バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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第4章 1
152 走り出す龍と子


はは、どうしたものか。

ああそうだ、紹介をまだしていなかったね。

僕はサジン。ちなみに前世は草間忍だ。

教皇様に預けられて10年、ついに任務を受けとるようになった!

とは言っても、なんだがなぁ……。

 

『エルロー大迷宮で湧いて出ている生物の分析をしろ』

「え?これポケモンじゃないすか?やっぱゲームでもあったんすかこの世界」

 

こんなことを言ってしまって、現在進行形で教会に幽閉されてしまった。

俺が悪いのか?でもびっくりするか。ポケモンがこの世界にいるってなって、これが元は地球のゲームから来てるって知ってしまったら。

てなわけで、今は俺が覚えている全部のポケモンの特徴を文書に書き込まされている。

いや、俺マジで知らないんだけど?

半分も知らないだろうし、そもそも何匹いるのか知らないし。

無知なんだが。

 

『知ってるか、この生物を!』

『そうか。よろしく頼む』

『やはりこれは地球産の……』

 

ってわけでいろんな場所に聞き込んでて教皇は大慌てだ。

うーん、なんだかんだで俺がでも一応そういうサブカルには詳しいと思うんだがなぁ。

一番あのクラスで詳しかったのは、佐野……名前はわからん。そういう感じのやつだった。

ポケモン以外であいつのことを言うとなると、俺らでも距離を置かざるを得なかった若葉さんとよく話してた奇妙なやつだったな。

うん、そうだ。

人と話すのが特段上手いってわけでもないし、なんなら滅茶苦茶苦手だったと思う。

だけどあの美少女と、謎なくらいに同じ空気を纏っていた。

言葉の波長が同じだった、と言うべきなんだろうか。

俺らが入れないバリアの中に入っていて、そこは嫉妬した。

けれど、彼自身を羨ましいとは思えなかった。

 

俺には、彼が人間と同じ歩調で歩けないように見えて、そんな彼が唯一隣を歩いた人間が彼女だったからだ。

あそこまで寂しい思いをしてまでなら、彼女の隣に立ちたいと俺は思えなかった。

ま、もう今はほとんど会わないしね。彼自身も女子になってしまったことでより静かになってしまっている。

 

「さーて、今日は何やってるかな」

 

ポケットの中の黄色い蜘蛛を取り出して、眉間を軽く叩いて目覚めさせる。

パチリと目を開けた蜘蛛は、そこからプロジェクターのライトのようにして壁に画面を光らせた。

このバチュルという生き物も、ここ数年で一気に規模を拡大した生き物だ。

そこから流れ出すニュースキャスターとニュースを見ながら、俺は頬杖をつく。

 

「お前の元になった女神ってやつ、誰なんだろうな。

 俺が知ってるやつなのか。俺の知らないやつなのか」

「ジジッ」

「わからんよ、鳴き声じゃ」

 

バチュルはポケモンだ。

なら、地球について知っている人が女神様なのかもしれない。

けれど、それが転生者であることはないだろう。

この世界に来て思ったことだが、俺たちみたいな奴らは神にはなれない。

しかもはるか昔、10年以上昔の映像を見ても、彼女は今と全く変わらぬ姿をして今日もこの星の上で戦っているのだ。

そんな人が俺たちと同時期に来た人とは考えられない。

他のラノベだと昭和の時期に転生した人とかいるみたいだし……、もうわからないけど。

 

「お前なら知ってんのか?」

「ジジッ」

 

机に突っ伏したのち顔だけあげて、俺はこいつの背中をゆっくりと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、解放された。

何日あの部屋の中にいたんだろう。後半は自白剤とかも飲まされてもうヤケクソになっていた気がする。

だって、俺の知ってたゲームだって言っても、10年以上前だぞ?

名前くらいしか覚えてないし、滅茶苦茶監禁されたところで覚えてないもんは覚えてない。

それを無理やり聞き出そうとすること自体がおかしいのだ。

だって覚えてないもん。

 

「さーて、どうしよっかな。

 結局あの任務も俺が縛られてる間にやっちゃった、みたいだし。

 おい待て、まじで!?」

 

街を歩いていると、2本のツノが見えて思わず駆け寄る。

あの赤い肩当てに、めちゃくちゃガタイのいいあいつ。

鎧から開いている腹は腹筋がバッキバキに割れていて、何より頭に2本のツノのような物がついた兜をかぶっている。

うん、やっぱりそうだ。

あいつだ。

 

 

「ゼルギズ!

 一昨日の勝負もめっちゃ強かったな!

 おい待て、てかなんで他の人にあんまり認識されてないの!?」

「ああお前か、サジン。

 いやー、我も驚いた。

 認識阻害かけてたんだが、お前には見えるのか」

「ところがどっこいこの俺には見えてたんですねー。

 で、どうしたん」

「朝飯食いに行こうと思ってたから認識阻害かけたんだけど……来る?」

 

ゼルギズ・フェクトガキア。

現代最強の男にして、俺と同級生の神だ。

女神を除けば、この世界で最強の生命体と言えるだろう。

 

初めて会ったのは10歳の時。

コイツが外で飯を食っている時に、その隣に俺がたまたま座ったのだ。

すると、隣のコイツがこんな風に話しかけてきた。

 

『お前転生者なの?

 しかも我とタメじゃん。仲良くしよーぜ』

 

そんなことを言われて、時々会う仲になった。

もちろん、コイツがそのさらに5年前から龍を殺し続けている超有名人であると俺も知っていた。

けれどパッと見はそんなふうに見えない、ごく普通のチャラいやつ。

それで俺も気になった。何より、転生者であることがバレている。

思えばあの時、だから神だって絵空事を、当たり前に信じるようになったのだと思う。

まー、それでもこの強さだけは信じられないんだけど。

 

「やっぱお前、神なんだな。

 なんだっけ、星神?そういう種類なんだろ?」

「急にどうしたんだ、お前らしくない……。

 そうだ。

 我の成り立ちを言うとこの星に取り憑いてるって言うのが正しいだろうな。

 まだ生まれたばかりだが」

「さーせん。

 じゃあ飯食おうぜ。

 俺1週間くらいは監禁されててさ、ちゃんとした物食いたいんよ」

「そうか。じゃ、ラーメン行くか。朝だけど」

 

俺らは今日もまた、食に満ちた下町へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーーーー。

 やっぱうっまいな、ここの店。

 この世界の人が作ったもの?」

「えーと、どうなんここ?

 ヘイバチュル、この店の店主教えて」

 

やっぱり旨い。

いっつも思うけど下町で食べるラーメンほど美味しいものはない。

それにここ1週間は教会って感じの食べ物しか食べてなかったもんなー。

そりゃ身に染みる。

 

「この国の人らしい。

 まー、監修はもっと上がやってるんだろうが。

 鑑定しても不味いもん入ってるわけじゃないし、どうせ女神がやってんだろ」

「あー確かにな。

 女神様様。なんでもやってくれてるもんな。

 特に食に関してはなんでもやってくれてる。まじ天使。

 だって女神教と真言教にあった食事制限?原料使っちゃダメとか全部撤廃したんだろ?

 それってさ、よくよく考えたら超すごいことじゃん。

 世界中で信仰されてる宗教だぜ?」

「まー、あの女神ならやるよ。

 こういうことに関しては理詰めで全部片付けていくような人だからな。

 材料の調達目処さえ立てちゃえばやりたい放題だ」

 

ラーメンをずずっと啜る。

ゼルギズは、女神と毎日のように龍を殺しているけど、彼本人は女神と仲がいいという訳では決してないらしい。

なんならこの星を守るためになし崩しで戦ってるみたいな。

龍と天使は仲が悪いらしく、潰し合いを宇宙では頻繁に行っているというのだ。

けれどゼルギズは守る龍。

それが女神に一方的に気に入られたらしく、共闘している。

だからあんまり話したがらないんだけど、俺的には聞きたいんだよなー。

教皇には言わないけど。

だってあの人に言ったらまた監禁になっちゃうもん。

 

「女神様ってなんなの?

 やっぱり地球も管轄してるの?」

「いやー、してないんじゃないか?

 してるんだったらこれ以上の、まじでやばい食べ物作れちゃいそうじゃね?」

「ーーーそうかも」

 

ここまで食に気を入れてるなら地球を支配してたらもっと旨いもの作りそうな気がする。

なんなら食べ物のために地球支配しそう。

ていうか平気かな。味そのままなんだけど。

 

「なにより今はそれどころじゃないしな。

 地球を支配している神も強いし、ぽっと勝てるわけじゃない」

 

そうなんだ。

ま、今の食事でも満足だし、これ以上望むことはない。

 

「とは言ってもアイツは特別な存在だから、もう止まれない。

 だから止まらない」

 

ーーー待て。

   俺の思考、読まれてる?

 

「もう戦争始まってるし、ちゃんと覚悟しとけって聖アレイウス国に伝えといてくれ。

 あと一つ。ポケモンには気をつけろ」

「っておーーーー」

 

 

え?

 

目の前から忽然とゼルギズが消えた。

今、音とか、してないよな?

忍術のスキルを持つ俺から、息をするように。

 

 

あっ。

 

足元に落ちた金貨の音に、俺は思わず顔を顰める。

この世界でどうすりゃいいんだよ。

金貨一枚渡されても、これで買えるものはなんだ?

家か?女か?土地か?

 

 

 

あーあ。

命以外なら結構買えんのかも。

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