──それは、本番前の練習最終日のことでした。
「あ、ありがとう、ござい……まし、た……」
「お疲れさま、ターキン……今日まで、よく頑張ったな」
私が頭を下げると、それを見たトレーナーさんはそれまで険しかった表情をフッと緩め、私をねぎらってくれました。
「あとは本番に向けて、しっかり体を休めるんだぞ」
「はい!」
秋の天皇賞への出走を決めてから今まで、本当に厳しいトレーニングでした。途中からはギャロップダイナ先輩も加わったのでなおさら……
そんな毎日も、とりあえず今日まで──ちょっとだけホッとしていると、それを見透かしたようにトレーナーさんは苦笑を浮かべています。
「本番までできることはほとんど無い。が……少し話をさせてくれ」
そう言ってトレーナーさんは、「前にダイユウサクにも言ったことがあるんだけど……」と前置きして、私に言いました。
「お前は、お前だからな。ターキン」
「へ……?」
意図がわからず首を傾げたのですが、トレーナーさんは真面目な顔で続けます。
私としてはなにを当たり前のことを、と思ったのですが……
「このチームに入るとき、お前はダイユウサクの有馬記念を見て憧れたから、と言っていた」
はい、その通りです……
あの輝きを見て「たとえそれまで目立たなくても、その一瞬だけでも輝いて、栄冠をつかめたら……」と思ったんです。
あの人のように、なりたい……と。
「アイツが金杯を制したころの話だが、競走界は異常な熱気に包まれていてな……」
「わ、わかります……オグリキャップさんの……」
《怪物》が見せた、最後の輝き。
燃え尽きようとする星の最後の猛烈な光は、見た者の心を強烈に震わせました。
まさに、
「あの金杯はその興奮冷めやらぬ年明け最初のレースだった。出走メンバーの表情を見て、オレもだいたい察しがついたよ」
「それは、どんな……?」
「全員が全員、『オグリキャップになってやる』って顔をしてた」
そう言ってから愉快そうに笑うトレーナーさん。
「あの影響を受けるなって方が難しかったのは分かるが、オグリキャップはオグリキャップだ。走り方、作戦、所作や口調、髪型やら姿形を真似たところで、オグリにはなれない……」
当時を思い出して遠い目をしていたトレーナーさん。
「そんなお仕着せのものを纏って自分を見失った、あのころ大勢いた連中は……当然、勝てなかった。だから今あえて言うが……お前はダイユウサクじゃないんだ」
私の方を見て、キッパリと言いました。
「もちろん
私の、レース……ですか?
あらためてトレーナーさんに言われましたが、私のレースって……ここまでレースのたびに無我夢中で走っていたので、意識したことなんてありませんでした。
ええと……中段や後方からのレース、というのは間違いないと思うんですけど……
「難しく考える必要は、ないぞ」
私が眉根を寄せて一生懸命考え込んでいたのに気づいたトレーナーさんが、苦笑混じりに言いました。
「自分のできることを目一杯やる。それだけでいいんだ。さっきのオグリフィーバーの時に失敗した連中みたいに、“憧れ”に引きずられて自分のできないことをしようとすれば必ず失敗する」
「ど、どうして……」
「当たり前だろ?
苦笑するトレーナーさんに言われて、思わず「あ……」と言葉が漏れてしまいました。
「だから今回のレースの、オレからのアドバイス……というか作戦だな。ターキン、視野を広く持って走れ」
「え? でも、それは以前に、トレーナーさんから……」
私の視野が広すぎるから意識して狭めろ、と言っていたトレーナーさん。
今回の指示はまったく真逆でした。
「あの時のお前と今のお前は違う。積み重ねた経験が心を強くしてくれている。自信をなくしていたころのお前とは、違うだろ?」
その自覚は……あります。
今にして思えば、負けが込んだ私は萎縮してしまっていて、負けるのが怖かった。
だから周囲の、私を負かそうとする動きすべてに敏感になり過ぎてしまっていたんです。
「今のお前なら広い視野を制御できる。集中して、勝負に必要な情報の取捨選択がレース中にもできるようになっているはずだ」
「え? で、でもそんな走り方、練習では……」
「併せ練習に十数人も連れてくるわけにはいかないだろ?」
苦笑するトレーナー。
〈アクルックス〉の中で走れるウマ娘の人数は私を含めて5人。
確かに、大人数の中で走るトレーニングなんて……
「安心しろ。今までのお前のレースを見て、できることだと信じているからオレは指示しているんだぞ。遠慮なく周囲を気にしろ。そして異変を見逃すな」
「異変……ですか?」
「ああ。正直な話、真っ向から挑めばトウカイテイオーやダイタクヘリオスといったGⅠウマ娘はもちろん、他のGⅠ常連のヤツらを相手にするのは厳しい。だが……波乱が起きれば可能性が生まれる」
なぜでしょうか、私はそのとき──トレーナーさんがなにかを確信しているかのように思えました。
今回のレースは……
まるでそれが分かっているかのように、見えたんです。
「それを生かすためにも、いち早く気づいて対応しないければいけない。お前のその臆病な性格の元になっていた敏感な察知能力は、それに必要不可欠だ」
そう言ってトレーナーさんは、私の頭にポンと手を乗せて、少し荒く頭をなでてくれました。
(ここまで上手くいくなんて……)
正直、わたし自身が一番驚いてます。
最後方からレースの全体を見渡しているわたし──ムービースターがそうなったらいいな、と思ったからこそ、
(ここまで後方待機が有利な展開になるなんて、ね)
そう思ってほくそ笑むのも仕方ないってものです。
だって、描いていたいくつかのそれの中で“最高のシナリオ”へと舞台は動き始めているんだから。
(
もちろん事故は起こる。
典型的なのが去年の
でもあんなことを狙ってやるのは不可能。
(運を天に任せて、スポットライトが浴びせられるのを待つだけなんて……ナンセンスだわ!)
ローカル重賞の常連程度でしかないわたしが、中央のGⅠをガンガン走ってる面々──特にケガがなければ“無敗の三冠ウマ娘”を狙えた、ガチガチの大本命トウカイテイオーやらを相手に、真っ向勝負で勝てるわけがない。
(そんなわたしが主役になる演出……劇的な展開を、わたしが自分でプロデュースしてやる!)
主演俳優が監督を務めるのなんて、映画ではよくあること。
そしてわたしは、この
その熱を帯びて、
おかげで彼女を取り巻く
(そしていよいよ、クライマックスへ……)
この作品も、いよいよ
そして、他の
今回は、監督であるわたしによって、ラブロマンスのような序盤中盤抑えめにして終盤で一気に盛り上がるような作品ではなく、序盤から血湧き肉踊るようなゴリッゴリのアクション映画になっている。
おかげで出演者の多くはボロボロのヘロヘロといったありさま。
そんな状態じゃあ、この作品のラストを飾れる主役になんて──なれっこない!
「そう──主役は遅れてやってくるもの、だからねッ!!」
最後の直線に入って、先頭と2番手は本命と3番人気で競っている。
でもそのすぐ後ろに集団が迫っているけど……いずれもが道中で力を使い果たしていた。
でも──後方待機していたわたしには、それを抜き去る力が残っている。
「このレースの主役は、わたしだアアァァァァ!!」
残していた脚に、全力を込めてわたしは駆け上がる。
──だが、そんなわたしの前に……一人のウマ娘がいた。
他のウマ娘のように、貪欲に主役を目指して無理をするわけでもなく、彼女はただ一人、惑わされることなくマイペースに、堅実に走っていたのだ。
その彼女に、今──スポットライトが、当たろうとしている。
そうやって何も知らずに走っている彼女に……大事な主役を奪われるわけにはいかないのよ!!
トレーナーさんに言われたことをしっかり胸に刻んでいた私は、持ち前の視野の広さを使っていました。
(……感覚が久しぶり過ぎて、ゲートでびっくりしちゃいましたけど)
だからその異変には早めに気づいていたと思います。
たぶん、他のウマ娘さん達よりも。
「このペース……速い、かな……?」
去年の波乱の現場だった第2コーナーを何事もなく抜けて、ホッとしたのもつかの間、といった頃合いでした。
内にコースをとっても斜行にとられないよう、後続との安全マージンを取りたい気持ちが逃げウマ娘に速い入りを意識させたんだと思います。
「ええと……」
そんなことを考えつつ、普段通りに後方でレースをしている私ですが、チラッと後ろの様子をうかがえば、そこにはなにくわぬ顔でしれっと走っているムービースターさんの姿が……
(この
ひょっとして、出遅れてしまったんでしょうか。
だとしたら作戦が失敗しているわけで、困ってる……のかな?
(ううん、そんなことよりも──)
予定が狂ってしまっているムービースターさんは確かにかわいそう。
でも同情してる場合じゃない。レースは非情って……トレーナーさんも、ダイナ先輩も言ってたし……
私は、レースへと意識を戻します。
(速いペースで入ったパーマーさんを、他の人が逃がすまいと追いかけてる……だから、パーマーさんもペースを緩められない)
そんな逃げ・先行陣の思惑が速いペースを生んでいるのかもしれない。
でも……
(パーマーさんは2400の宝塚記念を、逃げ切って勝ってる……それだけのスタミナがあるってことだし、2000の
パーマーさんだけじゃない。ヤマニングローバルさんやホワイトストーンさんのように長距離レースでの実績をもっているメンバーもいます。
もしもこのまま前の誰かが先に行き続けたら……私が追いつけなくなるかもしれない。
(このまま後ろにいたら、危険かも……私もペースを上げて、前へ──)
そう思った、そのとき……フッと私の脳裏に、あの時の言葉が浮かびました。
『──お前はお前のレースをしろ、ターキン』
トレーナーさんの声が、私の心に響きました。
思わず「あ……」とつぶやき、前を追いかけようと込めかけていた脚の力を元に戻しました。
そして冷静さを取り戻した──むしろ冷静さを失っていたことに驚きましたが──私は、トレーナーさんの助言を思い出して、周囲を確認しました。
(……ッ!? これ、速いなんてものじゃない!! こんなペース……まるで短距離みたいな……)
前を走るウマ娘の背中じゃなくて、横を流れる景色に意識を向けて、その速さが普段よりも明らかに速いことに気づいたんです。
最近は短距離レースには出走してないけど、練習での感覚を照らし合わせればそれはわかりました。
(こんなペース、私は最後まで保たない……)
前のペースに合わせて走れば、間違いなく潰れます。
でも……それでもやっぱり、前の誰かが走りきってしまったら……
そう思うと、私は迷ってしまいました。
『自分のできることを目一杯やる。それだけでいいんだ』
再び私の記憶から浮かび上がってきた、トレーナーさんの声。
そう、です……私ができることをする。そして──できないことはしない。しちゃいけないんです。
それは無理なことだから──私は、私のできることを……“私のレース”をするしかないんです!
(このハイペースに、私はついていけない。だから……今は耐えるしか、ありません!)
だから私がするべきことは、前の方まで広げている私の“注意力”を意識して下げること。
前のペースに惑わされることなく、私は我慢のレースをしました。
そして、案の定──
(パーマーさんが……)
前の方で動きがありました。
先頭を走っていたはずのパーマーさんが、下がり始めて抜かれました。
コーナーを利用してその表情を見た限り、余裕を残してペースを下げたんじゃなくて、スタミナ切れを起こしたせい。
──ずるずると下がっていくメジロパーマーさん。
──そして代わりに先頭に立って逃げるダイタクヘリオスさん。
──その彼女を追い上げようとするトウカイテイオーさん……
「……うん?」
最後の直線まであと少し──そこで先頭集団を見た私は、不思議な感覚を覚えました。
それは奇妙な
茶髪のはずのパーマーさんの髪の毛が綺麗な青色に……
青い差し色の入った茶髪のヘリオスさんの髪がまるで雪のような葦毛……
普通に茶髪のテイオーさんの髪の毛もまた葦毛のように見え……
──その景色が重なったんです。
「これは……」
──ハイペースに耐えられなくなって落ちていくのはツインターボ。
──代わりに先頭になって走るのはプレクラスニー。
──その先頭に狙いを定めて追い上げようとしているのは……メジロマックイーン。
あのときの──去年の有馬記念のシーンが、私の脳裏に浮かんだのでした。
「この展開……ひょっとして、あの時と同じ……」
そうです。
去年の年末の、私があこがれたあのレースと、今回のレース展開が似ているんです。
速いペースになったそのレースを、制したのは──末脚を溜めていたあこがれの先輩。
(ということは、ここで焦ったらダメ……最後の、直線勝負……)
その間にもレースは進み、いよいよ最後のコーナーを抜けようとして──
「なぁ、ターキン……この
トレーニングの合間に、ギャロップダイナさんがそう私に尋ねてきました。
「それは、ええと……」
ダイユウサク先輩の有馬記念は、私の憧れのレースですし、もちろんよく覚えています。
最後の直線で、外からダイタクヘリオスさんやプレクラスニーさんへと迫るメジロマックイーンさん──を越える驚異的な末脚で、内から抜き去っていったダイユウサク先輩。
あ……
「ダイユウサク先輩は内を通ってましたけど、ぎゃ、ギャロップダイナさん、は……外から、とか……?」
「正解~ッ!」
そう言ってギャロップダイナさんは満足げにニヤリと笑って、唇の間から乱杭歯をのぞかせます。
「どっちのレースも、ハイペースで前がバテたレースだった。ま、あいつは後方ってよりは中段での待機だったというのもあるが……外に振れなかった理由があった」
ダイナさんは笑みをそのままに、私に「その理由、わかるか?」と訊いてきました。
「え? えっと……外に、マックイーンさんがいた、から……?」
「それもある。あいつ、天然だったのかわざとだったのか分からねえが、内を抜けていくときに他のウマ娘でマックの視界を遮ってやがった。だから自分以上の速さであがっていくあいつに気づくのが遅れたんだ──」
もっと早く気づいていれば結果が違っていた可能性もある、とダイナさんは真面目な顔で言いました。
「……でもまぁ、そいつは結果論だ。あいつは、マックが外にいるなんとことまで考えちゃいなかったと思うぜ」
「じゃあ、どうして内に……」
「もっと単純な話で、スタミナの関係だ」
答えを出せなかった私に、「難しく考えすぎだ」と苦笑しながら説明してくれます。
「あいつは2000までが主戦場で、それを越えたのを走ったのは京都大賞典しかなかった。2500のレースは未知の領域で、おまけにハイペースな展開。外に振る余裕なんてありゃしねえ」
「だから、距離のロスが少ない内を……」
「ああ。もちろん賭けになるけどな。前に壁ができればそれを避けなきゃならねえし、そこで余計な体力を使う。その判断ができて、さらにはすり抜けてこられたのは……あいつのレース勘だろうな」
ハッキリ言って……ギャロップダイナさんをあまりよろしく思っていない様子のダイユウサク先輩と、それをからかうようなギャロップダイナさんの関係はあまりよくないと思ってました。
でも、ダイナさんはダイユウサク先輩のことをよく見て、ちゃんと評価しているみたいです。
「あいつも伊達に30戦以上も走ってなかったってことだ。展開予想とコース選択、それに抜き去る技術は積み重ねた経験に基づいてやがる。他人に無関心だからか、妙に思いきりよく飛び込んでいたし」
そう言って素直に感心して、誉めていました。
「そう、だったんですね……」
「とはいえマイラーが2000を走ってるんだから、あたしも主戦距離より長かったってのは一緒だけどな。そこまで切羽詰まってなかったのと最後方からだったのもあって外から行ったが……」
他の動きをほとんど気にする必要がないから、という理由もあって外を選んだ、とギャロップダイナさん。
レースを思い出していた彼女は、私を振り返ってジッと見つめてきました。
「そんな感じで、最後の直線でどこを走るか、ってのも状況やら性格を加味して、自分にあったものを選ぶのが大事だからな、ターキン。お前に合っている最善の道を、突っ走るんだ」
そう言って、彼女は気持ちいいくらいに豪快に笑いました──
──最終コーナーの出口
私は、ギャロップダイナさんのアドバイスを思い出していました。
もちろん私の脳裏には、直前に重なった去年の有馬記念の光景がしっかりと浮かんでいます。
外をあがっていくマックイーンさんを、内から抜かしていくダイユウサクさん──
『──お前はダイユウサクじゃないんだ』
頭をよぎる、トレーナーさんから言われた言葉。
そして──
『お前は、お前の道を行け! レッツゴーターキン!!』
脳裏のトレーナーさんは記憶にない言葉を、私にハッキリと言ってくれました。
はい! 私にできる、ことを……私ができる、最善の道を──私は……
「──
大外のさらに外──追い上げていく集団に加わるのではなく、さらに外へと進路をとる。
その前に遮るものはなく、脅かす者も存在しない──臆病で気の弱い私が、最速で走り抜けるための──私だけの
そこへと進む私の背を、
「「「「「いけええぇぇぇぇッ!!」」」」」
──ダイユウサク先輩が、
──ギャロップダイナ先輩が、
──ミラクルバード先輩が、
──オラシオンとロンマンガンさんが……
「「そこ
……そして、私を見てくれていた、トレーナー2人の声が重なって──押してくれました。
このレースの中だけでも数多く襲ってきた不安。
その元凶たる私の弱い心に打ち勝ち──ビシッと空間に亀裂が入り、破れたような感覚に襲われました。
その違和感に、一瞬不安を感じましたが……
(トレーナー! トレーナーさん! それに、みんなのために……私は、弱い自分に、勝つッ!!)
「ハアアアァァァァァァァッ!!」
一瞬で、その不安をその場に置き去りにして、振り切り──私は駆ける。
今までにない、最高の疾走感に包まれ、私は、私の道を駆けた。
まるで放たれた一条の光のように……私は大外を一気に駆け抜ける──
『ダイタクが先頭だダイタクが先頭だ!
さぁ、まだか? テイオーはまだか!?テイオーはまだか!?
テイオーは2番手──』
そんな実況が、スパートをかけたわたしの耳に入ってくる。
主役をお待ちのようだけど、あいにく今日の主役は、彼女なんかじゃない──
(主役はこのわたし……ムービースターよッ!!)
そのための舞台を、わたしは作り上げた。
この
そう、主役である
だから──
──前を走る、端役のウマ娘なんて、とっくに舞台から去っているはずなんだ!!
その、とるに足らないはずの──わたしと同じローカル重賞の常連の──ウマ娘に、追いつけない!
『──しかし、外から一気に後続が押し寄せてきた!
一番外からレッツゴーターキン! レッツゴーターキンッ!!』
実況に、名を呼ばれる──このレースの主役となったウマ娘。
それにわたしはどんなに死力を尽くしても、追いつくことができなかった。
「なんで、どうして……ここまで、やったのに……」
わたしの目からは──悔し涙が、落ちていく。
このレースに勝つために……スターになるために、わたしは
『──レッツゴーターキン、ムービースター!! レッツゴーターキン、ムービースター!!』
どうして実況は、わたしの名前を単独で呼んでくれないの?
まるで
「あ……」
それで、気づいた。
そうだ……わたしは、悪役になっていたんだ。
策謀を巡らせて、人を陥れて、なりふり構わないまでにどうにかして勝利を求める姿は……完全に、
そして目の前の彼女は、そんなわたしの思惑にも策略も関係なく、自分を貫き──
──間違いなく、
『レッツゴーターキンだああぁぁぁ!! なんとビックリ、レッツゴーターキン!! そして二着はムービースター!
レッツゴーターキン、大外を一気に駆け抜けた──』
──そして、終幕の
◆解説◆
【
・二通りの読みが楽しめる、“一粒で二度おいしい”的な今回のタイトル。
・元ネタは92年の天皇賞(秋)の、ゴール直前の実況「レッツゴーターキン、ムービースター!」から。
・このフレーズが出てくるのは、フジ系の競馬中継だった三宅アナバージョンの方。
・そしてもう一つのルビの方……もちろん「Movie Star」は競走馬の名前ですが、それを強引な意訳をしてみました。
・今、様々な番組で大活躍している三宅アナですけど、このころから実況やって活躍なされていたんですね。
・レッツゴーターキンは英語表記の登録は「Let's Go Tarquin」。気になって“Tarquin”のつづりで調べたんですけど……そのものずばりの単語は出てきませんでした。
【分かっている】
・前話でわかるように、この時点で乾井トレーナーはムービースターが仕掛けた盤外戦術に気付いてません。
・でも、ムービースターが煽るだけ煽って後方待機の定位置にいるのが予想できなかっただけで、逃げウマ娘たちへの刺激や去年の斜行騒動への意識誘導には気づいていたので、先頭の速いペースでの開幕への予想や様々な思惑が入り混じって「荒れる」要因には気づいていました。
・無論、ここまでのハイペースになるのは完全に想定外です。
【ゲートでびっくりしちゃいました】
・前々話のラストで驚いていたのは、久しぶりに感覚の精度をあげた違和感が原因だったという話。
・たぶん、足元の虫かなんかに気が付いたんだと思います。それで慌てて後ろに下がって、係員とぶつかってしまった……と。
【冷静さを失っていた】
・これは、ゲーム的な話をするとムービースターのデバフスキルの影響です。
・しかも固有スキル級で、レースをコントロールして他のウマ娘の冷静さを失わせてペースを乱すもの。
・ターキンも他のウマ娘共々このスキルに巻き込まれていたんですが、生来の気弱な性格から負けん気を煽る効果が低く、トレーナーの助言もあって冷静さを取り戻しています。
・ちなみにこの少し前にムービースターを、前に行こうとしたのが思う通りの展開ができなくて「かわいそう」と勘違いしていますが、臆病で気の弱いターキンは根本的に人が良いので、この時点でも完全に騙されたままです。
・……けっしてアホな娘なわけじゃないですよ?
【そんな実況】
・『テイオーはまだか』のフレーズも三宅アナ版のもの。
・ド本命だったとはいえ、この露骨な応援はいかがなものでしょうかと思わなくもないですが……オグリキャップのときも競馬中継番組が露骨に肩入れしてましたからね。
・そんな感じでフジテレビの競馬中継は、どうしても公平さに欠けるところがありますから……
【名前を単独で呼んでくれない】
・もう一つ実況ネタ。
・実は「レッツゴーターキン、ムービースター」を二度繰り返した後、なぜか「ヤマニングローバル!ヤマニングローバル!」と二頭のさらに内側からテイオーを抜き去ったヤマニングローバルの名前を二度ほど叫んでいるんですよね。
・でもこれ、呼んでるときは完全に、レッツゴーターキンの方が前に出ているんですけど……
・中継映像見ると、なんで呼んだんだろう? と不思議に思えるレベルだったりします。
・まぁ……ヤマニングローバル3着だったし。
・2位のムービースターはセット扱いだったけど。(笑)