トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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花朝月夕

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

やたらと強い力で引っ張られ、引きずられるようにして連れてこられたのは、煌びやかなアクセサリーショップ。

 

落ち着いた内装に、きびきびと動くショップ店員。

女性向けエリアの一角を占めるアクセサリーショップの中でも、特に存在感のある一角。

若者向けの華やかなそれとは趣の違う、洗練された空間とでも形容すれば良いのか。

接客から何から何まで、これまで私が関わることのほとんどなかった世界観である。

 

なぜだろう。

この近辺は学生が多いので、他にも華やかな可愛らしいアクセサリーショップはあるのだが、まさかこの手の店舗へ連れてこられるとは予想していなかった。

 

ここに来るまでに何軒か店舗を素通りしたが、そちらは若い少女たちで賑わっていた。

一方こちらは、大人が数人、店内を見ている程度で、非常に落ち着いた様子。

特に、カップルや夫婦と思しき層が殆どである。

 

「ルドルフ?」

 

「…なんだ、その…ああいう可愛らしい店が、少々苦手で…」

 

思わずまじまじとルドルフを見つめれば、彼女は少し顔を赤くして白状した。

確かに、ルドルフの落ち着きぶりを見ていると、ああいう若い少女たちで賑わう店は少々居心地が悪いのかもしれない。

 

あの手の可愛らしいアクセサリーも似合うと思うのだが、と考えていると、視線を彷徨わせながらぼそりと呟いた。

 

「それに、勝負服に付けることを考えると…あの手の可愛らしいものは浮いてしまうからな」

 

…なるほど。

あの勝負服に似合うアクセサリーというと、何だろうか。

耳飾りはもはやトレードマークになっているので、あまり変えたくない。

となると、他のものになる。

 

磨き抜かれた手垢ひとつ付いていないショーケースを覗き込めば、きらきらと貴金属や貴石の類が光を反射して煌めいている。

どう見ても婚約指輪や結婚指輪であろう、ダイヤモンドを載せたリングや、金やプラチナと思しきシンプルなリングなど、多種多様。

ちらと目に入った値札も当然、相応に大人レベルである。

 

なるほど、これは確かに学園生が近づくことはないだろう。

しかし、学生の身である彼女に贈るには少々値段が重くなってしまいそうだ。

まじまじとショーケースを覗き込んでいると、そっと横合いから声を掛けられた。

 

「いらっしゃいませ。本日は何かお探しでしょうか?」

 

すっ、と音もなく近づいてきて、害のなさそうな笑顔で声を掛けてきたのは、ぴしりと制服を纏った店員の女性だった。

 

「…ん?ええ、彼女に似合うアクセサリーがないかなと」

 

反射的にルドルフの方を示そうとして、手を握られていたことに気づいた。

ごく一瞬、にこやかに薄く細められた店員の目が、繋がれた手に落ちて、すぐ戻った。

事情を把握したらしい。

 

「お連れ様でしたら、こちらのあたりが宜しいかと」

 

スムーズな案内に、内心で戦慄を覚える。

こうした高級店に部類されるような店舗に足を踏み入れた経験は殆どないが、よくある衣料品店でのそれとは受ける印象が大幅に異なっているように感じる。

 

私はコミュニケーションに難があるため、衣料品店の接客や美容室での会話が苦になるタイプなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…似合うなぁ」

 

あれもこれも、と。

妙なシンパシーでもあったのか、珍しく積極的に品物を選ぶトレーナー君と店員の勧めで似合いそうなアクセサリーを次々に着用しはじめて数十分が経過した。

 

トレーナー君は顎に手を当てて首を傾げる。

 

鏡に映った自分の姿を見る限り、悪くはないと思うのだが、トレーナー君としてはまだ納得していない様子。

本当に似合うものを、と考えてくれる心意気は大変に嬉しく思うのだが、良いのだろうか。

付いている値札を見ていると、段々値段が上がって行っているのだが。

 

品出しをしてくれている店員の側も、初めは相手がトレセン学園生だと思ったのか、比較的安価なエリアに案内してくれていたのだが、あまりに鬼気迫る勢いで選んでいたためか、妥協せずに高価な商品でもとにかく似合いそうなものを出し始めている。

 

流石にそんなとんでもない値段のものは受け取れない、と固辞しようとしたのだが、トレーナー君は全くもって耳を貸してはくれない。

 

『君に似合うものを選びたくて』

 

嬉しい。

そう言われてしまうと、断るのも難しいではないか。

それはズルいぞ、トレーナー君。

 

だが、少し待ってほしい。

 

高くても数千円程度のアクセサリー感覚で考えていたところ、少女たちで犇めく店舗に気後れした結果、うっかり空いていたこの店を選んでしまったのは私である。

 

ただ、ウィンドウショッピングという言葉がある通り、素敵なアクセサリーにため息をつき、「いつか買いに来ようね」みたいな甘酸っぱいやり取りをして店を後にしつつ、手頃なアクセサリーをプレゼントしてもらえたならそれでよかったのだ。

 

なのに私の前に並んでいるのは、想定よりも桁が一つどころか二つも違うようなものばかり。

耳飾りの類はなぜか選んでいないようだが、指輪やネックレス、ブレスレット、アンクレットなど…。

とにかくあるだけ持って来いとばかりに吟味を続けていた。

 

抵抗も虚しく、珍しく私は殆ど置物というか、着せ替え人形状態となり、店員とトレーナー君で話が進んでいく。

 

いかん、トレーナー君がまた掛かってしまっている。

 

普段から質素な生活をしているので忘れていた。

私のトレーナー君は、世間一般で言う「高給取り」だったのだ。

それも、使う暇がないからと溜め込むタイプの。

 

「リングなどはいかがですか?指も細く、きれいな形をされていますので、よく映えると思いますよ」

 

「…!」

 

「リングですか。ふむ…」

 

「こちらは…」

 

それから随分と、あれもこれもと吟味して、トレーナー君は一つ頷くと、銀色に輝くアクセサリーの一つを指し示して口を開いた。

 

「…これにします」

 

愛情の重さは金額の多寡ではないと分かっている。

トレーナー君から贈られたものであれば、それがどんなものであれ愛用するつもりもある。

自分で店に連れ込んでおいてどうかと思うが、だけど、これは本当に予想外だった。

 

嬉しいよ?

嬉しいんだけど、トレーナーさん、いいの本当にこんなの贈って?

ねえ?

 

一仕事終えたとばかりに良い顔をしているトレーナー君とは対照的に、私の顔色は、嬉しさと申し訳なさで明滅しているのではないか。

 

お金を持っている大人の決断力って怖い、と。

わたしはそう思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はちみーはちみーはっちっみー♪」

 

のんびりとはちみーを飲みながら歩く。

はちみつ硬め濃いめ多めがボクの正義だ。

 

甘くて美味しいはちみー。

はちみー自体が結構硬い、というか、ほぼはちみつなので、多少動いていてもこぼれないのも良いと思う。

 

喉が渇いて飲むものではないとは思うけれど。

 

てくてくとショッピングモールを歩いていく。

さっきまでマヤノといたのだけれど、少し目を離した隙にどこかへ行ってしまったようで、今は探しているところ。

 

「…トレーナーとデートかぁ」

 

そういえばあの二人、どこへ行くんだろう。

本当ならこっそりつけていこうか、とも思ったのだけど、次のデートはボクとって約束した以上、今回のデートを妨害したりするのは、なんというかフェアじゃない。

 

昨晩、悪夢を見てうなされるぐらい気にはなっているんだけどね。

夢の中でカイチョーにトレーナーを攫われるとか、ひどい夢だった。

 

気分転換に、と思ってショッピングモールをぶらぶらしている訳だけど、期待していない訳じゃない。

別にデートに混ぜて欲しい、なんて言うつもりはない。

トレーナーの顔を見れば、今日のところはそれで満足できると思う。

 

満足できる…んじゃないかな。

できるよね?

 

デートって言ったって、どうせトレーナーとウマ娘のそれは気分転換させるためのものだって知ってるし。

ただのお出かけだよ、お出かけ。

 

だから、今日焦って何かする必要はないんだ。

ここで邪魔すると、今度はボクが邪魔されることになるから。

会いたいような、会いたくないような、フクザツな気分。

 

「…あれ?」

 

遠目に、よく見知った姿が見えたような気がした。

 

「トレーナー?」

 

いつもの服とはかなり違うトレーナーの姿。

少し嬉しそうな横顔。

 

視線を上げれば、有名なアクセサリーショップの名前。

 

あれ?どうしてアクセサリーショップに?

 

慌てて視線を戻せば、トレーナーが会計をしている。

 

有名なジュエリーブランド。

マヤノの雑誌にも載っていた、女の子の憧れの高級ブランド。

そして何よりも、結婚指輪の定番・・・・・・・のブランド。

 

ーーーまさか。

 

嫌な予感に突き動かされるようにして、足音を忍ばせ、隠れるようにして近づいていく。

 

隠れながら店内をそっと覗き込めば、先ほどはトレーナーの影に隠れて見えなかったけれど、トレーナーの隣に寄り添うようにしてカイチョーが立っているのが見える。

 

耳をそばだてれば、トレーナーとカイチョーの声が聞こえてくる。

雑踏に紛れて聞き取りづらいけど、あの二人の声はそれなりにちゃんと聞き取れる。

 

『ここで付けていきたいのだが…良いかな?』

 

『いいよ。気に入ってもらえて何よりだ』

 

『ありがとう。君が付けてくれないか』

 

待って。

待ってよ。

 

それは、それだけは、ダメだよ!

まだボク、ちゃんと戦ってもいないじゃないか!

 

『ありがとう』

 

『うん、よく似合っている』

 

『うん。…おや、それは?』

 

『ん?これ?デザインだけでもお揃いにしようかなと思って』

 

二人の声が、ボクの頭の中を掻き乱す。

なんで、どうして。

やっとスタートラインに立ったばかりだと、そう思っていたのに。

 

頭の中がぐちゃぐちゃだった。

そこにいたくなくて、ボクは逃げ出した。

 

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