幽鬼狩人と騎士猫と隻眼竜人嬢。あるいは飯の話 作:黒モク
基本的に不定期更新です。
そのハンターはどこか変わった
暗緑色の装具と不気味な面構えをした面覆いをまとい、古代樹の森の先に広がる密林を進む姿は、さながら森の幽鬼のようだ。
オトモのアイルーは使い込んだ甲冑装備をまとっており、まるで熟練の騎士みたいだった。
両者共に得物が古龍素材製の強力な武具であり、この2人が相当の腕利きであることを如実に語っている。
そんな幽鬼狩人と騎士猫の2人は、仄暗い密林の中を進んでいく。
巨大な古代樹の森から先に広がる密林地帯は、枝葉が幾層にも重なる濃密な林冠を形成しており、密林の中まで陽光が届かない。それでも、陽光の熱量はしっかり伝わっており、林床の湿気は煮えていた。しかも、多種多様な植物の放つ青臭さや花の香りが入り混じっている。
緑の地獄というべき暗鬱な光景。
幽鬼狩人は実のところ、こうした密林が好きではない。個人的にはからりとした山岳地帯が好みだ。山稜や頂から見下ろす雄大な風景に心が躍る。
が、如何ともし難いことに、彼のハンターとしての“適性”は森林や密林にあった。
この幽鬼狩人は密林の中ならば、暴虐の権化たるイビルジョーさえ一方的に仕留められる男だった。まあ、代わりに? ペンペン草も生えない砂漠では、小型モンスターに追い回されるような有様だったけれど?
彼のボスである五期団団長をして『得物に特化した奴はいくらでもいたが、フィールドに特化した奴は珍しい』と苦笑い。
そんなネタ男の幽鬼狩人はプラント・ハントを専門としている。
モンスター・ハントも行うが、本業は薬用、食用、観賞用、資材用、研究用、あれやこれやの需要に応え、花卉から樹木、菌類から苔まであらゆるものを調査、採取する。それが幽鬼狩人の主なハンター商売である。
一方、彼の相棒たる騎士猫は俗にいうガチ勢であり、強いモンスターと戦うことに人生(アイルー生?)を見出している戦狂いだった。ゆえに、騎士猫としてはこのネタハンター幽鬼狩人と組むことはいささか不満なのであるが……
ぶに、と地雷――新鮮な獣の糞を踏んでしまい、騎士猫は渋い顔つきで枝葉に覆われた天を仰ぐ。
「今日は本当なら陸珊瑚の台地に行くはずだったニャ……なんで某はこんなところでウンコ踏んでるニャ……」
「そりゃ“あいつ”が行くって言いだしたからだ」
幽鬼狩人が背中の
「おまけに突然『魚を食いたい』だぞ。なんで、は俺が言いたいわ」
「姐さんは現役を退いても無茶苦茶なままニャ」
2人は揃って溜息を吐いた。
『あいつ』にして『姐さん』とは何者か。
彼の人物を語る前に、この新大陸におけるハンター達の組織について少し説明しておく。
ギルドはこの新大陸遠征に際し、ハンターにギルド職員――サポート係を組ませることにしていた。あるハンターは受付嬢を務めるはずだった娘っ子と組み、数々のモンスターをぶっ飛ばしている(その娘っ子は『迷ったら食ってみろ』という気質らしい。剛毅だ)。
で、幽鬼狩人が組んだギルド職員は、竜人族の美女であった。
その竜人嬢はハンターだったが、負傷して現場を引退、ギルド職員としてサポート役に回ったという経歴の持ち主だった。で、騎士猫は元々彼女のオトモをしていたのだ。
幽鬼狩人も駆け出しの頃、彼女に先輩として指導して貰った。そのため、頭が上がらない。まぁ、そうでなくとも強烈なエネルギーの持ち主である彼女の前では押されっ放しだが。
そんなわけで、幽鬼狩人と騎士猫は竜人嬢に振り回されがちだった。
「ま、嘆いても始まらん。さっさと魚を確保しちまおう」
「前向きだニャア……」
藪の枝を使って足裏のウンコを落とす騎士猫を余所に、幽鬼狩人は雑嚢から手帳を取り出して地図と書き込みを確認。これまでの歩数と釣り場までの距離を計算する。
「もう少しだな。行こう」
「応ニャ」
●
煮えた密林の中を進み、幽鬼狩人と騎士猫は汗みずくになりながら、釣り場に到達する。
古代樹の方へ向かって流れていく川は、密林内の物とは思えぬほど透明度が高い清流だった(大概の密林内河川は土の色味が強い濁流だ)。
周囲に獣や竜の姿は無し。それらしい痕跡を探してみるが、何も見つからない。どうやらこの辺りは捕食者達の水場や狩場というわけではないようだ。
「てきぱき釣りますか」
幽鬼狩人は背嚢を降ろし、分割された釣竿を取り出して組み継ぎ、竿先に仕掛けを取り付ける。地球なる世界ならリール竿でルアーでもぶん投げるところであるが、幽鬼狩人は伝統的な一本竿の餌釣りだ。
「周辺警戒は任せるニャ」と騎士猫は請け負い、背中に担いだ両手剣の柄を示す。
釣り針に餌を取り付け、幽鬼狩人はひょいっと清流へ竿を振るう。後は……待つべし。お魚が食らいつくまで待つべし。
待つべし。
ひたすらに待つべし。
燦燦と降り注ぐ陽光。煌めく水面。清流のせせらぎが涼しい。森の枝葉が風に揺られて爽やかな音色を奏でる。鳥や獣達の声も聞こえる。川岸に咲く花々の彩り。その間を舞う虫達。
快い。ジャングル・トレイルに疲れた心身を優しく癒してくれる。
ただ、釣れない。
全然、釣れない。
釣れない。が、自然の調和が快く、眠気が湧き上がってくる。
ここは安全な拠点傍の釣り場ではない。人間をオヤツと見做すような巨大な獣達が住まう危険な場所だ。暢気に昼寝など出来ない。
――のだけれども、騎士猫はこくりこくりと舟を漕いでいる。気持ちは分かるが……周辺警戒はどうした。
幽鬼狩人が暢気な相棒へ声を掛けようとした、その矢先。
がぼん、とウキが勢いよく沈み込み、竿先が水面へ引き込まれそうなほど大きくしなる。竿を通じて伝わってくる強烈な引きと重み。本能的な興奮が湧く。
その確かな手応えに、幽鬼狩人は思わず声を弾ませた。
「おお、この引きっ! こりゃデカいぞっ!!」
と――豪快な雄叫びが密林の先から響いてきた。モンスターだ。それもデカい奴。
「近いニャ」と騎士猫が一瞬で臨戦態勢へ入る。
「くそっ、こっちに来ないでくれよ」
釣竿を手放せない幽鬼狩人が祈るように言う。
「それ、“振り”ニャ?」と騎士猫がにんまり。
「ンなことねーよ。振りじゃねーよ。心からのお願いだよ」
幽鬼狩人が遺憾の意を表する中、招かれざる客が姿を見せる。
新大陸森林地帯の代表的獣竜種、蛮顎竜だ。
蛮顎竜は日に5回以上も水を飲む習性が確認されている。その生態以上に判明していることは、その凶暴性と攻撃性だ。
「ちくしょう」
幽鬼狩人は釣竿を握りながら毒づいた。
●
アクションシーンを期待した方々には申し訳ないが、そんなもんは生じない。
肥やし玉を投げつけて仕舞いだった。水を飲みに来ただけで悪臭を嗅がされた蛮顎竜に御気の毒というだけである。
むしろ、問題は肥やし玉の臭気の中に留まり、釣りを続行せねばならないことだった。
「ぐええええっ!!」
ケツを蹴られたガスガエルみたいな悲鳴を上げる幽鬼狩人。
無理もなかった。
この肥やし玉、幽鬼狩人の特別製である。
新大陸でも旧大陸でも基本的にソロで活動していた幽鬼狩人にとって、複数の脅威に囲まれたら死を意味する。なので、確実に脅威を撃退する術として、罠や道具類の調合、製作技術の研鑽と研究に余念がなかったのだ。
また、幽鬼狩人が縄張りにしていた地域は、“ロクデナシ”も一定数いた。つまり、群盗山賊、それらに準じる悪質な不良ハンターだ。
幽鬼狩人の肥やし玉は大型モンスターを確実に追っ払えるほど強烈かつ、対人用武器としても強力なのだった。
手前でこさえた道具で苦しんでりゃ世話は無いが。
毒妖鳥装備のゴーグルとマスクで顔を覆っていてもなお、暴力的な臭気が目や鼻、口の粘膜を襲い、強烈な大打撃を加えてくる。
「く、臭、や、痛、痛ェッ! いってえぇっ!! 眼と鼻が痛っ! ぐああああああっ!!」
「竿を捨てて退くニャっ!」
鼻を押さえながら効力圏外の風上に避難する騎士猫。
「そ、そうはいくかっ! ハンターたるもの、狩りでも釣りでも獲物を逃がすわけに……ぅ」
おえええええええええええええええええっ!!
尋常ならざる悪臭に肉体が防衛的生理反応を起こし、胃がひっくり返る。竿を握ったまま幽鬼狩人は嘔吐した。もちろん、マスクを外す余裕なんてない。反吐がマスク内にぶちまけられた。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
声ならぬ声が清流に響き渡り、騎士猫があまりにもあんまりな惨状に目を覆った。
この様を見て腕利きハンターだと誰が思うだろうか。新人だってこんなアホな醜態は晒すまい。
ゲロでマスクの呼吸口が詰まり、今度は酸欠に陥り始め、釣竿を握りながらもがき始めた相棒の姿に、騎士猫は思う。
なんで某はこんな奴と組んでいるのだろニャア。
破れかぶれになった幽鬼狩人が思いきり釣竿を引く。下手をすれば、バレてしまい、魚に逃げられるかもしれないイチかバチかの勝負。
水面から水飛沫が飛散し、大魚が宙を踊った。
●
幽鬼狩人と騎士猫のサポート役たる竜人嬢は美しい。
年頃は人族に合わせれば20代頃。竜人族特有の彫りが深い繊細な美貌の顔立ち。黒曜石のような長髪を裏編みして肩口に垂らしている。長い耳や首元、指先などにはモンスターの鱗片から削りだした綺麗な装飾品を付けていた。
元ハンターらしいしなやかで優艶な体つきをしており、シキ国風の小袖っぽい上衣にポンチョみたいな外套を重ねている。ボトムは細袴で足元を巻き脚絆で覆っていた。別段、素肌を見せていないのに、優艶な色気を放っている。
もっとも、目を惹くのは色気たっぷりの美貌ではなく、左目を覆う大きな眼帯だろうか。あるいは、左手の小指と薬指が半ば欠けていることだろうか。
天廻竜との死闘で負傷し、引退を余儀なくされた彼女だが、好奇心は失っていない。ギルド職員に転向して世界と自然へ関わり続けている。
そんな隻眼の竜人嬢がキャンプ・ポイントで資料片手に採取された植物の記録を付けていると、悪臭が漂ってきた。
美貌を歪め、眉間を深い皺を刻みながら天幕の外を窺うと、毒妖鳥装備の幽鬼染みたハンターと騎士然としたアイルーが見えた。
普段ならば、無事に帰還したことを喜び、微笑を浮かべるところだが、2人の発する悪臭と胡乱な気配に、竜人嬢は仏頂面を浮かべざるを得ない。
「どうしたんだ。そのザマは。それに、この臭いはなんだ?」
鋭い声を浴びせられた幽鬼狩人は荷物と得物を降ろしながら慨嘆を返した。
「いろいろあった……」
嘆きつつ、幽鬼狩人は昆虫染みたゴーグルとマスクを脱ぐ。
幽鬼染みた外装とは裏腹に、彼の顔立ちは優男然としていた。ハンターらしく鍛えられた長身と相成って、山林原野を駆け巡るよりサロンで詩でも披露している方が似合っていそうだ。
なお、ギルドの女性陣は幽鬼狩人に対し『顔が見られる装備に変えて欲しい』なんて思っていたりもする。
傍らに腰を下ろした騎士猫も深々と溜息を吐く。
「いろいろあったニャ……」
背中の煤けた2人に、竜人嬢は『?』と小首を傾げつつも、本題に入る。
「それで、成果は?」
幽鬼狩人は大きな背嚢からずぼっと成果を取り出した。
「おー。良いじゃないか」
竜人嬢はようやく笑顔を見せる。
古代樹の大きな葉の上に大柄でよく肥えた魚が置かれた。
ドス級のバクレツアロワナだ。
爆薬に近似した化学物質を含む鱗を持つこいつは、加食処理に手間がかかるため(爆弾処理なんて呼ばれている)、本来はキャンプ飯には適さない。
が、この三人に限ってはその限りではない。
「よし。なんか知らんがヨレているお前達のために腕を振るってやろう」
竜人嬢が袖をたくし上げながらニッコリ。
と、幽鬼狩人と騎士猫は血相を変えて止めた。
「待て待て待て。俺がやる。俺がやるから大丈夫だ」
「うんうんうん。ここは相棒に任せるべきニャ。姐さんの手を煩わせる必要はないニャ」
察しがついたかもしれないが、竜人嬢は料理下手であった。
それも『食えないほどのゲロマズではなく、不味いと嘆きながらも食えるレベル』という質の悪い塩梅である。
「いや、私が食べたいと言って獲ってこさせたわけだし、お前達も何やら疲れているだろう?」
心配りに水を差され、竜人嬢は不満そうに言う。
「そ、そういうことなら果物を剥いてくれ。君が剥いた奴はいつも格別だからな」「そ、そうニャッ! 某も姐さんが剥いてくれた果物が食べたいニャッ!」
皮を剥いて切り分けただけの果物なら味に影響しないからね。
「お前達は果物が好きだなぁ。よし、では一つ、フルーツ盛りを作ってやろうか」
竜人嬢は眼帯を掻きながら柔らかく微笑み、テントの中へ入っていった。
幽鬼狩人と騎士猫は深々と疲労と安堵のこもった息を吐く。
「……やるか」「……やろうニャ」
というわけで、料理開始。
●
繰り返すが、バクレツアロワナは泳ぐ爆薬野郎である。
鱗には爆薬に似た化学物質が含まれている。化学的安定状態が崩れるとすぐさま激発反応を起こして爆発する。新米調理人が鱗を剥がそうとして指を飛ばしたとか、手首から先が無くなった、なんて怖い話も多い。
幽鬼狩人は爆鱗竜の皮革でこさえた手袋を装着し、剥ぎ取りナイフでバリバリと大きな鱗を削ぎ落し、厚い皮を剥ぐ。爆竹みたいに破裂する鱗。衝撃波と炎熱と破片がバチバチ襲ってくる。頑丈な竜革の手袋じゃなかったら、指が飛んでいるところだ。怖すぎる。
「なんだってこんな目に」
「相棒が釣ったからニャ。サシミウオ辺りにしておけば良かったニャ」
「釣れちまったんだから仕方ないだろうが」
ともあれ、鱗処理を完結。長い特徴的な背中や腹のヒレを切り落とし、腹を裂いて内臓を取り出す。鼻を衝く刺激臭。アロワナ系はハラワタが臭い。
「今日は臭いものに憑かれてるな……」
「繰り返すけど、相棒が釣ったニャ。サシミウオなら臭く無かったニャ」
「言うな」
ハラワタを抜き、体内を入念に洗浄。キャンプ竈へぶっこむため、大きな魚体を半分にぶった切る。
上半身は焼き物。下半身はぶつ切りにして汁物にしてしまおう。
上半身は淡水魚特有の臭みを抑え込むため、刻んだ香草を魚体の外と中にたっぷり塗って馴染ませた後、腹へ小さく切ったキノコやパセリ、野菜を詰めていく。
「人参は要らないニャ」
「好き嫌いすんな。大きくなれないぞ」
「某はとっくに大人ニャ」
「大人なら好き嫌いすんな」
「ニャー……」
上半身を鉄皿に乗せ、風味付けにスライスした柑橘を乗せ、竈へ投入。
次いで、下半身に取り掛かる。
ぶつ切りにして上半身と同じく下味処理を施し、切った根菜と大量の干しトマトと共に鍋へぶっこみ、調理酒を注いで煮込む。灰汁取りしつつ、じっくり煮込む。
「人参……」
「好き嫌いは禁止」
「ニャー……」
その間、竜人嬢は鼻歌を口ずさみながら、ナイフでスパスパサクサクと果物を飾り切りし、フルーツ盛をこさえていく。
竈と鍋から漂う美味そうな匂いが食欲を殴りつけてくる。本能によって唾液が分泌され、口腔から涎が溢れそうだ。
腹が、減った。
●
本日のお品書き。
バクレツアロワナの香草竈焼き。バクレツアロワナの煮込みスープ。トーストしたパン。適当サラダ。竜人嬢特製フルーツ盛。
香草竈焼きには、フルーツ盛で余った果物の皮や果肉を使った急造フルーツソース付き。
「自然の恵みに感謝して」
竜人嬢の唱和を皮切りに、食事が始まる。
竈焼きしたアロワナは身肉を切り分け、サラダの野菜諸共パンに挟み、フルーツソースをかけてガブリ。
カリッとしたパンの食感。サラダの野菜がもたらす清涼感と歯ざわり。そして、主役たるアロワナの身肉は白身ながら脂が乗っていて、独特の風味と香草の匂いが楽しい。フルーツソースの甘味と酸味がアロワナの旨みを際立たせ、味覚を幸せにする。
「美味いっ!」「美味しーニャっ!!」「うむ。素晴らしい」
三人から異口同音の讃嘆が上がる。
続いて、アロワナの煮込みスープ。
ぶつ切りされたアロワナの身肉をダイナミックに齧ろう。酒によって淡水魚特有の野趣が消え、代わりに上品な白身魚の美味さが爆発していた。上京してきた田舎娘が垢抜けしてお洒落なレディに化けたように。
干しトマトの味わいとアロワナの旨みが濃縮されたスープのなんと罪作りなことか。お洒落なレディが小悪魔チックに誘ってきて、スプーンを握る手を止めさせない。
「はー……美味すぎる」「さいこーニャッ!」「ああ。美味しい……」
再び三人は異口同音の讃嘆を上げた。
楽しい食事は続く。
幽鬼狩人はハンターらしく健啖で、騎士猫もオトモをしている関係で食が太い。竜人嬢は二人ほどではないが、それでも上品にパクパクと食べ進めている。
「ん? なんか俺の皿、人参多くない?」
「気のせいニャ」
騎士猫は幽鬼狩人がよそ見している間に、自身の皿から幽鬼狩人の皿へ人参を追放していた。
「ちょっとショーユを足したいところだな」と竜人嬢が呟く。
竜人嬢は醬油や味噌、みりんの味付けに慣れ親しんでいた。食材開発班に開発製造を熱く熱く要望している。
なお、幽鬼狩人は醤油ならともかく、味噌は臭いが苦手だった。むろん、口には出さない。そんなことを言おうものなら、竜人嬢から味噌の魅力について長々と講釈を聞かされた挙句、美味いというまで味噌料理を食わされる(かつて、実際に経験した)。
ドス級バクレツアロワナは瞬く間に三人の胃袋へ消え去った。色とりどりのフルーツ盛を摘まみながら、幽鬼狩人が釣りの最中に起きた出来事を語り、騎士猫が話に尾ひれ背ひれを加える。竜人嬢は楽しげに二人の話へ耳を傾ける。
危険なモンスターが闊歩する大自然の中とは思えぬ穏やかな時間。
そして――
幽鬼狩人は装備を整え、甘い顔立ちを不気味な昆虫面のマスクで覆い隠す。騎士猫は両手剣をささっと研ぎ、背中に担ぐ。
竜人嬢は2人へ言った。
「頑張って来い」
「おう」「ニャー」
2人は密林へ向かって進んでいく。
食休みは終わり。再び脅威と驚異に満ちた大自然へ挑む。