何処も彼処もお祭り騒ぎだ。
感謝祭当日は、騒ぎの中心は当然トレセン学園の中になるが、しかしその周辺もどんちゃん騒ぎ。
アルコールの類は学園内ではご法度だからな。そりゃあ大人連中は学園外で騒ぐ。
道に面した店では、店に設置されたディスプレイでもって中継を映し出し、それを肴に大人どもは騒ぐ。
エンターテイメントの柱の一つ、トゥインクルシリーズの総本山だ。
そりゃあそうもなるだろ。
もはや乱痴気騒ぎだ。
とはいえ騒ぎになるのが分かっているんだから、警察だの行政の連中がそれを座して見ているわけもない。
だから、眺めているだけでも、あちこちにウマ耳の生えた警官やら、物々しい装備で身を固めた警官たちが立っている。
なんとなくそいつらから目を逸らす。
目線を逸らした先では、だらしのない顔で意識を飛ばしているアグネスデジタルが視界に入る。
そして、両手を縛られ、袋を被せられた奴も。
「……はあ。誰なんだよこれ」
状況からして、恐らくは何か事件に巻き込まれたんだろうとは思うが。
関係者と思しき連中が軒並み動かなくなっている。
面倒臭いと思いながらも、やるべきことはやるべきだ。
とりあえず気絶した連中を歩道へ寄せていると、気の付く通行人が通報を入れていた。
関係者か、あるいは何かしらかの犯罪に手を染めたのか。いまいち状況は不明だが気絶した連中の確認。幸いにしてきちんと生きていることや出血はない。
ったくなんで私が。こちらも急ぎの荷物を抱えているってのに。
通りすがりに余計なトラブルに巻き込まれて間に合わなくなるというのは勘弁願いたい。
……。
…………それと、こいつだ。
覆面……というか、何か袋を被せられて拘束された挙句先ほどから微動だにしていない。
地味な服装ではあるが、胸にバッジを付けているあたり確実にトレーナーだ。
アグネスデジタルが抱えていた、ということは恐らく関係のある相手なのだろうが、確かこいつはまだトレーナーが付いていなかった筈。
となると、目を付けていたトレーナーだろうか。
呼吸はしているようなので、生きてはいる。確実に。
通行人も、興味本位で覗き込んではざわざわと好き勝手騒いでいるし。
まあ、どう見ても誘拐に遭ったような見た目になっているのでそうなるだろうが。
……いよいよ居た堪れなくなってきやがった。
ため息を吐いて、嫌々ではあるが面を拝んでおこう。
見たことのある奴なら関係者を呼んでこの場を任せてとっとと荷物を届けに帰りたい。
これでもトレセン学園の生徒なので、感謝祭イベントをフケると後が面倒臭くなる。
横にしたままだと袋を脱がすのに手間取るため、身体を起こそうとしたら普通に自分で身体を起こした。起きてんのか、こいつ。
意を決して、そっと袋を持ち上げてーーー。
ーーー石みてえな真っ黒な瞳と目が合った。
そっと袋を元の位置まで下す。
ああお元気そうで何よりだよ畜生。今日は厄日だ。
よりによってこいつか。
私は思わず天を仰いだ。
勘弁してくれ、という気持ちしか湧いてこない。
私が何をしたと言うのか。通りすがりに事故を見かけて、よりによって皇帝サマのお気に入りが誘拐されかけていたところに出会わすなんざ冗談じゃねえ。
どうする。
このまま放置して後でこの場に居たことがバレれば面倒事になるのは間違いない。
なんとなくだが想像が付く。こんな事になっててあいつが把握してねえ訳もない。今頃キレ散らかしているだろう。
だが、かと言って警察だのに付き合ってられるほど時間もねえ。
……いや。
とりあえずこいつだけ持っていっちまおう。
タクシー、領収書くらい切ってもいいだろ。
宛名は「日本トレーニングセンター学園生徒会長シンボリルドルフ 様」で押し付けてやる。
『とりゃああああああああ!』
スピーカーの向こうから、デジタル君の裂帛の気合が木霊する。
続けて、がん、ばきん、がしゃんと破滅的な音が響く。
最後に、通話がぶつりと切れた。
「……切れたねえ」
携帯端末を机から拾い上げつつ、アグネスタキオンが呟く。
音からして、何かしら誘拐犯に対し行動を仕掛けた結果、耳からイヤホンが落ちたのだろうとは思うのだが、まさか犯人を取り押さえようとしたのだろうか。
発信機の類は持っていないだろうことから考えても、何か仕掛けたのだろう。
「通話は切れたが、ビーコンは先ほどの位置から動いていないようだ」
ビーコンが動いていない、ということは、可能性は3つ考えられる。
ひとつ。携帯端末を落とした。
ふたつ。彼女が誘拐犯を取り押さえた。
みっつ。返り討ちに遭うなどして身動きが取れなくなった。
「コールは?」
「掛け直しているが繋がらないねえ。もしかすると落としてしまった可能性もあるだろうね」
正直なところ、彼女が追ってくれていたお陰で対策の手は打てている。
既に検問も敷いたし、車のナンバーも車種も抑えているし、誘拐犯の特徴もざっくりではあるが確認できている。
犯人の確保については問題ないだろう。
追い込まれて自棄にでもなられてトレーナー君の身に何か起きてはと考えるだけでもぞっとするが、そんな暇を与える前に確保できれば良い。
しかし。
「……不味いな」
不味い。そう、不味い状況だ。
トレーナー君の身柄の確保を第一に据えたが、しかしデジタル君が無茶をして怪我などしていれば私は彼女にどんな顔をして謝れば良いのか。
「やはり私がーーー」
「やめておきたまえよ、会長。君が今更動いたところで仕方がない。指揮を取る人間が放り出して現場に駆けつけるなど、それこそ最後の最後だ」
冷淡なアグネスタキオンの声に、胸の内に澱む熱が行き場を失いそうになる。
だめだ。冷静になれ。ここで下手を打つべきではない。
「それに私は悲観する必要はないと思っているからねえ」
「何故だ?」
「そりゃあ君。信用しているからに決まっているじゃないか。デジタル君と、そしてトレーナー君の悪運をね」
彼女は信じている、と言った。
皮肉げに口元を歪めて、それでも真っ直ぐに。
「……ふう。君に諭されるとはな」
「何でも自分で解決できるとは思わないことだねぇ。ま、トレーナー君から口酸っぱく言われていることだろうとは思うけれど」
「言われるまでもないさ。だからこうして人の力を借りている訳だ」
「ふぅン……その割に随分とまぁ、落ち着きを失っていたようだけれどね?……おや」
アグネスタキオンの手にしていた携帯端末から震動音が響く。
「デジタル君から掛かってきたよ」
彼女はそれを机に置いて、スピーカーにして通話ボタンに触れた。
『……アグネスタキオンか?』
「いかにも。そういう君は誰かな?」
何処かで聞いた覚えのある声。
電話というのはコードブックから似た声質の合成音声を流している。
故に、誰かわかりづらいことが多いのだが……。
『履歴見て掛けてんだ。おい、そこにいんだろ皇帝サマよ』
なるほど、この口調、この声。
幼少時から聴き慣れた、少々生意気さを感じさせるそれ。
「シリウスか」
『やっぱいるじゃねーか。ご名答。よくできましたってな』
「それで、要件は?」
『おいおい、そうカッカすんなよ』
揶揄うように笑うシリウスに、つい苛立ちを感じてしまう。
今はこんなことに時間を割いている余裕はないというのに。
「その携帯端末はアグネスデジタル君のものだろう。彼女はどうした」
『気絶して救急車だ。ついさっきトレセン学園付属に運ばれていったぜ』
「救急車……?まさか怪我を」
『いいから聞けよ、ルドルフ』
そして、爆弾発言が齎された。
『アンタんところの
★サブタイ入れ忘れましたーーー