──それは、レースに先んじて行われるセレモニーでのことでした。
「……ふぅ」
1枠2番を引いた私、レッツゴーターキンは早い段階で自己紹介とインタビューをどうにか終えて、ホッと一息をつきました。
「ターキン、ホッとしてる場合じゃないだろ?」
う……
背後から小声で声をかけられて、私は恐る恐る振り返ります。
そこにいるのは私のトレーナーさん。彼はジト目で私を見ています。
「もう少し、インタビューの受け答えをできるようにならないとな」
「は、はい……」
インタビュアーの方から質問されてマイクを向けられても、私はまともに答えることができずに「あうあう……」と狼狽えてしまい、結果的にはほとんどトレーナーさんが答えていたようなものでした。
「あそこまでなれ、とは言わないが……」
そういってトレーナーさんがチラッと視線を向けた先では、「いえーい!」とVサインをしつつ、快活に答えているウマ娘さんがいました。
トウカイテイオーさん……今回のレースの本命と目されているウマ娘です。
「春の天皇賞は負けたけど、それでもまだ一敗……秋は距離もボクに合ってるし、
両足を肩幅に開いて胸を反らし、トウカイテイオーさんはビシッと片手を突き出して──再びVサインをしました。
「勝利宣言ねぇ……“
その姿を見たトレーナーがポツリとつぶやきました。
テイオーさんを見ているようで見ていないような、その表情に私は思わず怪訝な顔で見上げました。
「あ、あの……トレーナー? どうか、したんですか?」
「いや。“競走に絶対は無い”ってのはオレの持論なんでね。本命ウマ娘にああ言われると……覆したくなってくるんだよな」
テイオーさんを見ながら、トレーナーさんはニヤリと笑みを浮かべました。
まるで悪いことをたくらんでいるような、そしてそれを楽しんでいるような、そんな──ギャロップダイナ先輩が浮かべる笑みに似ているように見えました。
「ターキン……もちろんだが、勝ちをねらいにいくからな?」
「は、はいぃぃぃ……? え? だって、私……あの、その……でも
「トウカイテイオーがどうした? 大本命が勝利宣言したら、ほかのウマ娘は勝ったらいけないのか?」
トレーナーさんはたじろぐ私を見ながら、どこか得意げに言います。
「そんなことはないぞ。お前の先輩二人は……それをやっている」
「あぅ……それは……」
ギャロップダイナ先輩の天皇賞(秋)。そしてダイユウサク先輩の……有馬記念。
そう、後者は私が見てそれにあこがれたレースです。
(ああ、そうか。私も、先輩と同じくらいのところにまで、来られたんだ……)
トレーナーさんに言われて、私はやっときがつきました。
正直、今の今まで出走が決まったのに驚いて、それからギャロップダイナさんとトレーナーさんにビシバシ鍛えられるのをこなすのに無我夢中でしたので……
そして奇しくも、あのときのダイユウサク先輩と同じように世間は大本命が勝つと信じ切っています。
「わ、私も、先輩と同じことを──」
そう、トレーナーさんに自分の決意を言おうとしたとき──
『──あ、わたしですか? できるだけ前でレースします!』
よく通る声が、マイクによって増幅されて会場内に響いた。
テイオーではなくなったそのインタビューの言葉に、私とトレーナーさんは思わずそちらを振り向く。
小柄なウマ娘さんがマイクを向けられ、それに対して堂々とした様子で言い放っていました。
『え? えっと、それは……逃げ、ということですか?』
『はは……そこまで前になるかはわかりませんけど。でもわたし、去年もこのレースに出てましたからね。あのときみたいに窮屈になって事故るのは遠慮したいので、さっさと抜けてしまおうかと』
それを笑顔でサラッと言ったのは、ムービースターさん。
でもその発言で──場の空気がピンと張りつめました。
彼女の“前レース宣言”で、この前の宝塚記念を逃げ切ったメジロパーマーさんや、去年のマイルチャンピオンシップ覇者で逃げを得意としているダイタクヘリオスさんがピクッと反応しています。
同じように逃げを得意にしているトウショウファルコさんもまた、その鋭い目を向けていました。
さらにはホワイトストーンさんやカリブソングさん、ヌエボトウショウさん達みたいに彼女と同じように去年走った方達も、けっして
さらには、さっきのトウカイテイオーさんも、むくれた顔を隠そうともせず、不満そうにムービースターさんを見ていました。
(テイオーさんとマックイーンさんはライバルでも、仲がいいみたいですから……)
だから彼女も同じように、ムービースターさんに思うところがあるようです。
場が場だけに、表立って言えずため込んでいるようですけど。
「ムービースターが、前で走る……?」
「トレーナーさん?」
その声が聞こえて振り向けば、トレーナーさんが難しそうな顔をしていたので、思わず声をかけてしまいました。
「ああ、かなり意外だったから……ダイユウサクのレースで何度か見かけたが、アイツは中段か後方待機のウマ娘だと思い込んでいた」
真面目な顔で彼女を見つめていました。
そして一方、彼女の方はと言うと……爆弾発言で注目を集め、カメラマンから沢山のフラッシュを浴びせられ、それでも威風堂々と笑顔を浮かべ、こともなげに立っていたのです。
その動じない姿勢……とてもあこがれてしまいます。
──そして、そんなインタビューの直後。
「やぁ、大きな舞台で知っている顔を見るというのは安心するものだね……レッツゴーターキン」
控え室までの廊下で声をかけてきたのは、件の爆弾発言のウマ娘ムービースターさんでした。
「ど、どうも……」
私は少しだけ身を縮こませながらも、軽く会釈をしました。
そんな反応に彼女は「相変わらずだね……」と苦笑します。
「そういう見慣れたものが見られるのも、少し落ち着くよ。なにしろ……わたし達みたいなローカル重賞の常連は、こういう場には不慣れだからね」
「そう、なんですか? でもさっきのインタビューは……しっかり受け答えていたみたいですし」
私は、失敗しちゃったけど……
「あはは。ま、あれくらいリップサービスしないと、わたしみたいのは目立たないでしょ? ただでさえ小柄なんだからね」
ムービースターさんは私よりも背が低いです。
でも、過剰に胸を張るわけでもなく、スッと立つその姿や歩く姿は堂々としていて……とても綺麗だと思ってました。
そんな彼女は、チラッと視線を他へと向けます。
私もつられてそちらを見て──綺麗な尾花栗毛の髪が目に入りました。
「ああいう、見た目で目立つ人もいるしね。ホント……うらやましいよ」
彼女が羨望の眼差しを向けたのは、尾花栗毛の髪を靡かせて颯爽と歩く鋭い切れ長の目をしたウマ娘──トウショウファルコさん。
「きれいだよねぇ彼女。髪もそうだし……見なよ、白く透き通るような手足──」
「白いソックスと手袋だと思うんですけど……」
今日の舞台は皆さん勝負服できています。ですのでトウショウファルコさんの手足は白い手袋とブーツに覆われていました。
もちろん、私も勝負服なんですけど……この軍服みたいなデザインは走りやすいのは助かるんですけど……私みたいなオドオドしたのが着ているのは、違和感しかないと思うんですよね。
「あはは、実際に見たことない?」
「え? ええ、気が付きませんでした……」
「わたしは気にしてるんだ。モデルみたいなあのルックスはそれだけでみんなの注目を集めてるからね……まるでスターみたいに」
私たちの前を通り抜けていくトウショウファルコさん。
彼女はチラッとムービースターさんを見て……その鋭い目のせいでまるで睨むかのようで、私は思わず驚いてしまいました。
ムービースターさんは、怯えるどころかやんわりと笑みを浮かべて受け流し──ファルコさんはそのまま通り過ぎていきます。
「だからわたしみたいなウマ娘はいろいろやらないと、目立てないんだよ。連戦連勝みたいな競走成績もければ、この低い背では多少スタイルがよくても引き立たないから。だから目立つためには──なんだってするからね」
「え?」
彼女の発言に驚いて思わず振り向くと、彼女は遠くを見つめたまま、その澄ました笑みが一瞬だけ……ニヤリと歪んだように見えました。
──スタートした秋の天皇賞。
ゲートが開き、各ウマ娘が一斉に飛び出す。目立って出遅れたウマ娘もなし。
レッツゴーターキンがゲート入りで手間取っただけに、オレはホッとしていた。
だが、それ以上に奇妙な緊張感がこの東京レース場を支配していた。スタートしたウマ娘達が、最初のコーナーへと差し掛かろうとしていたからだ。
『さぁ、スタートしてからの2コーナーまでが問題だ! 第2コーナー、ここが問題──』
実況の言うとおり、まさに“魔のコーナー”だ。
東京レース場の2000メートルはスタート地点の関係で最初のコーナーが急で、どうしてもイン有利が強くなる。
それを意識しすぎた結果……去年のメジロマックイーンの失敗を招いてしまった。
前年の同レースという直近で起こったその“失敗”の印象が強すぎて、余計に誰もがここを意識せざるを得ない。
まして、セレモニーでそれを意識させるような発言をしたウマ娘もいたんだ。
(
この辺りは順当なところだ。いつも逃げや先行をうつ面々だからな。
…………いや、待て。
(なんか……足りなくないか?)
オレが疑問に思っている間に、ウマ娘たちは“魔のコーナー”を無事に越えていく。
今年は何事もなく無事だったらしい。
後方に陣取ったレッツゴーターキンに変わった様子は見られない。
「ん……?」
ああ。ターキンに変わった様子は、無い。
だが、そのすぐ後ろに──ヤツがいた。
「はぁ!?」
後方待機のレッツゴーターキンのすぐ後ろに、6枠12番のウマ娘が何食わぬ顔で走っていたのだ。
「く……ハハッ……あのウマ娘……やってくれる。とんだ“
オレは思わず笑ってしまった。
そんなオレを車椅子に座ったミラクルバードが怪訝そうに見てくる。
「どうしたの? トレーナー……」
「いや、見事にやられたと思ってな。ムービースター……まさかアレが盤外戦術だったとは。見抜けなかったオレも間抜けすぎる」
「え? あ……」
オレの言葉でミラクルバードも、やっと思い出したようだ。ムービースターが“前レース宣言”をしていたことに。
「え? なんで? どうして最後方にいるの?」
「アイツ、最初から前で走る気なんてなかったんだろ。後ろにいれば去年みたいなことにも巻き込まれないし、もともとそういう脚質じゃないしな」
「じゃあ、なんで……」
「
オレは前を走るウマ娘の方へと視線を向ける。
先頭は変わらずメジロパーマー。
そして追い抜かんばかりにそれに続くダイタクヘリオス。
その後ろにはトウショウファルコが続き、さらには大本命のトウカイテイオーが4番手にまで来ていた。
完全に、ムービースターの術中にはまっていた。
「アイツはあの発言で、みんなに去年の斜行……あの
「……ひとの名前みたいに言わないでくれる?」
隣で黙って聞いていた
「走者の心理として、どう思う?」
「それは……間違いなく進路妨害しちゃいけないって思うよ」
そう、ミラクルバードが答えた通りだ。
ぶっちぎりの1位が最下位に降着されたというインパクトは強い。それゆえに絶対に避けたいと思うのは当然のこと。
「だが、あのコーナーのせいでインが有利なのは間違いないからな。どうしてもとりたいという気持ちを捨てることも無理だ。だとすると……」
「逃げるウマ娘は他よりさらに前に出て、進路妨害にならないようにするしかない」
レースをじっと見たまま答えたのはダイユウサクだった。
去年のコイツは、なぜか妙にメジロマックイーンを意識していたから、あのレースの反省点もわかっているんだろう。
「そうだ。後続を引き離していれば、その影響が途切れるので後続の進路が妨害されることもない。だから最初のコーナーの先陣争いをするウマ娘は、どうしても速度を上げるしかなかったんだ」
セレモニーでのムービースターの宣言は、その争いに油を注いでもいる。
逃げウマ娘でもない彼女のそれは、それを得意とするウマ娘たちのプライドも刺激していたのだ。
「逃げ脚質の3人は、スタート直後から我先にとコーナーへ突っ込んでいく。そしてそこに、もう一つの要因が効いてくるんだ」
「もう一つ? 今の状況はその結果ってこと?」
首を傾げたミラクルバードにオレは頷いた。
「先頭の時計、確認してみろ」
「えっと……ッ!? なにこれ……」
「コン助? いったいどうしたのよ?」
驚いて絶句しているミラクルバードに代わり、オレが説明した。
「速いんだよ、先頭が。それも異常なまでに」
ショックから立ち直ったミラクルバードが言ったタイムを聞いて、ダイユウサクと今まで黙って見ていたロンマンガンさえも驚いていた。
「な……マジ? こんなの、まるで短距離レース。2000のペースじゃないじゃん」
「走ってるヤツら、特に先頭集団の連中がここまでのハイペースになっているのにはおそらく気づいてはいない。速いとは思っているだろうがな」
「いったいどうして……その理由、わかってるなら教えなさいよ」
ダイユウサクが少し苛立った様子で訊いてくる。
「理由は、
「「「はい?」」」
突然のまったく別なレースの名前に、その場のウマ娘3人が素っ頓狂な声を出していた。
「え? どういう、こと?」
「ひょっとして……メジロパーマー?」
「その通りだ、ダイユウサク」
さすがに出走していただけはある。
今年の宝塚記念は、メジロパーマーが大逃げで逃げ切りの勝利を収めている。
春のグランプリのその印象は、まだまだ他のウマ娘にも残り続けていた。
結果──
「ハイペースで入ったメジロパーマーを、逃げ切らせまいと他のウマ娘たちもついて行っている」
「そっか。だからパーマーも、速度をゆるめられないんだね」
「ああ。根っから逃げのパーマーにしてみれば、途中で追い抜かれたらそこでレース終了だ。意地でも追いつかれるわけにはいかない」
かと言って最初から最後まで全力疾走で駆け抜けるなんてマネは、たとえ短距離だろうとそうできるもんじゃないからな。逃げのセオリーは安全マージンを確保しながら、密かにペースを落として体力を温存すること。
“皇帝”の最初の敗戦になったジャパンカップを制したカツラギエースの逃げがまさに理想的なそれだ。
「後続もつられてハイペースになっているから落とすこともできない。だから──」
オレ達が見ている前で、先頭が入れ替わった。
もしもその直後が一人でクレバーなヤツだったら、この異常なハイペースに気がついて、パーマーに合わせてペースを下げたかもしれない。
だが──先頭はダイタクヘリオスに変わり、相変わらずトウショウファルコやトウカイテイオーも間をおかずに続いている。
これでは、ペースは下げられない。
「しかも、ここにトウカイテイオーがいるのも、な……」
オレは必死に走る赤と茶の勝負服を着たウマ娘を見て、ムービースターの策の恐ろしさに戦慄さえしていた。
(きっつ……なによ、この展開……)
アタシ……ナイスネイチャはあまりのハイペースなレースに、思わず顔をしかめていた。
去年のマックイーンの失敗が頭にあったから、みんな行儀よく最初のコーナーを抜けていった感じだった。そこまではいい。
それで、宝塚でパーマーにしてやられたから、独走を許さないというのもわかるわ、うん。
(で、その2つが合わさった結果が、コレ……)
テイオーをマークしていたんだけど、そのテイオーもハイペースにつられちゃったもんだから、こっちまで付き合わされてるのよ。
(えぇ……こんなペース、最後までもつわけない……)
隣をチラッと見ると、同じようにテイオーマークにしていたチームメイトのイクノディクタスや、それと同じ作戦らしいヤマニングローバルも、かなり追いつめられた感じで走ってる。
この感じ……先頭集団からなんなら中段まで、みんなハイペースのままレース、なんてことになってるんじゃない?
かといって、一人だけペースを落とすわけにはいかないのよね。
(もしも、この中で一人でもこのペースを維持して走りきったら……)
万が一の事態を考えると、その不安を完全に拭えないのよ。このペースで走る大勢の中で、たった一人でも乗り切ったら、それが勝者なのは明らかなんだから。
確かにゴールまでこのペースを維持なんて不可能に近いのはわかってるし、非現実的。
でもさらに言えば、すでにここまででかなり消耗してるのに、仮にここでペースを下げたら……みんながバテたところでスパートして再逆転、なんてことが本当にできるの?
その判断をする勇気が出せず──もうレースはとんでもないことになっていた。
(アクセルを緩めたら負けっていう、まるでチキンレースよ。これ……)
もちろん負けず嫌いがウマ娘のモットーで、誰も速度を緩めない。
結果……スタミナ切れしてガス欠になったのから脱落していくデスゲームの様相を呈していく。
その最初の犠牲者が──
ズルズルと下がっていく彼女を抜いたとき、横目で見た消耗しきっている彼女の顔を見て、本当に驚いたわ。
(でも……ここで退くわけには、いかないんだから!)
勝利宣言をしているテイオーに、アタシだって負けるわけにはいかない!!
「く、速いペース、だけど……」
ボクはグッと歯を食いしばって、このペースに耐える。
先頭だったパーマーは限界を迎えて後方へと消えていった。
前にいるのは──
「ば、爆、逃げ……ウェ~……イッ!」
必死に逃げようとしているダイタクヘリオス。
最終コーナーを回って、その息もだいぶ怪しくなってきてるのは間違いない。
「勝つ、のは……ボク、だぁッ!!」
息があがり始めているのは、こっちも同じだけど──絶対に、負けられないんだ!
きっと……会長ならこのレースを見てくれているはず。
その会長をガッカリさせるわけにはいかない。
ボクは知ってるんだ……無敗が途切れて気持ちが途切れかかったボクのことを、会長が密かに心配してくれていたことに。
(だから、勝って示すんだ! ボクが、大丈夫なことを……またちゃんと、新たな目標に向かって、走り始めたってことを!!)
だから、だから負けられない!
たとえこんなに辛くても、苦しくても……絶対に──
「負けられないんだぁぁぁぁ!!」
そこでボクは──不思議な感覚へと入った。
もう限界のはずの体力なのに、それでも体に力が漲る。
この最後の直線を走りきるだけの力が──
「だああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
気合いの咆哮をあげて、ボクは前にいたヘリオスをついに追い抜いた。
それでもヘリオスも、必死についてこようとしている気配がわかった。
ボクの手は必死に宙を漕ぎ、足は懸命に地を蹴る。
少しずつ、少しずつ、下がっていくヘリオスの気配。
それでもまだ、安心できない。
まるで地鳴りのように、後ろから後続の足音が迫ってきているのが聞こえたから。
「勝って、夢を──掴むんだッ!!」
無敗の三冠ウマ娘──
生涯無敗──
次々とボクの手からすり抜けていった、掴もうとした夢。
ボクはもう、取りこぼすわけにはいかない。
会長を越える……一敗を維持したまま七冠を、それを越える程の栄冠を積み重ねる夢の実現のためにも。
「そして、会長がとれなかった栄冠を、代わりに掴んでみせるためにも、ボクは──」
本当に、最後の最後に残った力も振り絞って──ボクは駆けた。
迫っていた後ろからの沢山の足音の勢いが無くなる。
(うん、大丈夫……)
たとえこんなハイペースでも、他の
そして今回は、春の天皇賞みたいな長いレースじゃない。2000メートル……この距離なら、誰にも負けないんだ。
絶対の自信を持って確信する。
(誰もボクに追いつけない──)
そう、思った……
次の瞬間、それは…………ボクから離れた場所を…………駆け抜けていった。
「…………え?」
『一番外からレッツゴーターキン! レッツゴーターキン、ムービースター!』
◆解説◆
【Let's challenge! 心臓破りの天皇賞(秋)】
・「Let's challenge!」は、アニメ1期のOP『Make debut!』の歌詞から。
・そこの担当がまさに今回走っている
・「心臓破りの天皇賞」は、92年の天皇賞(秋)の状況から。
・詳しくは↓にて……
【鋭い目】
・前話の解説で「トウショウファルコの“ファルコ”は
・じゃあ、元ネタってなによ? と言われたら──『北斗の拳』の登場人物、「金色のファルコ」が元ネタだそうです。
・元斗皇拳の伝承者にして最強の使い手。「人格者か、クズか」という両極端なあの作品の敵役において、人民を大切にして主にも高い忠誠心を持つ高潔な武人であるファルコは前者。
・
・そんなわけで、睨んできたのはそのイメージです。
・きっと一人だけ画風が違っていたに違いない……
【何度か見かけた】
・ムービースターがダイユサクと同じレースを走ったのは、91年のマイルチャンピオンシップと、92年の安田記念と宝塚記念。
・6回しかG1を走ってないダイユウサクなのに、その半分で顔を合わせていました。
【ハイペース】
・92年の天皇賞(秋)のペースは本当に異次元。
・ラップタイムを見ると1~2ハロン目までは10.7秒、その後の2~3ハロン目は11.0秒。1400メートルの通過は同年の京王杯スプリングカップ(東京開催な1400のGⅡ)のタイムよりも0.8秒速かったほど。
・2000のレースなのに、まるで短距離レースのペースで走っていたことになります。
・ちなみにサイレンススズカの悲劇の舞台になった1998年の天皇賞(秋)。
・明らかな大逃げなレース展開で一人旅でしたが、その1000メートル通過は57.4秒。
・一方の92年の天皇賞(秋)の1000メートル通過は57.5秒と、あの時のサイレンススズカと遜色のないペース。
・そして、あの時のような単騎駆けのレースではなく後続がしっかりとついて行っているレース。
・92年の前半のペースがどれだけ異常だったか、垣間見える話です。
【ムービースターの策】
・本作ではこのレースを完全にぶっ壊した扱いになっている、ムービースターの「前レース宣言」。
・これ、実際に元ネタがある話で、ムービースターの騎手になった武豊騎手の発言から。
・前年の波乱の当事者が「前年は控えると不利になるから前に行かざるを得なかった。今年も後ろは不利になるから前に行く」というような話をすれば、皆が意識しないわけがない。
・で、実際には本作同様、しれっと後ろに付けてました。