バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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157 2人の女神

「うわーおもしろ。

 やっはろー、調子はどう?」

「…………」

 

私、女神はエルロー大迷宮の最奥に来ていた。

巨大な魔法陣を歩き、鎖に縛られながら中心に座禅のような風体で鎮座している女性の方に向かう。

そしてしゃがんで彼女の顎を持ち、私の方に向けた。

 

「面白いよね。

 あなたが3000年とか4000年かけて必死に体を削りながら生き延びさせてきたこの星、15年で戻っちゃった。

 しかも、その星のエネルギーがいつしかあなたの回復に用いられている。実に面白いよね」

 

しかめ面でその目を覗き込んでも、彼女はずっとボソボソとシステムを口ずさみ続けている。

正直バチュルがめっちゃ増えてるから絶対口の数ひとつじゃ足りないんだろうけど、どうしてるんだろう?

まー、わからんよなー、そんなこと。

 

「私、実は聞きたいことがあるんだけどさ。

 あなたが話せないことを前提で言うね。

 今からポケモンっていうね、知能の高い生き物が地上にも現れるんだ。

 人間より賢かったり、人間と同じくらい賢かったりする生き物。

 だけどね、両方の生き物が幸せに生きられるほどこの星の大地って広くないんだ。

 だから、その幸せラインのお互い半分くらいに減ればね、ちょうど良くなるの。

 ポケモンは今のままくらい、人間が4割減ったくらいならちょうどいいかな」

 

女神の目がこちらを向くが、虚だ。

これ本当にちゃんと意識があってこっちを見ているんだろうか。

まー、聞いててくれりゃいい。

 

「私さ、思ってるの。

 ギュリエディストディエスから勝手に聞いてたんだけどさ、あなた原生生物を守るって使命だったのに人間ばっか守ってたんじゃん。

 それってなんでなの?愛?愛だよね?愛でなきゃ許さないよ?

 愛であると言うことを否定したら許さないよ?

 愛であること以外に理由づけをしたら許さないよ?

 愛であることを、それ以外の理由で否定して自分が少しでも正しい歯車を回しているんだと言う思い込みを引き起こそうとするなら、許さない」

 

反応がない。

私は、彼女の顎を下ろして、ふっーとため息をつく。

これだからヒトモドキは嫌いだ。

 

「私は光だ。

 だから闇であるDを殺すの。

 そしてね、面白いことにね、勝てるの。勝てちゃうの。

 このままだと圧倒的な力による暴力で。

 私のエネルギーの総量、知ってる?」

 

私は聞いているかわからない相手に1人語りを続ける。

だって最強なんだもん。

最強なんだから、全部を蹴散らしたくなるに決まってる。

 

「銀河一兆個分。

 宇宙の大体50%。

 無虚空間内に作った星の数知ってる?

 一億個。

 ごめんね、Dも殺せるんだ、多分」

 

実際どうなのかは知らない。

Dだってこの宇宙の最終の神アンカーだ。

エネルギー的になんなら私より多いかもしれない。

どうなんだろうね。私はもう、宇宙そのものになりつつあるけど。

 

「アルセウスと比べられそうなほどエネルギー増えちゃった。

 だから本当はこの星ですら思えば消える。

 それをしないのは私の慈悲」

 

龍とはもう比較にならないエネルギー量をしているのだろう。

神とももう比較にならないエネルギーだ。

目の前のサリエルだって、指パッチンで殺せるはずだ。

 

「私気になるんだ。

 なんであなたは人を真面目に助けないの?

 縛りプレイをしてきたの?

 感情に流されたとしても、その圧倒的な力で助けりゃいいし殺せばいいのに。

 中途半端に生きたの?」

 

女神は何も言わない。

なぜ?

私、わからないのに答えてくれない。

悲しい。

 

「博愛って聞こえはいいけど、私嫌い。

 私は、好きな人だけ大好きでいて、それ以外の人間は塵になっても笑ってられるっていうのが好き。

 それも人間じゃない?

 ねぇ」

 

私は、両方の手で彼女の顎を持って、私の顔に向ける。

そして満面の笑みを浮かべた。

 

「あなた、人にならない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まった。

私、魔王は青の体内に閉じ込められている。

具体的には無虚空間の中、そしてその中の地面から生える鎖に体を縛られている。

仰向けで全身縛られて、何もない空を眺める。

本当は外の状況も見れるけど、今は一時的に接続が切れてしまった。

 

青ちゃんは無敵だ。

どんな怪物だってもう塵芥。

気をつけて動かないと殺しちゃうくらいの化け物になった。

だけど、彼女の弱点はいくつかある。

それの一つが、私だっただけだ。

だから縛られている。

 

私は弱点として弱すぎるから、縛られてるわけだ。

はは、こちとら世界最強の生命体だったんだけどね。

ここ15年で強いやつ増えすぎだよ。

 

5年前、龍がすでにこの星に潜伏していた。

状況としてはあの大戦争の幕開け前に近かったかな。

サリエルが見過ごしていた龍が、あの時は青が見逃していた。

彼女自身にとっては本当に障害にならないし、まとめてゴミは捨てる、そのくらいの認識で放置していたのだろう。

だけど、私は中途半端に強すぎたみたいだ。龍にとってはどうでもいいラインは超えていて、でも勝てないというレベルではない。

ちょうど軽食ぐらい。おやつだね。

しかも内包されているMAエネルギーは薄まったものではなく完全な純潔。

そりゃ食いたくもなる。

 

抵抗したよ。

抵抗したけど、相手の領域?空間?みたいなのに引き摺り込まれてボコボコにされた。

ステータスで言えば30万くらいのやつだったかな。

私は9万だからそりゃ勝てない。

何より魔法も効かないんだし、死を覚悟した。

そして、その赤黒いやつ……本当に小物の龍なんだろうけど、人の姿から変形してガバッと口を開けて、私の頭を喰おうとした。

 

 

青が、全てを破壊した。

巨大な拳が天から落ちてきて、血が滴る街のような空間を1発で砕き割った。

そして相手の龍の頭がそれとほぼ同時に潰れて、気づいたら魔王城の玉座で寝てたってわけ。

訳わからないでしょ、怪物だよ彼女。

 

私が起きて混乱して目を回している時、彼女は私に言ったんだ。

 

「うん、弱い。

 魔王、私の中にいて。ずっと」

 

それから5年間。

私はこうやって封印されている。

ちなみにその件の後日談なんだけど、実は龍のグループもビクビクしていたらしい。

末端が勝手に青ちゃんの子分に襲いかかって、殺しかけたんだから。

今まで温情で見逃されてたのにやべーぞ!!って感じで。

これも私がわかってるってことは青ちゃんも知ってるんだもんね。やば。

でも、悩んだ末にゴミをまとめて捨てるより、私を封印した方がいいと判断したみたい。

そりゃそうだ、ゴミはいくらでも流れ着くのにこんな餌が出ていたらずっとつきっきりになってしまう。しかも弱点だし。

 

ま、思ったよりここの生活も悪くない。

鎖に縛られたのは頭にあの言葉が響いた瞬間だし、ワールドクエストが聞こえた瞬間だからね。

それまではこの空間の中でポテチ食べながらアニメとか見れたわけだし。あれ、私ニートか?

無虚空間には全然いろんな人入れるし、一番長期間いたのは鬼くんかな。

一年くらいは一緒にいた気がする。

あの子頑張ってたよ、マジで。

 

うーむ、けどこれからずっと鎖に縛られたままなのかな。

それは嫌だな。

死んでも嫌だ。

全部終わったら解放されると言っても、全部終わったら全部終わりだ。

私は魔王だぞ。

腐っても魔王、朽ち果てても魔王。

でも、命は腐る。

抱えたままの命は腐る。

澱んで腐って、後悔する。

 

命は2番。人生が1番。

なんかでこのセリフを見た気がする。

だから、待つ。

私は画面をつけた。

私の頭上の画面には、青が女神様の顎を持ち上げているのが映っている。

青が女神様の自由を蘇らせたその時。

私も解放される。私の意思によって。





生きるってどういうこと?
人生ってどういうこと?
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