トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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「汝、皇帝の湿度を見よ Lv6」

前回からの有言実行。湿度を上げてどろどろぬまぬましていきたいと思います。
自分の聡明さや、自制心の高さ故に振り切ったこともできず、ジレンマがありそうな気がします。
幕間として箸休めにどうぞ。


閑話-交差する

 

その先を続けさせてはならない、と思った。

絶対に。

 

強い意思を宿した瞳。

凛々しく、力強く。ただ一点だけを見つめるような、強さを宿した瞳。

私の愛したその眼に、不純物が混ざろうとしている。

 

『それ』は。

私は、何度かその瞳の色を、目にしたことがある。

 

初めて出会った時がそうだった。

夢への第一歩。それを踏み出した瞬間に躓き、燻っていた頃。

 

そして、私が無敗の三冠馬を達成した時。

私が夢の実現に向けてまた一歩を踏み出した。

通過点にして、最大の関門を突破した喜びを分かち合い、そして。

その陰で、数多の悪意に晒されていた頃。同じ色を見た。

 

輝かしい栄誉。

感動、興奮。

それらは、二人で分かち合う筈のものだった。

 

中央のライセンスという、高難易度の資格を取得した、この国においても上位数パーセントに位置するような逸材。

国内においてはトップトレーナーの一角を占めるような人物。

若くして頭角を現し、担当したウマ娘を「無敗の三冠馬」に仕立て上げた怪物。

 

そんな傑物こそが私の片翼。

皆が彼の偉業を祝い、尊敬を集める。

 

そう。

 

 

 

――――そうなるはずだったのに。

 

世間が囃し立てたのは、私の打ち立てた「記録」だけだ。

 

無責任に人々は叫んだ。

 

より優れた杖こそ、皇帝には相応しいのだと。

貧相な杖など、さっさと替えてしまえと。

良い杖を持てば、更なる高みへと昇れるのだと。

 

無力感に唇を噛み締めた。

私が挙げた抗議の声は、都合よく解釈され、拡散された。

「あの皇帝にとってみれば、下手に発言力のあるトレーナーよりも、コントロールしやすい新人トレーナーの方が都合がいいのだろう」などと。

 

 

その時に、あの色を見た。

心を押し殺し、いつも通りを装って笑い、総てを捧げようとする。

夢に殉じようとする、狂った色の光だ。

 

私のせいだ。

 

それは、周囲トレセン学園スタッフたちの尽力があって、寸でのところで振り払うことができた。

 

悔しかった。

どうしようもなく、自分が無力であると思い知らされた。

 

私の片翼は、私の想像が及びもつかないほどに、強い。

勿論、物理的な、フィジカルとしての出力、強靭さはウマ娘という種族である私達のほうが遥かに強い。

しかし、あれはそういう強さとは違う。

折れず、ただ夢を見据えて進む。

そういう強さだ。

 

だから壊れる。

折れないまま、妥協しないまま。

だから狂っていく。

何も変わらないまま、決定的に歪んでいく。

 

私には許せない。

彼が彼のまま、違う何かになっていくことが許せない。

 

私のエゴだ。

きっと、変わってしまった方が彼にとっては楽なのだろう。

だが、それを見過ごすことが、私にはできない。

 

だってそうだろう?

愛した人が狂っていく姿なんて、見ていられないじゃないか。

 

恨んでくれて構わない。

私は、君を繋ぎとめる為だけに、同じ夢を追い続ける。

私のエゴのために、何度でも君を傷つける。

 

それでも私は、君の絶対で在り続ける。

 

竦みかけていた身体が、それでも咄嗟に動いてくれた。

崩れてしまいそうな君を、正面からそっと抱きしめる。

 

そっと、壊れないように。

どこかへ行ってしまわないように。

 

君は、はしたない女だと思うだろうか。

そう思ってくれても構わない。

君が居てくれるなら、私はそれでいい。

それだけで、何度だって走って、勝利を持ち帰ろう。

一番であり続けよう。

 

私には、君が居ないと駄目なんだ。

 

 

―――君は本当に、仕方がないな。

 

 

ふと、心に触れた気がした。

君はきっと苦笑いをして、やれやれと肩をすくめたことだろう。

わざわざ見上げなくても、分かる。

 

前も、そして今も。

いつだって君を追い詰めたのは、私だったのに。

いつだって君は、仕方ないなあと笑って傍にいてくれた。

それでいい。

呆れてくれても構わない。

他のウマ娘の面倒を見ることも、まぁ、うむ。

 

それでもなお、私が君の絶対であり続けるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫉妬はすると思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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