幽鬼狩人と騎士猫と隻眼竜人嬢。あるいは飯の話   作:黒モク

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3:甲殻類

 幽鬼狩人と呼ばれるハンターがいる。

 

 特注の不気味な毒妖鳥装備をまとう姿が、さながら森の幽鬼みたいだから、そう呼ばれていた。

 

 この男、森林や密林の中ならイビルジョーさえ一方的に狩り殺す腕を発揮するが、砂漠などでは小型モンスターの群れに追い回される変な奴だ。特定の得物に長けた特化ハンターは珍しくないが、フィールドに特化したタイプは珍しい。

 

 そんなネタ男の幽鬼狩人が調査拠点アステラの自宅――一等マイハウスで愛用の装備を清掃、整備しているところへ、来客があった。

 

「ちーっす。居るー?」

「……こんにちは」

 

 肌の露出が多いキリンβ装備をまとった若い女性ハンターと、大きなスリットがセクシーなガロンα装備を着た若い女性ハンターが出入り口に姿を見せた。

 

 溌剌としたキリン狩人嬢と、どこかもじもじしているガロン狩人嬢。

 ミナガルド出身の2人は20代前後の姉妹だ。

 

 容貌は揃って眉目秀麗。健康的に日焼けした肌とエメラルド色の瞳が魅力的な花咲くお年頃。

 あえて特徴をあげるならば……

 姉のガロン狩人嬢はしなやかな短距離走者体型。

 妹のキリン狩人嬢はすらりとしたバレリーナ体型。

 

 姉妹は幽鬼狩人と同じ五期団で、船団が古龍ゾラ・マグダラオスと遭遇した際、海に投げ出されたところを幽鬼狩人に命を救われた。以来、姉妹は幽鬼狩人と友人付き合いをしている。

 傍目には姉妹が幽鬼狩人に懐いているようにしか見えなかったが。

 

 幽鬼狩人は作業の手を止め、手拭いで汚れた手を拭きながら、2人を歓迎する。

「久しぶりだな。竜結晶の地へ長期調査に出てたんだったか?」

 

「そ。不便なベースキャンプに一月も缶詰めだったよー」

 キリン狩人嬢は応じながら、姉のガロン狩人嬢と共に勧められた窓際のテーブルに着く。

 

「研究班の方達は仕舞いまで張り切り通しでいらっしゃいましたけれど、流石に一月の前線暮らしは応えました」

 ガロン狩人嬢は微苦笑を浮かべて言った。まあ、口元は面頬に隠れているけれど。

 

「だろうな」

 幽鬼狩人は件の地を脳裏に描き、理解を示す。

 

 その幻想的、神秘的、あるいは超自然的な光景は素晴らしく美しかったが……長期滞在するとなれば、酷くタフな環境だろう。ハンターとはいえ、若い娘には辛かったはずだ。

 

 幽鬼狩人はお茶を淹れ、お茶請けと共に姉妹の手元へ並べる。

 

「どーしたの、この御菓子。手作りっぽい」

 キリン狩人嬢が卓上に置かれたタルトパイを凝視する。記憶の限り、幽鬼狩人はこういった菓子類を手作りすることは無く、買い置きすることもまず無い。

 

「うん? 貰いものだが」と訝る幽鬼狩人。

 

「それは……女性でしょうか?」

 ガロン狩人嬢が微かにおどろおどろしい気配を放ち始める。

 

「察しが良いな。その通りだ」

 幽鬼狩人はしれっと応じ、接ぎ穂を加えた。

「この間、調査報告にいったら、総司令の奥様から貰ったんだよ」

 

「そうですか」

 回答を聞き、ガロン狩人嬢の不穏な気配が一瞬で払拭された。姉の分り易い反応を見て、妹のキリン狩人嬢が小さく苦笑い。

「それにしても、君の顔を見るのって久し振りな気がするよー」

 

「一月振りだろ」

「そーいう意味じゃなくてー。君ってば、いっつもあのマスク被ってるからさー」

 キリン狩人嬢は作業台に置かれた特注の昆虫面マスクを指差す。

 

「拠点の中でも兜やマスクを被ってる奴なんていくらでもいるだろ」

 幽鬼狩人は陶製カップを口に運び、目線を姉のガロン狩人嬢へ向けた。ガロン狩人嬢はオオカミの鼻先に似た面頬を付けたままだ。

 

「い、今外すところだったんです」

 気恥ずかしげに面頬を外すガロン狩人嬢。内心の乱れを隠すようにカップを口元へ。

 

「ずっとマスクとか兜を被ってると、ハゲるらしいよ?」とキリン狩人嬢が不吉なことを言う。

 

「やめろ。そういうこと言うの、やめろ。怖いから」

 生え際を押さえながら大きく眉を下げる幽鬼狩人。

 禿は怖い。男なら誰もが抱く恐怖である。

 

「き、きっとハゲても、す、す素敵だと思います」と顔を赤くしながら告げるガロン狩人嬢。でも、そのフォローの仕方はどうかと思うんだ。

 

 とまあ、こんな調子で三人は再会を楽しむ。

 

 キリン狩人嬢はタルトをパクパクと食べ進め、ガロン狩人嬢は幽鬼狩人の目を気にしつつ、頑張って上品にタルトを食べていく。

 

 幽鬼狩人は姉妹から竜結晶の地での活動について聞き、姉妹は自分達がいない間、幽鬼狩人の活動について話を聞く。

 

「相変わらず姐さんに振り回されてるねー」「あの方は……お変わりないですね……」

 妹はけらけらと、姉はくすくすと笑う。

 

「新米の頃にいろいろ世話になったからな。頭が上がらない」

 椅子の背もたれに体を預け、幽鬼狩人はふと窓辺へ目を向けた。日が傾き始めている。

「そろそろ良い時間だな」

 

「なんか予定入ってる?」

 キリン狩人嬢が探るように尋ねた。ガロン狩人嬢もおずおずと幽鬼狩人の様子を窺う。姉妹の“計画”では、この後、夕食も共にしたかった。

 

「予定というほどでもないが」幽鬼狩人は無精髭の浮いた顎先を撫で「二人とも、カニは好きだったか?」

 

「「カニ?」」

 姉妹は見事にシンクロして、小首を傾げた。

 

      ●

 

 新大陸調査拠点アステラは一期団が座礁した大岩壁に沿って建設された。というか、座礁した数隻の船をそのまま建物として使っている。岸壁頂上に鎮座する大型帆船や完全にひっくり返った帆船など実にシュールだ。

 

 そんなスクラッチビルド感溢れるアステラも、今や研究所や工房から船着き場まで整備された新大陸の窓口“港湾都市”だ。

 港湾拠点という特性上、当然ながら海の幸を得やすい。

 得られる海鮮食材にはカニも含まれる。

 

「いつだったか、工房の廃材を貰ってワナ籠を作ってな。まあ、作った段階で厭きて使わなかったんだが……先日、部屋の掃除をしてたら出てきたんだ。それで、ちょっと仕掛けてみたわけだ」

 幽鬼狩人は姉妹へ事情を語りながら、アステラの中を進んでいく。

 

 普段、不気味な昆虫マスクを被っているため、平服姿だと一見して幽鬼狩人と気づく者は少ない。遠目には美人ハンター姉妹を侍らせて歩く優男。ヒモかな?

 

「ちゃんと許可取ったの?」と揶揄うキリン狩人嬢。

「密漁は不味いです」と真面目な顔のガロン狩人嬢。

「許可は貰ってるよ。まったく、俺はどんな人間だと思われてるのやら」

 

 そんなやり取りをしながら港湾区画へ向かう三人。

 船着き場は旧大陸や新たに発見された『凍てつく地』とやり取りする重要施設であるから、その造りは拠点内でもずば抜けてしっかりしている。

 

 幽鬼狩人は場長に挨拶してから、船着き場に幾つか伸びる桟橋の一つへ向かう。桟橋の橋桁に他の船舶用ロープとは違うロープが括りつけてあった。

 

「こいつだ。早速、引き揚げよう」

 幽鬼狩人は尻ポケットから厚手の手袋を取り出し、両手に装着。ロープを引いて籠を引き上げていく。

 

「どんな感じ? たくさん獲れてそう?」とキリン狩人嬢。明らかにワクワクしている。

「手伝いましょうか?」とガロン狩人嬢。こちらも心なしか声が弾んでいた。

 

 船着き場の作業班も手透きの者が見物にやってきていた。獲れ高を予想してトトカルチョが始まったのは御愛嬌。

 

「そろそろ一気に行くか」

 ある程度ロープを引き揚げたところで、幽鬼狩人はハンターらしい馬鹿力を発揮。ワナ籠を一気に引き上げた。

 

 勢いよく水飛沫を上げて水面上へ姿を現す大樽サイズの円筒形ワナ籠。

 その中には……

 

「なんか色々入ってるー」「獲れてますねっ!」

 姉妹の弾んだ歓声。作業班員達の喝采。幽鬼狩人もちょっと得意げ。

 

 桟橋の上に置いたワナ籠を開け、中身をぶちまけた。

 その戦果は……

 

 サシミウオ系とキレアジ系の小さな魚が数匹。それなりのサイズのロブスタっぽいのが10匹前後。肝心のカニはカラッパ系が数杯にザザミを小型化したようなカニが10杯ほど。

 大成功と言えるのではなかろうか。

 

「魚はダメだな。こりゃ幼魚だ」

 場長が魚を片っ端から海に放る。

「あーあ」と慨嘆するキリン狩人嬢。

 

「ロブスタは良しとして、ザザミのメスは保護対象だから却下」とカニのメスを海へ放る場長。

「あああ」と嘆くガロン狩人嬢。

 

「それからカラッパだが……食うか? 食えることは食えるけどよ」

 カラッパはメタリックなナリをしているカニだ。実験では可食に適するらしいが……金属チックなナリが重金属中毒を懸念させる。

「……やめとく」と幽鬼狩人。

 

 というわけで、カラッパ系は全て海に御帰り頂く。

 結局、戦果はギザミ系のカニ6杯。ザリガニっぽいのが10匹前後と相成った。イマイチっ!

 

「やっぱりワナ漁より自分で狩る方が確実だ」

 幽鬼狩人はぼやきながら銅色のカラッパを海にペッと軽く放った。

 

     ●

 

「カニとロブスタか……無難に塩茹でか」

 大樽サイズのワナ籠を背中に担いで歩く幽鬼狩人。

 

「焼いても蒸しても煮ても美味しいよー」とキリン狩人嬢。

「大食堂に持ち込んでお任せ、と言う手もありますね」と別解を呈するガロン狩人嬢。

 

 少々思案した後、幽鬼狩人は言った。

「せっかくだ。帰還祝いに俺が作ろうか」

 

「お、嬉しいこと言ってくれるねー」

 からからと笑うキリン狩人嬢と、心底嬉しそうに微笑むガロン狩人嬢。

 

 帰路の途中、あれこれ買い込みつつ一等マイホームに帰宅すると……

 

「御帰り」「御帰りニャ」

 隻眼美女の竜人嬢と騎士猫が卓に着いて酒杯を傾けていた。

 

「どゆことー?」とキリン狩人嬢が目を瞬かせ、

「………」望まぬ闖入者にガロン狩人嬢が面頬の中で唇を尖らせる。

 

「急にどうしたんだ?」

 荷物を降ろしながら幽鬼狩人が問えば、

「相棒が船着き場で美味いものを獲ったと聞いたニャー」

「そこで、御相伴に与ろうと思って押しかけたわけだ」

 マタタビ酒ですっかり上機嫌の騎士猫。蒸留酒をちびちびやっていた竜人嬢がにやりと微笑む。

 

「耳の早い連中だな」

 幽鬼狩人は楽しげに笑い、姉妹へ問う。

「というわけだが、構わないか?」

 

「異議なーし」「もちろんですとも」

“計画”が狂わされて、ちょっぴり不満ではあったが、姉妹に否やは無かった。

 

「して、成果は?」

 竜人嬢はグラスを少し傾けて問い、

「ザザミっぽいカニが6杯に、ロブスタが10匹だ」

 幽鬼狩人の回答に首肯する。

「ふむ。ならば姉妹の帰還祝いに私も腕を振るおうか」

 

 瞬間、幽鬼狩人と騎士猫が目を丸くし、姉妹も顔を強張らせる。

「い、いや。獲った者として最後までケリをつけないとな。俺に任せてくれ」

「そ、某は酒のアテに姐さんの持ってきた漬物食べたいニャ。もっと切って欲しいニャ」

「そうそうっ! あたし達、姐さんに御土産話がたくさんあるんだーっ!」

「是非聞いてくださいなっ!」

 四人掛かりである。

 

 とはいえ、四人から“ちやほや”されて満更でもない竜人嬢。面映ゆそうに微笑み、仕方ないなあ、と了承した。

 

 四人が密やかに安堵し、幽鬼狩人は安堵混じりに言った。

「作るか……」

 そんなわけで料理、開始。

 

       ●

 

 ぶっちゃけた話、甲殻類はどんな食べ方でも大概美味い。煮たり焼いたり茹でたり蒸したり揚げたり。新鮮で寄生虫の恐れがないなら、生食もイケる。むろん、身をほぐして加工した料理も十二分に美味い。

 

 幽鬼狩人は思案する。

 

 ロブスタが10匹もあるし、カニは手っ取り早く茹でちまおう。付け合わせにタレとレモンを添えれば十分だ。

 

 ロブスタはどうするかな……大きめの奴は塩焼きにするか。でもって、小振りなのは茹でた後にソースと絡めよう。今日は野趣にいく。

 

 決めた後は素早い。

 七輪みたいな野営用ストーブを使い、寸胴鍋でお湯を沸かし、そこへ灰汁抜き用の野菜と一緒に、カニと小振りなロブスタを放り込んで茹でる。

 

 ハンター道具の肉焼器へ金網を敷き、体を縦に分割したロブスタを並べ、炙り焼きに。

 

 その間、付け合わせ用の簡単なタレをこさえていく。

 

「お手伝いしますね」とガロン狩人嬢がすすすと隣にやってきて料理作業を手伝い始める。

 

 むむ? 私も腕を振るおうか? と言い出した竜人嬢を騎士猫とキリン狩人嬢が巧みにブロック。連携が光る。

 

「お。手際が良いな。ハンターとしてだけじゃなく、嫁としても一流になれそうだな」

 幽鬼狩人が褒めると、ガロン狩人嬢は頬をポッと桜色に染め、多幸感でポワポワ。こうしてると夫婦に見えたりして、なんて幸せな妄想まで働かせ始める。

 

 姉の様子を横目に、妹のキリン狩人嬢は思う。お姉ちゃん、一つ貸しだからねっ!

 

 ともあれ、料理は進み、ロブスタの焼ける香ばしい匂いが漂い、塩茹でされたカニの美味そうな香りが広がる。茹でた小さなロブスタはたっぷりとしたガーリックバターと絡めるように炒め、完成。

 

 甲殻類の食欲を刺激する匂いに、誰もが生唾を飲み込む。

 

 腹が、減った。

 

     ●

 

 本日のお品書き。

 ザザミ系カニの塩茹で。ロブスタの塩焼き。ロブスタのガーリックバター。お好みに合わせてレモンとタレをお使いください。

 

 卓の上にババッと古新聞を敷き、ササッと手拭き用のタオルを置き、ジャジャンと殻を割るためのペンチと身を穿るための木串を用意。飲み物はアステラ名物べろべろビーア。木製大ジョッキでグイッと。

 

 卓上に皿を並べ終え、幽鬼狩人が席に座ろうとした際、ガロン狩人嬢とキリン狩人嬢が自分達の間に座らせようとしたが、機先を制すように竜人嬢が「ここに座ると良い。労いの酌をしてやろう」と隣へ座らせてしまった。

 

 ぐぬぬと悔しがる姉妹を余所に、

「自然の恵みに感謝して」

 竜人嬢の唱和が済み、お食事開始。

 

 カニであれ、エビであれ、人は甲殻類を解体して食する時、なぜか言葉が少なくなる。

 

 現役ハンターの三人はもちろん、元ハンターの竜人嬢も現役オトモの騎士猫も、素手でザザミやロブスタの殻をべりべりと引っぺがし、バキバキと割り、準備を終えて……

 その身肉へ一斉に齧りついた。

 

 がぶり。

 

「美味い」「おいしーっ!」「美味しい」「美味いニャーっ!」「うん。美味いな」

 五人の嬉々とした感嘆がマイハウスに響く。

 

 ロブスタの身は弾力たっぷりでぷりっぷり。噛めば噛むほど仄かに甘い旨みが滲み出る。

 ザザミの身はむちっむち。脂の乗った肉は旨みが凝縮されていて咀嚼の度に幸せな気分を味わえる。

 

 塩茹で、塩焼きという素朴な調理が、ロブスタとザザミの持つ味わいをドストレートに伝えていた。

 

 口腔内が多幸感に満ちたところへ、ごっきゅごっきゅと喉をうねらせ、ビーアを味わう。程よい苦みと豊かなコク、発泡の刺激的な爽快感が涼やかな快感をもたらす。

 こんなん美味いに決まってるやんけ。

 

 好みに合わせ、レモンの搾り汁やスパイシーなタレを掛け、再びがぶり。

 素朴な美味が別物の美味に切り替わる。まるでどんな衣装も着こなす最高峰のモデルのようだ。何を着ても似合うとか反則やろがぃ(意味不明)。

 

 引っぺがした殻に指を突っ込んでミソや肉を掻きだしたり、直接加えて啜ったり。少々野蛮な食べ方も、これはこれで楽しい。脚や爪を割って木串で身を穿り出し、ちまちま食べるのもまた一興。

 

 ガーリックバター塗れのロブスタを解体して食べ、口周りと指先をベッタベタにした騎士猫が叫ぶ。

「美味いニャ――――っ!!」

 野生に回帰したのかな?

 

 ともあれ、楽しい食事は続く。

 

「ま、一献」「悪いな」

 竜人嬢が蒸留酒を幽鬼狩人のグラスへ注ぎ、幽鬼狩人はきゅっと呷る。そのとても自然なやり取りと、その行為を当然とする2人の空気は、完全に連れ添った夫婦のソレだ。

 

 そんな様を真ん前で見せられた姉妹。ガロン狩人嬢がカニの足をべきっとへし折り、キリン狩人嬢がロブスタの爪をばきっと割った。

 

 マタタビ酒で酔っ払った騎士猫が床に転がってニャゴニャゴと寝息を立てる。

 

 キリン狩人嬢はべろべろビーアをたらふく呷って泥酔し、

「姐さんばっかズルいーっ! 私も彼とイチャイチャしたいっ!」

 竜人嬢に食って掛かり、直後、机に突っ伏して寝てしまった。

 

 ビーアに加えて蒸留酒も飲んだ結果、べろんべろんになったガロン狩人嬢が『暑い……』と呟いて突如、装備と着衣を脱ぎ始めた。竜人嬢が溜息を吐いて姉妹共々ベッドへ放り込む。

 

 なお、姉妹揃って下着が『勝負仕様』だったことに気付き、『小娘共が色気づいてまあ』と竜人嬢は内心で呆れた。

 

 卓上はカニやロブスタの残骸が散乱する惨状を呈していた。姉妹と騎士猫は完全に酔い潰れ、爆睡している。

 

 俄か宴会は幽鬼狩人と隻眼竜人嬢が静かに酒杯を重ねるものへ変わっていた。

 

「美人姉妹に慕われた感想は?」と意地悪に微笑む隻眼の竜人族美女。

「勘弁してくれ。痴情のもつれが命の遣り取りになった例をいくつ見てきたことか」

 未練たらしくカニの足をくわえていた幽鬼狩人は、小さく肩を竦める。

 

 ハンターは男女問わず超人的な身体能力を有し、強大な怪物と伍する高い戦闘能力を持つ。が、彼らは兵器ではなく感情を持つ普通の人間であり、時に色恋沙汰や男女関係のトラブルが発生する。これが怖い。竜殺しの超人が恋人や連れ合いの浮気や不倫にブチギレたら? 仲間内の三角関係から寝取った寝取られたといった事態になったら? 血が流れずには終わらない。下手すりゃ死人が出る。

 

「付き合うのも嫁にするのも、ハンター以外だ。そう決めてる」

「なら、相手が元ハンターだったら?」

 竜人嬢が幽鬼狩人の鼻先を優しく撫でる。

 

 白く長い指には剣ダコがあった。引退してもなお、剣を振っているのだろう。左目を奪われ、左薬指と小指の半分を奪われ、ハンターという生き方を奪われ、それでもまだ未練を残している。眼帯に覆われた左目が見ているのは過去だろうか。あるいは、引退しなかった“もしも”だろうか。

 

 幽鬼狩人は口端を緩める。

「今すぐ拝み倒して抱きたい。と言ったら?」

 

 麗しい竜人嬢はポッと頬を赤くし、

「大人を揶揄うな」

 子供っぽく唇を尖らせ、蒸留酒をグイッと呷った。

 

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