よーいドン。
「女神が星を支配したとして……、困ることはなんだ?
そもそもあの女神は人間に対して敵なのか?
それとも味方か?」
うむ、さっぱりわからん。
実際すでに支配されている感じだしな、武力的には。
それでなにも起きていないのなら、なにも問題はないか?
「念の為意思疎通はしておくか……」
女神本人に。
イカれてるけど、なぜか対応してくれるんだよな、あのイカれた神は。
「てなわけで呼び出された女神です。
なんですか?」
「単刀直入に聞く。
貴方は、人類に仇なすことはあるか?」
「うーん……。
急に難しいことを聞くなぁ……。
アイミに確認しなくても、まあいいか。
ある」
「……本当ですか。
その条件は?」
窓から入ってきた女神は、そう呟いて腕を組んで考え始めた。
それにしても驚いた。
今まで私がコイツのことを全く警戒していなかった、というわけではないが、私の知っている限りこの蜘蛛は人を殺したことがない。
スキルも偽造されているとはいえその前を知っている。
その上で断言できる、コイツは人を殺したことがない。
この力を持つ生物が人を殺したことがないというのは異常事態だ。
ゾウが星を上をずっと歩いているのに無数にいる蟻を踏み潰さないというようなもの。
故意でなければ絶対に達成出来ない。
ーーだが私が今考えているこの心も読まれているんだろうな。
そこは諦めなければならぬ。
「あっそう?
言っていいの?
ならいうけど、後悔しないでね?」
「私が今まで人間殺したことないのは縛りプレイだよ。
強いて言うならアンタたちを油断させるため。
これを一番ビビリの教皇さんにいうのは憚られたんだけど、アイミがいいって言うし。
正直今言ったところで何もできんでしょ」
マジか。
いや、マジか。マジなのか。
別に人間に情とか湧いてないのか、コイツ。
十数年人間を守った結果として。
だがそれを今知ったということ、それはどうだ?
対策は、難しいだろうが、いや難しいな。
せいぜい不可能ではない。
それだけの可能性はある。
「不可能ではないなら、出来るんじゃない?
それを実行してきたのが私。
あなたに主人公補正があるかはわからないけど。
ともかく、私の邪魔をしないなら人殺さないよ」
右手を電話のように頭に当てながら、女神は話す。
まだ20にもいっていなさそうな女性に教皇がお手玉のようにあしらわれているというのは、正直側から見れば滑稽なこと変わりない。
爺さんが若者にあしらわれている感じなのかもしれないな。
そう思ってしまうのは、女神は即人殺しには移らないだろうという勝手な確信からだ。
それだけ、コイツは人に信用たり得るように行動してきた。
だからこそ恐ろしい。
「そういえば私のやりたいことについて……あ、それはダメ?
了解、わかった。それで対応する。
言っちゃいけないって」
まるで子供のような言動だ、頭の中に内蔵されている頭脳とアンバランスのように思える。
会話能力に対する精神年齢はほとんど昔から育っていないのかもしれない。
情動がここまで育っているだけ、充分蜘蛛からは離れた存在ではあるのだが。
「そんな蜘蛛蜘蛛言っとくけど私転生者だよ?
あれ、これ言ってなかったんだっけ。
あー、ミスったか?」
女神は、私の目の前で爆弾発言をした。
「おっす!
で、結局どうなったんすか。
ーーッ!!」
サジン、急ですまない。
急に呼び出して、女神がいるとなるとビビるよな。
サジン自身が女神と話すのはおそらく初めて、バチュルの中継によって見ることの出来るテレビの向こうにいる有名人という程度でしかないだろう。
それに女神自身はほとんど言葉を発しない、いや、発せられない、というのが正解だろうか。
こう見えて女神は会話が苦手だ。
大体の場合会話する前に全て終わらせてしまう。
女神は、チラリとサジンを一瞥して窓際に置いていた椅子に座った。
そしてジロリとこちらを睨む。
すまんが、時間を使わせてもらうぞ。
「サジン、突然呼び出してすまない。
この女神は転生者らしい。
お前、誰がコイツになったかの想定はつくか?」
「想定はつくけど……」
「想定はつくけど、か」
女神の目は鋭く見開かれ、こちらを見据えている。
待っている、のか?
「ここから先を言うのは、始まりを指す。
すなわち冷戦状態の解除。
なぜなら私は人間のテリトリーにいるから。
サジン。アンタは想像しているその人、おそらく正解だよ
『世界を破滅させるボタンは今君が持っている』」
ーーツ。
日本語。
サジンも目を見開いて、一歩、二歩と後ずさっている。
揺さぶりをかけているな、君、世界、破滅、ボタン。これは私でもわかった。
女神は言葉通り全面戦争を引き起こせば世界を破滅させる能力は持っている。
その上で破壊しないのは、なぜ?
人間に対して愛は持っていないのだから、この星に愛着がある、そんな不確定な要素でしか想定できない。
そして、その確証がない上で、世界を破滅させるためのボタンを押す、べきか?
サジンの体が、小刻みに震えている。
震えていながら、拳を握りしめて、女神を見据えている。
相手は見るだけで我々を殺せる存在だ。
いや違う、もっと正確に言えば思うだけで殺せる。
だから私たちは今この瞬間も、温情を利用して生き残るしかない。
「な、なあ教皇」
「なんだ、サジン」
「ここで今、戦争始めたとして、俺は許されるのか……?
転生者が勝手にこの世界に来たと思ったら、転生者の神に言いがかりつけて、それで……。
世界を滅ぼすとしても……」
なんだ、そんな程度か。
そんなものとっくに答えは決まっているだろう。
「構わない。
転生者よ、この世界に新しい風をくれ。
一からこの星を作り替えて、人族を救ってくれ」
女神が目を見開く。
そして、サジンの方から私へと目を向け、明確に睨みつけた。
バレたか。私の思惑が。
だが、もう遅い。
貴様にだってわかっているであろう、これを私からサジンに言った時点で貴様はもう止められない。
何故なら貴様は、なんだかんだ転生者に優しい。
女神が転生者であること、それは私も最初は想定したものの確証はなかった。
だが、私は想定した。
そして絞った。
女神がどんな人間で、どこにいるような人間で、なにを好み、どんな性格をしているかまで。
そうすれば自ずと答えは出てくる。
だから、転生者と言われた時点で行動は始まっている。
だってわたしはもう、貴様が誰かを知っているのだから。
「女神。
俺も最初はお前だとは思っていなかったんだ。
性別だって変わってるし、見た目だって結構変わってるし。髪の色とか。
何よりお前は一人なのに、一人じゃない。
分裂していっぱい人数を増やして、分担して生きてきてる。
でも、そんなお前全員が、みんなポケモンを好きなままだ。
だからバチュルを世界中にばら撒いて、暴走させて、人々の生活の根付かせて、必需なものにして。
そうだろ?
佐野蒼生。
またの名をアイミ」
『ワールドクエスト発動。
失敗しました。
スキル・大禁忌を上書きします。
成功しました。
ーーーー外部からのハッキングにより、データが破壊されました。
ワールドクエストを再試行します。
成功しました。
世界の崩壊を防ぐために人類を生贄に捧げようと画策する邪神の計画を阻止するか、協力せよ』
脳裏に、目の前の女神の姿がよぎり、頭に強制的にギリギリと黒板を引っ掻いたかのような音、それも爆音で真言が流れ込んでくる。
音が響く中、女神は天を仰ぎ、空を睨みつけている。
俺は思わず耳を抑えていて、この部屋を中心にとてつもなく強い魔力の流れが起きているように思えた。
そして音が一通り鳴り終わったあと、彼女はため息をついた。
「今現在、この星は龍に侵攻されている。
君も見てるでしょ、私たちが龍といっつも戦ってるの。
あれの本陣が来ると思ってもらっていい。
数百体が来るから、耐えるように」
「それと、私が流したかったスキル・大禁忌はポケモンの侵攻。
龍か神かの妨害喰らって放送失敗したけど、そんなのはお構いなく星の裏側にいるレジギガスが動き出してる。
それはこっちで止めるけど、ノーマルなポケモンたちの侵攻はギュリとかサリエルに手伝ってもらって抑えて」
「その後に本番、対Dと冥土が待ってる。
冥土の方は抑えられるだけの裏取りしてあるけど、Dは真っ向からやり合うことになってる。
ひとまずこれが予定。
好きに生き残って」
女神は消える。
呆然とした俺たちを残して。
教室。
そこでも耳をつんざくような真言が響き、皆が手で耳を押さえていた。
「ってアイミ!?
ツーーーーー」
そんな声が聞こえた気がするけど、私は弾けるように飛び出して、校舎の窓から外に飛び出そうとーー。
『バカみたいな音量じゃないですか!
なんです、これ!でもですね、私は君を逃すわけにはいかないん、です!
先生なので!』
「ーーーーーー」
飛び降りている瞬間に窓から出てきた電気網に捕まり、そのままの勢いで壁に激突する。
そして、ゆっくりと、気を失った。
「ポティマスから念の為、いざという時のためにもらっておいて正解でしたが、君はその強さのままなんですね、女神なのに」
10年間、女神から彼女自身が女神であることを秘匿することを強制させ続けらた先生は、アイミを引っ張り上げながら、肩で息をした。