「死ぬかと思いました……」
その後。
車に飛び乗ったり窓ガラスに蹴りを入れてヒビを入れたり窓を突き破って突入してトレーナーさんを抱えて車から飛び出したりと、ちょおっとデジたんにしてもアクションアニメですかね?と首を傾げたくなるような派手なアクションを繰り広げてみたわけですが、何とか無事にトレーナーさんを奪還したのでヨシ!という事でいかがでしょうかっ!
……なんて、誰に言い訳してるんでしょうねあたしは。
結局、例のウマ娘ちゃん運転を誤ってガードレールに車をぶつけて停止。エアバッグに挟まれて伸びていたりしたわけですが、どう考えても事故を起こしたのってデジたんですよね、えへへ。状況が状況とはいえ、ウマ娘ちゃんに危害を加えてしまったので後ほど割腹してお詫び申し上げたいと思います。一応救急車だけは呼んでおきましたけど、事故が起きたときってやらなきゃいけない事が他にあったような気もするんですが。
とはいえ。
まずはタキオンさんたちのところにこのかわいそうなトレーナーさんをお返ししなくてはなりません。
抱え上げようとして、ずしりと腕に伝わる人の重さ。
「ぅ重っ……い、ですねえ……」
そう、重いんです。いつもであればヒト一人くらいであれば重たく感じることなんてほとんど無いはずですが、あれだけ走ったのでもはやデジたんのライフはゼロ。
ですが幸いにして足に痛みなどはありません。ガラスを蹴り破った時にちょっと捻ったかな?とも思いましたが、幸いにしてちょっと違和感がある程度ですね。ウマ娘ちゃんの笑顔の代償と思えば安いものです。あとで一応保健室に行っておきましょうかね?
それはさておき、早いところお二人に連絡を入れて迎えに来ていただきましょう……と思った矢先、突然にゅっと顔を覗き込まれました。
「おいおい面白そうなことしてるじゃねえか。なんだそれ?」
あたしの視界いっぱいに入ってきたのは、鹿毛に流星、切れ長の瞳、整った顔立ち。要するに度を越したイケメン。あっ、顔がいい(即死)。
気が抜けた、というわけでも無いんですが、突然のイケメンにびっくりしたおかげで膝からかくんと力が抜けてしまいました。しまった、走りすぎと尊みで意識が……
「お、おい!」
後ろ向きに倒れ込んでいくデジたんの背中に添えられる腕。暗くなってゆく視界いっぱいを塞ぐのはイケメンウマ娘ちゃんのお顔。
まってデジたんの意識もう少しだけ頑張ってくださいこの光景を目に、脳に、なんとかして焼き付けなければっっ!
「大丈夫か?」
あっ。
顔がいい。
このクソ忙しい感謝祭の中にあって、余計な面倒事を買って出た私は、あの喧騒を離れ一人街を歩いていた。
届けもん、ねえ……。
後輩連中が大慌てで駆け込んできたせいで思わず手出ししちまったが、しっかしまぁ……。
邪魔だな、これ
紙束がぎっしり詰められた紙袋を両手にぶら下げて。
その程度は大した重さじゃない。日頃やっているトレーニングと比べりゃ微々たるもんだ。
だが、嵩張る。
印刷所のオッサンが気合を入れて二袋に詰めてくれたのはいいが、とにかく邪魔で仕方がない。
微妙にでかい紙袋を用意したのか、気を抜けば地面を擦りそうでうんざりしてくる。
ため息の一つも吐きたくなる。
……とっとと戻って引き渡すか。
そんなことを考えて、ひょいと紙袋引き上げて、素早く掴み直したところで。
びゅん、と風を切る音。
真横を何かが高速ですれ違っていった。
「……あん?」
今、何かウマ娘のようなーーーーは?
振り返った私が目にしたのは、先ほどすれ違ったと思しきウマ娘がアクション映画ばりのスタントをかまし、車の天井に取り付いたところだった。
どさり、と音を立てて両手の紙袋が地面に落ちた。
直後、何か破滅的な轟音が響き渡り、そして静まり返った。
紙袋を拾い上げると、何事かと思わず交差点まで引き返して見に行く。
トレセン学園の制服を着たウマ娘だったので、何か事件に巻き込まれている可能性もある。
厄介ごとにこれ以上首を突っ込みたくはないが、しかしこれを目撃して放置したなどと知られては後々更なる面倒ごとに巻き込まれることだけは身に染みて理解しているからだ。
一応、届け物もまだ時間まで若干の猶予はある。
そして角から覗き込んだ先では、ガードレールに突き刺さって動かなくなったらしい車から、人のようなものを抱えて歩み出るウマ娘の姿が。
「ええ……?」
刺激的なものを求めてはいたが、これはちょっと刺激的にすぎる。
一体なにが起きているのか全く全容が掴めない。
ウマ娘があの速度で車に飛び乗るとかいうぶっ飛んだスタントを決めたことも大概だが、その後盛大に事故ってるということは何かしたんだろうか。
後部座席のガラスが割れているし、なんだ、蹴り破ったのか?
運転席のやつはエアバッグに挟まれて伸びてるみてーだし。ウマ娘だ。どっかで見たことがあるような気もするが、私より歳行ってんな。
あのいけすかない皇帝サマと近そうな雰囲気だが、車の運転をしているあたり卒業はしているのだろう。
そして先程のヒト……ありゃトレーナーだな。バッジ付けてやがる。
っつーことはなんだ。あのウマ娘のトレーナーが拉致でもされたか?
ったく。この学園は世紀末もいいところだ。
ひとまず無事そうではあるが、どうにも足元がふらついてやがるな。呼吸も荒い。
こいつ、レースでも走ってきたのか?と思うほどに疲弊しきっている。
「おいおい面白そうなことしてるじゃねえか。なんだそれ?」
「あっ、顔がいい………………」
声をかけると、それまでの凛々しいというか、何か覚悟を決めたかのような顔をしていたのが急激に崩れる。
ああ、見たことがある。確か……アグネスデジタルとか言ったな、こいつ。
私らとは別のベクトルでやべー連中に数えられていたはずだ。
そして、アグネスデジタルの膝も崩れた。
そのままよろめき、崩れ落ちそうになったところを慌てて支える。
「お、おい!」
人もろともアスファルトに頭から叩きつけられては危険だ。
正直あんまり知った連中でもないが、目の前でそんなことで怪我をされても寝覚めが悪いので、抱き止める。
「大丈夫か?」
抱き止めたところ、そのままかくんと首が後ろへ落ちる。
まずいな。気絶しやがった。口元も力が抜けたのか涎が垂れ始めている。
「……どういう状況だ、おい」