見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 ──時は少しばかり遡り、感謝祭が開催されていた当日のこと。

 中央トレセン学園で行事が開催されていても、中央(トゥインクル)シリーズのレースは開催する。
 走る側も観る側も苦労する暑い夏が終われば、やってくるのは“スポーツの秋”。
 “暑さ寒さも彼岸まで”──と言われる秋の彼岸まであと数日であり、中央(トゥインクル)シリーズは秋の重賞戦線が始まろうとしているこの時期に、レースを止める余裕はURAにも、ウマ娘たちにも無いのであった。
 そうしてこの日に開催されたのは──

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「う~ん、勝てなかったか……」

 朝日杯チャレンジカップに出走したものの、結果は4着。
 掲示板を確保している、という点では及第点だけど、春レースの最後みたいにGⅠならともかく、今回のレースはGⅢ。正直に言えば取りたかったレースだった。
 なにしろ今日のレースは1番人気。
 パドックでも、手を挙げて派手にアピールしたんだけど……勝てなかったから、少し恥ずかしい。

「でも、夏休み休明けで久しぶりのレースだったし。次こそ本番……」

 次のレースは再びのGⅠ。
 しかも同じGⅠでも、上半期に走った安田記念よりも宝塚記念よりも格が上と言われるレース。
 さらには、挑む相手はきっと……

「まさにトップスターで、とんでもない強敵なのは間違いない」

 そのウマ娘を思い浮かべると思わず身震いするほどの衝撃を受けてしまう。
 無敗でクラシック2冠を達成した、去年の年度代表ウマ娘。
 春の天皇賞ではメジロマックイーンに破れはしても、それでも未だに1敗しかしていない。

(菊花賞は未出走なことを考えると、3000越えの長距離は適正に欠けていたのかもしれない。でも、今度は2000メートル……間違いなく実力を発揮してくる)

 その化け物と、私は戦わなければならない。
 かたやこちらは、安田や宝塚を制したわけでもない。実力差こそあきらかだけど──

「去年の例もあるし、なにが起こるか分からないのが“競走”だから」

 あんな大スター相手がなんだから、こっちは完全な挑戦者。
 負けて元々、私みたいなのは物怖じせずに挑む。ただ、それだけ!!

「勝てば、一躍大スター間違いないもんね。シンデレラストーリーってヤツだよ、ホントに」

 わたし、ムービースターはスポットライトを浴びるため、打倒トウカイテイオーを志し──天皇賞(秋)へと梶を切った。 



第24R Let's go next! 次のステージへ

 

 残暑もすっかり消え去った10月。

 ここ、福島レース場は一年でもっとも走りやすいシーズンを迎えようとしていた。

 

「く……」

 

 そのレースに出走する私──ワンダーレッスルは悩んでいた。

 

(やっぱり、オープンの壁は厚い……)

 

 6月のテレビ愛知賞で勝利したけど、それ以降の勝ちは無し。

 この秋に向けて、オープンでの経験を積もうと7月8月と休まずにレースに出走したにも関わらず、だ。

 着順も少しずつ下がってる気から、調子が落ちているんじゃないかと疑いたくもなる。

 そのバロメーターになっている相手もいた。

 私がチラッと視線を向けたそのウマ娘は、どこか不安そうに、落ち着かない様子で周囲を見ている。

 どこかオドオドとした様子は──彼女にとってはいつもの光景。

 

(これで実力を発揮してくるんだから、恐ろしいわ)

 

 呆れに近い心境でそう思う。

 テレビ愛知賞で一緒になり、そこから7月と8月の小倉のレースでもそうだった。

 9月の朝日杯チャレンジカップには出走してこなかったけど、こうしてまた福島民放杯で顔を合わせるなんて──イヤでも意識する。

 

(レッツゴーターキン……)

 

 大したことないウマ娘だと思ってた。

 確かにテレビ愛知賞の前は勝ったみたいだけど、それだって一年以上ぶりの勝ち星で、オープン特別。

 正直に言えば、その7連敗の前の重賞連勝がピークで、落ち目のウマ娘が相手に恵まれてオープン特別に勝ったんだと思ってた。

 でも──

 

(テレビ愛知賞で、彼女は私の後ろに迫ってた……)

 

 逃げ切っての1着だった私に対し、彼女は追い上げての2着。

 あのレースは良かった。

 中央(トゥインクル)地方(ローカル)の交流戦。3番人気までの3人中2人が地方(ローカル)というのは屈辱だったけど、それを見事に結果で返せた。

 そういう意味で彼女とは、同志だったのかもしれない。

 次の小倉日経賞では私は4着、彼女が5着だった。

 

(……まだ、私の方が上だった)

 

 しかし次の──北九州記念ではついに逆転される。彼女は2位。私は5位。掲示板は守ったものの──

 

 なぜ……

 どうして……

 

 そう思った私だったけど、答えは見えてる。

 

(レッツゴーターキンというウマ娘は、けっして弱くない)

 

 落ち目なわけでも、大したことがないわけでもない。

 “オープンクラスの壁”にぶち当たり、それを壊せない私とは──違う。

 でも、だからといって私だって負けるわけにはいかない。

 

(壁があるなら、壊すだけよ。何度ぶつかろうとも、それをぶち破ってみせる……)

 

 だから私は──今日のレース、彼女よりも速くゴール板を駆け抜けてやる。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 スタートした福島民放杯。

 それをオレは、観客席で車椅子に座ったミラクルバードと共に見ていた。

 

「……今日こそ、勝って欲しいよね」

「オレはいつも勝って欲しいと思ってるが?」

「そういう意味じゃなくて……ボクだってみんなが走るときはそう思ってるよ」

 

 口を尖らせてブツブツと文句を言うミラクルバード。

 その姿にオレは思わず苦笑する。どうにも関わったウマ娘が出走するレースを見ていると緊張し、軽口叩いてそれを誤魔化そうとしてしまうらしい。

 

「……心配するな、ミラクルバード。ターキンなら勝ってくれるさ。夏の努力はアイツの身になっているはずだ」

 

 それは頑張っているからいつか勝てる、なんて甘い気持ちから生まれる願望なんかじゃない。

 かつて重賞を連勝できたという確固たる実力を持つウマ娘が、GⅠという頂点を取ったウマ娘を見て自分もそうなりたいと憧れ、挫折を味わってなお挫けずに上を見て、果敢に挑戦し続けているのだ。

 

(確かにそれで勝利が約束されるような、トゥインクルシリーズはそんな甘い世界じゃないのは百も承知だ。しかし……)

 

 それだけの努力は、しっかりと身になっているのもまた事実。

 実際、この夏のターキンの成績は、悪いものではなかった。

 

「でもさ、トレーナー……他のウマ娘たちだってサボってたわけじゃないんだよ? 何度も顔を合わせたのだっているし」

 

 そう言って不安げに、走るウマ娘たちを見つめるミラクルバード。

 先頭を駆けるウマ娘がいて、それを追いかける先行のウマ娘たち。その後ろに中段がいて、後方集団は虎視眈々と追い込みをかける隙をうかがっている。

 レッツゴーターキンがいるのは、中段のあたりの集団だ。

 

「ワンダーレッスル、か……」

 

 オレは走るウマ娘の集団の中に、ターキン以外の一人のウマ娘を見た。

 彼女が目に付いたのは、ここ最近のターキンのレースで、彼女を見かける機会が多かったからだろう。

 しかし──

 

「今のターキンなら、恐れる相手じゃない」

「え? でもテレビ愛知賞で負けてるのに……」

 

 驚いているミラクルバードを横目に、オレはレースを注視しながら説明した。

 

「そこでやっとオープンに昇格したのなら、オレだったら夏の重賞になんて出さない」

「なんで? 夏なら有力ウマ娘たちは休んで出てこないと思うけど」

「そんなレースで競っても実力伸びないだろ? それだったら合宿に専念させて鍛えた方がいい」

 

 夏休みのおかげで、せっかく学業を気にせずに競走に集中できるんだからな。

 

「……トレーナー、言ってることが矛盾してるよ。それならなんでターキンを夏のレースに出していたの?」

「ターキンは、実力なら十分にあるからだ」

「はい?」

 

 思わず信じられない、といった様子でオレを見てきたミラクルバード。

 

「アイツの欠点は、メンタルの弱さだ。そのせいで実力を十分に発揮できていないだけでしかない。おかげで成績も波がある」

「う~ん、だから重賞2連勝の後の7連敗したってこと? 確かに谷川岳ステークスを勝った後に最下位だったり、テレビ愛知賞2着の後は5着だったし──」

「で、その後は2着が2回で、安定してきてはいるだろ?」

「え? あ……」

 

 ミラクルバードもようやくそれに気が付いた。

 

「だから()()()()()()()んだよ、オレは。それに対してワンダーレッスルは、夏を休まないだけでなく9月もチャレンジカップに出ていた」

 

 それで結果を出したのならともかく、手も足も出なかった。

 

「疲労も溜まっている上に、勝てないことが焦りになって心労もひどい。そんなウマ娘に、レッツゴーターキンは……負けない」

 

 奇しくもオレがそうミラクルバードに言ったのと同時に、レッツゴーターキンが仕掛けていた。

 局面は──各ウマ娘は最後の直線へとさしかかり、死力を振り絞って走っている。

 あるウマ娘が限界を迎えて「無理~」と下がっていく。

 それを(しり)目に突き放すウマ娘もいれば、それをかわして末脚を発揮しグングン伸びていくウマ娘もいる。

 その中の一人が──

 

「ターキン! いけええぇぇぇぇ!!」

 

 気弱でオドオドしていたはずのその(まな)()しは、強い意志で前を見つめ、ただ勝利のみへ意識を向けている。

 外から仕掛けた彼女は一人、また一人と追い抜いていき──ついに先頭に立つ。

 それでも彼女はさらに前へ進む。

 

 前にいたウマ娘は全て抜き去り──

 後ろから追い上げるウマ娘は彼女に追いつけず──

 

 後ろに3バ身の差を付けて──レッツゴーターキンは、1着でゴール板を駆け抜けた。

 

「──ッし!」

 

 片手で小さくガッツポーズを取る。

 これで──ターキンは完璧だ。

 7連敗で見失った勝負の勘を、谷川岳ステークス、新潟大賞典、テレビ愛知賞、小倉日経賞、北九州記念、小倉記念、そして今回の福島民放杯の7戦をかけて取り戻した。

 

(あとは、これから“中央の中央”──阪神、京都、東京、中山の各レース場──を少しずつ経験させて慣らしていけば……)

 

 いずれは大舞台──GⅠに出走するのも夢じゃない。

 彼女が憧れた、東京に残してきた“あの先輩”のように。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

『レッツゴーターキン! レッツゴーターキンだああぁぁぁぁ!!』

 

 実況の叫び声と共に、レッツゴーターキンが1着でゴール板を駆け抜ける。

 道中は中段で待機して、直線で差す──この夏の連戦で勘を取り戻した末脚は、見事に逃げや先行したウマ娘たちを捉え、抜き去り、3バ身の差を付けていた。

 

「──よしッ!!」

 

 4月の谷川岳ステークス以来の勝利に、思わず小さく腕を上げる。

 そんな渡海さんの姿を、休憩中だった私──オラシオンはチラッと見ました。

 ターキンさんが出走しているのは、福島民放杯。もちろん開催場所は福島レース場です。

 そして私と渡海さんが今いるのは、東京のトレセン学園です。

 先輩の出走に従って福島に行く──ということはせず、居残って練習に励んでいました。

 

「……見に行きたかった?」

 

 視線を他へと向け、興味なさそうなのを装いながら尋ねると──彼は、首を振って否定します。

 

「いいや、ターキンさんにはトレーナーとミラクルバードさんが付いてるからね。それに僕はキミとロンマンガンの面倒を見るように言われているし」

 

 それは──私の態度のせいでもあります。

 チーム〈アクルックス〉の担当トレーナーの乾井さんは、もちろん私の担当トレーナーでもあります。

 でも、メイクデビュー戦が始まった今年の夏、私はデビュー戦をさせてもらえませんでした。

 それどころか、10月になった今でさえ、デビュー前という有り様です。

 

(さすがに遅すぎる……)

 

 私の状態が不完全で実力不足だというのならまだ分かるのですが、そういうわけではないと思います。

 出している時計も、決して悪いものではありませんし、同期に見劣りするはずもなく──

 

「ほら、そろそろ練習始めるわよ。ロンマン、アンタも立ち上がりなさい」

「へいへい……」

「返事は“はい”1回で十分よ!」

 

 そう指示を出したのは、私やマンガンさんの先輩に当たる競走ウマ娘のダイユウサクさんです。

 それこそ、デビューが遅れに遅れたという経緯を持つこのウマ娘(ひと)

 虚弱な体質だったらしく、体つきも今でこそ他のウマ娘に見劣りしませんけど、入学当初は「貧相だった」と自分で仰っていましたから。

 なかなか“本格化”が始まらなかったそうですが、それならばまだわかるのですが。私には当てはまりません。

 私は──

 

「あ~ら、ダイユウサクじゃありませんこと?」

「む……」

 

 私も立ち上がってロンマンガンを待っていたところ、声をかけてくる相手(ウマ娘)がいました。

 見れば、ダイユウサク先輩の方を見て「オーッホッホッホ」となぜか高笑いをしているツインテールのウマ娘がいました。

 

「セッツ、どうしたの? そんなテンションで……その辺に生えてるキノコでも食べたの?」

「誰がそんなもの食べますか!! まったく……そ・ん・な・こ・と・よ・り・も!」

 

 彼女はコホンと咳払いをして、それから改めてダイユウサクさんに話しかけます。

 

「どうやら先ほど、〈アクルックス〉のメンバーが勝たれたそうで。おめでとうございますわ」

「ありがと。でも珍しいわね。アンタが素直にそんなことを──」

「今年のチーム2勝目だそうですわね……もう10月ですけど」

「む……」

 

 ダイユウサク先輩がカチンときたのが分かりました。

 

「まったく、1勝もできていないなんて、それでも去年のグランプリウマ娘なのかしら?」

「く……」

 

 悔し気に相手を睨むダイユウサクさん。

 それをしれっと受け流した相手がコホンと咳ばらいをして、こちらの方を見てきました。

 

「それで……そちらの方がウワサの?」

「ウワサ? なによそれ?」

 

 そのウマ娘は、先輩が訝しがるような表情を見て、大げさにため息をつきます。

 

「まったく……周囲にいる者として、その反応はどうなの? チームメンバーが増えても、相変わらずその外ではコミュ障みたいですわね」

「うっさい! で、どういうことよ?」

「そちらのウマ娘、オラシオンさん、でよろしいのですわよね?」

 

 そう言って彼女は私──では無い、隣にいるウェーブ髪のウマ娘を見ました。

 

「いや、あっしじゃないッス」

「先輩、そちらではありませんわ……」

「……セッツ?」

 

「………………」

 

 御本人と、その人が連れていたウマ娘に指摘され、ダイユウサク先輩がジト目を向け──そのウマ娘が固まったままプルプルと震えている。きっと羞恥で。

 業を煮やした連れのウマ娘が、私の方を見た。

 

「こっちがオラシオンさん、です。青鹿毛の方、と話したではありませんか……」

「……ホ、オーッホッホッホ! これはちょっとしたお茶目……そう、ボケというものですわ!」

「いや。アナタ本気で間違えてたわよね?」

 

 さすがに呆れるダイユウサクさん。

 

「ま、まぁその、オラシオンさんこそ、今年のジュニア世代で注目を集めている……というのに、その先輩がそれさえ気づいていないとは……デビューが遅れるのも当然ですわね」

 

 む……

 その発言には、私もカチンと来ます。

 私がデビューしていないのはトレーナーのせいだというのに……

 

「まぁ、まさか貴方のようにこれから1年後……ということはありませんのでしょう? 菊花賞の1週間前にデビューだなんて……クモハタさんの記録更新でも狙ってましたの?」

「……そんなわけ、ないでしょ。まったく、事情を知ってるくせに……」

 

 ダイユウサクさんが苛立たしげに彼女を見ます。

 

「まぁ、デビューのあんな結果はいくら〈カストル〉のトレーナーさんでも予想ができなかったでしょうけど」

 

 そう言って再び「オーッホッホッホ」と笑い──自分の失敗を誤魔化そうとするウマ娘。

 それにしてもこのウマ娘(ひと)、いったい誰でしょうか? 顔を見ても名前が浮かばないのですが……

 知っているかと思ってチラッとロンマンガンさんを見ると──明らかに怒っている様子。

 その彼女は私の視線に気が付いて、笑顔を浮かべます。

 

「あの、マンガンさん……こちらの方は?」

「うん。有名なウマ娘さんなんだわ、この人」

 

 ひそかにこめかみに青筋を立てているロンマンガンさんが、どこかぎこちない笑顔で答えてくれました。

 それを聞いたそのウマ娘は「あら、そうかしら……」と満更でもない顔で振り向き──

 

「そうなんですか? 私、顔を見たことがなくて……」

「でしょうね。だって、コスモドリームさんがオークス制覇したときに、間違えてサンキョウセッツって名前呼ばれたので有名なだけだから」

「なッ──」

 

 ショックを受けるウマ娘──もとい、サンキョウセッツさん。

 

「ぶっちゃけ顔を覚えてる人いないし」

「な、な……なななななな、なんて無礼なウマ娘なんでしょう!! ダイユウサク、貴方の指導が足りないんじゃありませんこと!?」

 

 完全に余裕が無くなったサンキョウセッツさんを見て、ダイユウサク先輩は逆に余裕の笑みを浮かべます。

 

「ゴメンナサイね、セッツ。ロンマンってばお転婆で……なかなか手綱がとれないのよね」

「まったく、貴方たちは……同じジュニア世代なら、ウチのチームのこの()を見習いなさいな……」

「へぇ、彼女もシオンやロンマンと同じ世代なのね」

 

 ダイユウ先輩は、そう言ってサンキョウセッツさんと一緒にいたウマ娘を見ます。

 私も、マンガンさんも彼女に見覚えはもちろんあるのですが──

 

「初めましてダイユウサク先輩……セントホウヤ、と申します。昨年末のグランプリウマ娘にお会いできて、光栄ですわ。」

「よろしく。セッツが先輩なら、苦労しているんじゃない?」

「そんなこと……出走経験豊富な先輩の教えは、いろいろな場面で参考になりますので」

「ふ~ん。物は言いようね」

「ダイユウサク? 貴方、ちょっと活躍したからって調子に乗ってません?」

 

 ジト目を向けるサンキョウセッツさん。

 それにロンマンさんが──

 

「有制覇が“ちょっと活躍”とかウケる……」

「ッ!?」

 

 ──と呟いて、サンキョウセッツさんにキッと睨まれていました。

 その横のセントホウヤさんは特に気にした様子も無く──逆にダイユウサクさんの方を興味深く見ているようでした。

 仮にも八大レースを制したウマ娘ですからね。それが“奇跡の勝利”なら尚のこと気になる存在でしょう。

 そんなセントホウヤさんは……ダイユサクさんから視線を外して、私の方を見ました。

 

「オラシオン……貴方、まだデビューさえしていないの? 阪神や京王杯に間に合わなくなるわよ?」

 

 彼女は「フン」と嘲笑じみた笑みを浮かべて、私を見ました。

 そうして、ギリィ……と音が響く。

 私が悔しさのあまりに噛みしめた、上下の歯が奏でた軋む音。

 そんな私の纏う空気に気が付いたのか、サンキョウセッツさんはこちらを見ました。

 

「……まぁ、いいですわ」

 

 私たちの雰囲気を察して、一度心を落ち着けるように息を吐き──それから改めてダイユウサクさんを振り返りました。

 

「ダイユウサク、私達の代では決着がつきませんでしたが……今度はどちらの後輩が上か、勝負ですわ!!」

「え……?」

 

 さすがに戸惑う先輩。

 

「あの……ロンマンガンさん、サンキョウセッツさんって、成績は……」

「重賞、一勝もしてない。たしか条件戦を何回か勝ったくらいじゃない?」

「え……?」

 

 思わずダイユウサク先輩と同じ声を出してしましました。

 

「セッツ、アンタ決着って……アタシの方がどう考えても成績は上──」

「直接対決はしていませんわ!!」

 

「「「………………」」」

 

 その理屈には私とロンマンガンさん、それに連れのセントホウヤさんさえも含めた後輩3人が唖然として見ていました。

 ダイユウサクさんもさすがに呆れ切った目で、ジト目を向けています。

 

「オラシオンさん……早くデビューして、そして勝つことね。そこのセントホウヤのように」

 

 そんな視線を無視するように、私へと視線を向けたサンキョウセッツさん。

 その横では自信を見せつけるように、セントホウヤさんが笑みを浮かべています。

 

「メイクデビュー戦で勝利し、特別レースにも勝って2勝……もうだいぶ差がついてしまっているようですけど」

「それでは……ごきげんよう、ダイユウサク様」

 

 そう言ってセントホウヤさんは()()()()()()()()へと会釈します。

 その態度が私には「貴方には眼中にありません」と言っているように見えました。

 

 ──しかし、デビューさえしてない私には彼女の態度を不遜と憤る資格さえ、ありませんでした。

 




◆解説◆

【Let's go next! 次のステージへ】
・元ネタなしです。

朝日杯チャレンジカップ
・今回は92年の第43回がモデル。勝利したのはレットイットビーでした。
・なお、ムービースターは前年の第42回も走っていて、6着でした。
・その後ろの7着だったのは──ダイユウサク。あれ?
・第一章でサラッと流したので詳しく描写しなかったレースの一つで、すっかり忘れたせいでホワイトアローが空気で終わってしまった原因だったものです。
・そのホワイトアローもまた本レースに出走していて、11着になっています。
・というか、ムービースターとホワイトアローは同じレースで顔合わせしていることが、今回も含めて多いんですよね。

7月と8月の小倉のレース
・7月は小倉日経賞、8月は北九州記念のこと。
・小倉日経賞はオープン特別ですが、北九州記念は重賞のGⅢです。
・そのどちらも勝ったのが同じで、ヌエボトウショウだったりしますが。

クモハタ
・JRA顕彰馬の一頭であり、1984年に初めて設定されたときに顕彰馬になった最初の6頭の1頭。さらにはその中で最古の競走馬であるクモハタのこと。
・1936年生まれという、戦前の競走馬。
・当時の東京優駿競走(日本ダービー)を制したという成績もさることながら、日本競馬史上最初の内国産リーディングサイアーだったりと、種牡馬としての評価も高い。
・戦後になった1952年から1957年まで6年連続のリーディングサイアーを獲得しているのが顕彰馬となった大きな理由かと。
・そんなクモハタですが……先述の通り、ダービーとっているんですけど、それがまた伝説的で……開催されたのは1939年5月28日。
・そして()()()()()()のは8日前の5月20日。
・しかもそれ2着だったので、初勝利は5月26日。ダービーのたった2日前。
・もちろん最短記録なわけで、現在の制度ではどうやっても更新できないものです。
・ウマ娘の世界でも、クモハタが同じことをしている、という設定です。


※次回の更新は4月30日の予定です。  

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