トレセン学園は今日も重バ場です   作:しゃちくらげ

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狂瀾怒濤

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見つけたぞ、アグネスタキオン」

 

「…おや、これはこれは意外な結果だ」

 

携帯端末を取り出して時間を確認すれば、時刻は14時を少々回ったあたり。

この学園の敷地内で2時間以上も遭遇を回避できたのであれば上々かな?

 

「まさか君とはねえ、ナリタブライアンくん?」

 

もう生徒会役員に見つかってしまうとは。

一番見つかりたくない相手ではあったが、早晩どこかで出くわすと覚悟はしていたがね。

 

「随分と隠れるのが上手いじゃないか。手間をかけさせてくれる。…お前のおかげで大惨事だぞ。どうしてくれる」

 

自分で仕掛けておいてどうかとは思うが、追手は実に苛烈な事で何より。

それだけ効果があった、ということを証明するにこれ以上ないだろう。

 

まさか私を捕まえるために投網まで飛んでくるとは思わなかったけれどね。

 

しかし、逃げるのにはそこまで苦労はしなかった。

何せ、私が提供できる薬はたったひとつ、1錠だけ。

 

その宣言が程よく牽制として活きてくれているおかげで、少し煽ってやれば潰し合いに発展してくれる。

 

いやはや、ウマ娘の闘争心というのは侮れないねえ。

こと、執着対象に絡むことであれば実に、実によく発揮される。

 

人のことは笑えない。

何せこの私も、いつの間にやら「そちら側」だ。

 

やれやれ、感情の揺れが肉体に及ぼす影響が…などと言っていられなくなってきたな。

 

「ふゥん…どうやら私にはかくれんぼの才能はないようで残念だ。……きみはこの手の話には関心が薄いものと思っていたんだが」

 

「ふん。自白剤には興味はないが…放置するとうるさいのがいるからな」

 

「なるほどねえ」

 

一番うるさいのは、間違いなくあの皇帝陛下だろうさ。

これだけの騒ぎを引き越したのも、あの生徒会長の目を逸らすためなのだから。

 

「それと」

 

「うん?」

 

「お前の脚には興味があってな。私と『追いかけっこ』してもらおうか」

 

ざり、と前掻きを一つ。

獰猛に歯を剥いて笑う姿は、まさに怪物のようだ。

 

周囲には利用できるウマ娘の影は皆無。

なまじ上手く逃げ回れてしまっているがために、人の壁というのは利用できない…か。

 

「……まったく、レース狂いとは聞いていたけれどここまでとはねェ。」

 

生徒会長も私にとっては大概の天敵ではあるけれど、こういうタイプの人間も面倒だ。

損得感情が想定と違うところで発揮されては、計算に入れづらいことこの上ない。

 

「どうとでも言え。お前が模擬レースにも出てこないのが悪い」

 

…まったく。怪物退治は魔女の役目ではないのだけれどねぇ。

 

仕方がない。

 

「……はあ。では……」

 

肚を括ろうとしたその瞬間、白いものが二つ、ブライアンくんの後ろにあった植え込みから飛び出してきた。

 

「見つけたぞオラぁ!!」

 

「いやああああああ降ろしてくださいまし!まだ放出されたくないですわよわたくし!!」

 

芦毛の二人組。

騒ぎを起こすことに定評のある私よりも最近は有名になりつつある、問題児たち。

 

「おやおや、ゴールドシップくんと…ああ、メジロ家の」

 

「ゴルシちゃん参上!おいタキオン、その薬アタシにくれよ」

 

手をにぎにぎとしながら、こちらに手を突き出すゴールドシップくん。

面白そうだとは思うものの、流石にこの問題児に自白剤なぞ渡そうものならば私が後々それはそれは叱られる事だろう。

 

……流石にそれは勘弁願いたいねえ。

慣れているとは言え、トレーナーくんの胃痛の種を増やすのは私だけでいい。

 

「え、嫌だよ?」

 

「えーっ!!」

 

ものすごく驚いたようなリアクションを取るゴールドシップくん。

いや、それは私の真似にしても少々やりすぎだろう。

 

「……似てますわね」

 

「似てないと思うんだけどねえ」

 

私は流石にそこまでやっていないはずだ。

白目を剥いているし。

 

「ゴールドシップか。邪魔をするなら容赦はしないが」

 

「ふゥん……?うん?」

 

待てよ。

ナリタブライアンくんは薬には関心はないが、私とレースをしたいがために、私が逃走することを見込んで此処に来たわけだ。

厄介なレース狂いではあるが、この場合は……。

 

「ナリタブライアンくん、一つ提案をしても良いかい?」

 

「…何だ」

 

「私が逃げ切れたら、君と一対一で模擬レースをしようじゃないか。もちろん、全力を尽くさせてもらおう。だから見逃してくれないかい?」

 

「まどろっこしい事は嫌いだ。それにお前は信用できん」

 

「では、モルモットくんの名誉にかけて。モルモットくんに模擬レースを仕切ってもらうのではどうだい?」

 

「……チッ」

 

「どうだい?」

 

「とっとと行け。この芦毛どもはここで捕縛する」

 

上手くいったようで何より。

何よりも、トレーナーくんを巻き込んでおいたのは正解だったようだねえ。

 

悪いことをした気もするけれど、なに、どうせ私とブライアンくんの一騎打ちだ。

ただ日程調整をしてもらう程度で良いだろうし、大した負荷でもあるまいよ。

 

「お?お?このゴールドシップ様を捕縛しようってか?」

 

「お前は反省室送りだ。それとメジロマックイーンは…」

 

「え、わたくしですか!?」

 

「会長に引き渡す」

 

「…あの、わたくしまだ何もしていないのですが」

 

「逃げたら会長に通報する」

 

「さようなら」

 

なぜメジロマックイーンくんはあんな悲壮な顔をしているのだろうか。

 

行く末を見届けたい気も多分に存在しているが、折角見逃してもらえるのであれば、ここでもたついている場合ではない。

彼女が心変わりしてしまわないうちに逃げるべきだね、うん。

 

……大変に後ろ髪が引かれる気分だったことは付記しておきたい。

 

さて、後何時間稼げるかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕まろうが逃げ切ろうが地獄じゃありませんの!もうヤケですわ!ゴールドシップさん!私のメジロスマッシュソードを貸してくださいまし!」

 

「え、何それ」

 

「ゴールドシップさんのおたんこにんじん!メジロスマッシュソードですわよ!」

 

「もしかしてお前それさっき邪魔だっつってロッカーにしまったやつじゃねえのかよ」

 

「仕方ないですわね!この際なんでも構いませんわ!」

 

「にんじんならあるけどよ……」

 

「メジロオイシイブレードじゃありませんの!これさえあれば勝ちですわ!!ナリタブライアンさん!あなたにはなんの恨みもありませんが、お覚悟!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けてしまいましたわ…」

 

「なんで勝てると思ったんだよお前は」

 

「何がしたいんだお前たちは。まあいい、二人とも反省室送りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの」

 

寮へ戻ろうと思って、廊下を歩いていたところでした。

何か、ええ、何かとても酷いものを目にして、思わず声をあげてしまったのがいけなかったのでしょうか。

 

「……あ」

 

生徒会副会長の意外な姿を目にしてしまった、というか。

見てはならないものを見てしまったという思いがひしひしと押し寄せてきます。

 

なんと言えばいいのでしょうか。

お友達が「見えている」私が言うのもどうかとは思うのですが、あの…。

 

「……その、そういうのはせめてご自分の部屋かどこかでやった方がいいと思うのですが」

 

「……た、たわけ!これ、これは違っ」

 

わたわたと手を振って否定しようとする生徒会副会長の右手に握られていたのは、一本のロープ。

 

それだけ見れば、タキオンさんでも捕獲しようとしていたのだろうと納得はできるのですが。

 

……その先に、酷い縛られ方をしたウマ娘がつながっていなければ、の話でした。

 

「救いはないのですか…?」

 

「こんな場面に遭遇してしまった私が今一番救いを求めていると思うのですが」

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