トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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金城鉄壁

 

 

 

『……と言うわけで始まりました「()()ちゅーぶ」。しかし、いくらチャンネル名とはいえ……これは少々恥ずかしいものですね』

『いやー完璧なタイトルコールでした!』

『ありがとうございます』

『さて、それでは本日の内容についてですが……』

 

思わずテーブルに叩きつけた額がずきずきと痛む。

何か、思い出したくない悪夢を想起させられたような気がしたが、しかしトークセッションは何ら問題なく進んでいく。

聞き間違えにしては、ひどい聞き間違えだった。

 

「大丈夫か、アンタ……?」

 

突如としてテーブルに頭を叩きつけるという奇行に走った私に、恐る恐るといった様子でタマモクロスが声を掛ける。

いきなり机に頭を叩きつけた奴がいれば、なんなら近寄りたくないほどだろう。

現に、若干周囲の視線を集めてしまっていた。

 

「ああ、うん。ちょっと聞き間違えで錯乱してね」

「なんやビックリさせおってからに……え、錯乱?」

 

額がまだ痛むが、しかし無事にトークセッションも始まっており、不安要素は特段なくなった。

 

「取り乱して申し訳なかった」

「ええで別に。何やあったんやろ」

 

こういう時、ほどほどに深入りしてこない彼女の距離感は助かる。

自分でも説明しづらいことであれば、余計に。

 

「したらこのチャンネル終わるまで……あー、ゆっくりしとこか」

「いいの?まだ予算の半分も消化してないけど」

「年末の道路工事か!消化しきらんでええやろ」

 

びし、と軽くツッコミを入れられてしまった。

 

「太っ腹なんはありがたいけどなー。このまま食い続けてたらウチが太っ腹になってまうわ」

 

お腹をさすりながら、ケタケタと笑うタマモクロス。

君はもう少し食べた方がいいとは思うが、口には出さない。

 

「それじゃあ、ゆっくりさせてもらおうかな」

 

これは、彼女の心遣いだろうから。

 

『昨年のトゥインクルシリーズを振り返りますと……』

 

「去年かー。去年言うたらアレや、有馬記念の……」

 

乙名史記者とルドルフの声がスピーカーから響く中。

リビングでテレビを眺めながら駄弁るかのような空気で。

楽しそうに笑うタマモクロスとのやり取りは、存外心地よいものに思えた。

 

「今年はどうなるんかなぁ」

 

それは、番組が終わるまで続いた。

そう、穏やかに。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ時間やな。んー……ルドルフんとこまで送っていこか?」

 

配信がそろそろクロージングに入り始めた頃。

机の上を手際よく片付け、立ち上がってぐいと背筋を伸ばしながら、タマモクロスからそんなことを訊かれた。

 

「いや、大丈夫だよ」

 

流石に付いてきてほしいとも言えず、ほぼ反射的に断ってしまう。

彼女の面倒見のいい性格は知っているが、流石にここでタマモクロスに同行してもらってルドルフの元へ向かうのも、なんというか大変に座りが悪い。

 

ただでさえ、今日一日はデートだ、と言い張っていたのだ。

午前中からその予定が頓挫しており、スケジュールの都合により渋々譲りはしたようだが、機嫌が傾いている事だけは間違いないのだ。

 

荷物をまとめて立ち上がる。

 

「さよか。……んじゃ、今日はありがとさん。気ぃ付けて行きやー……」

 

軽く手を振って別れようとして、勢いよく振り返った。

 

「ってちょい待ち! ずっと気になっとったんやけど、その袋は何やったん? これ聞いてええんか分からんけど」

 

鞄とは別に、肩にかけていたビニールバッグを指しながらそんなことを言った。

 

「これは、えーと」

 

彼女にしてはこう言うところで興味関心が勝るというのは珍しい。

これで案外繊細なところがあるため、普段はあまり干渉してこないのだが。

 

朝から肩掛けで背負ったまま存在を忘れかけていたそれ。

見られて困るものでもないので、中身を引っ張り出して広げてやる。

 

「何やこれ、ベストか? えらいごっついなー」

 

「耐衝撃プロテクター」

 

「……は?」

 

ぽかん、とタマモクロスが口を開く。

彼女が突っ込みよりも先に唖然とするのは珍しいが、日常生活の延長で突然そんなものが出てくれば、確かにぽかんとするだろう。

 

「今日この後模擬レースでしょ?」

「せやな?」

 

うん、と頷く。

 

「だからプロテクター」

「なんでやねん!」

「危ないからね」

「だからなんでやねん!」

 

がし、と肩を掴まれる。

痛くはないが、妙な迫力があった。

 

「もうちょいちゃんと説明せぇや。なんや模擬レースで危ないことあるんか?」

「いや、念の為レベルだから……」

「ええから」

「大丈夫だから」

「そういうのええから、言うだけ言うてみ?」

 

思い出はいつだって美しい。

美しいが、美化しているだけで痛い目にあったことも、それはもう何度もある。

 

「いや、実は……」

 

これはそうした過去の経験から学んだ、一つの解答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そうはならんやろ」と彼女は言った。

 

 

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