──スタート前の観客席
「今日はテイオーさんの復帰戦なんだから、全力で応援しないと!」
「マックイーンさんがいないから、きっとテイオーさん勝てるよ」
「もう、ダイヤちゃん!」
観客席の最前に陣取った私たち。
そこで満面の笑顔を浮かべるキタちゃんの言葉に、ダイヤちゃんが澄まし顔で茶々を入れ、さらに反発するキタちゃん。
その様子を横で見ながら、私は苦笑を浮かべるしかありません。
(うぅ……なんでこんなことに……)
ダイヤちゃんがなだめて、また満面の笑みに戻ったキタちゃんを見ながら、私はそう思わずにはいられませんでした
今日は秋の天皇賞。
その出走メンバーにわたしが応援しているダイユウサクさんは出ていないんですが──
(確かに、大舞台で走る姿を見たいと手紙に書きましたが……)
ダイユウサクさんが所属するチーム〈アクルックス〉の練習風景を見た私は、そこで頑張るレッツゴーターキンさんの姿を見て、気になっていました。
でも、新潟とか小倉とか離れた場所のレースにかり走っていたので、練習を見学させていただいたお礼の手紙に、中央のレースに出走させて欲しいと書いたのです。
そうしたら……
(まさか、秋の天皇賞に出てくるなんて、完全に予想外です)
東京、中山、阪神、京都といった
「おかげでまた、気まずい思いをすることに……」
私が人知れずボソッと愚痴ると、急にキタちゃんが振り向いた。
「マリアちゃん、どうかしたの?」
「え? ううん、なんでもないけど……どうして?」
「なんか困ったような顔をしていた気がしたからね。もしもなにかあるなら、なんでも言って。力になるよ!」
「う、うん……大丈夫だよ。気のせい気のせい……」
私はそう答えて精一杯の笑みを浮かべました。
多少ぎこちなかったかもしれないけど、キタちゃんは「それならいいけど……」と引き下がってくれました。
ふぅ……危ない危ない。
(せっかくキタちゃんとダイヤちゃんが誘ってくれたんだし……)
秋の天皇賞を見に行くのに誘われたのは、実はかなり前の話でした。
キタちゃん──キタサンブラックという私の友達のウマ娘が応援しているのがトウカイテイオーさん。
そのテイオーさんが春の天皇賞後に負傷が判明して休養し……その復帰戦になるというのがわかってすぐ、キタちゃんに誘われたのだ。
「マックイーンさんもダイユウサクさんも出てこないみたいだから、みんなでテイオーさんを応援できるね!」
無邪気にそう言って笑うキタちゃん。
ダイヤちゃんも、彼女の推しであるメジロマックイーンさんが負傷から復帰してこないのは残念そうだったけど、気分を切り替えて「今回は私も応援しますね」とニコニコしています。
そんな二人を見て……
「あ、私はレッツゴーターキンさん応援するから。テイオーさんの応援はパスするね」
──なんて言えるわけないじゃないですか!
ああ、またしても……春に続いて秋の天皇賞まで“推し”を隠して観戦しないといけないだなんて。
どうにか笑顔を繕って、「テイオーさ~ん!」と歓声をあげるキタちゃんにつきあいながら、こっそりターキンさんを見たりして──
「ヘ~リ~オ~ス~さぁぁぁぁんッ!!」
──そんな私たちのすぐ隣の人が大声をあげてました。
思わずビックリしてその人を見たんですが……黒鹿毛の髪の上にピンと立った耳とお尻から出ている尻尾からウマ娘だとわかります。
年は私たちよりも上のお姉さんみたいですけど、どうやら熱狂的なダイタクヘリオスさんのファンみたいで……
「あぁ……、府中の彼方になにか背負って旅立たないといけないくらいのものをヒシヒシと感じるあの
「むぅ……」
そんな彼女の大きめの声が聞こえたらしく、キタちゃんがわかりやすくむくれました。
「でも、今日の一番人気は、テイオーさんだもん」
「む……」
キタちゃんが聞こえるようにいったせいで、そのウマ娘さんもキタちゃんを眉をひそめて見つめました。
「……ヘリオスさんだって、3番人気でありますよ。それに……あの“皇帝”さんだって
「なッ……」
絶句するキタちゃんでしたが、聞いていたらしい後ろのお兄さんがなにやら話し始めました。
「その通り。春の天皇賞でも圧倒的な強さで勝利したシンボリルドルフ。その再来とも言われ、無敗で三冠に挑んだもののケガに泣かされたトウカイテイオー……」
「どうした急に」
「春の天皇賞での敗戦は3000メートル越えの距離に屈した敗戦という結果に違いはあれど、そこから間隔をあけてぶっつけ本番の秋の天皇賞は、一昨年のオグリの不振、去年のマックイーンの降着という波乱続きもあってイヤな予感が……」
「「イヤな予感なんてしなーい!」」
キタちゃんとダイヤちゃんが声をそろえて、そのお兄さんの言葉を遮り──遮られたお兄さんは我に返って「ゴメン」と謝っていました。
「だって、テイオーさんが勝つんだから!」
「いいや、ヘリオスさんだね!」
隣のウマ娘のお姉さんとついに向き合って視線をぶつけ合うキタちゃん。
言い合って、「ぐぬぬ……」と威嚇し会う二人。
「テイオーさんは、すごくいい人なんだよ! カッコいいし、ケガにも負けないんだから!」
「ヘリオスさんだってああ見えて優しくて意外と気さくで礼儀正しくい人であります! 手を振る人に笑顔で答えるし!」
「そんなの、テイオーさんだっていつもしてるもん!」
「でもそれは、競走ウマ娘なら普通にできるんじゃ……?」
二人の言い争いを聞いていたダイヤちゃんが思わずツッコんだ。
それを聞いて、隣のお姉さんは──
「いーや、そんなことないであります! 見たまえ、あのウマ娘……完全にキョドって、笑顔どころじゃないでありますよ!」
指を指した先には、大歓声にビクビクしているレッツゴーターキンさん。
あぁ、なにやってるんですか、あの
思わず顔を手で覆いたくなってしまいます。
「テイオーさんはもちろんできるもん! だからテイオーさんは負けない!」
「ヘリオスさんだって負けないであります──」
「「ぐぬぬぬぬ……」」
にらみ合う二人を、ダイヤちゃんと私は苦笑いを浮かべながら見つめることしかできません。
後ろのお兄さんたちも、困った様子で見ていました。
──そんな感じで周囲が騒がしい中、秋の天皇賞は始まったんです。
そして……
「よ~し! パーマーさんが遅れてきてヘリオスさん先頭ッ! ヘリオスさんしか勝たん! で、あります!」
「まだまだこれからだもん! テイオーさんすぐ後ろにいるんだから!」
去年のアレのせいで妙に緊張の走ったスタートから最初のコーナーを越えてハイペースで進んだレースはいよいよ終盤戦。
これまで
『ダイタクが先頭、ダイタクが先頭!
まだか、テイオーはまだか!テイオーはまだか!』
「いけえぇぇぇ! テイオーさぁぁぁん、がんばってぇぇぇ!!」
「粘れぇぇぇ! ヘリオスさぁぁぁぁん!!」
長い東京レース場の最後の直線。
追い上げるテイオーさんの追撃に、追いつかれまいと必死に逃げるヘリオスさん。
観客の視線は、皆その戦いに注目し……ついにテイオーさんがヘリオスさんの内から前へと出ます。
「やったああぁぁぁ! テイオーさん、あと少し──」
「まだまだであります! ヘリオスさん、もう一度──」
二人が方や歓喜、かたや不屈の声援をあげる中──
「あ…………」
とあるウマ娘を気にしていてそれに気がついた私は、思わず声を出してしまいました。
そして──
「「「…………え?」」」
勝利を目前に興奮するキタちゃんと、同じく友人の推しの勝利を確信してはしゃぐダイヤちゃん、それに未だあきらめないウマ娘のお姉さんの前を──
────レッツゴーターキンさんが、駆け抜けていった。
それに続くようにもう一人、後ろについて行き──そこからなだれ込むように後続がやってきて……
『なんとビックリ、レッツゴーターキン!! 2着はムービースター!』
「「「「……はい?」」」」
みんなよりも少しだけ早く気がついた私でさえ、その光景が信じられずに呆然としてしまいました。
気がつけばレッツゴーターキンさんとその後ろのもう一人に、テイオーさんもヘリオスさんも抜かれてしまっていたのでした。
その二人は抜かれた直後に張りつめていた糸が切れたかのように勢いを失って……バ群に消えていたのが、見えていました。
(な、な……なんだこれ……)
そのあまりに予想外な結果に、愕然とした。
もちろんダイタクヘリオスさんが勝つと信じていたけど、大本命のトウカイテイオーに抜かれてしまい、「テイオー相手なら仕方ない」と半ば思ったけど──勝ったのは、後方から強烈な末脚で差したウマ娘だった。
「だ、誰? ……レッツゴーターキン?」
そんな自分のつぶやきは、観客席の誰もが思ってることだったらしい。レース場内にはどよめきがおこっている。
確認したら人気の低い、誰も注目していないようなウマ娘だった。
(よくも、こんな……)
スマホを使って成績を見れば大した成績をあげているわけでもない。低人気だったのもうなずける。
──というような勝てるとは誰も思わないような状況。
そんな逆境を跳ね返し、大逆転での勝利──
(なぜ、でありますか? なんで……)
推しは運命的なものを感じるダイタクヘリオスさんなのは、間違いない。
でもなぜか……心の琴線に触れる、この勝利……
(そうです。前にヘリオスさんが出たレースで──)
昨年末、てっきりスプリンターズステークスにでると思っていたヘリオスさんは、その次の週の有馬記念に出走した。
さすがに2500の距離は厳しく、勝利できなかったけど──
(あのときも、心が……震えました)
常識的に見て
(なぜでしょう。そういうレースにこそ、魂がひかれるような……)
呆然と見ている中で、その勝ったウマ娘は感無量になって涙を流し──そこへ駆け寄るトレーナーが目に入った。
(え? あれは……)
その人に、見覚えがあった。
そうだ、あれはあの有馬記念のときにも見た、あの勝ったウマ娘のトレーナーだった人だ。
(なんて人でしょう。あの時もそうでした。完全に勝ちが見えない状況だったのに、誰もが大本命の勝利を疑ってなかったのに、それを逆転して見せるだなんて……)
自身の“魂”が震える──初めて感じたそれに、ひどく戸惑った。
それは、圧倒的な劣勢を覆す──それこそが自分の名に与えられた“使命”だと言わんばかりに、熱く心が揺さぶられた。
(うぅ、なんだろう。この感覚──)
自然と勝ったウマ娘よりも、そのトレーナーに興味がいく。
その彼が羽織ったジャケットに描かれた
「負け、ちゃった……」
ボクは、呆然とその勝利したウマ娘を見ていた。
だれ? あの
天皇賞で
ホワイトストーンとか、一緒にレースしたことがあるウマ娘でもないし──
「あ……」
それで、ボクは気がついた。
ひょっとしたら……
「カイチョーも、こんな気持ちだったの……かな?」
まったくの予想外の結果に、ボクも驚いたけど……だからよく覚えてる。
……あの会長が、悔しさのあまりに涙をにじませていたのを。
だからよくわかる。
ボクも、涙が出そうなほどに悔しいんだから!
春の天皇賞でマックイーンに負けたときも、そうだった。
でも……ボクは堪えた。
(だけど今回は……)
負けたウマ娘のこと、ボクはなにも知らない。
全然マークしていなかったし、まさか負けるなんて思ってなかったから。
でも──
「次は、負けない……負けられ、ない……」
会長は負けたウマ娘に絶対に負けなかった。
初めて負けた相手には、その年の有馬記念で徹底マークして勝ってる。
あのウマ娘にも、直後のジャパンカップで──
「そうだ……うん! 絶対にリベンジしてやるんだ!!」
ボクの次の目標は──決まった。
会長のように、ボクはあのウマ娘に絶対に勝つ!!
それがボクの、新しい目標だ!!
だから顔をあげて両足でぐっとこらえて、しゃんと立つ。
そして──
「残念、だったな。テイオー……」
会長の、困惑が透けて見えるような顔がそこにあった。
ひょっとしたら声をかけずに立ち去ろうとしていたのかもしれない。
でも……ひょっとしたらボクのことが心配で、立ち去らずにいたのかもしれない。
そのちょっと困ったような、会長のレアな表情を見て、ボクは──
「うん。でも……次こそ、勝つよ!!」
ひょっとしたら悔しさで顔が強張っていたかもしれない。
でも、それでも精一杯の笑顔で、ボクは答えた。
「そして、あの
「そうか……ああ、キミなら絶対に、勝てるさ」
そう答えてくれた会長は「私の時のように、な」と心の中で言ってくれたような気がした。
うん。ボクもそれに向かって──今日から、ううん、今からガンバるんだ!!
(絶対に、勝ってやるんだから!)
ボクは今日の主役になったウマ娘を見る──と、なぜか妙にオドオドしてた。
うぅ、マックイーンみたいに堂々としてないから、なんか調子狂うなぁ。
思わず苦笑しながら、ボクは彼女を見ていた。
──なお、その目標は一ヶ月としないうちにアッサリと達成させてしまい、そこで目標を見失うとは、このときのテイオーは夢にも思っていなかったのであった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ゴール板を駆け抜けて、徐々に速度を落とした私は呼吸を整えながら、足を止めることはしませんでした。
そしてみんなゴールを抜けたというのに、観客席からはどよめきが起こっているだけです。
(え? 今年もまたなにか……)
去年みたいに、今年も審議がつくようなことが起こったのでしょうか?
私は不安になりながら、掲示板を見て──
「………………え?」
あの、えっと……ええ、あの掲示板、壊れてますよ?
だって1着のところに“2”って数字が出てますから。
2って……今のレース、出走枠が2番だったのって……えっと、私……ですから。
「私が、1着だなんて……」
ええと……確かに最後の直線は無我夢中で走りましたけど、でも……
言われてみれば、最後には景色がぱーっと開けて、私よりも前には誰もいなかったような気が……
……え?
前に誰も、いない?
それって……
「わ、わたわた私、私が……いいいい1着、ってここことですかぁぁぁ!?」
そういえば……どよめきが起こってる
よく耳を向けて聞いてみると
「え? レッツゴー……なに?」
「ドンキ? 三匹?」
「誰だよ、あれ……」
「え? 勝ったのテイオーじゃないの? レッツゴーターキン? 誰それ……」
「……チーム〈アクルックス〉所属って……あのダイユウサクがそうじゃなかったか?」
ううぅぅぅぅッ!? 皆さん、私のことを話していらっしゃるような……
どよめきつつも、妙な静かさを感じてしまう雰囲気の
それを直視できず、ビクビクしながら向かい合うように立ってしまう私……
妙な緊張感が生まれ始めた、その時──
「おめでとう、ターキン……」
そう声をかけてきたウマ娘がいました。
視線をあげると、ムービースターさんが笑顔で私の目の前にいたのです。
彼女が近づいてきていたのに気づかなかったので少し驚いたのですが……
「あ、あの……」
「どうしたんだい? 主役がそれじゃあ、他のみんなが困っちゃうよ?」
そう言って彼女は笑顔のまま──さっと手を差し出してきました。
「あ……あの、ありがとうございます」
それに私は反応して、その手をしっかりと掴み──握手をしました。
その瞬間──場内から歓声と、割れんばかりの拍手が起こったんです。
もちろん、それに私は──ビクッと飛び上がらんばかりに驚きました
「相変わらずだね。ターキン……」
そんな私の姿に苦笑するムービースターさん。
「……八大レースの一角を取ったんだから、もっとしゃんとしなよ」
そこへ──ピンクと黄色の勝負服のホワイトストーンさんがやってきて、私に話しかけてきました。
「ストーンのいう通り。じゃないと競った私らが格好つかないんだからね。それに……“盾”がもらえるからって、それに隠れちゃダメだよ?」
ホワイトストーンさんの後を継いで、ムービースターさんが苦笑します。
「あ……、そっか……」
天皇賞ウマ娘に贈られるその証。
未だに地に足がつかないような、ふわふわした感じだけど……“盾”を授与されるということだけはなぜか印象に残って、現実なことを感じさせてくれました。
「ターキン!!」
そこへ──さらに勝利を実感させる、歓喜の表情を浮かべたトレーナーがやってきました。
「トレーナーさん! 私、私……」
「よくやったな、ターキン。おめでとう……」
その姿を、喜ぶ姿に急に実感がこみ上げてきて……同時に、自分のあふれんばかりの喜びの感情を持て余してしまい──
「トレーナーさぁぁぁぁぁんッ!!」
私は駆け寄って、思わず抱きついてしまいました。
溢れる涙は全然止まらず、それを隠すように彼の胸に顔を埋めてしまいました。
「あじがとぉ、ごじゃいますぅぅ……わだし、わだじぃぃ」
「う、えっと、ターキン……お前、勝ったんだから、もう少し……」
なぜでしょうか……大レースを勝利したウマ娘が、お世話になったトレーナーさんに感極まって抱きついた感動的なシーンのはずなのに、トレーナーさんがいわゆる……ドン引き……している、ような……
私が不安になって顔を上げると、驚くほど近くに、トレーナーさんの顔がありました。
「う!? あぅ……」
そ、それはまぁ、抱きついたんですから、それも当然のはずなわけですけども……
近いトレーナーさんの顔から逃げるように、思わず視線を逸らしてしまったんですが、するとトレーナーさんは私の頭にポンと手を乗せて、優しく撫でてくれました。
「よく我慢したな。それにあの末脚……本当に立派だった」
「トレーナー、さん……」
「で、お前にもう一つ、朗報がある」
「え……?」
思わず目を
「オレの前任者……前野トレーナー、今朝無事に出産したそうだ。母子ともに健康……どころか、レース直後に電話がかかってきたぞ。お前に『おめでとう』ってな」
「はぅ…………」
そっか……トレーナー見ててくれたんだ。
じゃあ、あの時聞こえたのは、本当にあの人の声だったのかもしれない。
──この場にいなかった、聞こえるはずのないあの人の声が私にはハッキリと聞こえたんだから。
「あの、トレーナーさん……私、お礼、言わないと……トレーナーさんにも、あの人にも……ここまで、頑張ってこられたのは、お二人がいたから……」
「違うよ、ターキン。オレもあの人も、お前をちょっと支えただけだ。この栄冠を勝ち取ったのは……お前の力だよ」
そう言ってトレーナーは、私の肩をポンとたたいて、観客席へと向かせました。
そこから、割れんばかりの歓声が響きわたって──私へと叩きつけられます。
「……ッ」
その巻き起こった歓声に──ほんのちょっとだけ驚きましたけど──もう、私は気圧されません。
だって私は……GⅠウマ娘になったんだから。
そして──今日生まれたその子にあこがれてもらえるような、立派なウマ娘にならないといけないんですから。
「そう、私があこがれた……あの日のあの人みたいに──」
私は高くなった秋空を見上げ、今よりもさらに寒かったあの時の空を、ハッキリと思い出しました。
そして初めてあの人に会った──その一つ前のレースを。
「あの時から始まった、私の道……」
(でもそれは同じ道なんかじゃなかった。私の、私だけの道……)
だからこそこれからも私は、私の“走り”を続けていきます。
いつか──それが私が引退した後でもいいです──それを今日生まれたその子が見て、「お母さんが育てたウマ娘」と胸を張って言える、そんなウマ娘になる……それが私の新たな、目標になりました。
「
明日の私はきっと、今日よりちょっとだけでも強くなってると信じて──
◆解説◆
【Let's go Run&Run! 掴みとれMy Way】
・今回のタイトルは『轟轟戦隊ボウケンジャー』のED、「冒険者 ON THE ROAD」から。
・『轟轟戦隊ボウケンジャー』は戦隊シリーズの中で私が一番好きな戦隊でして、リーダーが集めたメンバーという設定とかメンバー自身とか、ダイヤルを回す変身方法とか、メカとか、複数の敵組織が入り混じったり、目的が敵を倒すのではなく危険な対象物の確保とか、全部好きですね。
・OPも良いのですけど、EDの「冒険者 ON THE ROAD」も歌詞がいいし、「Let's go」が入っていたので採用しました。
・2章の1部でありレッツゴーターキン編の最後ということで、EDテーマなのもちょうどよかったですし。
【秋の天皇賞】
・そういえば今回のレースの解説を忘れていたので、今さらながら……
・なお、天皇賞そのものの解説については以前(第一章の64話)でしていますので、今回のモデルになった92年の秋に開催された第106回天皇賞について解説します。
・開催は1992年11月1日に、通常通り東京競馬場の2000で開催されました。
・天候は晴れ。馬場は良。午後3時35分に出走。
・なお、すでに解説済みのように、ムービースター騎乗の武豊騎手が事前に「不利にならないように前でレースをする」という盤外戦術を仕掛けていたため、パーマー、ヘリオス、トウショウファルコの3頭の逃げ馬が逃げ、大本命テイオーがすぐ後という展開。
・そして前半だけ見れば今も5本の指に残るような異常なハイペースになり、途中でパーマーが脱落。
・ダイタクヘリオスも最後の直線の半ばまで先頭に立っていたものの、ついに力尽きてテイオーに先頭を譲ります。
・が……そのテイオーも満身創痍な状況で、後ろが詰めてくる……のですが、これまた中段でテイオーのマークをしていた馬たちも、やっぱりバテ気味でなかなか追いつかない。
・──と思ったら、後方待機していたレッツゴーターキンが怒涛の末脚で追い上げ、同じく後方待機していたムービースターもそれに続く。
・内からヤマニングローバルも抜け出したものの、レッツゴーターキンとムービースターには追いつけず……そのまま18頭中11番人気だったレッツゴーターキンの勝利となりました。
・単勝は34.2倍。十分に高い倍率ですが、ダイユウサクとかギャロップダイナに比べると……
・なお2着のムービースターを入れた馬連になると142.2倍。ちなみにムービースターは5番人気と、そこまで悪くなかったのでした。
【3番人気】
・1番人気のトウカイテイオーの父はご存じシンボリルドルフで、そのルドルフが制した東京優駿の2着になったのが、ダイタクヘリオスの父であるビゼンニシキ。
・そのため92年の天皇賞(秋)は、産駒同士の「SB対決」と言われていました。
・実際、実況でもゴール前の直線等でそのフレーズが出てました。
・まぁ、結果はテイオー7着、ヘリオス8着でしたが。
・ただダイタクヘリオスは2番人気ではなく3番人気だったんです。
・2番人気はナイスネイチャ。3着ヤマニングローバルから半馬身差の4着。
・ちなみに5着はいぶし銀のホワイトストーンが入ってます。
【ウマ娘のお姉さん】
・やたらダイタクヘリオスを応援するこのウマ娘、いったい誰なんだ……
【握手】
・これは天皇賞(秋)のレース後に、計量室でターキンの大崎騎手に、ムービースターの武豊騎手が握手を求めて応じていたのが元ネタ。
・さらにその後にホワイトストーンが話しかけているのも、計量室で武豊騎手の後機にホワイトストーンに騎乗した柴田政人騎手が話しかけていたのがモデルになってます。
【前野トレーナー】
・今まで名前つけていなくて、頭の中で「前のトレーナー」と付けていたのですが、今回正式にそのまま「前野トレーナー」になりました。
・なお、11月頭の出産ですので、一般企業なら産休は9月くらいからとるのでしょうが、特殊な環境と引き継ぐ相手を早めに見つけるために4月の終わりごろにターキンの引継ぎをしていました。
・そういう時期については大目に見ていただけると。妊娠前から産休準備に入っていたわけではないので。
※これにて第二章の1部の幕、レッツゴーターキン編が終了となります。
そして次からは2部のオラシオン編へ──というか、実在するものの結果が出ていないオリジナルのレースばかりになるので、書いている人も困惑しております。
が、それに負けずに頑張りたいと思っています。
さらには──もう一人の第2章の主人公というようなウマ娘もいよいよ出していけるかと……