トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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平穏無事

 

 

 

 

 

 

…で、何故こうなったのか。

 

眼前にはにこにこと微笑みながらマグカップを手にする担当ウマ娘が1人。

同じく、マグカップを手にすまし顔をしている担当ウマ娘が1人。

膝の上にはにこにこ笑顔のシンボリルドルフぬいぐるみが1つ。

 

おかしい。

 

何故私のソファーにウマ娘が二人も詰まっているのだろうか。

ゆったり座るために少し大きめのソファーを置いていたが、そちらを二人に占拠され、皇帝用ソファとして買い求めたはずの席に私が収まっているのは何故か。

 

結構大きいために微妙に行き場を失ったシンボリルドルフのぱかぷちを床に置くのもなんだか気が引けた結果、膝の上に置き、背後から抱える事になった。

床に置こうとしたところ、目の前に座るルドルフが少し悲しそうな顔をするんだもの…。

ともあれ、絵面としては大人が可愛らしいぬいぐるみを抱えている姿である。

絶対に写真などに残してくれるなよと思いながら、現状を改めて整理したい。

 

寝坊して同僚にたたき起こされた。

玄関に担当ウマ娘が二人。

部屋に攻め込まれた。

 

以上である。

 

 

 

成程。

 

わからん。

 

 

 

今日は土曜日。

午前の座学が無いため、終日をトレーニングに充てることができる。

なお、明日はオフの日である。

現状、ルドルフ、テイオー両名ともレース予定は未定。

そのため、追い切りの必要もないため、オフの日は普通に週1程度である。

 

さて、そうなると寝坊して盛大に遅刻した私が言う話でもないが、本日は一応トレーニングの日の筈だ。

それがなぜ、部屋でお茶などしているのだろうか。

 

事は、30分ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでトレーナー君。先にシャワーでも浴びてきたらどうだ?」

 

ひとまず、他のトレーナーの迷惑になっていたため二人を呼び寄せると、ルドルフが突然ホテルか何かで言い出しそうなセリフを言い出した。

思わずびくりとしてしまうが、よく考えなくとも昨日の飲み会から帰ってきてそのままベッドに倒れこんでしまっている。

 

ウマ娘の嗅覚からすれば、飲み屋で付いた煙草の匂いや、そのまま寝たことで汗の匂いが染みついた私は少々どころでなく臭うのだろう。

 

「その様子を見る限り、疲れで寝過ごしてしまったのだろう。目覚ましにさっぱりしてくるといい」

 

流石に、自分の言葉の拙さというか、言い方を誤ったことにルドルフが気づき、少し慌てたように言葉を加えた。

 

「まぁ…うん、ひとまずシャワー浴びて来るよ」

 

ここで抵抗しても良いことはない。

というか、シャワーぐらい浴びなければ仕事に出るのも気が引けるので、渡りに船である。

この二人を寮の玄関に放置してシャワーを浴びるというのは若干の不安が残るが。

 

「30分もあれば身支度が整えられるから、申し訳ないけどトレーナー室で―――」

 

「折角ここまで来たのだし、部屋で待たせてもらってもいいかな」

「そうだよね、折角来たんだもん。トレーナーはボクたちを待たせたんだからお茶のひとつでも出してよねー?」

 

先ほどまで若干掛かり気味だったとは思えないほど息の合った連携に、私は成す術もなく自室まで押し込まれてしまうのだった。

 

私をたたき起こした向かいの部屋の同僚が、胸の前で十字を切っていた。

 

 

 

 

 

 

シャワーから戻れば、仲良く並んでマグカップを握りしめて談笑している担当ウマ娘が二人。

今朝といい、昨日の朝といい、仲がいいのか最近はそうでもないのか良く分からなくなっていたが、こうして楽しそうにしている姿を見ると、なんだかんだで仲がいいのかとも思えてくる。

 

何が起こるか不安で、シャワーを浴びていても気が気でなかったが、しかし私の不安は予想を外したらしい。

 

キッチンでコーヒーを淹れ、二人の元へ向かう。

 

私の部屋の中央には、ローテーブルと、それを挟むようにソファが2つ置かれている。

そのローテーブルの上には、普段は仕事の資料などを広げっぱなしにしていることが多いが、あまり見せる物でもないので、今は片づけた…筈だ。

しかし、今現在担当ウマ娘の二人は、テーブルの上に広げた何かを指し示したりしながら楽しそうにしている。

 

一体何が―――

 

覗き込むと、そこにはつい先日私の身に降りかかった、記憶から抹消したい類であるはずの講話とミニライブの写真がずらりと並んでいた。

よく見ると、何故か写真の隅に番号が振られている。

 

「お待…たせ」

 

「ああ、お帰り。髪ぐらい乾かして来ればよかったのに」

 

「おかえりー!ゆっくり浴びてきて良かったんだよー?」

 

「…待たせてるしね」

 

平然と言われてしまったが、君たち、その机に広がっているのは一体何なんですかね。

 

「トレーナー君も飲み物を持ってきたようだし、たまにはゆっくりしようじゃないか」

 

「まぁ、私の寝坊が原因だから何も言えないけれど」

 

こういう時、無駄にしてしまった時間を取り返そうと焦ってトレーニングを行う、等という事にはならなくなった辺り、精神的にも随分と成長したなあとしみじみと感じてしまう。

昔であれば、なんとしてでも急いでトレーニングしようと言い出していたであろう。

私が、だが。

 

「わーい。…あれ?ボクのトレーニングいつ始まるんだろう」

 

「…午後からかな」

 

ここ何日かそんな事ばっかり言ってない?と、むくれたテイオーにじとりとした目で見つめられ、心当たりのある私は思わず目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

「それで、何この写真。地獄?」

 

シンボリルドルフぬいぐるみと若干の格闘を経て、ようやく対面に腰を下ろしながら、開口一番思わず訊いてしまった。

机上に広げられた大量の写真。

 

「14,37,42番が良いと思うんだよね」

 

テイオーがにこにこしながら、口にした番号の写真を拾い上げてこちらに見せてくる。

 

「番号も何も全部ろくな写真じゃないと思うんだけど。誰だよこんなの撮ったのは」

 

思わず口をついて出たのは、カメラマンに対する悪態。

 

「まあそう言わないでくれ。君の晴れ舞台なのだから、私にとってはどれも輝かしいものばかりなんだ」

 

「そーそー。トレーナーもレースの時に写真とか映像記録するじゃない。あとウイニングライブとか。それと一緒だよ」

 

2人して口を尖らせて反論してくるが、それとこれとは話が違うと思う。

 

「…写真としてはよく撮れてるけど、これは誰が撮ってるんだ?」

 

「アグネスデジタル君が撮っているよ」

 

…あの変た…もとい、トンチキな生徒か。

確かトレーナー志望の変人だったか。

スタッフ研修過程ではなく、競走バとして学園に身を置きつつもトレーナーを志す変人中の変人。

変人の巣窟と噂されているサポートスタッフ過程にも顔を出していることが多いらしく、あまり縁がない。

時折、トレセン学園名物「敗北者の切り株」で見かけることのある生徒だ。

つまり、よくわからない。

 

「なるほど。それで、その番号は?」

 

恐る恐る尋ねると、ルドルフとテイオーは顔を見合わせたのち、2人してふんすと鼻息も荒く、胸を張って言い張った。

 

「「パネル引き伸ばし候補の指定」」

 

遠足の写真か。

…頭が痛い。

 

「はい写真片づけてねー」

 

腕を使い、ばさばさと写真を押しのけていくと、「ああー!なんてことを…」と悲痛な声が上がるが、努めて無視をする。

これがウマ娘のレース写真であれば資料としてここまで無体な扱いはしないが、所詮映っているのは私である。

なんならば火を放ってしまいたいところをぐっと堪えたところは評価されてしかるべきだと思う。

 

「あぁ、折角の絶景が…」

 

「もー!せっかく広げたのにー!」

 

ルドルフはしょんぼりして、テイオーはご立腹のようである。

知ったことか。

こんな痴態を写真として現像までされて、しょんぼりしたいのは私の方である。

 

「それで、もうこの際だから、時間まではここで軽くミーティングでもしよう」

 

そう言うと、耳が萎れていたルドルフはすぐに平静に戻り、テイオーも渋々ながら、二人でもそもそと写真を袋に詰め始めた。

非常に未練がましいというか、ちらちらとこちらに視線をやったりしながらの作業となったが、それでもなんとか机上は片付いた。

できればゴミ袋に詰めていただきたい。

 

二人が片づけをしている間に持ってきた買い置きのクッキーを机に置き、資料をそれぞれの前に置いていく。

どさり、と重い音がした。

 

「…ほう、随分な力作だな」

 

「う゛っ。なんかすごい分厚いのが出てきたよぉ…」

 

ルドルフは楽しげに。

テイオーは苦い物を噛み潰したような顔をして。

それぞれが配布した資料を手に取った。

 

普段ルドルフはこういうものを渡しても、歓迎こそすれ嫌な顔をすることは一切なかったので、テイオーの反応はある意味で新鮮な心境になる。

まあ、普通このぐらいの年頃の少女であれば、こんな分厚い資料を配布されたところで嫌がるか。

これからは、方針の説明などをするにあたっても、多少工夫を加えていかないとならないということだろう。

 

「それじゃあ、説明を始めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

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