バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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サジンの振る舞いが原作と少し違います。
というかあの人原作だとめちゃくちゃメンタルすごいですね。
普通ダメになりませんかあれ。


156 嘘を伝える

吐き気がする。

俺は座り込んで、天を仰いだ。けれど、空は見えず神話の絵が描かれた天井だけが見えた。

女神が竜と戦って、打ち滅ぼしているシーンだ。

そうだ、女神は強い。

 

「サジン。

 女神はああ言った。

 すなわち大規模な軍事行動が頻発するはずだ。

 これから警戒を怠るな」

「なあ教皇。

 学校に行く」

 

俺は、そう口に出していた。

そして転移魔法で、飛んだ。

 

 

 

 

 

「ハァイフェナスさん!どうしたの!」

「この子は女神!

 もう一度言います!

 アイミさんは女神です!女神は転生者!なにより、私は本当の佐野蒼生の姿を知っている!

 だから今この瞬間は、彼女を解放しないでください!」

 

 

「先生……。

 彼は、普通の、人間じゃ……」

「彼はですね!女神になったんです!」

 

いつのまにか廊下には、たくさんの人だかりができていた。

その中心にいる、座って周囲に手を掲げる先生と傍らの電気の網に囚われたアイミ。

そうなのか、どうなんだ、わからない。

 

俺、シュンも昔からゲームはよくやっていた。

ポケモンのゲームはやってなかったけど、女神がもし転生者であれば自分の好きだったゲームをこの世界に組み込みたいというのはわかる。

そして佐野蒼生はゲームの中でポケモンが最も好きだった。

そこまで考えてしまった時、俺は先生の考えを否定できなかった。

そこの辻褄があってしまったからだ。

 

それに先生はスキル『生徒名簿』でどこに誰がいて何をして生きているのかわかる。

先生も、俺たちにその情報はできるだけ共有しようとしてくれた。

けれど、佐野蒼生が女神だとずっとわかっていたのに言わなかったのはーー。

 

「皆さん離れてください!

 それ以上近づいたら魔法で撃ちます!

 これからポティマスに来てもらって彼女を拘束させてもらいます!

 だから離れてください!」

 

先生の鋭い声に、この声はいつ振りだろうと、思わず遠くから見ているように考えてしまう。

僕は王家の人間だ、だけど全く、自分を主体で考えられない。

いっつも周りの動きに流されてぼーっとみている。

それが今回もハマっていた。

 

 

「おい先生。

 なぜアイミを捕らえてる」

 

 

廊下の人混みの先から、声がした。声の主は人混みを透視できることになるが、何より俺は彼を知っている。

サジン。草間忍。

彼は教会のスパイとして働いていると言って、たまに学校に勝手に来ていた。

だから学校の人たちも、生徒ではなくても懇意にしている。

そんな彼がこのタイミングで来た。

つまり、もう国が動いているということだ。

 

「女神を捕える理由はなんだ。

 あの真言にまさかだが、騙されたのか?

 俺がさ、こんなに言うのも変だけどさ」

 

そう話しながら、人混みを掻き分けて先生の前へと歩いていく。

それに対して先生は手を掲げて臨戦体制。

しゃがんではいるが、いつでも魔法を撃ち込めるようにしているのが俺でもわかる。

 

「女神は本当はーーーー」

 

 

声がした。

声はどんどん広がっていて、俺も何が何だかわからない。

カティアやフェイも困惑して、周りを見渡している。

でもみんな、バチュルの背中に映し出された文字を見ていた。

 

 

バチュルはここ数年で急激に進化していた。

背中の毛はなくなり、液晶のような画面になって、もはやスマホと化していた。

そして、それに多くの人間が依存していた。

これは思えば女神が人間を縛るためのものだったんだろう。

けれどその瞬間は、女神に明確に牙を剥いた。

 

「やば、臨時ニュースだって。

 魔族が今週中に人族領に大規模侵攻する恐れとか。

 やばすぎ」

「うわ、女神って魔族領の支配者だったじゃん。やっぱ

 そりゃそうだよね。だって魔法とか、あそこまですごいと魔族だよね」

 

 

 

周りの空気が一気に毒になる。

そして思わず固まった。

まるで蛇に睨まれたカエルのように。

手が動かないし、視線も動かない。

でも頭だけはいつも通り回っていて、それが俺をバグらせた。

 

 

 

 

ーーもうこの世界の戦争は、情報戦になっている。

女神が正しいとか、先生が正しいとか、草間が正しいとか。

それに民衆は流されて、全てが破壊されて、勝手にゾンビみたいに歩かされて、気づけば周りが更地になっている。

大切なものも嫌いなものもいつの間にか塵になっている。

怖い、やばい、わけわからない。

動きたくない、歩きたくない、考えたくない。

それは俺の意思なのか。

 

 

「ふざけんな!!」

 

大声がした。

みんなの真ん中で、草間忍が叫んでいた。

草間忍が、先生に、周りの人間に叫んでいた。

彼自身、何を思ったかは知らないが、叫んでいた。

 

「この世界は、この10年!

 龍から女神に守られてた!

 それで、それでだ!

 本当かもしれないメディアの情報に踊らさられて、結局なんもわかんねぇ状態まできたくせにまた、女神を疑うのか!?

 考えろ!

 前世があったやつも、前世がなかったやつも!

 アイツは20年ちょっとしか生きてない普通の人間だ!クラスメイトだ!

 テメェらまだ縛られてんのか!相手はもっと上だ、それで勝てんのか!?

 空気を読むんじゃねぇよ!温室にいて忘れちまったのかよ!!

 ふざけんな!」

 

先生は、目を開けて真正面から彼を見て、小さくため息をついた。

伏目がちな目に、何かを隠して。

もう一度サジンを見据えて、大きな声で言う。

 

「それが君の考えなんですね。

 君はそれでいいと思いますが、一つだけ。

 君も踊らされています。

 君が得た情報は国の暗部からかどこからの出どころのなのかは知りませんが、それも一面から見た情報です。

 真実を完全に示したものではありません。

 だから、君の好きなように、動いて欲しいと思います。

 それが君にとって一番いいことのはずです。

 何より、踊らされるのは悪いことではありませんよ」

 

俺は、蛇から解放されたのにも関わらず、2人を何も考えずにぼっーと見ている。

それが正しいとは思っていない。

でもそれをするしかない。

俺はそれだけ何の考えも持っていない。

 

けれど、これはちゃんと考えないといけないことだと思った。

今まで二回も重ねてきた人生で、ずっと流されてしかいないが、それでも今回はちゃんと考えないといけないと思った。

10年以上共に過ごしたクラスメイトが、関わっているのだから。

けれど、その思考は遮られた。

 

 

「あー、こりゃ失敗だな。

 一番大事な部分の連絡でヘマした上に、放送機関まで龍か神に乗っ取られたか。

 この星についても考えなきゃなんねぇ」

 

先生の隣に、ゼルギズ・フェクトガキアが立っていた。

先生がビクッと体を震わせて、彼のズボンの膝あたりに手のひらを直接当てる。

魔法を直に当てるためだろう。

今まで緊迫していた空気が、さらに毒のような鋭さを帯びてくるのを感じた。

 

「まずサジン。

 お前に謝らなきゃならねぇことがある。

 いや、お前だけじゃなくてこの星にいるやつみんなだな。

 我と女神は大親友だ。これ以上無いくらいのな」

 

サジンが顔を上げて、無言でゼルギズの目を見つめる。

ゼルギズは軽く頭を下げて、目を瞑り、そして再び顔を上げた。

 

「この世の中は嘘に満ちている。

 我も嘘を吐くし、青も嘘を吐く。

 そしてそれは騙すためだ。

 騙すために人は嘘を吐く」

 

ゼルギズはそして先生を見下ろして、その目をじっと見つめる。

先生は鋭い目で彼を睨み返すが、俺にとっては捕食者と被食者にしか見えない。

それくらい、彼は圧倒的な存在だった。

 

「だが、嘘を破壊して嘘と共に生きる方法がある。

 だからアイミは貰う」

「あっ…………」

 

それが言い終わってからか否か、ゼルギズの小脇にはアイミが抱えられていた。

2m近い巨漢が気絶した女子高生を抱えているのはパッと見だと犯罪者みたいだ。

黄色い長髪が地面に届きそうな長さだ。

それにゼルギズもすごい。

こんなやつがクラスメイトだったなんて、俺も正直驚いている。

 

「先生、一応言っておく。

 ポティマスは来ないぞ。青が始めた時点で死ぬことが確定している。

 神化の石は数年前にアイツも食っているが、今はエルフの里を出たくても出れない状況だろうな」

「ツ…………!!

 貴方に先生という名前で呼ばれる筋合いはありません!」

「先生は尊敬している相手に使うものだ、故に使う。

 サジン。お前がどう判断するかは自由だが、我の今の行動を見て思うことがあったなら来ればいい。

 我はお前を乱雑に使う。教皇はお前を大切に使う。

 その上で選べ、鉄砲玉」

 

ゼルギズはサジンの肩に手を置き言う。

サジンは何も言わず、目を瞑った。

そして次に瞬間、転移で2人が消えた。

 

去り際に、誰にも聞こえないような音で何かを言って。

 

 

 

 

 

 

「やられた……!!

 彼は……っ!!!教皇………!!

 どんな教育をしてたんですか!!

 貴方は、私も一度しか見たことはないですが、貴方は!!!

 本当に、親の振りをしたんですか!!!」

 

 

廊下の真ん中で群衆に囲まれながら拳を地面に打ち付けて泣き喚く先生を、俺たちは理解できない脳と共に見つめることしかできなかった。

でも、その慟哭だけは痛いほどに海馬を引っ掻いた。






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