トレーナーからあれこれ聞き出すことに成功したよ。
いやあボクって本当に運がいいよね。
有力候補のカイチョーとタキオン先輩が潰し合ったのか、何が起きたのかまでは知らないけれど倒れて、その隙を掻っ攫ったんだから。
あの二人が気絶してるって、相当なことだと思う。
本当に何があったんだろう、とは思うけれど、そんなことを今追求したところで時間の無駄でしかない。
ごめんねカイチョー。全部終わった後でお水かけてあげるから。
しかし勝負は時の運、とは言うけれど、今日のボクはとても運がいい。
タキオン先輩を捕まえようとして引きずられたり、煙を目に食らったりと、散々ひどい目に遭った甲斐があったというものだね!
それで、まず初めに、ボク以外に知らない情報や、トレーナーとボクしか知り得ないについて訊いてみて、反応を確認した。
反応自体は緩いというか、ぼんやりしてる感じで、これはこれで可愛いとは思ったけれど、そうではなく。
多分、頭の中にある整理する前の段階での言葉というか、考えがそのまま流れ出しているような感じ。
さっき、独り言を結構普通の声量で呟いていたところと併せて考えると、やっぱり聞いた通りの効果が出ているようだったから、ボクはそのまま質問を始めることにした。
どんな服装の子が好み?
性格は?
髪型は?
芸能人で言えば異性として誰がタイプ?
結婚するならどんな人がいい?
…というように、トレーナーの好みを確認する質問をした。
これはほとんどジャブみたいなもので、普通だったら「答えられなくはないけれど、ちょっと恥ずかしい」とか、そのぐらいの感覚になりそうなもの。
トレーナーならまず間違いなく、はぐらかすような質問。
その結果として、特に答えに窮することもなく、普通に答えてくれていたから、本題に切り込んでいく。
…本命の質問。
カイチョーと付き合わないのはなんで?
初恋の子は誰?どんな子?
在学中のウマ娘の中だったら誰と付き合いたい?
ボクに恋愛感情は持てる?
ボクと付き合えるなら付き合いたいと思う?
ボクのどこが女の子として好き?
どこを変えたらもっと好きになってくれる?
…なんて、普通に聞いたら面倒臭がられるし、絶対に答えてくれないような質問。
これら全てを、なんとか3、4分程度に全部捻じ込むことに成功した。
これはトレーナーの協力のお陰、というか。かなり簡潔に、律儀に応えてくれるというか。
多分だけど、思い浮かんだことをそのまま言葉にしてくれているから、質問がとてもテンポよく進んでいっていて、事前に思い描いていた質問は全て聞き出せたと思う。
質問への回答自体は流石に完全勝利とはいかないし、例えば「ボクどこが女の子として好き?」と聞いたとしても、ちょっとズレた認識で回答が返ってきている可能性がある。
なるべく誤解や認識のずれがないように気を使って訊いてはいるけれど、あのドタバタと、心の準備が出来ていない状態でのぶっつけ本番だったから、ちょっとばかり当初の想定どおりとはいかなかった。
本当に淡々と回答してくれるお陰で、ちょっとばかり驚愕の事実が発覚したし。
見ている感じ、感情と直結していない形で口にしてそうだから持ちこたえられたところはあると思う。
これで恥じらったりしながらとんでもない爆弾が投下されていたら、いくらボクでも冷静じゃいられなかったと思う。
まあ、色んな意味で危うく自制心を失うところだったけど。
それに、動揺せずに質問を完遂するために、痛みでなんとか平静を保とうとして唇を嚙んじゃったから、血の味がして気持ちが悪い。
うええ、あとでちゃんと見ておかないと。
あ、歯とかに血の色がついてたりしないかな。
…それにしても、タキオン先輩の薬ってすごいね。ほとんどノータイムでぽんぽんと回答してもらえてる。
それに、質問した事について特に疑問も抱いていないみたいな雰囲気がある。
話し掛けたときに「ん-」って生返事を返すみたいな、ぼんやりした雰囲気でそのまま答えてくれている。
メモを取ると、何らかの拍子に漏れる可能性があるので、一言一句聞き間違えないよう、頭に叩き込んでいく。
こう見えても記憶力はそれなりにいい方なんだ。
記憶したくなかった事実なんかもあったけど。
端末のタイマーをちらりと見れば、自白剤の効果が保証されるであろう時間は、残り10秒を切ろうとしている。
質問できて、あと一つ、というところ。
ここから先はボクの頭の中にある想定問答集に書かれていない内容になるし、吟味する時間も全くない。
ここまでで頭が痛くなるほど思考を回して来たせいで、そろそろ熱でも出しそうだよ。
「そうだなあ、じゃあ…えーと」
あれ?何を聞けばいいんだっけ。
絶対に教えてくれないような話がいいよね。
トレーナーが絶対に離さないような…あ、そうだ。
「女の子の身体の中でどこが一番好き!?」
やばい、言っちゃった。
こんなことを言うつもりはなかったのに。
でもこれ本当に大事な事だと思うんだ。もしボクでも戦えるものだったら、トレーナーをノーサツできる確率がぐんと上がるんだし。服も、強調したものを選べるだろうし、うん。この質問は口が滑ったわけじゃない。だからこれはセーフ。決して僕がはしたないわけじゃなく、消去法で絶対に答えてくれなさそうな質問を絞り込んだ上で残った最後の選択。考えなしじゃない。それにこういう突っ込んだというか突っ込みすぎた質問はカイチョーも二の足を踏むはず。近くにいるからどこに視線を送っているかなんかはよく知ってるだろうけど、それが本当にそういう趣味なのかどうかは絶対に教えてくれないはず。問い詰めてもあの無表情でシラを切るだろうし。つまりこれはカイチョーに差をつけるための致し方ない質問だね。つまりは計算づくだったということ。
うん。センリャクテキな仕掛け。間違いない。
ボク誰に言い訳してるんだろう。
「あの…」
「ぴえっ!?」
突然、聞きなれない声が聞こえて飛び上がる。
慌ててそちらへ視線を向ければ、横合いというか、誰かが寝室を覗き込んでいた。
「…え?」
長い黒髪を垂らして、金色の瞳がじっとこちらを見つめている。
お化けだ、と一瞬思って、思わず後ずさってしまう。
違う、ウマ娘だ。
あ、まずい。
あと5秒を切った。
「こちらにタキオンさんが逃げてきていませんか?」
まって、まって!
今邪魔しないでよ!
ドアを開けながら、その誰かが部屋に入ってくる。
トレーナーの目がそちらへ向いた。
そして驚愕にその目が見開かれる。
そのウマ娘が手にしていたのは、紐のようなもの。
そしてトレーナーは、その先を見ていた。
…あっ。
「え?うわ、すっご…中等部でそれは駄目でしょ…」
トレーナーが目を丸くして、食い入るようにして見ていたのは。
何故か
「あ」
カウントダウンが0になった。
貧血を起こした時のように、目の前が暗くなっていく。
身体がふわりと浮いたように、目が回るような感覚。
ウソでしょ?あれ?あれがいいの?
柔らかいカーペットが頬にあたる感触。
「あの…救いはないのですか…?」
か細い声が、随分と遠くで聞こえて。
ボクは意識を手放した。
ボクに、ボクに救いを。