「シンボリルドルフさんのトレーナーさん!いらっしゃいますか!」
急いだ様子で休憩所に飛び込んできたのは、理事長秘書の駿川さんだった。
何事か大声で言いながらきょろきょろとあたりを見回しているが、私の耳に飛び込んできたそれは死刑執行の合図にしか聞こえなかった。
咄嗟に屈み込む。
もはや恥も外聞もあったものではない。
ライブ配信で全国数万人からのトゥインクルシリーズファンに、しょうもない情報が今まさにダダ漏れになっている訳だが、もはや止めようもない。
残念なことにここからあの収録会場まで、私が何の障害もなく全力疾走したとしても15分は掛かる。
実際に走っているのが5分。息切れで休む時間が10分である。
もちろん、そんな状態であの地獄に飛び込んだとしても、今のルドルフを抑えられるという確信は一向に湧き出してこない。
何なら余計な醜態を晒すだけだという妙な確信ばかりが湧水の如く止め処なく溢れ出してくる。
どう考えても私が教育に失敗したとしか思われない程度には、今のルドルフは品性というものをどこかへ置いてきてしまっている。
さらに、今日は感謝祭。一種のお祭りである。
全国からファンが集まり、参加できなかったファンも配信などを心待ちにしている。
有り体にいえば、普段お行儀よくしているファンの諸氏も、ジュースやビール缶を片手に画面の向こうで盛り上がっている状態である。
コメント欄が暴走気味なのも当然と言える。
そしてこう言う時、被害に逢うのは大抵素面の第三者である。
なので、私は逃げる事にした。
恥も外聞もなく、何なら大人としての尊厳さえ捨てて。
ここで捕まると言うことは即ち、私の人としての尊厳の破滅であり、社会的な意味での死を示している。
這いずり泥を啜ってでも、生き延びなくてはならない。
死の気配を濃密に纏うあの緑色の死神……もとい、駿川さんから逃げなくてはならない。
やだなあ。こう言う時本気になるんだよあの人。
覚悟を決め、逃走すべく地面にこの掌を付け、今まさに匍匐前進へ移行しようと言う瞬間、頭上から奇妙な物でも見つけたかのような声が掛けられた。
「何しとん……?」
当然の如く、同行者であるタマモクロス行動を訝しまれたのであった。
彼女でなくとも、誰だってそうするだろう。私だって多分そうした。
わざわざ正面に回り込んで覗き込んでくるんじゃない。見つかってしまう。
「……タマモクロス、君と言うやつは……」
しかし事ここに及んでは、それが致命傷となることをご理解頂かなくてはならない。
思わず反射的に顔を上げーーー。
「「ーーーッ!」」
緑色の双眸がこちらを捉えた。
背筋が凍るような視線。タマモクロスもほとんど同時にその視線に気がつき、慌てて身構える。
見つかった、か。
こうなればやけくそ気味に逃走してもよいかと前を向いて。
私は匍匐前進で戦術的撤退しようとしていた。
つまり、姿勢が低い。クラウチングスタートのように低く、まさに地を這うような姿勢だ。
正面にはタマモクロス。身構えたせいで足元が疎かになっている。
反射的に逃げようと体が動いていく。重心が前へ。
あ、やば。
「何すんじゃワレェ!!!!!!!!!!!!!」
無事、緑の死神に捕獲される運びとなったことを申し添える。
「私から逃げようなんて百年早いですよ?」
にこにこと微笑む理事長秘書に取り押さえられた私は、抵抗も虚しく横抱きにされて搬送されていた。
「開けてくださーい!通りまーす!」などと時折声を掛けては人垣を割っては駆け抜けていく。
正直、先日アグネスタキオンに運ばれた時よりもよほど心臓に悪い。
心臓に悪いと言うか、もうなんだか色々と痛くて仕方がない。
人の目とか、カメラとか。
配信を見ていたと思しき人は携帯端末のカメラを興奮気味にこちらに向けているし、「がんばってー!」などと手を振られている。
これはあれだ。戦地に送られる人に送るエールというやつだろう。
横抱きで戦地に搬送されるという実にみっともない姿だったが。
「わかりました。私もトレーナーの端くれ。覚悟を決めましょう。私に何をさせようと言うのですか」
居直りの境地である。
断じて先程まで泥を啜ってでも生き延びてやると息巻いていた人間が口にして良い言葉ではない。
「いえ、実は……先ほどからの生配信のことで」
「あぁ……」
「あなた宛の質問が大量に出てきてまして……」
「くっ、殺せ! せめて降ろしてください」
「そのセリフを現実で聞く事になるとは思いませんでした。しかもあなたから」
何で妙なショックを受けているのか。
昔からこんなもんだったと思うのだが、私は。
数分ぶりに踏み締めた地面は絶大な安心感を齎してくれはしたが、状況は何一つ改善しなかった。
特急から鈍行に乗り換えた程度の違いしかない。つまり、たかだか数分の延命に成功しただけである。
駿川さんに手を引かれ、小走りで通路を駆け抜けていく。
懐かしい、というか。
よくこんなことがあったな、と記憶が浮かび上がってくる。
そんなことを口にしようにも、結構な速度で走っているため呼吸に飲まれ、言葉を発する余裕などなかったのだが。
「くすくす。そういえば昔もこうして、一緒に走ったりしましたね」
振り返って駿川さんが笑う。
セピア色の記憶の中で、幼い日の彼女が振り返って笑う。
最近、思い返すことばかりで嫌になる。
「……で、連れてこられた訳ですが……」
「あ、こちらは第二スタジオになります。あっちの収録現場がいっぱいいっぱいなので、こちらに切り替えて使いますね」
「もしかして、私一人でコメント返して行かなければならないとかですか?」
「一応私もお相手として同席させてもらいますので……」
「……駿川さんも苦労されますよね、ほんと」
『それでは第二スタジオの方へバトンタッチしたいと思います!』
『ほな、ありがとうございましたー』
『トレーナーさん!? なんでこっちじゃなくてそっちにいるんですか?』
「……あなたほどじゃないですけどね。それでは配信切り替えしますね。……どうぞ」
「シンボリルドルフのトレーナーです。大変多くの質問をお寄せいただいたとのことで、可能な範囲で回答させていただきたいと思います」
「お相手は私、理事長秘書の駿川が努めさせていただきます。さて、それでは放送時間にもあまり余裕がない……といいますか、何故ウマ娘を差し置いてあなたにこんなにたくさん質問が来ているのでしょう。ほらこれ見てください」
<隣室のトレーナーはあの後どうなったの?そもそも何故あの様な事態に?もしかしてけしかけちゃった?(ゲート難さん)>
「あ、コメントってこう言う風に見えてたんですね、こちら側だと。……失礼。隣室のあれは単なる事故です。私はなにもしていませんよ。玄関前にウマシィを置いておいた程度で」
「ああ、結婚情報誌の……あら?」
「……何か?」
「あの、つまりあなたが買ったんですよね、ウマシィ」
「…………あっ」
「シンボリルドルフさんのあの痴態って、もしかして……」
「ストップです。それ以上いけない」
<自分がもしそうなった場合の対処法は?>
「とにかく冷静になってもらうことでしょうかね……力では叶わないので、なるべく冷静になるまでの間、接触を避けてメッセージアプリで連絡取り合って冷静になってもらうとか」
「できたら苦労しませんよね」
「はい」
<今まで仲良くなった異性の数と、その中で一番記憶に残っているエピソードがあれば>
この質問に、思わずちらりと隣席に視線をやってしまった。
にこり、と笑顔を返され、腹を括って口を開く。
「仲良くなった異性の数は、十人にも満たないですよ。学校の同級生、職場のスタッフ……話はしても「仲良くなれた」という異性の友人は少ないですね。記憶に残っているのは……そういえば子供の頃、手繋ぎ鬼という遊びがありまして」
「ありましたねー」
「ええ。手が砕けるほど握りしめられて、しかもおもちゃみたいに振り回されたことがありまして」
「ひどい話ですねー」
「ええ。ひどい話でしたね」
<タイプの異性は?自分に今一番欲しい物は?目の前にタイムマシンがあるならどうしたい?(うまぴょいしたんですねさん)>
<結婚するとして、どんな相手を望みますか?(だ〜れがトレーニングしてると思ってるんだ?さん)>
「捲し立ててきますね……。タイプの異性は、そうですねえ……穏やかな方がいいです。今一番欲しいものは何に怯えることもない安穏とした日常ですかね。タイムマシンは……一人、どうしても会いたい人がいるので、それで使うかもしれません」
「どなたですか?」
「さて次です」
画面の隅にワイプの形で追いやられたルドルフを始め他の面々が騒いでいる様子を努めて無視しながら、次の目ぼしいコメントを探す。
<私と結婚してもトレーナー続けていいから!って言われたらルドルフさんとの結婚考えますか?ルドルフさんもトレーナーさん(未来の夫)が心配ならトレセン学園に就職すれば良いのでは?…( ゚д゚)ハッ!…(閃いた人さん)>
「……誰と結婚してもこの仕事は続けたいと思いますよ。むしろ、ほぼプライベートがない状態なので、理解のあるパートナーが見つかるかどうか。……ルドルフの進路は……まあ、本人から語っていたようなので」
「叶わない夢ってありますよね」
「いやな説得力ですね」
<今すぐ結婚しなきゃいけなくなった時に交友関係がある人の中で選ぶとしたら誰ですか?年齢による問題は考慮しないものとします。(外道麻婆さん)>
「今すぐ、ですか。うーん……ノーコメントで」
「あら、興味あるので聞いてみたかったのですけど」
「揶揄わないでくださいよ……いや、誰ですか私に通話掛けまくってるの」
<好きなお味噌汁の具は何でしょうか?(おさふねさん)>
「……どういう意図なのかは理解しかねますが、なめこが好きです」
「昔から好きですよねー」
<たづなさんとはいつから、又いつまで名前呼びだったのですか?(J.ライアン)>
「お互いに学生の頃は名前で呼んでましたね、そういえば」
「中央で再会してからは、まぁ職場ですから。仕方がないとはいえ、ちょっと寂しいですね」
「分別を付けるのが大人ですから」
「その割に都合よく使うみたいですけどねー?」
「……」
<タラシですか?(ねぎさん)>
<どんだけ誑し込めば気が済むのですか? 怒らないからルナに教えて下さい(絶望)>
「どう考えてもごくごく身近な人物からの質問という気がするんですが。 ルドルフ。ルドルフ?」
画面の隅で、ぽちぽちと携帯端末を叩いていた私の愛バがカメラに向けていい笑顔を向けて迫ってきているのは見なかった事にした。
「……こほん。ともあれ、誑かしているつもりはありませんよ。全く。身に覚えがありません」
「よく言いますよね」
「どうして」
<トレーナーさんは今まで何人の人といい関係になりましたか?性別は問いませんがもちろん恋愛的な意味ですよー(純粋で心優しい天使のような人)>
「精々が一人です」
「へぇー、ふぅーん。そうなんですねえ」
<たづなさんがトレーナー争奪戦に参加したとして、物理的にたづなさんに勝てるウマ娘はどれくらいいるんでしょうか?(ゴルゴル星人Cさん)>
「……物理的に?」
「何ですか、その目は。私がウマ娘の方に勝てる訳ないじゃないですか」
「……」
「あとでちょっとお話しましょうね、トレーナーさん」
<トレーナーさんの人バ一体の姿勢に感動しました!弟子入りしたいのですが募集はしてますか?(先駆け出しトレーナー)>
「残念ながら、まだ人に教えられる身ではありませんので……」
「チームを持てばサブトレーナーと言う形で師弟制になりますよね。作らないんですか?」
「まだ二人しか受け持ってないので……」
「遅かれ早かれ、だと思いますけど」
<サブトレ時代、一番思入れのあるエピソードはどれですか?(トレーナーを苦しめ隊さん)>
「名前にもう悪意を感じますよね」
「実際どうなんですか?」
「そうですね……あー、『初めてのレース』ですかね。模擬レースでしたが、当時東条トレーナーに初めて担当ウマ娘を預けていただいて。自分の立てた戦術でウマ娘に走ってもらって……その瞬間が一番記憶に焼き付いています」
「ちなみに、どなたでした?」
「ビゼンニシキでした」
「あぁ……」
<もし私の方が先に契約を申し込んでいたら私を専属にしてくれた?(ビゼンニシキさん)>
「……今となっては詮無いことではあるけれど。おそらく、当時の私は喜んで君と契約していたと思う」
「タイミングって残酷ですねえ」
<そんなー>
ちょっと悲しそうなコメントが、画面を横切って行った。
<ルドルフより強いウマ娘を担当したくありませんか?(ギャロップダイナさん)>
「大きく出ましたね……担当してみたくはありますが。今はルドルフとテイオーで手一杯ですよ」
<そろそろ三人目の名前が聞きたいですなぁ?ついでにルドルフとの1人目の名前も(やごさん)>
「ほんとに三人目、どうされるおつもりですか?」
「頭と胃が痛いです……いや、一人目ってどういう……いやいや」
<私とトレーナー契約する気はまだありませんか?(カツラギエースさん)>
「さっきから懐かしい名前が飛び交ってるんですがOGも見てるんですかこれ」
「結構みなさん見てますよ。ドリームトロフィーリーグで活躍してる子なんかも見てらっしゃるようですね」
「……えーと、なんだろう、君には煮湯を飲まされた覚えが……」
<気のせいです>
「えぇ……」
<うちの姉さんがトレーナーさんに会いたいと言っているので、今度2人っきりで会ってくれませんか?(カツラギビゼンさん)>
「さっきから見覚えあるウマ娘から質問がきてる気がするんですが」
「気のせいですよ、きっと」
「ふむ。ビゼンニシキとは随分会ってませんし、また顔を見たいところではありますね」
<そうしましたら後でご連絡させていただきますね>
<トレーナーさん!? 待ってトレーナーさん! そいつだけは!>
<やーいやーい負けウマ娘ー>
<ぶちのめすぞ>
「コメント欄で喧嘩しないでよ」
<はい>
<すみません>
素直だった。
<結局タマちゃんとはどのくらいの仲でしょうか?実はプライベートで一緒に出掛けたことがあったりするの?(みんなのママさん)>
「今さっきまで屋台エリアで食い倒れしてましたね」
「仲良いですよね、お二人」
「お互い気楽なところがあるので……」
「あれで蹴られただけで済ませるのもすごいですよね」
「待ってそれはもう言わないで」
<お二人は幼馴染だそうですが、学生時代の相手の愉快なエピソードがあったら教えて欲しいです。(コジマ粒子さん)>
「スカートめく……」
「ちょっと待ってくださいそれは私の人権がなくなるやつです」
「この人昔から鉄面皮だったんですが、虫が苦手で。背中に蝉が入ってものすごい勢いで逃げていって、ついでに迷子になったんですよね」
「思い出させないでください……。駿川さんはアレですよね。すごく負けず嫌いで。何でか知りませんが電車と張り合おうとしてませんでした?」
「在来線ぐらいなら何とかなると思うじゃないですか」
「思いませんよ」
<たづなさんが一番警戒してるウマ娘ってやっぱりルドルフですか? それとも卒業して酒や年齢の問題がなくなったビゼンニシキですか?(「たずな」なのか「たづな」なのか分からなくなるさん)
>
「距離感、政治力、実力諸々考えますとシンボリルドルフさんですが……どちらかというと、ふらふら自分からどこかへ行きそうで心配ですね、この人」
「子供じゃあるまいに」
「…………」
「なんですかその微笑みは」
<鋼の意志を持つトレーナーさんですが、ずっと一緒にいるわけですから、ルドルフさんを内心性的な目で見ちゃった経験はゼロではないですよね?(団子屋さん)>
「あの、隣に駿川さんがいるのでそう言う質問は……」
<ルドルフと駆け抜けた3年間、鋼の意思が剥がれそうになるくらい担当に「女」を感じた瞬間をどうぞ(トレーナーを苦しめ隊さん)>
「追い討ちはやめてください」
「気にしませんよ?」
「目が笑ってないんですよ」
「それで?」
「……ない、とは言いませんが」
「それで?」
「…………あの」
<ドドウやスカーレットの時に感じましたが、トレーナーは胸がデカいのがお好きなのですか?それともバランスの良い体型が好きなのですか?(芝の部隊長)>
「こういう質問も来ていますよ?」
「いえ、その。目立つものがあるとつい気になるじゃないですか」
「つまりお好きと」
「しかし均整の取れた美しさと言うものも」
「つまりお好きなんですね」
「はい」
<アグネスタキオンとエアシャカールの理系組にもっと会い行って(進路は理系されど文系人間さん)>
「本音は?」
<もっと犠牲になって>
「ファンの皆さんって私たちみたいなトレーナーには手厳しいですよね?」
「親しみ易いのかもしれませんね」
<トレーナーさんの初恋はどんな人?今でも好きですか!?(donaさん)>
「初恋、は……うーん。自立心の強い人でした。きらきら輝いていて、でも苦しんでいて。……どうなんでしょうね。まだ好きなのかもしれませんし、それは思い出の中で止まっているだけなのかもしれません」
「まだ好きなんじゃないですか、それ?」
「どうなんですかね……」
「好きなんですよ」
「いや、あの」
<幼馴染でもあるお二人、恋愛関係はあったのですか? それはいつからそしてどのくらい続いたのでしたか? 馴れ初めと破局についてお聞かせ下さい。また復縁する予定はありますか?(幼馴染第一主義さん)>
「恋愛関係……?」
「馴れ初めはこの人が失礼なことを言い出して、気になった感じですねー。破局は……思い出したくないです」
「あの、駿川さん? これ配信ですよ?」
「あら、いいじゃないですか」
<たづなさんは初恋の人はいますか?また、いた場合はまだその人に恋していますか?(加密列さん)>
「いますよー。まだ好きですね、うふふ」
「ええ……」
<たづなさん宛。とんでもないロケットブースターを隠し持っていましたが、他に隠してる飛び道具はありますか?(ゲート難)>
「隠してるつもりはあまりなかったのですけれど……」
「ロケットブースターって何のことですかねこれ」
「また思い出語りでもしたいですねー。お酒を飲みながら」
「大抵私の醜態が語られるだけなんですが……」
<学生時代のお話についてもっとお願いします(タラバガニィさん)>
「非常に長くなりそうなんですが」
「今度また思い出話でもしましょうよ。おつまみ作りますから」
「そうですねぇ……」
<トレーナーがショタ化したらどんな事を言わせたいですか?(リンゴチョップ)>
「子供の頃から知っているので……そうですねえ。おねえちゃん、と言わせてみたくはありますね」
「私をどうしたいんですかあなたは」
「おねえちゃんと結婚する!とか言われてみたくありませんか?」
「私に同意を求めないでください」
<ウマ娘に蹴られても凌げる体の作り方。……実は貴殿の御母堂はウマ娘?(芦毛に忘れられた尻尾さん)>
「お母さまはウマ娘ではないですよ」
「なんで駿川さんが答えるんですかそこ。うちは相当遠縁にいるかいないか、と言うところだったと思います。親戚でウマ娘の方と結婚した人はいましたよ」
<同棲相手と共に過ごした甘々な日々の事を聞かせてください(芝の生えたダートさん)>
「そうですね……可愛らしくてですね。物静かで、いつも私を見守ってくれていました。辛い時は話を聞いてくれて」
「え、初耳ですよ!?」
「私に一時の幸せな時間をくれました」
「ちょちょ、カメラ止めてください! どういうことでーーー」
「ほんと、大切に育ててたんですけどね、ガジュマル」
「知ってました」
<学園内やメディアでのトレーナーさんの世間的評価はどんな感じですか?結構人気あったりします?(諸☆行☆無☆常さん)>
「皇帝の腰巾着です」
「このコメントの量で何言ってるんです?」
「絶対悪い意味で今この瞬間だけ大人気のやつですよ」
<もし可能でしたら沖野トレーナーなどの先輩トレーナー達にお伺いしたいです。シンボリルドルフのトレーナーのこんなとこがすごいと思う事や直した方がいいと思う事はありますか?(ブラッキー/ さん)>
「というわけで繋いでしまいましょうか」
『おっ、俺にも出番あったんだな』
「えっ」
「沖野トレーナーの目からご覧になられて、この人、実際どうなんですか?」
『優秀な後輩だぜ? さっき話してたが、おハナさんが担当を預けんのなんて見たことねーよ』
「え、そうなんですか?」
『お前のその自己評価の低さは一体何なんだよ。もっと自信持て。ウマ娘を信じるだけじゃなくて、ちゃんと自分を信じさせる努力をしろ』
「……肝に命じます」
「思っていたより手厳しい指導ですねえ」
「……あれ」
多数の質問に晒され続けたためか、若干頭が痛い。
嫌な予感だとか、その手のものはすでに通り過ぎたように思うが、思いのほか負担が掛かっていたのだろうか。
目元を軽く抑える。
「どうされました?」
「いえ、何だか目がチカチカして。寝不足ですかね……」
「時間もそろそろですし、コメント返しはこの辺りで終わりましょうか」
画面の隅に映し出された時間を見ると、随分と時間が経っていた。
と同時に、画面端で妙に縮んだルドルフが大暴れしているのがちらほら視界に映る。
大変に胃の痛みを助長するが、しかしなんとかこちらへ突撃することだけは堪えたらしい。
巻き込まれたのか、ワイプ画面の隅に藤井記者が横たわっている。生きていてくれるといいが。
「ええと、全国に大変な醜態を晒したような気がいたしますが、たくさんのご質問をありがとうございました」
「ありがとうございました」
今後とも引き続き、シンボリルドルフへの応援を、そして新たに担当となりましたトウカイテイオーにも、ご期待いただければ幸いです」
「固いですねー」
「いや、るなチューブってタイトルなのにトレーナーの私が喋りまくっているのもどうなんだろうと思いまして。最後ぐらいそれらしくと」
「うふふ、相変わらず生真面目ですね。私たちが乗っ取ってましたし、さしづめ「はやチューブ」のコーナー、ということで。……それでは、あちらと繋ぎますね」
ぱちぱち、と駿川さんが手元のコンソールを操作する。
「あ、みなさん音量を下げーーー」
『トレーナーさん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛あの緑の悪魔ぁ゛!』
爆音が鳴り響いた。
「大荒れですねー」
「耳が、耳が壊れる……」
荒ぶる感情と配信というお役目を天秤にかけ、理性で以って放棄だけは避けたようだが、どうにもひどく刺激していたのだろう。
もう大爆発と言っていい惨状であった。
「これは視聴者のみなさまへ後でお詫びしないといけませんね」
「え、何か仰いましたか? ちょっと目眩と耳鳴りが……」
「そういえばタマモクロスさんのスカートに頭を突っ込んで蹴られてましたし、ちょっと横になって休んでいてください。もう配信は切れてますから……あら?」
<たづなさんへ。シンボリルドルフのトレーナーさんとはどこまで進んでるんですか?(芝の部隊長さん)>
「…………うふふ、まだ秘密、です」