幽鬼狩人と騎士猫と隻眼竜人嬢。あるいは飯の話   作:黒モク

7 / 11
7:肉

 大蟻塚の広大な湿地帯。

 その一角で、ガロン狩人嬢が雷属性の上位双剣を握りしめ、金冠級の魁偉なジュラトドスと戦っていた。

 

 ガロン狩人嬢は泥沼のわずかな足場などを頼りに自らの足で、あるいはスリンガーで絶えず動き続け、大きなジュラトドスを翻弄。

 そして、機や隙を見出したなら一息で肉薄し、剣閃の煌めく連打乱撃。舞うように斬り、踊るように裂き、跳ぶように断つ。泥混じりの水飛沫と血飛沫が陽光を浴びてキラキラと輝く。

 

 大柄なジュラトドスは自らの周りを動き続ける素早い“小型モンスター”を睨み、苛立ちを込めて怒号を上げる。

 

 怒号は沼沢の岸辺からも聞こえてくる。

 

 キリン狩人嬢が古龍素材製のごつい大剣を抱え、アンジャナフ相手に立ち回っていた。

 刀身だけで身の丈と体重ほどありそうな肉厚で長大な大剣を軽々と振るい、キリン狩人嬢は赤熱化して怒り狂うアンジャナフをぶん殴り、ぶっ飛ばし、ぶっ叩き、ぶった切る。

 

 自身よりも遥かに大きく重く恐ろしげな蛮顎竜を手玉に取るように、キリン狩人嬢は一方的に大剣の斬撃を浴びせ続ける。

 

 既に尻尾を切り飛ばされているアンジャナフは、体中から出血しながら、それでも不退転の覚悟を以って絶叫。未だ戦意に不足なし。

 

 水辺と岸辺で同時に繰り広げられる死闘。

 その戦場の傍にある岩場の傍で、リヤカーの陰に隠れた竜人族の小柄な老人達――新大陸調査団の学者先生達が「がんばれーっ!」「まけーんなーっ!」「力のかっぎり生きてやれーっ!」と応援している。

 

      ●

 

 キリン狩人嬢はアンジャナフの噛みつき攻撃をサイドステップでぎりぎりに避け、下がった頭へタックル。

 

 ごん。

 

 一種の力学。噛みつき攻撃で重心が変動したところへ、針の穴を穿つような衝撃がアンジャナフの体幹を揺らがせる。

 

 アンジャナフは何をされたのか分からない。小型モンスターの体当たりで自身がよろめく道理を理解できない。

 理解できなくとも、アンジャナフは崩れた体幹を立て直さねばならない。

 

 その隙を、キリン狩人嬢は逃さない。

 全身のバネを圧縮するように身を捩り、大剣を大きく振りかぶって――放つ。

 

 どかん。

 

 アンジャナフに強溜め斬りを与え、キリン狩人嬢は斬撃の慣性そのままに再び、身を捩って全身のバネと力を溜め、斬撃でヨレているアンジャナフへ向けて大剣に思いっきり――放つ。

 

 がごん。

 

 その強烈な斬撃の慣性を逃がさず、全身の質量を大剣へ預けるように、捨て身の一振りを―――放つ。

 

 どっがん。

 

 キリン狩人嬢の振るう真・溜め斬り。その会心の剣閃がアンジャナフの頑丈な鱗と甲殻と皮を割り、分厚い筋肉と脂肪を裂き、頑健な骨を断って、重要な臓器を斬った。

 太い大動脈をずばりと寸断されたため、真っ赤な鮮血が創傷部から吹き出し、断面を通じて消化器官や呼吸器官に流れ込み、アンジャナフの口から噴出した。

 

 アンジャナフの命の液体を大蟻塚の乾いた大地が吸っていく。岸辺の荒地が赤く染まっていく。血達磨の蛮顎竜が断末魔を上げて崩れ落ちていく。

 

 その巨躯が血に濡れた大地へ倒れ伏す――刹那。

 アンジャナフは心臓の最後の一拍に、生命最期の闘志を懸ける。

 

 大きな顎を限界まで広げ、キリン狩人嬢へ突撃。夥しい量の血を吐きながら、アンジャナフは駆ける。駆ける。駆ける。

 

 キリン狩人嬢は一歩も動かず、剣を構えず、自らへ迫るアンジャナフを見つめていた。

 

 急性出血のショックで視界は消失していく。意識が薄れていく。命が尽きていく。それでも、アンジャナフの意志が電気信号となって神経に伝わり、筋肉を躍動させ、駆ける。走る。歩む。

 

 その名を示す巨大な蛮顎を持つ竜は、キリン狩人嬢の一歩手前で大地に斃れた。

 

 キリン狩人嬢は勇敢な竜に一礼し、敬意を示す。

 岸辺の死闘が終わった頃、水辺の決戦も終わりを迎えつつあった。

 

       ●

 

 ガロン狩人嬢は剣戟の旋風となっていた。

 繰り返される斬撃。重ねられる斬撃。連ねられる斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。斬撃。

 鬼人突進連斬。斬り上げ。逆手斬り。二段斬り。六段斬り。乱舞。

 斬る。斬る。ひたすらに斬る。

 

 ジュラトドスの悲鳴と剣戟の音色が絶えない。途切れない。飛散する泥。水飛沫。血飛沫。切り削られたジュラトドスの鱗に皮に肉。

 

 血と泥が混じって赤黒く染まる沼沢。返り血を浴びて体が紅く濡れるガロン狩人嬢。切り刻まれて深紅に塗れるジュラトドス。

 

 絶え間ない痛み。命を奪いかねないほどの出血。ジュラトドスの魂が肉体から離れ始める。

 死を実感したジュラトドスは雄叫びを上げ、ガロン狩人嬢から逃げ出す。

 こんなところで死んでなるものか。生きてこそ。生き抜いてこそ。

 

 金冠級にまで生き延びてきた頑迷なまでの命への執着。生きるという絶対の意志。

 

 そんなジュラトドスの決意を無視し、ガロン狩人嬢は血と泥に塗れた双剣を振るう。

 鬼人突進連斬。回転切り。二回転切り。そして、クラッチクローでジュラトドスの頭に取り付き、回転切り上げ。

 

 踊り子の如く宙を舞うガロン狩人嬢。その先には枝葉を伸ばす荒野の堅木。その太い枝を蹴り、ガロン狩人嬢は再びジュラトドスへ肉薄。空中回転乱舞を放った。

ひときわ激烈で熾烈で鮮烈な斬撃の暴風がジュラトドスの頭から背中へ、背中から尾へ駆け抜けていった。

 

 ガロン狩人嬢が強すぎる慣性を殺すためにくるくると身を振るった後、沼沢に転がる岩場に着地した。同じく、空中回転乱舞によって斬り飛ばされたジュラトドスの尾が着水し、同時に剣閃の旋風に命を掻き消されたジュラトドスが沼沢に倒れ伏した。

 

 巨獣が倒れ込んだことで大きく波打つ赤黒い水面。

 

 ガロン狩人嬢は両手の双剣をバトンのように振るって軽く血を払った後、納刀。

 長く生きた偉大なモンスターに黙祷を捧げた。

 

       ●

 

 大蟻塚の荒地。その低湿地帯に広がる水源調査を阻んでいた金冠級ジュラトドスの討伐。

 ところが、そのジュラトドスの縄張りはアンジャナフの行動圏でもあったらしい。

 

 かくて、美人ハンター姉妹はそれぞれ大型モンスターとタイマンを張る羽目になったわけだ。

 よくあることやね。

 

 水源調査のため共に赴いていた学者先生達は、嬉々として討伐したばかりの金冠級ジュラトドスとアンジャナフの死骸を調べ始めた。

 彼らの屍を調べることで、彼ら自身の生態はもちろん、この地域の情報も少なからず得られる。

 

 美人ハンター姉妹は狩りを終え、休憩しながら水代わりに汁気たっぷりの果物を齧っていた。

 

「お姉ちゃん、すっごい格好だよ」

 返り血を浴びているのはキリン狩人嬢も同じだが、ガロン狩人嬢は輪を掛けて血塗れの泥塗れであった。

 

「あんたのせいでしょ」

 ガロン狩人嬢は恨みがましい目つきで妹を睨む。

 

「ジャンケンで負けたお姉ちゃんが悪い」

 キリン狩人嬢は悪びれることなく、二つ目の果物を齧り始めた。

 

 妹のしれっとした態度にいらっとしつつ、ガロン狩人嬢も二つ目の果物へ手を伸ばし――ふと手を止めて岸辺の岩山の方へ鋭い目を向けた。

 同じく気配を察知したキリン狩人嬢は果物を齧りつつ、傍らの大剣へ右手を伸ばす。

 

 岩山の稜線に小さな影が三つ現れた。

 モンスターではない。人だ。

 

「「あ」」

 姉妹の声がハモる。

 

 稜線に姿を見せた三人は、幽鬼狩人達だった。

 

       ●

 

「風に乗って血の臭いがしたから様子を見に来たんだ」

 幽鬼狩人は姉妹の様子と、二匹の大型モンスターの亡骸を確認し、合点がいったように頷く。

 美人ハンター姉妹は返り血塗れ。横たわる二匹の大型モンスターも血塗れ。そりゃ血の臭いもするわな。

 

「仕方ないじゃん。ガチンコで戦ったんだから」

 キリン狩人嬢は不満げに唇を尖らせ、

「見ないでください……」

 ガロン狩人嬢は恥ずかしそうに俯く。

 

「別にとやかく言う気は無いよ。よくあることだし」

 幽鬼狩人はまだ剣士装備でチャンバラをしていた頃、モンスターの攻撃をかわしたら、糞へ顔から飛び込んでしまったことを思い出した。アレに比べたら返り血なんてどうってことない。

 

 竜人嬢が学者先生達に混じってジュラドトスとアンジャナフの屍を検分する様を眺めながら、幽鬼狩人はふと気づく。

「あれ? 相棒はどこにいった?」

 

 騎士猫の姿が見えない。

 

 が、噂をすれば影。

 

「ニャー。相棒、手を貸すニャッ! 御馳走ニャッ!」

 岩場の陰から騎士猫が姿を見せ、ぶんぶんと手を振って招く。

 

 なんぞ、と幽鬼狩人と美人ハンター姉妹が騎士猫の許へ行くと、そこには草食竜アプケロスの新鮮な骸が横たわっていた。首元や尻尾の辺りが食い千切られており、歯形と周囲の足跡や痕跡から察するに、アンジャナフに襲われて命を落としたらしい。

 

「まあ、傷んでるわけでもなさそうだし、食えると言えば食えるか」

 幽鬼狩人は鼻息をつきつつ、言った。

 

 地球なる世界の話になると、日本ではあまり馴染みがないが……交通事故で死んだ鹿や猪、熊なんかを持って帰って食べちゃう人は、意外といるらしい(安全性とかは知らない。あくまで伝聞の話である)。

 

「焼肉にするニャッ!」

 騎士猫がそういうと、ぐう、と腹の成る音が聞こえた。

 幽鬼狩人と騎士猫が音の発生源へ目を向けた。

 

「う、運動した後だから」「恥ずかしい……」

 美人ハンター姉妹が顔を赤くしていた。

 

      ●

 

 草食竜アプケロス。

 気性が荒く、攻撃的な気質のため、草食種の可食モンスターながら家畜化されたことは無い。ところが、とても柔らかくて美味いお肉の主で、その卵も美食家に人気が高い。キモの部分は薬効成分があって需要があった。

 

 これらの背景により、アプケロス狩猟の依頼が珍しくなかった。

 

 よって、

「手早くやりますか」「さっさとやっちゃお」「ええ」

 幽鬼狩人と美人ハンター姉妹は剥ぎ取りナイフを抜き、アプケロスの新鮮な骸をてきぱきと解体していく。

 

 アプケロスは大きな甲羅を背負っており、体躯を堅い鱗で覆っている。血抜きは食い千切られた首元と尻尾の辺りから生じていたようだから、後はハラワタを抜き、甲羅を剥がして、部位ごとに切り分けていけばよいだろう。

 

 傷み具合が定かでないハラワタは取り出した後、沼沢地に投げ込む。肉食魚ガライーバが嬉々として群がってきた。堅木の上からニクイドリ達が妬みの目を向けている。

 

 でもって甲羅を剥いてから、お肉を部位ごとに切り分けていく。

 肩ロース。リブロース。サーロイン。ヒレ。ランプ。

 肩。肩バラ。ウデ。中バラ。外バラ。内モモ外モモ。スネ。

 それから皮。骨。脂。

 

「結構な量になったねー」と額の汗を拭うキリン狩人嬢。

 

 ちなみに、広島市中央卸市場のホームページによれば、700キロの牛さんからは、310キロのお肉。150キロのハラワタ。50キロの骨と42キロの皮と70キロの脂が採れるそうな。

 今回のアプケロス一匹の場合も、まあ、似たようなものと思いねえ。

 

 こうして解体したアプケロスの肉と素材は、学者先生達のリヤカーに乗せ、キャンプに運び込む。

 

 道中、竜人嬢と竜人族の学者先生達はずっと議論を交わしていた。どこでも青空学会。

 

「やっきにくやっきにく」と鼻歌をくちずさむキリン狩人嬢。

 

 幽鬼狩人の傍に居たいが、汚れた格好と汗やらや返り血やらで臭いが気になって、近くにいけない乙女なガロン狩人嬢。

 

 リヤカーを引かされる幽鬼狩人と騎士猫。

 

 そんなこんなでキャンプに到着。太陽が地平線へ向かって傾き始めている。

 

「さぁ、飯の支度にかかるニャッ! 今宵は焼肉ニャーッ!」と騎士猫が意気軒昂。

 いつもなら飯作りを言い出す竜人嬢も、今日は同胞達との議論に熱中している。

 

 不気味な昆虫面のマスクと両手の手袋を外しながら、幽鬼狩人は周りを見回した。

「あれ? 姉妹はどこ行った?」

「なんか着替えとタオルを持って沢の方へいったニャ」

「ふーん? ま、いっか。それじゃ肉の下拵えをするか。焼肉と言ったが、具体的にはどうするんだ? ステーキか? 串焼きか? それともシキ国風か?」

 

「「「「シキ国風で」」」」」

 竜人嬢を始めとする竜人族達が、突如議論を投げ出して一斉に言った。

 

 幽鬼狩人は苦笑いして頷いた。

「じゃ、今夜はシキ国風焼肉で」

 

 そういうことになった。

 

     ●

 

 大蟻塚の荒地にある水場は沼地や泥地だけではない。たとえば、谷の回廊付近では澄んだ清流が確認できる。大蟻塚の高台から荒地全体を俯瞰したら、思いのほか水場が多いことに気付くだろう。

 

 そんなわけで、返り血と泥と砂埃や汗やなんやかんやで汚れた美人ハンター姉妹は晩飯前に汗を流すことにした。気になる男子が傍にいるのに、汚くて臭い恰好じゃいられないわな。オンナノコだもの。

 

 順番を決めるジャンケンで勝利した姉のガロン狩人嬢は先に水場へ入る。その間、妹のキリン狩人嬢は周辺警戒だ。モンスターなどもそうだし、何より……覗きは決して許されない。

 

 ガロン狩人嬢は装具を外し、鎧部分を外し、着衣を脱いで、下着を脱いだ着衣の上に放る。ポニーテールに結っていた長い髪も解く。

 

 ハンターとして武具を扱い、戦闘に望むため、腕やふくらはぎにしっかり筋肉が付き、手首や足首がキュッと引き締まっている。意外と着痩せしていた胸元と適度な脂肪に包まれた腹筋、ぐっと締まった腰回りとお尻から太腿までの素晴らしいラインのおかげで、筋肉の乗った肩幅があまり気にならない。

 

 見事な短距離走選手的なアスリート体型であろう。甲冑よりレーシングブラとショーツをまとって欲しい……

 健康的に日焼けした一糸まとわぬ肢体へ掛けられる水が、玉になって弾ける様のなんと眩しいことか。

 

 さて、姉の行水が済めば、続いて妹キリン狩人嬢の番である。

 露出度の多い女性向けキリン装備だけに、外す装具と脱ぐ衣料の数は多くない。特徴的な一本角の頭部装備を外すと、麗しい髪が解かれた。

 

 彼女もまた重たい武具を軽々と扱うだけあって、しっかりと筋肉を有している。長い手足は鍛えられており、しなやかな曲線で構成されていた。姉に比べて些か控えめな胸周りながら、腰回りから両脚へ続くラインのなんと艶美なことだろう。特に普段、露出している腹筋からへそまでの正中線を水が伝う様は官能美を見出さずにいられない。

 

 ダンサー体形の粋だ。こんな美女がポールダンスでもした日には、ステージ周りは場所取りの乱闘が起きかねない……

 濡れた髪を掻き上げ、一糸まとわぬ体を水と絡めさせる姿の、なんと麗しいことか。

 

 かくて姉妹は行水を終え、新しい下着をまとい、汚れを落とした着衣と装備をまとい直す。

 汗を流して気分爽快。清流に浸かって冷えた体に、荒地の暑気が心地良い。

 

 姉妹がキャンプに戻ると、火が焚かれている辺りから獣脂が溶ける香りが流れてきて、鼻をくすぐった。

 

 焼肉の準備は整っているらしい。

 腹が、減った。

 

        ●

 

 本日のお品書き。

 アプケロスのシキ国風焼肉。卵スープ。野菜の盛り合わせ。キュウリとナスのお漬物。御飯。

 

 一口大に切られた各種お肉が、まるで花を描くように大皿の上で円状に並んでいる。焚き火台の上に置かれた鉄板は獣脂が引かれ、準備完了済み。

 お肉を美味しく食するためのタレもしっかり準備してある。

 

「自然の恵みに感謝して」

 竜人嬢の唱和と共に、誰も彼もが競うように肉を鉄板へ放り込む。

 

 カルビにロース。モモに肩。ジュウジュウと歌うお肉達と鉄板から薫る香ばしい臭い。たちまち焼けるお肉をタレと絡ませた後、口へ運ぶ。

 柔らかな肉が口の中で幸福という概念に化け、味覚を多幸感で爆発させた。

 

「おいしーっ!」「美味しいですっ!」「美味しい」「柔らかくて美味い」「おいしーニャッ!!」

 キリン狩人嬢は眩しい笑顔を湛え、ガロン狩人嬢は可愛い笑顔を浮かべ、竜人嬢は上品に微笑み、幽鬼狩人は満足げに口端を緩め、騎士猫は喝采を上げた。

 

 竜人族の学者先生達も姉妹達に負けじと、美味い美味いと言いながらバクバク食べていく。体は小柄なのに食の太さはハンター並みだ。

 

 大皿に盛られた肉が次々と鉄板へ放り込まれ、次々と胃袋へ消えていく。

 

「野菜も食え、野菜も」

 幽鬼狩人が鉄板上に取り残されている野菜を拾い上げ、各人の取り皿へ押し込んでいく。

 

「ニャッ!? 人参は要らないニャっ!」

「好き嫌いするな。食え。自然の恵みに感謝しろ」

「ニャーッ!」

 

 ある程度の肉が皆の胃袋へ収まると会話の量が増え、酒も進む。

楽しい食事の時間が続く。

 

「2人とも装備がこの間と違わないか?」と幽鬼狩人。

「今回の討伐目標はジュラトドスだけだったので、効果の高い雷属性にしたんです」

「そしたら、アンジャナフも出てきちゃってさー。参った参った」

 

 美人ハンター姉妹はモンスター・ハント主体のガチ勢である。

 姉のガロン狩人嬢も妹のキリン狩人嬢も、狩りに得物を選ばない。幽鬼狩人のように装備へのこだわりもない。狙う獲物に対し、最適の得物と装備を選ぶ。姉のガロン装備も妹のキリン装備も普段使いの品に過ぎなかった。

 

 そのため、彼女達のマイルームには武具防具が何種類も溜め込まれている。ま、装備を収集するのは腕利きハンターのありがちな“習性”であるから、珍しくはない。

 

「ふーん。なるほどなぁ」

 幽鬼狩人は美人ハンター姉妹の回答を聞きつつ、竜人嬢と学者先生達を窺う。

 

 竜人族の学者達は酒も手伝って、知識によるマウント合戦を始めていた。そんな学者先生達を『いい歳して馬鹿だなー』と言いたげな生暖かい目で見守る竜人嬢。

 

「そういえば、君達はなぜ大蟻塚に?」

 ガロン狩人嬢が幽鬼狩人へ問う。幽鬼狩人は森や密林が専門だ。

 

「フルーツだよ、フルーツ。在庫が切れてたんだとさ。料理長と物資班長の大号令で手透きの連中は皆、駆り出された」

 幽鬼狩人はレアな焼き加減のカルビを摘まみ、酒を呷った。

 

「そんなことになってたんですか」とガロン狩人嬢が目を瞬かせた。

 

「凄かったぞ、物資班長がブチギレ具合。美人が怒ると怖いな」

 肩ロースを新たに焼きながら幽鬼狩人は苦笑い。

 

「美人」モモを食べていたキリン狩人嬢が片眉を上げ「そういえばさー、君の好みってどういう女性なのー?」

「それは是非とも伺いたいですね」とガロン狩人嬢の目が鋭くなった。

 

「あれ? どした? なんか二人とも目つきが怖いぞ?」

 幽鬼狩人はしらばっくれた。ヘタレめ。

 

 大皿に盛られた分の肉が綺麗さっぱり皆の胃袋へ消え去り、楽しい食事は終わりを迎えた。

 誰も彼もが幸せな満腹感を抱えながら就寝する。

 

 幽鬼狩人達と分かれ、自分達のテントに入った姉妹は野営毛布にくるまり、

「良い狩りが出来たし、美味しいものも食べられたし、彼にも会えた。今日は良い日だったね、お姉ちゃん」

「ええ。きっと明日も良い日になるわ」

 ニコニコしながら眠りについた。

 

 昼間の熱気が嘘のように冷え込んだ大蟻塚の荒地。

満天の星空の下、夜が静かに更けていく。

 

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