トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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先声奪人

 

 

「ご自身が出走されるエキシビジョンマッチというのは随分久しぶりですが」

「ええ、それは……」

 

乙名史記者の質問に対して卒なく答えているルドルフを眺めながら。

インタビューも安心して任せられるルドルフへの安心感と共に、幾許かの遣瀬なさを感じる。

 

はきはきとした遣り取り。

淀みなく答えていく様子はこうしたインタビューへの慣れを十二分に感じさせる。

 

時折こちらにちらと目を向けてくるが、こうして発言に対して一応の確認を求めてくるのも変わらない。

一つ頷いてやると、すいと瞳が戻っていく。

 

ため息を飲み込んで、一歩二歩と下がってその様子を眺める。

 

「皇帝」シンボリルドルフというのは一種の聖域だ。

聊か仰々しい言い方ではあるが、概ね間違ってはいない。

こうして感謝祭の真っただ中という、一般客も、メディアさえも大挙して押し寄せるイベントの最中にあって、往来の目立つ場所で質問攻めに遭っていたところで他の記者が便乗して来ようという気配が全くないところからも明らかだ。

 

普通、こうした取材は「記者がインタビューしている」ことが分かってしまえば最後、大抵の場合において「取材OK」と判断した記者が次々突っ込んでくるものである。

ルドルフの話をメモを取りながら聞く、という姿はそう珍しくはないが、プレスの腕章を堂々と付けてそうしていれば、普通ならば突っ込んでくる。

 

ゴシップ誌からスポーツ紙まで、トゥインクルシリーズを取り上げている媒体は多く、そしてそのどれもが平等に取材の機会を与えられるわけではないのだから。

 

ふと足を止め、レコーダーを向けられるルドルフを眺めている生徒がちらと視界に入った。

ウマ娘たちにとって、メディアに取り上げられるというのはある種の憧れのようなものだ。

 

だが、その一方でメディアというのは彼女たちの味方とは限らない。

 

過熱しすぎたブームによって四六時中監視態勢を敷かれるような取材攻勢が発生したこともあれば、過剰に書き立てた結果心身に不調をきたして引退に至るケースなど、メディアというのは良くも悪くもある種の大きな力でしかない。

それが指向性を持った力というだけならば兎も角、そこには善意もあれば悪意も当然存在する。あくまでヒトがやっていることなのだから。

 

故に、学園側も報道については厳しくチェックを掛けている。

相手はあくまでも学生だ。それに、感謝祭というのは「ターフの上」ではない。

素のままのウマ娘とファンが交流する機会としては許容していても、生徒たちは当然の事ながらまだ「学生」である。

許可されていない取材は厳重抗議どころか、URAから締め出しを食らう。

 

そんな状態にも関わらず、インタビューされているウマ娘を見ると突撃してくるのは何故か。

 

簡単なことである。個別取材許可の多くが「時間制」だからだ。

 

例えば「スペシャルウィークが10時から10時30分までの間取材OKですよ」というような形で、一定の時間を設けているからである。実際のところはもう少し詳細な情報が出るし、当人の了承も得ての形とはなるが、概ねそういう形態を取る。

これについては松竹梅あり、当然の事ながらスターウマ娘になればなるほど取材可能な時間も、条件もシビアになっていく。

これはスターとなったウマ娘のイメージを守るために条件が厳しくなるという意味合いもあるが、実際のところ、何もわざわざ感謝祭で取材してもらわなくとも構わないからだ。

注目を集めているウマ娘であれば、極端な話、何もしなくともそんな機会はいくらでもある。会見を開くといえば記者は集まってくるし、社会の注目も集まる。

故に、URA側も学園側も、あくまでもメディア対応は二の次であり、あくまでファンを最優先という姿勢を保っているのである。

 

そういう状態にあるため、マイクを向けられているウマ娘というのは記者にとっては「今がチャンス」という状態なのである。

まあ、事前申請したメディア以外お断り、というケースも多いので一か八かなところはあるが。

 

インタビューをしていると見て一瞬カメラを持ち上げて、ルドルフと見るやがっかりしたように肩を落として去っていく記者らしき姿がちらほらと見られる。

 

それが良いことなのか、悪いことなのか判断はしづらいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取材がひと段落した頃。

 

「本日はインタビューにお答え頂きましてありがとうございました。そろそろ時間ですね」

「ああ、トークセッションでしたか」

 

時計をちらりと見た乙名史記者が、取材道具を鞄に詰め込みながらそんなことを言った。

そういえば、スケジュールではこの後にそんなイベントが入っていたなと思い出す。

大まかなスケジュール感としては、朝から巡回を行って、その後トークセッション。午前中は存外短いもので、そのまま昼休憩。そして午後にはエキシビジョンレース。

 

何か運営上の問題があれば私とルドルフに生徒会から連絡が入るとのことだったが、今のところそれもなし。

定時報告が時折エアグルーヴから上がってくる程度だが、それもほとんど処理が済んでいるものばかりなので、巡回自体は取材に阻まれ芳しくはないが、特段問題とはならないレベルだろう。

 

ルドルフが突然入った取材を拒まなかったのも、自分自身が巡回などしなくともきちんと正常に運営されると信頼しているからだろうと察しは付く。

 

「それでは、移動しましょうか。乙名史さん」

 

「よろしくお願いします」

 

「あ、ボクも着いてっていいですか? ちょっとトークセッションの方取材させてもらおうかと思て」

 

「ええ、構いませんよ。トレーナー君も」

 

ルドルフが振り返ったその時。

当然のように同行しようとし瞬間、袖が軽く引かれた。

 

何事かと思い、視線を向ければ。

 

「ルドルフがイベント参加すんなら暇やろ?」

 

にしし、と笑うタマモクロスが、私の袖を引っ張って笑っていた。

 

「……タマモクロス?」

 

「せやせや。こないだの奢ってくれるっちゅー話、忘れとらんよな?」

 

スケジュールにもきちんと記録していたので、忘れていたわけではないのだが。

それにしても、昼休憩には少々早い。

 

「あー……思っていたよりもちょっと早いけど……ルドルフ?」

「…………ふむ。どちらにせよ私はイベントに参加することになっているからな」

 

ルドルフに許可を求めるように目を向けると、眉を寄せ若干渋い顔をしている。

最近はウマ娘の独占欲とも折り合いを付けるようになってきたのか、はたまたここで醜態は晒せないと考えたのか。

若干の黙考を経て、ふぅとため息を吐いた。

 

「それでは、イベントが終わり次第連絡させてもらうとするよ。タマモクロスには借りもあるからな。……それでは、また後で」

 

「わかった。また後で」

 

ルドルフと記者二人がイベント会場に向かっていくのを見送っていると、またくいと袖が引かれた。

 

「ほな行こか! あんまトレーナーも時間ないんやろ? パパッとウチに奢ったってや」

「わかったよ。箸まきって結局出てた?」

「なかってん…………しゃあないからたこ焼きで我慢したるわ。たこ焼きの屋台ならでとったからな。こっちや!」

 

ぐい、と今度は強く腕が引かれる。

バイタリティの塊、というか元気印のタマモクロスに付いていくのは大変そうだ、と思いながら、彼女に合わせて歩き出した。

 

なんだかんだと、彼女には何度も借りを作ってしまっている。

ここで返せるのであれば、少しでも返しておくに越したことはないだろう。

 

……まぁ、少食な彼女のことなので、財布には優しいのだろうけれど。

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