バチュルですが、なにか?   作:天廻シーカ

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過去最高に重いです。
主人公の過去を掘り下げてるので重いものになるのは前から確定でしたが。
ではどうぞ。





愛の形がわからない


78 ある少年の、未熟で届かない物語

オレ様は目を覚ます。

再び目に入るのは、木と糸でできた家の天井。

 

『……』

そうか、念話を使っても青はいないんだった。

我ながら変わってしまったものだ。

研究狂いで魔法にしか興味のなかったはずのオレ様がいつの間にか愛に溺れてしまったのだから。

 

これはなんだ?

身体の上に、糸で出来た大きめの柔らかい布が被さっている。

布団か毛布の類か?

 

鑑定。

『神織糸(作成者 白)』

 

 

昨日は散々怒っていたのに、白が作ってくれたらしい。

怒られたのは、ひとえにオレ様の精神年齢が低いせいだが。

 

「起きたの?

 わたしはアンタの服作れないから、そっちは自分で作ってよ?

 あと水竜捕まえてきて焼いたからそのまま食べて。切ってあるからアンタのステータスでも食えるはず。

 じゃあ出かけてくるから服作ってて」

 

白の声が隣から響いてくる。

それと同時に鳴る、バタンというドアの音。

これは青のための行動なのだろうか。

 

考えれば考えるほど、白の性格の良さが伝わってくる。

白がオレ様の服を作らないのも、こちらの身体のことを思っているからなのだろう。

それもこれも、回収しようとして一度触った時に怪我させたから。

怪我させた後に治癒魔法を使ってもオレ様が痛みをわずかに感じたことに気づいたから。

だから、触る可能性のある服作りを拒否しているのだ。

 

 

こんなことを考えていると、こちらの性格の悪さが際立つ。

やはりオレ様は未熟だ。

青の中に閉じこもっていたからか何もかもが足りていない。

 

人を思いやる優しさも。

自分から愛を与えるという寛容さも。

何より、愛以外でも動くという自分への信用も。

これは一人で生きてこなかったという弊害か、なんなのか。

 

 

違うな。

オレ様が狂ったのは、やはり青がおかしかったからなのだろう。

なんたってオレ様が侵され始めたのは並列意思を吸収したときなのだから。

 

 

そもそもがおかしいのだ。

オレ様が情報として持っている人間の生活と青の生活の記憶がかけ離れている。

いや青じゃない。

青の原型である佐野蒼生の人生がおかしいのだ。

たとえオレ様に心がなかったとしても、比較するだけで狂っているのがわかる。

なぜコイツはここまで心に穴を開けて生きてきたんだ?

 

 

 

なんでコイツはこんな異常な人生を過ごしてなんの病気にもならず生きてこれたんだ?

佐野(さの)蒼生(あおい)、そんな少年の狂った人生がオレ様の頭の中を駆け巡っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「なんで俺は、母さんとは別々に住んでるの?」

「私だって好きで別々に住んでるわけじゃないんだよ。

 だから蒼生、諦めて」

「みんなは一緒に住んでるのに?

 なんでウチだけ違うの?」

「……」

「なんでウチの両親は愛してくれないの?」

「……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「愛が、愛が欲しい!」

「愛って……?

 ーーじゃあ、どうしてほしいの?

 蒼生は、どうしたら愛してもらったと思うの?」

「ただ一回でいい!

 ただ一回でいいから、私を抱きしめて欲しい。

 ただ一回でいいから、抱きしめて愛していると言ってほしい!

 ただそれでいいから。

 ただそれだけでいいから!

 ただそれだけで……」

「諦めて!

 お願いだからもう言うのをやめて!

 ウチの両親は、そんな(あい)し方を知らないだけだから!

 蒼生が愛されてないわけじゃないから!」

 

泣きじゃくる少年の叫びに心が動いたのか、自然と女の目からも涙が溢れる。

だが、少年はそれを見ても声を出すのを辞めなかった。

 

「じゃあなんで、姉ちゃんとは違う苗字にしなきゃいけなかったの?」

「ーーごめん蒼生、もう言うのをやめて。

 あと諦めて。

 いくら言っても無理だから」

 

そう言ってそっぽを向く女。

どうやら、一人称をいつの間にか変えていた少年の叫びは女にはどうしようもないものだったらしい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうする、凛さん?

 このままだと蒼生が耐えられないと思う。

 それ以上に、私が辛くて見てられない」

「ーーそうですね。

 申し訳ありません。

 これは本来私が解決しなければいけない問題です。

 それを貴方に言わせてしまうとは」

「いいの。

 もともと私もこれには完璧に対処できると思ってないから。

 それ以上にウチの状況を鑑みれば元来頼むことすら憚られることだもの。

 割り切れてる私が特殊なだけ。

 何より、ウチの両親でさえ解決できるとは思っていないであなたに依頼しているはずよ。

 そこは凛さんも承知の上だろうけど」

「お気遣いありがとうございます。

 ですが、私のやらなければいけないことは変わりません。

 私に課せられた仕事なのですから」

 

「そう?

 それならこれからもお願いしますね、凛さん」

「お言葉ありがとうございます」

「私にはそんな敬語で喋らなくていいって言ってるのに。

 じゃあ、これからもよろしくお願い」

 

ガチャリという扉の開いた音が響く。

だがその扉が閉じる前にも女は口を開いた。

 

「あと蒼生が一番気にしてたの苗字らしいからそれについても考えて。

 その平凡で当たり障りのない苗字も、私たちと違うだけで十分な凶器になりうる。

 矯正するの本気でやるのなら頑張ってね。

 ーー難しいとは思うけど。

 

 佐野凛さん」

 

「ご助言ありがとうございます。

 ですが、私もあくまで九重(ここのえ)家の侍女の一人です。

 課せられた仕事は全てやり遂げます。

 

 九重いぶき様」

 

 

そして扉は完全に閉じ、部屋の隅で寝たふりをした少年は涙を流していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「なんで泣いてるの?

 まだ拗ねてるわけじゃないよね?

 てかもう夜だし、ご飯食べてないなんてとんでもない。

 ほら食べて」

 

 

あれ、泣いていたのか?

このオレ様が。

機械のように生きていたはずのオレ様が。

 

外はもう暗い。

何もやっていないのにも関わらず、オレ様の目の前に置かれた皿と肉、そして野菜。

その肉も力の弱いオレ様のためか細かく千切られている。

まるでいぶきという女のようだ。

静かに蒼生という男に愛を与え続けた女のようだ。

ただ、生前には己の未熟さからそれに気づき切れてはいなかったようだが。

 

 

 

 

オレ様は思う。

もう終わってしまったのだと。

楽に自由に生きていた、幸せな狂気の世界はもう心の中でとっくに終わっていたのだと。








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