
『やっぱ寄生虫じゃないすか』
「マジそれな。
本人単体でも生きれるから寄生虫って単語の定義外ではあるけど、まー頭おかしいよな」
彼に投げられたドリンクの容器が、カラカラと音を立てて地面を転がる。
そして止まった瞬間、ずるりと崩れ落ちた。
チリになったところだけちらりと確認し、再び彼は歩き出す。
『で、本題は』
「なんなん、本題って?」
『まさか戦争始まったから電話したってわけじゃないでしょう』
「そうだ、すっかり忘れてたわ。
今回閑話にしようか迷ったんだけど151話だしどうせならここで言っちゃったほうがいいと思ったわけよ。
色んな説明」
『またなんかやってそうな雰囲気醸し出してますね。
151話とかなんなんすか。なんか悪いことやってますね』
「ともかくともかく。忘れてたんだよ」
アルセウスフォンで所在を調べ、飛ぶ。
そして降りると主に周りを見渡した。
うん、しっかりなっている。
「じゃ、スクリーンタイムにするわ。これで見えるだろ。
うわ、さっき閉じた画面ガチャ天井行ったんだよな。5周年なんだから優しくしてくれよ。衣装作るぞ」
『……なんなんすかこれ』
「ま、これだ。
アイツも神なんだよ」
それは、青い空と遥か彼方まで続く地平線だった。
だけれど、その地平線までは何か黄色いものに覆われ、遥か彼方まで、いやずっと続いているだろう、という感じだ。
しっかりしている。
「真生命創世って言っても、前の章では星の制作までしか映ってなかっただろうと思ってな。
前回の章の名前があれだし一応言っておかなきゃいけないと思ったんだ」
『よくわからないですが、枝葉末節を切り落として考えるとつまり今は生命が生み出されていると。
で、どこなんですか』
「宇宙。アイツが作った星。
ふむ、土がこの調子、ということはすでに同等のものが12、13個くらいはあるだろうな」
『……』
ギラティナが絶句している。
うむ。我もドン引きである。
なんなんマジで頭おかしいんじゃないの、アイツって神になってからまだ5年くらいだよな。
なんでなのに星めっちゃ作るの?
ちゃんとした神でも1年に一つは流石に作れないんだが?
4ヶ月に一回くらい作ってない?
「藤井聡太さんを見ている気分だ」
『あー、あの将棋すごい人ですか。
私がやっても負けそうなんすよね、あの人』
「うんうん、それなそれな」
『つまり、真生命は存在すると?
青が生み出したたくさんの星と生物が』
「うん、それが青の糧になるんじゃね、知らんけど」
『今回話したいのってこのくらいですか』
「うん。ありがとな。
なんだかんだ上手くやってるな、龍もいたけどまー見ものって感じだし」
『青の星に龍いたんすか。シロアリもう入っちゃってるじゃないですかヤダー』
「さっき人に擬態してたぞ」
龍は1匹いれば100はいるしなぁ……。
面白い戦争始まりそう。
「あ、やべ。
蜘蛛の視覚の方から青にバレた。
帰る」
『そうなんすか、了解です』
神は消える。
数年後の戦いに備えて。
そこに現れた、さっきまで龍と戦っていた人工天使はその背中の羽を落とし、雲ひとつない空を眺める。