マジかぁー。
いや、うーん、マジかぁ。
正直なところ今会ったところで私に出来ることが少なすぎる。
せいぜいマーキングくらいか?
『あー、うー、聞こえますか?念話ですが』
『ーーッ』
待って。反応あるんだけど。
電脳、まさかだけど念話繋がってるの?
『ギュリの会話技術はしっかり参考にさせていただいてるからな。一方的に念話使わせるくらいならなんとか出来る。てか、今までどう人間と喋ってたつもりなんだ?』
『ア、ハイ』
赤ちゃんが知能的に喋れるんかっていう問題もあるけど、こっちのほうは私(蜘蛛)が喋ってるっていう例外があるから参考にはならないんだよなー。多分頭脳も元の世界準拠になってるし。
電脳は別だけど。
てか待ってよ、聞こえてないつもりで話しかけてたから急に反応されても困るんですけど。
私どうすりゃいいのよ。
まあ思考加速で考えよう。幸いアッチには思考加速ないし、私が言葉に詰まったとは思われないでしょ。
まず考えなければいけないのはこの根岸彰子という存在について。アルセウス、及びDの転生特典が何かしら彼女にもついているはずだし、ロクでもないことが起こりかねないと考えるとこの赤子でも警戒対象となる。
ただ、地球でなにが好きだったとかもわからないんだよな。私はオタク友達0だったせいで割と男女同じくらいの頻度で話しかけてたけど。
てか、小中でいじめられた原因それだな?
うーん、根岸さんは私と違ってまともな隠キャな感じだったんだろうなー。
ワンチャンいじめられてた?高校でも静かだったし。
普通のやつはいじめられたら静かになるはずだしその線かもしれん。いじめられたら引っ込むみたいに静かに行動する奴は実際多いはず。
うー、まじでわからん。てか本当に顔しか思い浮かんでないんだよな。
あとリホ子ってあだ名。なんでそんなあだ名なん?リホ子のリの字もないじゃん。
『あ、聞こえてるなら聞こえてるで大丈夫です。ソフィアいや、根岸彰子さん。なにか聞きたいことはありますか?』
『ーー』
え。ガン無視か。私の方は聞きたいこと色々あるんだけど。
なんで吸血鬼なのに人族の領土で普通に暮らせてるのかとか、その目で見る世界はどんな色に見えるかとか。
そんな当たり前なことだって私は聞きたい。
なんたって私は今当たり前じゃないし。蜘蛛だし。
『自己俯瞰えらい。ならば自分が今どんな状態で相手に話しかけてるかわかってるな?』
『うん。私は蜘蛛で、吸血鬼の赤んーー』
あ、そりゃビビるわ!私自己紹介してないじゃん。自身よりでかい蜘蛛が話しかけてきて警戒しないとかそれこそありえんわ。
実際私が根岸さんの立場だったらめちゃくちゃ警戒するはずだ。
人間に囲まれた場所に住んでる奴なんて、ある程度は頼って生きること許されてるだろうしね。
その分自分に甘いし世の中舐めてるはず。
少なくとも人外の私よりは幸せに暮らせてるでしょ。てな訳で、ビビりますよねー。
『あ、私は佐野蒼生です。覚えているか……はわかりませんが、別に覚えてなくても大丈夫です。クラスメイトだった奴っていう認識でも構いません。あのずっとゲームやってた奴。わかります?』
『なんで男から女になってるのかわからない。でも構わないで。私はもう根岸彰子としても生きてないし、リホ子としても生きてない。ただ、ソフィアとしてこの世界の家族のもとで暮らしてるの。だから、もういい』
なんか勘違いしてるなこの子。
私が話しかけた理由、てかこの子を呼んだ理由として根本にあるのはソフィアとしてこの世界の家族のもとで暮らせないだろうなっていう観測からなんだけど。
そもそも実際何もなく暮らせるはずなら私がわざわざ呼びつける必要ないじゃないか。
ぱっと見た目で一般人じゃないってわかるからこちとらわざわざ呼びつけてるんだよ、吸血鬼、根岸彰子。
神様なめんな。
お前のただの平和妄想なんて、一瞬でぶち壊せるの。
そもそも平和じゃないのに平和ボケしようとしてるのなんてただの現実逃避。孤独は確かに人を狂わせる。だけど私は乗り越えた。乗り越えることは出来る。
だから、乗り越えられないのは怠惰だ。
『お前、言いたいことなら言っていいわけじゃねえの、わかってるよな?異世界に転移する前からそんなに性格悪かったか?』
『ごめん。私と似たところがあって、つい腹が立った』
『そうか。ま、どうでもいいんだが、それ以上心汚すなよ。かえってこちらが辛くなる』
電脳の言うことにも一理ある。
いくら電脳が優秀なスキルであっても、スキルの域から出ることはない。
だから吸収したはずの私の並列意思からも少なからず影響を受けることになる。私の心が虐殺に動けば電脳の意思も虐殺に傾く。
電脳としては私に意識的に汚染されすぎるのを防ぐために今みたいに歯止めを掛けたんだと思う。
本当の彼の仕組みは彼しかわからないだろうけど。
『お前はやっかんでるだけっていうのも大きくあるからな?お前、コイツのこと好きじゃあねぇだろ?』
『うん』
『ならそんな特別視しなくていいだろうが。地球出身だからってことで気にしてんのか?』
『うん』
『はーあ、めんどくせ』
私も考えなきゃいけないのかな。
クラスメイトたちに関してどうするか。
異世界人とどう付き合っていくか。
まぁ、ひとまずは助ける気でいる。
それも踏まえた上で考えてもやっぱりソフィアはほっとくべきなのか。
今幸せならそれでいいのかもしれない。
私がやることは確かに独りよがりだし、なにより今の彼女に出来ることはない。
なら、今はなにも考えずに幸せを享受しているのでもいいじゃないか。
いずれなにが起きるとしても。
戦力としては彼女がいなくても十分なんだし。
なにか起こるまで、彼女は彼女で私は私だ。
現実は現実で現実に違いない