楽しいことになったとゼルギズは笑う。
まさか1匹もアークタラテクトを逃さなかったという喜びは大きい。
何しろ、今まではグレーターほどの個体ばっかり狩っていたので成長スピードが遅くなっていたのだ。
パペットタラテクトはしっかりと青に押しつけることは出来たし、本当に満足できる結果であると言えるだろう。
そんなことをゼルギズが思っていると、ふと上から背中に冷たいものが降ってきた。
これは、ゼルギズが来た瞬間にアークタラテクトが即座に作った毒の罠。
糸に染み込んだ毒が熱で糸が溶かされることで落ちる仕組みとなっており、普通の魔物なら即死級の罠である。
そして罠など全く警戒していなかったゼルギズは、一瞬思考が硬直したのち飛び退くがもう遅く、毒液が全身に降りかかる。
だがそれに対してHPはほとんど減らず、マグマの熱を上げることでその毒も蒸発させていく。
「は、マジか。頭良すぎないかこいつら。
こりゃ舐めてたら死ぬ。
さっさと殺るか」
そう愚痴を言いながら獄炎魔法で洞窟に炎を灯す。
そのまま斜線上にいた1匹のアークタラテクトを消し炭にするが、火力を上げる温度は決して緩めない。
そもそもゼルギズはこう言っているが、かなりの猛毒であり普通の知能の魔物ならコト切れていてもおかしくない。
だが彼は下層で鍛え続けていた。
下層で鍛えていたということが意味するのは、青の子供たちと遭遇していたということである。
そして当然寄生されていた。
もちろんゼルギズは寄生の危険性を理解している。
弱れば狩られるかもしれないし、ステータスが子供に敗北すれば狩られることも知っていた。
そうやって狩られている魔物を探知で山ほど見てきていたのだ。
ただこの男はそれ以上に馬鹿で、博打が好きだ。
危険なことをやってなお生き残ることを願う傲慢な博打。
しかし運が相応に良かったと、ゼルギズはほくそ笑む。
というのもゼルギズのステータスは周囲の蜘蛛を上回り続けたのだ。
青による魔物の成長補正とオリジンによる成長補正。
それを掛け合わせた上に、さらに青の孫を延々と狩り続けることによる経験値の大量獲得。
これによりステータスが急上昇し続け、生き延びることが出来たとゼルギズは思っているし、この経験は成功体験として鮮明に残っている。
実際は青がオリジンを狩らせないように眷族支配していただけなのだが、ゼルギズがそれに気づくことはない。
それでも獄炎はそんな事実とは関わらず火力を上げ続け、周囲のモノを焼き尽くす。
そして、そのままアークタラテクトたちは獄炎魔法の業火で灰となっていった。
ーーーーーーーーーーー
青は考える。
視線の先にいるのは1匹のパペットタラテクト。
今しがた飛んできて、一発雷光弾を撃って吹っ飛ばしたものだ。
ただ見てみるとステータスは
なら大した強さではないし、適当に遊んでいいかと青は結論づけた。
なにより、クイーンタラテクトは未だ地中にいて出てくる気配もないのだから警戒も薄くていい。
ならば試したいことがあると、パペットタラテクトの胸に手を当てて集中する。
「電脳、後は頼むよ。
システム外攻撃『破人』」
青の精神はパペットタラテクトを削り始める。
ーーーーーーーー
パペットタラテクトはすっかりお手上げ状態だった。
もともと、巨大な深淵魔法を初手に放つような相手。
それが先制攻撃を仕掛けてきたわけで、対処できるはずがない。
なにより、戦闘開始時に地形に向かって深淵魔法を撃つような狂った奴は前例がないのだ。
それに加えてよくわからない力で鑑定も阻害され、ステータスもスキルもわかりやしない。
雷光魔法で吹っ飛ばされたことまで考慮して、勝っているわけがないということははっきりわかったが、クイーンタラテクトからの命令で逃げることも許されない。
もともと、確実性のための捨て駒でしかないというのは、パペットタラテクト本人が一番わかっていたが。
ならば課せられた仕事をこなすのみ。
あくまで蜘蛛は、世界を救うための一種の踏み台にしかすぎないのだから。
だがつぎの瞬間、その意識に違和感が生まれる。
まるで何者かがなにかを奪っているような。
ただ、それがわかっていても対処できない。
なにかが失われているのだろうが、どうすることもできない。
構わない。
捨て駒に変わりはなく役割の遂行にも支障はないと判断する。
どうせ全てが塵になるのだから、もう関係ない。
パペットタラテクトは静かに移動を開始する。
ーーーーーーーー
青のステータスが徐々に上昇し始めるのを見て、電脳は安堵する。
どうやら上手くいったようだし今のところ問題もないし、帰ってくるのだけ気にすれば大丈夫だろう。
そう考えながら、パペットタラテクトと一定の距離を保つ。
破人とは、魂を削り取って殺していくシステム外攻撃である。
もともと白が行っているシステム外攻撃を参考にして理論上やってみたが、一発で成功させることが出来た。
だがもちろん白の攻撃と比べると、一長一短が存在する。
長所としては、眷族支配関係なく削れる点。
やろうと思えば龍のスキルやステータスを掠め取ることが出来、これは白には真似できない芸当であろう。
だがもちろん短所もあり、それは対象に触れる必要があるという点。
青の精神の移動にエネルギーを用いているために、行き帰り時には接触しないといけないのだ。
行きならまだしも、帰りも必要になるのが大問題。
というのも、最悪ステータスを奪い切るとどうなるかのシュミレートが出来ておらず、必ず生きているうちにもう一度遭遇しなければいけない。
今回は相手が弱いため完全にお試しだが。
ただ不安要素としては、未だに地下深くにいるクイーンタラテクト。
このままだとパペットタラテクトは勝てるわけがないのはわかっているはずなのに、なぜ来ないのだろうかと思案する。
ただ考えても理由は思い浮かばない。
いや思い浮かぶことはいくつかあるのだが、それらは全て想像に近しいものでもはや妄想でしかない。
だがここまで動きがないとなると考慮しなければならないのかもしれない。
そのためにも、今はパペットタラテクトからステータスを奪い続けなければ。
脳内に巨大なサイレンが頭に鳴り響く。
いつもの電脳であれば即座に対処できたであろう、外部からの緊急速報。
ただ今の電脳は青からの指示でこの戦闘以外になにも意識を向けておらず一瞬反応が遅れた。
この一瞬の隙を突いて、超粘着性の糸を絡めた6本の腕でパペットタラテクトが青の体を拘束する。
急いで青の精神体をタラテクトから回収し、爆雷で強化した脚で跳ね脱出を試みる。
だが、時すでに遅し。
頭以外の部位が、下から襲いくる巨大なブレスで一瞬にして消滅した。
今までの一人称視点の戦闘描写と、三人称視点の戦闘描写、どちらがいい?
-
一人称(青や白視点)
-
三人称(神様視点)